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2023/10/03

事業承継ファンドで後継者問題を解決!活用の際の基本的な流れや事例を紹介

事業承継ファンドで後継者問題を解決!活用の際の基本的な流れや事例を紹介

中小企業の事業承継では親族内承継が当たり前でしたが、近年は親族内承継が減少しており、後継者不足に悩む中小企業の経営者が増加しています。このような背景の中、事業承継の手段の1つとして、事業承継ファンドの活用が注目されています。

本記事では、事業承継ファンドの概要や活用する際の流れを解説する他、活用事例も紹介します。事業承継ファンドの活用を検討している経営者は、ぜひ参考にしてください。

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事業承継ファンドとは

事業承継ファンドとは、後継者不足や経営状況の悪化等の課題を抱える中小企業を対象に、事業承継のサポートを行う投資ファンドです。

事業承継ファンドでは、投資家から集めた資金で事業承継を行いたい企業の株式を取得します。その後、経営支援による事業のてこ入れを行い、企業価値を高めたうえで数年後に売却し、売却によって得た売却益を投資家に再分配するというビジネスモデルです。

元々、事業承継ファンドは、公的機関である「独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)」が筆頭となって設立されたファンドですが、現在では民間の投資会社も運営しています。

事業承継ファンドにはさまざまな種類があり、特徴も異なるので、自社が希望する事業承継の条件・目標に合せて選択すると良いでしょう。

事業承継ファンドは後継者問題の解決手段として注目

日本では中小企業が99%を占めており、中小企業が地域経済や雇用を支えていると言っても過言ではない状況です。

しかし近年、中小企業では経営者の高齢化と後継者不足の問題が深刻化し、経営が黒字であっても、後継者が見つからずに廃業を余儀なくされる企業が少なくありません。

事実、帝国データバンクの『全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)』によれば、後継者が「いない」、または「未定」とした企業の割合は61.5%となっています。

この数値は、調査を開始した2011年以降最低値となっており、減少傾向ではあるものの、それでも後継者未決定の割合は過半数を大きく上回っている状況です。

このまま後継者問題を放置し、事業承継がされずに廃業する中小企業が増加してしまうと、企業が保有するノウハウや技術が失われるだけではなく、雇用やサービスが失われ、地域経済へも大きな影響を与えてしまいます。

このような背景の中、政府も事業承継問題を重く受け止め、事業承継に関わるさまざまな支援を行っています。その一環として事業承継ファンドの活用が推進されています。

事業承継ファンドは、事業承継問題を解決する手段の1つとして近年注目を集めており、今後も事業承継の手段としての活用が期待されています。

事業承継ファンドを活用するメリット

事業承継に事業承継ファンドを活用する主なメリットには、以下のようなものが挙げられます。

・事業承継を円滑に実施できる
・後継者不在でも事業承継ができる
・売却益を得られる
・経営支援を受けて事業を成長させられる
・事業承継後も経営陣メンバーが経営に携われる
・企業理念・文化を守れる

ここでは、各メリットについて詳しく説明します。

● 事業承継を円滑に実施できる

一般的に事業承継ファンドは、投資対象となる企業の価値を高め、最終的に売却益の獲得を目的としています。そのため、事業承継を実施するにあたり、ファンド運営会社が持つ経営ノウハウを活用しながら、会社にとって有益な後継者の育成を行います。

後継者を育成するうえで企業理念やコンセプトを根付かせ、現経営者の意図に沿った承継が実現できるため、円滑な事業承継ができるでしょう。

● 後継者不在でも事業承継ができる

中小企業の事業承継では後継者不足の問題が深刻化していますが、事業承継ファンドを活用すれば後継者が決まっていなくても承継ができるメリットがあります。

事業承継ファンドを運営するファンド運営会社は、独自のネットワークを持っているため、必要に応じて外部から対象会社に相応しい後継者を見つけ出すことが可能です。事業承継ファンドは、後継者不足問題で悩む中小企業の経営者にとって、大きな助けとなるでしょう。

● 売却益を得られる

事業承継に事業承継ファンドを活用することで、現経営者は株式を譲渡した際の売却益を得ることができます。

事業承継ができずに廃業を選択してしまうと何も残りませんが、事業承継ファンドを活用すれば、株式の譲渡によって得た売却益を新規事業の資金に充てたり、引退後の資金に充てたりできるため、現経営者にとっては大きなメリットになるでしょう。

● 経営支援を受けて事業を成長させられる

事業承継ファンドを活用する場合は、経営支援を受けられることも大きなメリットです。

事業承継ファンドは、譲受した会社を成長させてから数年後に売却して利益を得るビジネスモデルのため、ファンド運営会社が持つ知識や販路、ノウハウを活用した経営支援を受けられるケースがほとんどです。

事業承継ファンドを活用して事業承継を実施することで、会社を成長させながら存続させることできるでしょう。

● 事業承継後も経営陣メンバーが経営に携われる

事業承継ファンドでは、経営陣メンバーが株式の一部を保有することもできるため、事業承継後も経営陣メンバーが引き続き経営に携わることが可能です。

中小企業では、経営者が「株主と社長」を兼任しているケースがほとんどですが、事業承継ファンドを活用すれば、事業承継ファンドが株主となり、社長は経営陣メンバーの中から選ぶと言ったことも可能です。

会社の状況を理解している経営陣メンバーが社長として就任することで、体制を変えずに経営を継続できるでしょう。

● 企業理念・文化を守れる

外部への事業承継としてはM&Aを活用する手段もありますが、M&Aによる事業承継では会社が子会社化または、消滅してしまうため、企業理念や文化は引き継がれないことも多いです。その結果、事業承継後に有能な従業員が離れてしまい、人材が流出してしまうリスクがあります。

一方、事業承継ファンドは、あくまでも会社の価値を高めることを目的としており、企業理念や文化、経営者の意図を踏まえたうえで事業承継支援を行ってくれるため、企業理念や文化を維持しながら事業承継を実施できる可能性が高くなります。

事業承継後に社風が大きく変わらないケースが多くなるため、従業員に与える影響を最小限に抑えられるでしょう。

事業承継ファンドを活用する流れ

事業承継に事業承継ファンドを活用する際は、流れを理解しておくことが大切です。具体的な手続きは事業承継ファンドによって異なりますが、事業承継ファンドを活用する際の基本的な流れは以下のようになるので、把握しておきましょう。

1.ファンド運営会社(投資会社)が投資家から資金を集めて事業承継ファンドを設立
2.譲渡側(事業承継を実施する会社経営者)が事業承継ファンドに問い合わせ
3.秘密保持契約締結、財務情報等を開示
4.基本合意書締結する
5.双方の条件のすり合わせ
6.弁護士や税理士等の専門家によるデューディリジェンス(買収監査)
7.最終の譲渡契約を締結
8.譲渡対価の支払い等のクロージング手続き
9.事業承継ファンドが経営支援
10.事業承継ファンドは数年後に株式を売却して売却益を得る

まずは、ファンド運営会社が投資家から資金を集めて、事業承継ファンドを設立します。事業承継の実施を検討している経営者は、設立された事業承継ファンドに問い合わせを行い、秘密保持契約締結後に自社の財務情報等を開示します。

その後、基本合意書の締結と双方による条件のすり合わせが行われ、事業承継ファンド側によって投資対象の企業の価値やリスクを詳しく把握するためのデューディリジェンスが実施されます。

問題がなければ最終契約の締結となり、クロージングの手続きに入ります。クロージング後は、事業承継ファンドは経営支援を行いながら企業価値を高め、数年後に株式を売却して売却益を得ます。

上記のように、基本的な流れは、一般的なM&Aとそれほど変わりませんが、「ファンド運営会社が投資の出資を受けて事業承継ファンドを作る」「譲渡側の会社が問い合わせを行う」という点に関しては大きく異なるので、覚えておきましょう。

事業承継ファンドの種類

事業承継ファンドの種類は、公的なものから民間のものまで多数あり、事業承継ファンドごとに特徴が異なります。ここでは、代表的な事業承継ファンドとして以下の4つを紹介します。

・PE(プライベート・エクイティ)ファンド
・中小機構によるファンド
・株式会社日本投資ファンド
・SBI地域事業承継ファンド

● PE(プライベート・エクイティ)ファンド

PE(プライベート・エクイティ)ファンドは、複数の投資家から集めた資金を使って非上場会社の株式を取得し、経営に関わりながら企業価値を高めたうえで売却して収益を得るファンドのことです。

PEファンドには事業承継ファンドの他、ベンチャーファンドや事業再生ファンド等、いくつか種類があります。

また、PEファンドでは単に出資するだけではなく、事業を引き継ぐと同時に以下のような企業価値を高める経営支援を行っているのも特徴です。

・経営上の問題の洗い出しや解決
・取引先や販路の拡大
・新規事業への参入等

PEファンドを運営するファンド運営会社は多数ありますが、代表的な会社には「株式会社日本プライベートエクイティ」があります。後述する「事業承継ファンドの活用事例」では、株式会社日本プライベートエクイティの事例も紹介しているので、参考にしてください。

● 中小機構によるファンド

中小機構のファンドは、「独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)」が出資して設立されているファンドです。

公的機関となる中小機構は、事業承継を検討している中小企業の相談先として最も代表的な機関と言え、以下のような中小企業が抱えるさまざまな課題に対応した幅広い支援を行っています。

・後継者候補の育成
・販路拡大
・経営相談
・事業承継等

中小機構のファンドは、官民ファンドとなるため、民間の事業承継ファンドに比べて公的な視点からのアドバイスを受けられるのが特徴です。

● 日本投資ファンド

日本投資ファンドは、株式会社日本投資ファンドが設立し、「中堅・中小企業の成長基盤の社会インフラの役割を果たす」ことを目的としたファンドです。

株式会社日本投資ファンドは、株式会社日本M&Aセンターと株式会社日本政策投資銀行が共同で設立したファンド運営会社です。

豊富なM&A実績で培ったM&Aセンターの経験や知識、ネットワーク力と日本政策投資銀行の幅広い投融資ノウハウを共有させることで、投資対象会社の発展を第一に、幅広い経営支援を行っています。

中小機構のファンドと同様に、公的な要素を持った投資ファンドであるため、経営への過度な関与を避けられるのが特徴です。

● SBI地域事業承継ファンド

SBI地域事業承継ファンドは、SBIホールディングスのグループ子会社「SBI地域事業承継投資株式会社」が設立したファンドです。

2019年10月に設立された比較的新しい事業承継ファンドとなり、中小企業の事業承継によって企業を存続させ、地域の活性化を目的として設立されました。

SBI地域事業承継ファンドの特徴は、一般的な事業承継ファンドが投資対象としていなかった「小規模な企業にも投資を行う」と公表している点です。

中小企業では後継者問題が深刻化していますが、特に小規模な企業は後継者問題を抱えている割合が高くなっています。

「小規模な企業にも投資を行う」と公表しているSBI地域事業承継ファンドは、後継者問題に悩む小規模な企業も活用できる可能性が高いため、今後の事業承継への活用に期待されています。

事業承継ファンドが活用された3つの事例

最後に、事業承継ファンドが活用された事例を3つ紹介します。活用事例を知ることで、より事業承継ファンドについてのイメージを把握できるので、事業承継ファンドの活用を検討している経営者の方は、参考にしてください。

● 事例① 浜松米穀株式会社の売却

浜松米穀株式会社は、創立以来、静岡県西部地区を主な営業エリアとして、米・麦・小麦粉・雑穀の他、一般食品から飼料まで幅広い品目を取り扱う企業です。

米飯業界では、生産面において人手不足や高齢化、流通面においては過当競争に伴う低収益化、販売面においてはニーズの多様化と低価格化等多くの課題を抱えていると言われています。

このような背景の中、浜松米穀株式会社では、SBI地域事業承継投資株式会社が運営するSBI地域事業承継ファンドを活用し、事業承継問題の解決と業績改善に取り組んでいました。

2021年12月に、事業承継問題の解決と業績改善に目途がついたため、株式会社神明への売却が決まっています。

株式会社神明は、基幹事業である米穀事業に加えて、無菌包装米飯や炊飯米等の加工食品の製造販売、国内外での外食事業の展開等、食に関わる多種多様なビジネスを展開している企業です。

浜松米穀の子会社化により、神明と浜松米穀調達力の強みを生かしながら、益々多様化する顧客のニーズ応えていきたいとしています。

● 事例② 株式会社アソシエ・インターナショナルへの成長支援と事業承継

アソシエ・インターナショナルは、認可保育園や学童保育クラブ等の子育て支援施設を運営する会社です。

アソシエ・インターナショナルでは、2019年4月に、日本プライベートエクイティ株式会社が運営する事業承継ファンド(「TOKYOファンド」)を活用して事業承継を実施しています。

TOKYOファンドは、東京都が出資者となって東京都内の中小企業の「事業承継と成長の支援」を目的とするファンドです。

アソシエ・インターナショナルのオーナー経営者は、事業承継を実施するにあたり、後継者に社内の人材を登用することで会社の保育理念や運営方針が維持され、「経営の承継」は叶うと考えていました。

一方で、親族外での承継ゆえに、資本(株主)を誰が担うかによって、経営の確実な承継が必ずしも担保されなくなる点を懸念していたようです。

このような事業承継問題を抱えていた中、TOKYOファンドが事業承継を実施することで、保護者や地域住民、社員に安心感を与えることができ、円滑な事業承継を実施しています。

また、「オーナー経営」から「組織経営」に移行し、事業基盤の強化・拡大も図ることが可能になりました。

● 事例③ 株式会社ZEHITOMOへの成長支援

事業承継に事業承継ファンドが活用された事例ではありませんが、中小機構のファンドを活用した事例として株式会社Zehitomoの事例を紹介します。

株式会社Zehitomoは、サービスを受けたい人と提供したい人を繋げるオンライン顧客獲得プラットフォーム「Zehitomo」を運営し、「日本の働き方をもっと自由に、もっと豊かに」をコンセプトとして、経営を行っている企業です。

2017年7月及び2018年5月に、中小機構が出資するファンドを活用し、5.5億円の資金調達に成功しています。

ファンドの活用によって多額の資金調達ができたことで、サービスの提供側と受ける側の双方へのプロモーションが成功し、短期間での急激な成長が可能となりました。

まとめ

事業承継ファンドは、後継者不足や経営状況の悪化等の課題を抱えた中小企業を対象として、事業承継のサポートを行う投資ファンドです。

中小企業の事業承継では後継者不足・未決定の問題が深刻化していますが、事業承継ファンドの活用により、後継者がいなくても事業承継が可能となります。

そのため、事業承継問題に悩む中小企業の経営者は、事業承継の手段の1つとして事業承継ファンドの活用を検討してみても良いでしょう。

ただし、事業承継ファンドを活用する際は、メリットや流れを把握しておくことが重要となります。また、基本的な流れはM&Aと似ており、そのため幅広い専門的な知識も必要になるので、事業承継ファンドを活用する際は専門家への相談をおすすめします。

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