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2025/05/07

個人事業主の事業承継のやり方や手続きを解説|税金対策で使える補助金や特例制度

個人事業主の事業承継のやり方や手続きを解説|税金対策で使える補助金や特例制度

個人事業主の事業承継には相続・生前贈与・売却(M&A)など複数のやり方があり、状況を踏まえて適切な事業承継の方法を選ぶ必要があります。親子間で事業を引き継ぐケースや社員・第三者に事業を承継するケースなど、同じ事業承継でも様々な承継パターンがあります。

そのため、必要な手続きの種類や内容を確認するだけでなく、贈与税や所得税、消費税などかかる税金の種類や金額を確認し、補助金や特例制度を使って費用負担を軽減できないか確認するなど幅広い視点で検討や対応を行うことが求められます。

本記事では、個人事業主の事業承継のやり方や手続きの流れ、注意すべきポイントを解説します。

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個人事業を親から子、第三者に引き継ぐ方法

個人事業主は法人とは異なり、経営者が自分の名前で事業を行い、事業用資産も個人で所有している点が特徴です。

事業用資産を後継者へ引き継ぐ場合には以下の3つの方法があります。

・相続
・贈与
・売却(M&A

それぞれの方法について以下で詳しく解説します。

▷相続

相続による事業承継は、個人事業主が亡くなった後に、相続人や遺言書で指定された人が後継者として事業を承継する方法です。
遺言を残して財産の承継先を指定している場合には、遺言の内容に従って遺産を相続するため、遺産の分け方を相続人の間で話し合う遺産分割協議は原則必要ありません。遺産の分け方で揉めずに済み、後継者への事業承継を比較的円滑に進めることができます。一方、遺言がない場合は遺産分割協議が必要です。遺産の分け方を巡って相続人同士で揉めてしまい、事業に必要な資産を後継者へ集中して承継できないケースがあります。そのため、相続で事業承継をする場合には、現経営者が生前に遺言書を作成して事業の承継先を決めておくことが重要です。

▷生前贈与

生前贈与による事業承継は、個人事業主が存命のうちに不動産などの事業用資産を後継者に贈与して承継する方法です。

親子間で事業を承継する際の手法として生前贈与が行われる場合がある他、経営能力に優れた従業員や外部の人間、信頼できる親族などへ贈与する場合などがあります。
相続以前に生前贈与によって事業を承継すれば、現経営者が持つ技術やノウハウを直接後継者に伝えられる点がメリットです。現経営者が亡くなって突然後継者が事業を引き継ぐ場合とは異なり、生前贈与では時間をかけて事業承継や後継者教育を行えます。

▷売却(M&A)

売却(M&A)による事業承継は、個人事業主が後継者に事業を売却して承継する方法です。従業員や外部の個人・企業に事業を承継する際によく採用されています。

承継先を探す方法には、現経営者が自身の交友関係などを活かして独自に探す方法がある他、M&A仲介会社に依頼して売却候補先の企業を探してもらう方法などがあります。

親族や社内に後継者候補がいない場合でも、売却(M&A)によって事業を承継できれば廃業せずに済み、事業活動を通じて培ったノウハウを後世に残せる点がメリットです。また、従業員の雇用を維持できる点や、個人事業主が後継者から対価を得ることで引退後の生活資金を確保できるなどの利点もあります。

個人事業主の事業承継でかかる税金

個人事業主の事業承継でかかる税金の種類は、事業承継の方法によって異なります。

事業承継にあたっては、かかる税金の種類や金額を確認し、納税資金を準備できるのか、納付期日までに問題なく納税できるのかなど、あらかじめ確認しておくことが大切です。

以下では個人事業主の事業承継に関係する税金として、相続税・贈与税・所得税・消費税についてそれぞれ解説します。

▷相続税

相続税とは、亡くなった人の財産(遺産)を相続したときに相続人に対して課される税金です。事業用資産を相続すると相続税の課税対象になります。

相続税がかかるのは、遺産額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合です。相続税の税率は10%~55%で、法定相続分に応ずる取得金額が大きいほど税率が高くなる仕組みです。

相続によって子が事業を引き継ぐケースでは、土地・建物などの事業用資産を承継すると相続する遺産額が大きくなり、基礎控除額を超えて相続税がかかることがあります。

相続税の申告・納付の期限は、現経営者の死亡を知った日(通常は現経営者の死亡日)の翌日から10ヶ月以内です。

なお、後述する事業承継税制を利用する場合は、事業用資産に係る相続税の納税が猶予・免除されることがあります。

▷贈与税

贈与税とは、個人から贈与により財産を取得したときにかかる税金です。事業用資産を贈与によって取得すると贈与税の課税対象になり、贈与を受けた人が支払います。

贈与税の課税方式として適用されるのは一般的に暦年課税方式です。暦年課税方式では、年間の贈与額が基礎控除額(110万円)を超えると贈与税がかかります。税率は10%~55%で、基礎控除後の課税価格の金額が大きいほど税率が高くなる仕組みです。

生前贈与による事業承継では一般的に贈与額が110万円を超えるため贈与税がかかります。申告・納税の期間は贈与された年の翌年2月1日から3月15日までです。

なお、後述する事業承継税制を利用する場合は、事業用資産に係る贈与税の納税が猶予・免除されることがあります。

▷所得税

所得税とは、個人の所得に対してかかる税金です。法人がM&Aなどによって事業を売却して売却益を得た場合は法人税の課税対象ですが、個人が事業の売却益を得た場合は所得税の課税対象になり、売却益を得た人が支払います。

所得税の税率は5%~45%で、所得額から所得控除額を差し引いた課税所得金額が大きいほど税率が高くなる仕組みです。

所得税の確定申告期間は、所得が生じた年の翌年2月16日から3月15日までです。この期間内に申告と納税を終える必要があります。

▷消費税

消費税とは、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引にかかる税金です。個人事業主の事業承継では、消費税の納税義務が後継者にいつ生じるのかがポイントの1つです。

生前贈与による事業承継の場合は、現経営者は廃業し、後継者は開業の手続きを行う形になります。消費税は「前々年の課税売上高が1,000万円を超える場合」に納税義務が生じますが、開業したばかりの後継者の場合、最初の2年間に関しては前々年の事業実績・課税売上高がなく消費税はかかりません。また、生前贈与自体も消費税の課税対象外です。

相続による事業承継の場合は、「相続があった年」と「相続があった年の翌年・翌々年」で消費税の取り扱いが異なります。相続があった年は、基準年の現経営者の課税売上高が1,000万円を超えると納税義務が生じ、相続があった年の翌年・翌々年は、基準年の現経営者と後継者の課税売上高の合計額が1,000万円を超えると納税義務が生じます。

売却(M&A)による事業承継の場合は、事業用資産の譲渡は消費税の課税対象となるため、譲渡側が消費税の納税義務を負います。

消費税の標準税率は10%、軽減税率は8%で、申告・納付の期限は、個人事業主の場合は翌年の3月末日です。

個人事業主の事業承継の流れ

個人事業主の事業承継は次の流れで行います。

1.後継者の確保

2.廃業の手続き

3.後継者の開業の手続き

以下では、各ステップについて詳しく解説します。

1.後継者の確保

個人事業主の事業承継では、まず後継者の確保が大切です。

先代の個人事業主と事業を引き継ぐ後継者の関係は、一般的に親子関係である場合が多いです。中小企業庁が公表している「小規模企業白書」(2019年版)によると、個人事業主の親子による承継は76.7%と高い割合を示しています。これは小規模な法人と比較しても高い数値です。

ただし、子どもを含め、親族に後継者が見つかるとは限りません。親族に後継者が見つからない場合は、第三者への承継も選択肢として考慮する必要があります。

近年は、後述する後継者人材バンクやマッチングサイトなどのサービスがあり、M&A仲介会社などの専門業者も存在します。必要に応じてこのようなサービスや専門業者を利用することも個人事業主における事業承継の手段の1つです。

なお、先代の個人事業主が築きあげた事業を短期間で後継者に承継するのは簡単なことではありません。後継者の育成や経験・ノウハウの伝達などを十分に実施してから事業を承継するようにしましょう。

2.廃業の手続き

個人事業主が事業を承継する場合には、税務署や各種行政機関に対して廃業手続きをする必要があります。税務面での主な廃業手続きは以下のとおりです。

・個人事業の開業・廃業等届出書
・青色申告の取りやめ届出書
・事業廃止届出書(消費税)
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
・所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書

その他、社会保険や労働保険に関しては年金事務所やハローワーク、屋号や商号など登記に関する手続きが必要な場合は法務局など、関連する行政機関で手続きを行います。

3.後継者の開業の手続き

先代の個人事業主の廃業手続きとともに、事業を引き継いだ後継者は開業手続きを実施します。税務面での主な開業の手続きは以下のとおりです。

・個人事業の開業・廃業等届出書
・青色申告承認申請書
・青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
・源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書
・消費税課税事業者選択届出書
・消費税簡易課税制度選択届出書

上記の他、従業員を雇用する際には給与支払事務所などの開設・移転・廃止届出書の提出が必要です。許認可などが必要な事業の場合、後継者が開業して事業を行うためには許認可手続きを行う必要があります。

また、必要に応じて承継した資産や契約の名義変更などの手続きを行います。

個人事業主の事業承継で活用できる補助金や特例制度

個人事業主の事業承継では様々な費用がかかりますが、補助金や税制上の特例制度を活用できれば費用負担を軽減できます。

個人事業主の事業承継で活用できる主な補助金・特例制度は次の2つです。

・事業承継・M&A補助金
・個人版事業承継税制

以下では、それぞれの制度の概要を解説します。

▷事業承継・M&A補助金

「事業承継・M&A補助金」とは、事業承継でかかる設備投資費用やM&A・PMIの専門家活用費用などの一部を補助する制度です。中小企業だけでなく一定の要件を満たす個人事業主や親子間事業承継も補助を受けられます。

「事業承継促進枠」「専門家活用枠」「PMI推進枠」「廃業・再チャレンジ枠」の4種類の枠があり、補助対象となる事業者や経費の要件、補助上限・補助率などがそれぞれ定められています。

事業承継促進枠は「5年以内に親族内承継または従業員承継を予定している者」が対象で、補助上限は800万円~1,000万円、補助率は1/2または2/3です。個人事業主の方で事業承継を検討している場合は本補助金の活用を検討してみましょう。

▷個人版事業承継税制

「個人版事業承継税制」とは、個人の事業用資産を贈与や相続によって取得した場合に、一定の要件を満たすと贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です。

本制度の対象となる資産は、先代事業者(贈与者・被相続人)の事業用として使われていた以下の資産のうち、贈与・相続などの日の属する年の前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されていたものです。

1. 宅地など(400㎡まで)
2. 建物(床面積800㎡まで)
3. 2以外の減価償却資産で次のもの
・固定資産税の課税対象とされているもの
・自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用されるもの
・その他一定のもの(一定の貨物運送用及び乗用自動車、無形固定資産など)

後継者は「個人事業承継計画」を策定し、都道府県知事に提出して認定を受ける必要があります。また本制度の対象となるのは、事業承継後一定の期限までに開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けている者です。

詳細な要件については中小企業庁HPなどで確認するようにしてください。

個人事業主の事業承継で注意すべきポイント

事業承継では、専門的な知識が必要になるため、事前の検討や手続きに時間がかかってしまったり、事業承継自体がうまくいかなかったりするケースがあります。

例えば、想定以上に事業承継に伴う費用がかかってしまい、後継者が事業運営で使える資金が減り、結果的に経営に支障が生じてしまうなどの問題を起こさないためにも、注意点をよく確認しておきましょう。

以下では、個人事業主の事業承継で注意すべきポイントを2つ紹介します。

事業承継には時間や手間がかかるため早めに準備を始める

事業承継を行う時期や承継方法の検討、後継者探し、後継者教育、承継に伴う手続きなど、事業承継には時間と手間がかかります。

事業承継を行うタイミングは、経営の状況や後継者の育成状況などを踏まえて判断します。適切な時期に後継者に事業を承継できるように、十分な時間を確保したうえで余裕をもって事業承継の準備・対応を進めることが大切です。

節税対策を行って事業承継に伴う税負担を抑える

事業承継によって後継者が多額の税金を支払うケースでは、税負担が重く承継後の事業運営資金が減ってしまい、事業活動に支障が出る可能性があります。

贈与税や所得税、消費税など事業承継に伴って課される税金の種類や金額を事前に確認するとともに、活用できる補助金や特例制度がないか検討して費用の負担を少しでも軽減することが重要です。

補助金や特例制度を利用する際には手続きをする手間がかかりますが、費用や税金の負担を軽くできれば、事業資金の増加にもつながります。

個人事業主が事業承継で活用できるもの

個人事業主の事業承継では、子や親族など後継者が決まっている場合もあれば、後継者が決まっていない場合もあります。ここでは、個人事業主の方が事業承継の後継者探しで活用できるサービスを紹介します。

▷後継者人材バンク

各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターでは、後継者人材バンクの事業を実施しています。後継者人材バンクとは、後継者不在の事業者の方と創業を希望する方をマッチングする仕組みです。

後継者人材バンクでは、創業を希望する方とのマッチングにくわえ、店舗や設備などの承継や経営理念・ノウハウなど知的資産の承継のサポートもあわせて実施しています。事業を存続したいものの後継者をなかなか確保できない個人事業主の方に役立つ制度です。

▷マッチングサイト

後継者人材バンクのような公的な制度以外にも、民間のマッチングサイトも利用できます。マッチングサイトとは、インターネット上のシステムを利用し、事業を譲渡したい方と譲受したい方がマッチングできるサービスです。

マッチングサイトに登録すると、事業の譲受を希望する方とオンライン上でコンタクトをとれます。第三者へ事業を承継する際の選択肢の幅が広がるサービスです。

まとめ

個人事業主の事業承継には、相続・贈与・売却(M&A)の3つの方法があります。事業用資産を後継者へ承継する場合には、相続では相続税、贈与では贈与税の対象となります。また、売却(M&A)して事業を承継する場合には、売却して得た対価に応じて所得税が課されます。

事業承継を行う際には、後継者の確保と事業の廃業・開業の手続きが必要です。後継者が見つからない場合には、後継者人材バンクやマッチングサイトを活用する方法があります。

個人事業主で事業承継をする場合、税負担への対応や事業により異なる手続きなど、専門的な知識を要するケースがあります。事業承継で不明な点、わからない点があるときはM&Aアドバイザーへの相談がおすすめです。

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