第三者割当増資

第三者割当増資とは、株主以外の者に募集株式を優先的に割当てて募集株式を発行し、会社が資金を調達することをいいます。ここでは、その第三者割当増資について、当該発行手続きで契約されることの多い総株引受契約とその作成時の注意点、その他手続きに必要な書類関係や注意点に関して、基礎知識をできるだけ網羅し、弁護士などの専門家に相談する際にイメージが持てるようになるように解説していきます。

第三者割当増資に関する会社法上の手続きや決定機関などについては、本M&Aコラムの「第三者割当増資の募集事項及び割当先の決定にかかる会社法上の手続き、株主総会などを解説」に解説しておりますので、併せてご参照下さい。

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この記事を執筆した専門家


弁護士 髙田 光洋

東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。
明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取扱う中島成総合法律事務所にて、一般企業法務、事業譲渡・民事再生等の企業再生事件等を中心に担当している。

第三者割当増資で必要な契約書(総数引受契約書)

第三者割当増資の方法によって募集株式の発行などが行われるときは、特定の会社との資本提携や業務提携の強化であったり、株式買占め・公開買付けに対する対抗策であったり、安定株主対策であったりと、当該会社において特段の理由があることが通常ですから、第三者による引受けの申込みがなされる前に、当該会社と第三者との間で、割当てる株式の種類・数・払込金額などに関する合意があることが多くあります。この合意に基づいて、第三者に対し当該会社から募集株式の「引受権」が付与されるといわれることがあります。

では、この割当に関する合意にかかる契約書を締結するとどのような効果があるのでしょうか。

総数引受契約の効果

通常、募集株式の割当においては、
1.引受けの申込みをしようとする者に対する通知(会社法(以下「法」)203条1項)
2.申込みをする者による書面の交付(法203条2項)
3.募集株式の割当てを受ける者の決定(法204条1項)
4.申込者に対する割当ての通知(法204条3項)
5.出資の履行(法208条1項、2項)
の流れで手続きが進みます。

しかし、募集株式を発行する会社が第三者と総数引受契約を締結した場合、上記1.から4.までの手続きを省略することができるのです(法205条1項)。

この総数引受契約を用いることにより、1.の通知の内容は法定されているのに対して総数引受契約の内容は法定されていないこと、4.申込者に対する割当ての通知は払込日の前日までに行う必要があるのに対して、総数引受契約を締結していると期間を短縮でき、募集事項の決定の日を払込期日とすることも可能という利点があります。

総数引受契約の内容とひな形

総数引受契約の内容は、法定されていません。申込書に記載すべき事項(引受人の氏名または名称、住所、並びに引受けようとする募集株式の数)(法203条2項)は、記載すべきでしょう。また、当該総数引受契約書の作成においては、当該総数引受契約にかかる第三者割当増資の内容と、引受ける内容が具体的に特定されている必要があります。以下の総数引受契約書のひな形を参照して下さい。

第三者割当増資 契約書

総数引受契約は、契約書が1通であることや契約当事者が1人であることは必要とされておらず、会社が複数の契約書で複数の当事者との間で契約を締結する場合であっても、「実質的に同一の機会に一体的な契約で募集株式の総数の引受けが行われたものと評価しうる」場合には、総数引受契約と解されています。

具体的には、会社及び複数の引受人の全員が1通の契約書に記名押印する方法や、契約書を引受人ごとに複数に分けるとしても、当該契約書中に同時に株式を引受ける他の者の氏名または名称を記載する方法がこれに該当します。たとえば、契約において、「下記1.の内容で発行する募集株式400株のうち100株をBが、うち300株をCが引受ける」という内容を合意すれば良いことになります。

総数引受契約に関する注意事項

譲渡制限

総数引受契約を締結する場合において、募集株式が譲渡制限株式であるときは、会社は取締役会の決議(取締役会設置会社でない場合は株主総会の特別決議)によって、承認を得なければなりません(法205条2項、309条2項5号)。ただし、定款に別段の定めがある場合を除きます。

引受権

総数引受契約により「引受権」が付与されたとして、会社がその契約に違反した場合(「引受権」を無視した取扱いを行った場合)、募集株式の発行などの差止めや、新株発行の無効などを第三者は申し立てることができるのでしょうか。この点、「引受権」は、特定の者に対し、優先的に募集株式を割当てる旨を会社が約束するものに過ぎず、契約違反の効力は民法上の債務不履行に過ぎないとされています。つまり、「引受権」には、株主に対し募集株式の割当てを受ける権利を与えるというような会社法上の意義はないのです。そのため、当該契約違反を理由として、募集株式の発行の差止めや新株発行の無効などを、第三者が申し立てることはできません。

表明保証

また、総数引受契約に関し、当該合意の中に、募集株式の発行などの効力の発生後に会社の表明保証条項違反が判明した場合に、第三者が会社に対し払込金額の返還(出資契約の解除)・損害の補償などを請求できるとの条項を設けた場合、当該第三者はその払込金額の返還請求が可能なのでしょうか。

この点、会社法は、募集株式発行に関する法定の手続きを欠いた募集株式発行は無効としています。そして、総数引受契約は上記のとおりその契約の存在により割当てに関する手続きを省略することができます。そうすると、仮に後から当該契約が解除されたりした場合、当該契約があったから省略できた手続きについて、本来行わなければならなかった手続きを欠いたことになってしまいます。また、損害の補償についても、会社が当該損害を補償したことにより、実質的に第三者が市場価格などよりも低い価格で株式を取得したとみることもできることから、有利発行に当たりうるとされるケースも考えられます。そのため、このような請求が認められるかは疑問があるとされています。

第三者割当増資

総数引受契約でも注意すべき第三者割当増資の内容

総数引受契約に関する一般的な注意点は上記のとおりです。では、第三者割当増資との関係で総数引受契約を締結する際にはどのような点に注意をすれば良いのでしょうか。

有利発行

払込金額が募集株式を引受ける者に特に有利な金額で行われる募集株式の発行のことを、有利発行といいます。有利発行の場合には、公開会社であっても、株主総会において当該払込金額で募集株式を引受ける者を募集することの必要性を説明し、その特別決議による承認を受ける必要があります(法199条2項3項、法201条1項前段、法309条2項5号)。

有利発行に該当するにもかかわらず、株主総会の特別決議なしに募集株式の発行がなされた場合、法令違反の募集株式の発行となります。株主総会において当該募集株式の発行を必要とする理由の説明が行われないことは、決議方法の法令違反(法831条1項1号)となり、それによって不利益を受けるおそれがある株主はその差止めを請求することができます(法210条1号)。他方で、判例は、このような瑕疵がある場合でも、当該瑕疵は当該募集株式発行の無効事由にはあたらないとしています(最高裁昭和46年7月16日判決)。

つまり、公開会社が有利発行に該当する第三者割当増資を行う場合には、株主総会決議を経なければならず、これを怠ると差止め請求がなされることがあるのです。総数引受契約を締結する際に、有利発行に該当する可能性があるのかどうかなどをしっかり確認しなければ、第三者割当増資が失敗してしまう可能性があるのです。

少数株主による反対通知

(1)特定引受人の通知・公告

公開会社において、募集株式の引受人が、総株主の議決権の数の2分の1を超える株式を有することとなる場合、つまり支配株主の異動を伴う場合には、払込期日または払込期間の初日の2週間前までに、株主に対し、次の事項について株主に通知し、または募集事項の公示と同様の方法により公示しなければなりません。ただし、当該特定引受人が募集株式を発行する公開会社の親会社などである場合、及び株主割当増資の場合は除きます(法206条の2第1項・2項)。

  1. 特定引受人の氏名または名称及び住所
  2. 特定引受人が引受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権数
  3. 2.の募集株式にかかる議決権数
  4. 募集株式発行後の総株主数の議決権数
  5. 特定引受人に対する募集株式の割当てなどに関する取締役会の判断とその理由
  6. 監査役の意見など

(2)少数株主による反対通知

総株主の議決権の10分の1(定款で引き下げることができます)以上の議決権を有する株主が、上記の特定引受人の通知・公告の日から2週間以内に特定引受人による募集株式の引受けに反対する旨を会社に対して通知したときは、会社は、払込期日または払込期間の初日の前日までに、株主総会の普通決議によって、特定引受人に対する募集株式の割当てまたは総数引受契約の承認を受けなければなりません(法206条の2第4項)。実務では、この反対通知が予想される場合には、臨時株主総会の開催に配慮し、十分な時間的な余裕をもって、特定引受人の通知・公告を行うことが必要となります。また、事前に株主総会決議により、この承認を得ておくこともできると解されています。

(3)少数株主による反対通知に関する手続き違反の効果

当該手続きに違反する募集株式の発行は、事後的な損害賠償では株主の不利益を解消できないこと、反対株主要件との関連における差止めの判断の時間的な制約などから、無効となると解する見解が多数であるとされています。

そのため、公開会社において支配株主の異動を伴う第三者割当増資を行う場合で、総数引受契約を締結するときには、上記の手続きについても確認して締結することが必要となります。

(4)その他の手続き

上記の他にも、一定の場合には、金融商品取引法や証券取引所の対応などが必要となる場合があります。これらの必要とされる手続きを確認した上で、総数引受契約を締結することが重要です。

第三者割当増資

第三者割当増資手続きに必要な書類一覧

最後に、第三者割当増資の手続きにおいて、募集株式の発行に関する登記に必要とされる書類を確認します。それぞれ行う募集株式発行手続きにより要否が異なります。基本的には、募集株式発行の法定の手続きがきちんと履行されているのかという点を証する書面が必要となります。

書類一覧

各書類などの内容については、後述します。

※全ての場合に必要となるわけではありません。

  • a.変更登記申請書
  • b.募集事項の決定及び割当ての決定にかかる株主総会議事録または取締役会議事録及び定款
  • c.募集株式の引受けの申込みまたは総数引受契約を証する書面
  • d.公開会社における支配株主の異動を伴う第三者割当増資による募集株式の発行などにつき、募集株式の引受けに反対する旨の通知があった場合において、株主総会の決議による承認を受けなければならない場合に該当しないときは、当該場合に該当しないことを証する書面
  • e.総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主から、株式会社に対して、特定引受人による募集株式の引受けに反対する旨の通知があった場合で、株主総会が開かれたときにはその株主総会議事録
  • f.募集株式が譲渡制限株式である場合で、総数引受契約をするときには、その総数引受契約の承認を受けた株主総会議事録または取締役会設置会社においては取締役会議事録
  • g.金銭が出資の目的である募集株式については、払込みがあったことを証する書面
  • h.資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面
  • i.検査役の調査報告書または検査役の調査を要しないことを証する書面
  • j.検査役の報告に関する裁判があったときはその謄本
  • k.株主全員による期間短縮の同意書

各書類の解説

  • a.変更登記申請書
  • 登記すべき事項は、発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数、資本金の額並びに変更年月日です。

  • b.募集事項の決定及び割当ての決定にかかる株主総会議事録または取締役会議事録及び定款
  • 各会社の機関や定款の定め、譲渡制限株式の発行か否か、有利発行であるかなどにより必要となる議事録は異なります。定款で別段の定めがある場合には、当該定款も必要となります。

  • c.募集株式の引受けの申込みまたは総数引受契約を証する書面
  • 募集株式の申込みなどの手続きについて、法定の手続きを踏まえているかをチェックします。引受人全員分の申込みを証する書面を添付することが合理的で無い場合には、募集株式の申込み取扱いを行った銀行などの証明書の添付でもよいです。

    総数引受契約のある場合は、当該契約書を添付します。

  • d.公開会社における支配株主の異動を伴う第三者割当増資による募集株式の発行などにつき、募集株式の引受けに反対する旨の通知があった場合において、株主総会の決議による承認を受けなければならない場合に該当しないときは、当該場合に該当しないことを証する書面
  • 特定引受人にかかる支配株主の異動を伴う第三者割当増資の場合で、これに対し少数株主からの反対の通知があった場合が前提です。この場合は原則として株主総会の普通決議で当該割当てまたは総数引受契約の承認を得ることが必要であることは上で説明したとおりです。

    ただし、この規定にも例外があり、当該株式会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該会社の事業の継続のため緊急の必要がある場合には、株主総会の決議による承認を要しないこととされています(法206条の2第4項ただし書き)。この例外要件を満たしている場合に、当該要件を充足していることを会社代表者の責任において証明されている書面が必要となるのです。

  • e.総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主から、株式会社に対して、特定引受人による募集株式の引受けに反対する旨の通知があった場合で、株主総会が開かれたときにはその株主総会議事録
  • 上記(d)に解説した、株主総会の普通決議にかかる例外規定に該当しない場合は、原則どおり普通決議を行い、当該決議にかかる議事録を添付する必要があります。

  • f.募集株式が譲渡制限株式である場合で、総数引受契約をするときには、その総数引受契約の承認を受けた株主総会議事録または取締役会設置会社においては取締役会議事録
  • 募集株式が譲渡制限株式である場合に、総数引受契約を締結するときは、総数引受契約を承認する手続きが必要です。会社の機関によって、株主総会議事録または取締役会議事録を添付します。

  • g.金銭が出資の目的である募集株式については、払込みがあったことを証する書面
  • 第三者割当増資を含め、株式発行は資金調達行為ですから、払込みが現実になされたかどうかは重要です。

    払込機関が作成した払込金受け入れ証明書または会社代表者が作成した払込金額全額の払込みを受けたことを証する旨を記載した書面に
    (イ)払込機関に開設されている発行会社の口座の預金通帳の写し
    または
    (ロ)払込取扱機関の業務代理権限を有する者が作成した取引明細書など
    の書面を添付します。

  • h.資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面
  • 資本金の額は、当該会社の財産状況に大きな影響を及ぼしますから、当該資本金の増加額は重要です。そのため、その計算の経過を説明した書面に会社代表者が記名し、登記所への届出印を押印した書面を添付する必要があります。

  • i.検査役の調査報告書または検査役の調査を要しないことを証する書面 j.検査役の報告に関する裁判があったときはその謄本
  • 現物出資の場合で、当該現物出資が相当のものであるかは上述した資本の関係で重要となりますから、これらを証する書面が必要となるのです。

  • k.株主全員による期間短縮の同意書

公開会社が第三者割当増資を行う場合で、取締役会決議によって募集事項を決定したときは、既存株主に発行を差し止める機会を与えるため、払込期日または払込期間の初日の2週間前までに、株主に対し、募集事項を通知または公告する必要があります。これは既存株主の保護のための手続きですから、株主全員の同意があれば短縮することが可能です。そして実際に短縮したときは、当該短縮手続きがきちんとなされたことを証するために、当該同意書を添付する必要があります。

まとめ

第三者割当増資に関し、総数引受契約を中心としてその注意点や手続きなどを見てきました。

総数引受契約は、内容としては引受けの申込みと割当てを合意するだけの簡単な合意と、一見して思えるものの、こうしてみると実行する第三者割当増資によって、注意すべき点が多数あることがわかります。第三者割当増資の目的を達成できるように、手続き全体を見通して進めていくことが重要です。難しい部分も多数あると思いますから、必要に応じて専門家の助けも検討されて下さい。