企業の全国展開や、事業拡大のために行われるM&A。法務デューディリジェンス(通称:法務DD)は、そんなM&Aを行う際に大切な手続きです。
本記事では、法務デューディリジェンスの目的や費用、チェックリストを解説します。
法務デューディリジェンスの実施を検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。
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目次
法務デューディリジェンス(法務DD)とは?
法務デューディリジェンスとは、M&Aの買い手が売り手や対象会社に対し、法的な視点から調査・分析を行うことを指します。
M&Aの実施にあたり、法律上のトラブルや問題点・リスクを調査し、結果をM&A実施の可否やM&A条件に反映させます。買収する企業が非上場の場合、企業価値を把握するのは難しいのが現実です。
そこで法務デューディリジェンスを行い、「潜在的なリスクはないか」「開示されている情報に誤りはないか」などを調査するのです。そして、法的リスクが見つかった場合には、M&Aを中止したり、法的リスクを鑑みた価格交渉を行ったりします。
法務デューディリジェンス(法務DD)の目的
法務デューディリジェンスを行う主な目的は、以下の4つです。
目的を理解して、法務デューディリジェンスを効果的に行いましょう。
▷事業継続の障害となるものはないか
対象企業について、法的な観点から「その事業を継続する上で中断されるリスクがないか」「当該事業の中で、会社への損失となる可能性のある事業はないか」を確認します。
▷対象企業の価値を減少させるリスクはないか
事業内の法的問題を解決したことにより、対象企業の収益性が減少もしくは資産が失われ、企業価値を減少させる事業がないか確認します。
▷M&Aを行うにあたって阻害の原因となる法的要因はないか
M&Aを実施する上で、阻害の要因となる法制度や法規制がないかを確認します。
阻害要因により、M&Aを中止せざるを得ないケースもあるでしょう。
▷M&Aをスムーズに行える体制が整っているか
M&Aを行う際には、株式譲渡や会社の合併・分割、事業譲渡などさまざまなことを行わなくてはいけません。
作成した計画を、想定通りに実行できる体制が整っているか確認します。
法務デューディリジェンス(法務DD)の内容
法務デューディリジェンスでは、さまざまな観点から対象企業の状況を確認します。
調査される主な内容は、以下の通りです。
——————————————–
・組織、株式の内容、運用状況
・契約上のリスク
・訴訟、紛争
・許認可、コンプライアンス
・資産、負債
・独占禁止法
・労務関係
・環境問題
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このように、多くの観点から対象企業を調査し、M&Aを行う際の価格面に反映させます。
法的な観点から見たM&A後のリスクや、負債となりそうな項目については、特に詳しく調査されるでしょう。
法務デューディリジェンス(法務DD)の主なチェックリスト
ここでは、法務デューディリジェンスを実施する際の主なチェックリストを紹介します。
▷資産・負債
所有権や担保権に関する契約の確認や保証債務、訴訟などをチェックします。
チェックされる資産は、不動産や金融資産などが挙げられます。
▷会社組織
対象企業が、将来的に解散することなく存続できるかをチェックします。
登記・会社概要などが調査対象です。
▷株主名簿
「売主が株式を法律上保有している株主であるか」「紛争が生じ得る株主がいるか」を調査します。
あわせて、少数株主を含めた株主構成も確認します。
▷株主総会
株主総会では、潜在株主の有無を確認します。
「株主数が変動する可能性のある要素はあるか」「議決権に及ぼす影響はどの程度か」のチェックも必要です。
▷取引契約
契約の有効性や適法性、契約によって生じる検知関係に問題がないかをチェックします。
売買契約や債権・債務などが調査対象です。
▷訴訟
「対象企業が訴訟問題を抱えていないか」「訴訟問題になり得る可能性のある契約を抱えていないか」をチェックします。
訴訟問題は大きな支出を伴うため、特に注意して確認します。
▷法令遵守
「対象企業が法令を遵守しているか」も重要なチェック項目です。
対象企業が法令を遵守していなかった場合、買収後の影響が経済的リスクにとどまらない可能性があるためです。
具体的なチェック項目は、以下の通りです。
—————————-
・事業運営において必要な手続きがされているか
・無許可で事業展開を行っていないか
・談合・利益供与など反社会的行為がなされていないか
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法令違反がひどい場合には、M&Aが打ち切りとなる可能性もあるでしょう。
▷コンプライアンス
企業の公正を確保するため、コンプライアンス面もチェックされます。
主な調査対象は、「内部通報」「内部統制システム」「反社会的勢力との関係」などがあります。
企業買収により、自社の評判が下がってしまうことを事前に予防します。
▷独占禁止法
独占禁止法に抵触しないかも重要なチェック項目です。
M&Aを実行する会社が業界大手同士である場合、市場を寡占されてしまい需要者が不利益を被る可能性があります。
事前にチェックして状況を把握し、状況に応じた対応をしなければなりません。
▷環境問題
M&Aを行う際に、対象企業の持つ土地が土壌汚染されていないかをチェックしておくことも重要です。
汚染されていた場合、浄化にかかる費用は買収した企業が負担しなければいけません。
事前に確認し、M&A実行後に大きな支出がないようにしておきましょう。
また、廃棄物や有害物質の処理方法も確認しておく必要があります。
環境問題に負荷を与えている企業の場合、外部からの批判を受ける可能性も考えられます。
▷知的財産権
知的財産権に関する項目でチェックされるのは、対象企業が保有する知的財産権の権利関係や権利侵害の有無、管理状況などです。
主な調査対象は、以下の通りです。
—————————-
・商標権
・特許権
・著作権
・ライセンス契約
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知的財産権の調査は、弁理士と連携して行われることもあります。
▷人事・労務
労働条件やセクハラ・パワハラの問題、希望退職・解雇に関する問題がないかを確認します。
従業員の理解が得られないと、M&A後に人材の確保ができないため、特に丁寧な調査が求められるでしょう。
法務デューディリジェンス(法務DD)の流れ
法務デューディリジェンスの流れは、M&Aの規模や企業によって異なります。
ここでは、一般的な法務デューディリジェンスの流れを紹介しましょう。
①調査体制・範囲の検討
法務デューディリジェンスを実施する際には、まず調査範囲と調査体制の検討を行います。
M&Aを成功させるためには、多くの事項を調査する必要がありますが、その際にネックとなるのがコストです。
予算や時間、ニーズに合わせて調査範囲を検討しなければなりません。
また、調査体制を検討しておくことも大切になります。
法務デューディリジェンスには、法律に関する専門知識が必要です。
弁護士やM&Aコンサルなど、専門性の高い外部機関への依頼を検討しましょう。
②資料開示請求
調査体制・範囲が決定したら、対象企業に必要資料の開示請求を行います。
資料漏れを防ぐため、専門家にチェックリストをもらい必要な資料のリストを作成しましょう。
資料の開示は、情報漏洩を防ぐために「データルーム」という部屋に資料一式を集めて行う方法が一般的です。
売り手企業はできるだけ価格を下げないために、不利な資料を提出しません。
そういったことも踏まえて、資料開示請求を行うことが大切です。
③資料の検討
開示された資料の検討・精査を行います。
検討する資料が膨大なため、弁護士が手分けして精査するのが一般的です。
あわせて、追加で必要になった資料の開示請求・検討も行われます。
④マネジメントインタビュー
対象会社の経営者や役員、従業員に面談、マネジメントインタビューを行います。
資料を精査する中で出た疑問や不明点について、詳しく聴取を行い解決するのが目的です。
M&Aの意思決定者である経営者へのマネジメントインタビューは、特に重視して行われます。
⑤現地調査
対象企業に直接訪問し、現地でなければ見られない機密書類を確認します。
資料開示請求の段階で開示されていなかった資料を確認すると、新たな問題点を発見できるかもしれません。
⑥法律上の問題点の検討
現地調査後、次に行われるのが開示された資料やインタビューした情報をもとに、法律上の問題点の有無・内容の検討です。
問題点が発見された場合は、その問題が及ぼす影響や重大性を判断し、解決方法が探られます。
⑦報告書作成・最終報告会
法律上の問題点を検討した結果をまとめ、報告書を作成します。
報告書の量は企業の大小によって異なりますが、大規模なM&Aの際には数百ページになる場合もあるでしょう。
作成した報告書をもとに、法務デューディリジェンスの結果を買い手企業に報告します。
法務デューディリジェンス(法務DD)の費用相場
法務デューディリジェンスは、法律の専門家である弁護士に依頼して行うのが一般的です。
中小企業のM&Aの場合の費用は、1件あたり50万円〜300万円程度が相場となります。
対象企業に子会社が複数ある場合は、費用がもう少し高くなる可能性もあるでしょう。
大企業が法務デューディリジェンスを行う場合は、費用が1,000万円以上になってしまうこともあります。
依頼する専門家と相談しながら、どの範囲まで法務デューディリジェンスを行うか判断してください。
【動画で学ぶM&A】デューディリジェンスとは?押さえておきたい基礎知識
まとめ
本記事では、法務デューディリジェンスの目的や費用、チェックリストを解説しました。
法務デューディリジェンスは、M&Aを行う上で必須と言える手続きです。
社内で行うこともできますが、法律の知識が必要になるため専門家に依頼する方が、後に起こり得るリスクを最小限に抑えられるでしょう。
グローバル化や不況の流れに伴い、M&Aの需要はこれからさらに上昇すると考えられます。
法務デューディリジェンスを正しく理解しうまく活用できれば、自社のさらなる発展に期待できるでしょう。