業界毎の事例

2023/10/03

医業承継をテーマとした家族会議は、なぜ重要なのか?

医業承継をテーマとした家族会議は、なぜ重要なのか?

本記事は、医療事業の承継に際しての「家族会議」の重要性をテーマにしています。
「家族会議」と聞くと、各家庭、各家族がそれぞれの考え方で行うプライベートなものなのだから、第三者が口出しするべきではないように思われる方もいるかもしれません。しかし、それが医業の事業承継をテーマとした家族会議であり、承継の成否や内容にも関係するとなれば、患者さんはもとより、地域住民や医療スタッフなど、多くの人に影響を与えるものです。「家の中のことなのだから、他人が口を挟む余地はない」といって済ませられるものとは異なるのではないでしょうか?また、そもそも医業の事業承継にとって家族会議が重要であるという認識自体をお持ちでなく、家族会議をしたことがない医療経営者も少なくありません。
そこで、本記事では、なぜスムーズな医療事業承継のために家族会議が重要なのか、また、家族会議では何をテーマとして、どのような話し合いをすればよいのか、といった点について解説します。

「子が医業を承継するのは当然」という思い込み

医業の事業承継には、基本的には下記の3パターンしかありません。

①親族内承継(子、あるいはその他の親族に継いでもらう)
②院内承継(自院に勤める親族以外の医師などに継いでもらう)
③第三者承継(M&Aなどで、他の医療法人などに継いでもらう)

この中で、通常最初に検討されるのは、①の親族承継です。親族承継の場合は、現経営者の配偶者や兄弟が引き継ぐケースもありますが、大半は子(または子の配偶者)が引き継ぐケースです。そこで本記事では、親族承継=経営者の子が引き継ぐケースとして考えます。
医療経営の引き継ぎには、原則的に承継者が医師でなければなりません。そのため、親族に医師がいなければ話は別になりますが、子が医師免許を取得している場合、親である経営者は、子への承継を第一に考えることが普通です。
①の親族内承継が、医業承継の第一の選択肢となる場合が多いということです。それは、自分が生涯をかけて追求してきた理想――たとえば、医療施設としての地域社会に貢献すること――を、子にも継いでもらいたいと考えることは、親としての自然な感情だからです。中には「家業」なのだから、子が継ぐのは当たり前だ、と考えている方もいるでしょう。
あるいは、親子間では、資産の承継・相続が発生しますが、それと、事業の承継を一体で考えることが、当然視されているという理由もあるでしょう。いずれにしても、多くの医療経営者は、子が医師である場合、子が医療施設を引き継ぐことが当たり前だと考えています。しかし多くの場合、それは単なる「思い込み」に過ぎません。
「思い込み」というのは、子の意志を明確に確認はしていないのにそう考えている、という意味です。また、子のほうは、必ずしも親の医療施設を引き継ぐことが当然とは考えていない人が多いのですが、その現状を認識していないという意味でもあります。

親世代と子世代との意識ギャップは大きい

実際のところ、子の世代では、医療経営者という立場を承継することに対して、拒否感を持つか、拒否感まではいかなくても、少なくとも当然視はしていない人が、年々増えているのです。その理由については、別記事で詳細に書いているので、ここでは簡単に触れるにとどめますが、下記のようなものです。

・医療施設経営の先行きへの不安と、その中で経営者として重責を負うことへの忌避感。
・経営の仕事をするよりも、医師としての専門性や技術を向上させたいという志向性の変化。
・親世代の医師のように仕事に全人生を捧げるよりも、ワークライフバランスを重視したいという意識変化。
・地方にある医療施設と、東京などの都会で家庭を持った子の、ライフスタイルの違い。とくに子どもの教育環境の違い。

そして、このような意識を持つ子と、子が継ぐのは当然と思い込んでいる親との間の「意識ギャップ」をそのままにしておけば、当然ながらスムーズな医業の承継は不可能です。
そこで、そのギャップを解消する手段として「家族会議」が必要なのです。

普通に話すだけではだめなのか?

ここで、「“家族会議”などと改まらなくても、自院を継いで欲しいと、普通に子どもに伝えて、継ぐのか継がないのかを聞いておけばいいではないか」と考える方がいるかもしれません。もちろん、何も話さないよりは話をしたほうがいいのですが、それだけでは上手くいかないことも多いのです。得てして、次のような一方的なコミュニケーションになってしまいがちだからです。

●「全部言わなくてもわかるだろう」と、きちんと説明しない

これは別に医療経営者に限ったことではありませが、60代以上の世代の方、とくに男性は、自分の気持ちなどを丁寧に表現することが苦手な方が多いのです。それは、男は黙って働くのが美徳、背中を見て学べ、といった、寡黙を良しとする風潮が昔はあったためです。そのため、ご自分では話しているつもりでも、子から見るとちっとも話してくれないと思われているギャップが生じます。

●思いが強すぎる

多くの経営者は、自院に対して、自分の人生が集約された結晶のようなものだと感じ、強い思い入れと愛着を持っているものです。スタッフに対しても、家族のように大切に感じられている方も多いでしょう。そういう強い「思い」を持つことは当然であり、また悪いことでもありません。経営理念の伝承も、事業承継には不可欠だからです。しかしやもすると、それが、自院を守ることがどれだけ大変だったかといった「苦労話」や、いかに自分の代で自院を成長させたかといった「自慢話」になってしまうことがあります。「苦労話」や「自慢話」を聞かされても、子のほうはポジティブな承継意欲はわきにくいものです。思いが「重い」と感じられて、忌避感を持つことにつながりかねません。

●客観的なデータや資料が少なすぎる

自分が承継したほうがいいのか、承継できるのかということを子が判断するためには、経営状態や事業環境の現状、そして将来の見込みなどを客観的に伝えるデータや資料も不可欠です。ここで注意しなければならないのは、経営の仕事に携わったことのない子にも理解できる形でそれを用意しなければならないということです。そういった客観的なデータや資料なしに、「継ぐのか継がないのかはっきりしろ」といわれても、子のほうも困ってしまいます。
上記はいずれも、「コミュニケーション・ギャップ」と呼べるものです。家族内のことでありながら「正式」な話し合いの場としての家族会議を持つことで、これらのコミュニケーション・ギャップを防げるのです。

家族会議で話すべき内容

家族会議では、どのようなことを、どのように伝えるべきでしょうか。

①自院の歴史、思い(理念)

経営者が自分で開業したにしろ、親から引き継いだにしろ、数十年にわたる歴史があります。また、その中で、自分が何を目指して経営してきたのかという理念もあるはずです。そういったことは、普段の会話ではなかなか話すことができませんが、しっかりと伝えておくべきです。ただし、その際に注意しなければならないのは、上にも書いたような「苦労話」「自慢話」ばかりにならないようにすることです。

②自院の経営の現状(内部環境・外部環境)

内部環境としては、財務的な情報(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を始め、外来・入院患者数の推移、スタッフの状況、など、経営の状態がわかる資料が必要です。また、外部環境としては、地域の人口の推移や、他医療機関の状況、診療報酬などの推移、その他医療行政の状況などがあります。

③将来に向けた経営計画

②を踏まえた上で、病棟の大規模修繕や建て替えの見込み、主要スタッフの定年の予定、病床機能転換の必要性、地域の医療需要の予測などを盛り込んだ、経営計画を策定し、提示する必要があります。もちろん、計画には財務的な裏付け(資産・負債の推移予定)も勘案されていなければなりません。また、現時点で子が自院で勤務していないのなら、いつからいつまでどのような役職で勤務してもらい、現経営者が伴走しながら経営業務の引き継ぎをするのかといった、引き継ぎ計画も必要です。

④子にとってのメリット・デメリット

子の人生にとって、経営を承継することで得られるメリット(金銭面、社会的な評価、など)、デメリット(経営の仕事に一定の時間が取られる。地元で暮らさなければならない、など)を客観的に伝えます。

⑤互いに率直な本音を伝えるが、相手を否定はしない

上記の情報とあわせて、自分の率直な気持ちを子に伝えます。また、子からも率直な本音の意見を聞きます。その際に、たとえば、「自分は、仕事はほどほどにして、家族と過ごす時間を大切にしたい」といった、自分とは異なる価値観に基づく意見を聞かされることもあるでしょう。その場合は、その子の考え自体を否定してはいけません。当たり前ですが、親と子は異なる人格であり、異なる人生です。それを否定しても、反発を招くだけです。否定をするのではなく、自分とは異なる考え方を受け入れた上で、親子、また自院にとって最適な落とし所がどこなのかを見つけていくことが、家族会議運営のポイントであり、目的でもあります。

家族会議ファシリテーションサービスの活用も

上記の内容について、経営者が資料やデータなどを用意して、話し合いを進めていくのは、負担が重いと感じられるかもしれません。
自院の経営資料などは事務長などのスタッフにも協力してもらうことはできますが、外部環境分析などはよくわからないこともあるでしょう。また、ある程度の資料が用意できたとしても、子と家族会議の場でうまく話を進めることができるのか、不安に感じられるかもしれません。「本音で話す」と書くのは簡単ですが、「さあ、本音で話そう」といって、実際に本音が出てくるとは限らないのです。

そこでおすすめするのは、「家族会議ファシリテーションサービス」の活用です。ファシリテーションとは、狭義には、会議がうまく進行するように「舵取り」をすることですが、医療経営専門のファシリテーションサービスでは、その前段階の自院内外の事業環境分析や資料作成などからお手伝いをさせていただきます。
忙しい経営者や子にとって、ファシリテーションサービスを使うことで事業承継の意志決定の労力が大幅に軽減されます。また、客観的な立場からの助言が得られることで、すべての関係者が満足できる「落とし所」にたどり着きやすくなります。なお、ファシリテーションサービスは、「この病院はこういう事業承継をするべきだ」といった結論をアドバイスしたり、押しつけたりするものではありません。あくまで、家族での意志決定がスムーズに進行するためのお手伝いをするものです。それを踏まえた上で、必要があれば有効に活用なさってみてはいかがでしょうか。

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