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長崎県の佐世保市地方卸売市場で地域の食を支え続けてきた佐世保靑果株式会社は、まもなく創業から100年を迎えます。長い歴史を誇り、地元大手スーパーなど多くの販売先を抱える佐世保靑果ですが、近年は周辺産地での生産者減少に伴う集荷量への影響が課題となってきました。
佐世保市に限らず、地方市場は今、生産者と市場運営に関わる人材の減少で苦戦が強いられており、同地域内や同業者との合併の動きが相次いでいます。そのなかで、代表の山本茂雄氏は自社と青果卸売業界の将来性を最大化するために、青果物の専門商社グループの富永商事ホールディングス株式会社とのM&Aを決断。異業者でありながらも、同じ青果物を取り扱う立場として、両社とも生産者への貢献と業界の発展への思いが根底にありました。山本氏と富永商事ホールディングス株式会社代表の富永浩司氏のそれぞれに、M&A成約までの経緯や今後の展望について伺いました。
(佐世保靑果株式会社 山本茂雄氏インタビュー)
山本氏:当社は佐世保市が開設している佐世保市地方卸売市場で、青果物や花きの卸売業を手掛けており、JAや生産者が市場に出荷した商品を当社が受けて、せりで販売している会社です。この市場は九州でも2番目に早くできたほど歴史が古く、当社も昭和4年(1929年)の設立から100年近くの間、この地で商売を続けています。
山本氏:私は生まれも育ちも佐世保市で、大学の頃だけ県外に出ていたのですが、地元で働くため卒業とともに帰ってきました。当社には青果関連の業界に従事していた親に勧められたことがきっかけで入社したので、正直なところ当時はこんなにも長く勤めるとは思ってもいませんでした。
山本氏:当社では、入社後にまず、売上伝票や仕入伝票を管理する電算課に配属となって、そこで基礎的なことを勉強してから、営業やその他の部署へそれぞれ配属される仕組みとしています。私も入社直後から電算課に約3年間所属し、その後はずっと経理を担当し、その後2020年5月に社長に就任しました。当社はオーナー企業ではないので、社員の中から社長が決まる形となっています。今、私で8代目になりますが、もう3~4代も前からずっと経理部門出身の人が社長を務めてきたので、それが社長に選ばれた一つの大きな理由だったと思います。やはり、経理は会社の全ての部門に関わらないといけない仕事ですし、良い所も悪い所も全て見えることが、経営にも生かせられるという考えがあるからではないでしょうか。
山本氏:社長になって最初に、「社長の仕事とは何か?」と考えました。管理部門を統括していたときは管理部門だけを集中的に見ておけばよかったのですが、社長は営業部門と管理部門の全体を見なければいけませんから。そしてたどり着いた答えが、「会社にある色々な問題を、一つ一つじっくりマネージメントしながら最適解を見つけること」。それこそが社長の一番の仕事なのではないかと思ったのです。
私は営業の経験がない分、営業のことに意見や疑問を投げかけると、営業担当からすると快く思わないことだってあると思います。しかし、最適解を見つけるためには、各部門に気を使ってばかりでは仕方ない――。そういう意思は強く持つようにしています。
山本氏:まず、生産者の減少が大きな課題となっています。当社は商品を集荷しないと商売が始まりません。しかし、生産者が減るということは、青果物や花の生産量の減少に直結することを意味し、現に集荷が難しくなってきているのです。今まで青果物を出荷してくださっていた産地が高齢化によりなくなってきていますし、JAに集まる青果物も減少して市場に出荷する分がなくなるなど、生産者の減少には一番の危機感を覚えています。
そしてもう一つ、青果卸売業における人材不足もとても大きな課題です。市場は朝が早い力仕事というイメージがどうしても強いようで、若い人たちからは敬遠されがちなのだと思います。それに、せりや何かの商品を担当する業務は専門的になるため、入社から2~3年はいろんな知識を蓄えないといけないのですが、今の社会は転職できる環境や職業の多様化が進んでいるため、人材が育った頃に離職してしまうことも少なくありません。
山本氏:平成10年頃から青果市場の業界は右肩下がりが続いており、特に中小の市場や地方の市場は厳しい状況となっています。なので、私は10年以上前から、いずれは県内の同業者か、大都市の大きな市場と合併することも視野に入れていました。この業界では同地区の同業者同士や大都市の市場などとの「合併」で規模を大きくする形が主流で、県内の同業2社の合併話が出た時は、私も「うちもいよいよどこかと合併かな」と本気で考えるようになっていました。ただ、仮に同じ県内で合併したところで将来性が最大化するのか分からなかったですし、ほかの地域からも合併後になかなかシナジーが生まれないという話を耳にしていたので、合併が本当に良い道なのかという迷いもありました。
そんなときにfundbookさんと話して、株式譲渡による「資本提携」という道があることを知ったのです。もしfundbookさんとお話ししていなければ、今もまだ合併どころか悶々と考え続けていただけだったかもしれません。
山本氏:最初の面談では、どういった提携をしていくか、といった具体的な将来の話をするというよりは、お互いの仕事の内容などの話が中心で、雰囲気を味わうのが第一の目的だったように思いますが、私は富永社長に対して、話しやすくてお付き合いがしやすそうな、とても良い印象を持ちました。
山本氏:M&Aは一般的に、従業員への開示は成約後に行うそうですが、当社の場合は役員や従業員も株主で、株主の総数は100人以上にのぼります。もし私一人でM&Aを進めて、最終的に知らされた従業員が動揺して会社が不安定になってしまうと本末転倒ですから、ここはぜひ、会社が一体となってM&Aを進めるべきだと考え、早い段階で役員と一部の従業員に説明しました。ただ、最初は「会社や自分たちはどうなるのか?」といった不安の声ばかりでした。それで、1週間じっくり考えてもらってから再度意見を聞いたのですが、皆の考えは変わっていなくて。従業員の皆に、M&Aに対して前向きな気持ちになってもらうまでが大変でしたね。
山本氏:あのときはfundbookのアドバイザーさんと毎日連絡を取り合っていたくらい、ずっと頼っていました。困ったことがあればすぐに相談して、そのたびに的確なアドバイスをくださったので、ここまで来られたのだと思っています。
それに、M&Aに消極的だった従業員の意見としても、「自分たちでやれる」という気持ちが前面にあったので、それだけ皆が佐世保靑果を「自分の会社」と思ってくれているのだと実感できたことも大きかったです。納得してもらうまでの労力もありましたが、一方では自社を思う従業員の気持ちが嬉しくもありました。
山本氏:何が不安で何を懸念しているのか、富永商事さんに向けた質問を従業員から寄せ集め、失礼を承知のうえで富永商事さんにご回答いただくようお願いしました。すると、多くの質問あったにもかかわらず、富永商事さんからすぐに誠意のあるご回答をいただけたのです。それに加えて、今度は富永商事さんの富永社長や役員の皆様と、当社の役員がお会いして何でも質問させていただける機会も設けていただいたことで、従業員の気持ちはかなり変化していきました。
山本氏:まず出荷に関しては、どうしても地元だけでは消費しきれずに、全量販売が難しい状況にあったことが課題だったので、今後は富永商事さんの力を借りて、関西圏や関東圏にも販路を広げていきたいと考えています。仕入れに関しては、当社のお客様である地元の大手スーパーさんなどが色々な商品を求めているので、富永商事グループのパイプや情報を活用して、自社だけでは集荷が難しかった商品も取り扱えるようになりたいと願っています。
また、今の時代は生産者が売れるか売れないか分からない青果物を作るのではなく、市場の方から生産者に「この品種のカボチャを作ってください」といった提案をして、しっかりと販売する仕組みが主流となりつつあります。そうした生産者さんに対する提案も、富永商事さんとの協力でより活発にできるようになると思いますし、それが生産者さんへの貢献にもなると期待しています。
山本氏:このM&Aは私が主導したわけですから、成約してからも、投げ出すようなことはしたくないですね。それに、「提携したけど、何も変わっとらんやん」と思われるような結果にはしたくないです。1~2年かけて富永商事さんとしっかり連携できる体制を構築してから次の社長に譲りたいですし、3年後や5年後に「やってよかったな」と思える提携にしていきたいと思っています。
(富永商事ホールディングス株式会社 富永浩司氏インタビュー)
富永氏:当社は青果物の専門商社です。食品という幅広い商材の中でも、厳選した青果物を取り扱うニッチな事業を手掛けていることと、研究・開発から生産、加工、流通までをグループで一貫して担える体制が強みとなっています。
富永氏:第一次産業全般に言えることですが、若手人材の不足が課題となっています。北米などでは農業従事者の世代交代がスムーズに行われていて、若い世代の生産者が多いイメージですが、日本をはじめ東アジア各地では高齢化が進んでいる一方です。このため、若い人材が一緒に仕事をできるような環境作りが急務だと捉えています。
また、地球規模で考えても、世界人口が増え続けていますが、気候変動や資源枯渇など様々な要因で、生産は減少傾向にあります。だからこそ、消費以上に生産を大事にする視点を持つようにしていかなければならないと思いますし、当社もその姿勢で営業するよう心掛けています。
富永氏:野菜や果物は世界的に見てもとても歴史が長く、今後もずっと続くビジネスであるものではないでしょうか。流行が目まぐるしく移り変わるサービス産業とは違う側面が強く、まるでコレクターのような完成のない仕事だと感じますし、それが一つの魅力であると思っています。
富永氏:当社は九州にも販売先が多く、佐世保靑果さんも元々は販売先の1社でした。ただ、九州に仕入れの支店がなかったので、佐世保靑果さんと一緒になることで、現地の生産者とのつながりがより強化できると考えました。佐世保の周辺には農作物の良い産地がありますし、そうした産地に当社の神戸本社から伺うよりも、佐世保靑果さんと協力できれば、時間をかけず円滑に取引ができるようになると期待しています。
また、当社には市場(いちば)のお客様も多くいらっしゃるので、お客様のことを深く知るうえでも佐世保靑果さんから色々と教わりたいという思いもありました。今後、従業員同士の行き来が活発化すればもっと面白くなるだろうなと思っています。
富永氏:紳士的で優しくて、人柄が素敵だという印象を受けました。それに、佐世保靑果さんで勤めてこられた40年間のことや、今後の佐世保市への思いもお話しいただくなかで、きっと人徳のあるお方なんだろうなということも伝わってきましたね。
富永氏:いえ、珍しいケースではありました。ただ、佐世保靑果さんは元々佐世保市が発起人となって立ち上がった施設で、約100年もの歴史がありますし、地域の皆様の食を支えるために働いてこられた方々の力で栄えた企業でいらっしゃいます。誰か個人の会社というより地域のための会社という存在ですから、従業員の皆様も自社を大事に考えられているのだと思います。なので、私たちも佐世保靑果さんの歴史や考えを大切にしないといけないと強く思っており、それが伝わるよう、佐世保靑果さんの役員や従業員の皆様と対話させていただきました。
富永氏:お互いの長所を生かそうという考え方です。当社は商社なので、利益重視の風潮が強いと思います。「利益ベース」と言うと冷たい印象に聞こえるかもしれませんが、食品は放っておくと傷んでいくだけなので、この考えは重要なのです。例えば、1000円で仕入れたものを1500円で売ることもあれば、500円で売らざるを得なくなることもありますし、商品価値がゼロになってしまうこともあります。もし怠慢な管理によって商品を腐らせてしまい、利益が出なくなったとしても、最終的なしっぺ返しは生産者に向かってしまうのです。なので、生産者に対する思いやりが根底にあってこその利益重視の社風となっています。
一方で、佐世保靑果さんも農産物を取り扱っている点では当社と共通していますが、主には地域の食料供給を支えてこられた背景がありますから、当社とまったく同じような利益ベースの考えを求めるのは筋違いだと思っています。無駄が生じている部分を少しずつ改善しつつも、お互いの良さを掛け合わせる道を追求することが大事だと考えています。
富永氏:毎月定例の財務ミーティングのほか、当社の営業部長が佐世保に頻繫に伺うなど、着々と連携を強化しているところです。また、佐世保靑果さんと当社間のやり取りだけでなく、年に4回ほど開催しているグループ全体会議も、各社間の交流の場になると期待しています。コロナ禍以降のグループ全体会議はオンラインで行われていましたが、そろそろ対面での開催もできるかと思いますので、グループ間で関係を深める動きがますます活発化すればと願っています。
富永氏:青果物は遠い外国産のものより、国産の方が新鮮なままお届けできるので、まずは佐世保靑果さんの取り扱う九州産の青果物を国内で広く流通させていきたいです。また、当社がグローバルに取り扱っているカボチャや玉ねぎなどについては、佐世保靑果さんからの出荷品が輸出ルートに載る可能性も十分にあると思っています。
それともう一つ、佐世保靑果さんとともに、物流を効率化させる取り組みにも力を入れていきたいです。物流業界では働き方改革に伴う2024年問題が懸念されている通り、今後は長距離輸送や大量の小口配送への対応が難しくなるため、各地域の物流拠点の価値はよりいっそう高まるものと考えられます。そうした状況下で、流通施設として利用できる市場は、今まで以上に機能を発揮するようになると思うのです。
週休3日制を取り入れる企業も出てくるなど、世の中の働き方改革は前進していますし、私もそうなるべきだと考えています。そのために、物流をはじめとした業務効率化は不可欠です。働き方改革を推し進めるうえでも、佐世保靑果さんをはじめ、グループ各社で協力し合っていければと思っています。
佐世保靑果株式会社
代表取締役社長 山本 茂雄氏
少子高齢化と人口減少が進むなかで、オーナー企業や個人経営の事業者は特に後継者問題がますます深刻化するものと考えられます。そういった場合にただ廃業するのではなく、譲受してくれる企業を見つけられれば、経済的にも最善の策になる可能性が大きいものと思います。
当社はオーナー企業ではなく、言うなれば私もサラリーマン社長ですが、それでも責任は非常に重大で、単に自分の任期を満了すればいいとはまったく考えていませんでした。「従業員の生活もかかっているからこそ、会社を存続・発展させなければいけない。ならばこれから先、単独でいるよりも相乗効果の高い企業と手を組んでいくべきだ」と、判断したのです。
後継者問題の解決や会社の発展に向けては、M&Aが一番有効な手段になると期待できるので、今後ますます活用する動きが増えてくるのではないかと思っています。
富永商事ホールディングス株式会社
代表取締役社長 富永 浩司氏
企業間の競争はある程度必要なものの、一つの産業の中に事業者が溢れかえっている状態では、競争相手ばかりを意識してしまい、その産業や業界自体をどう良くしていこうかという考えが欠けてしまいかねません。私も、いかに競争相手に打ち勝とうかとばかり、ずっと考えていた時期がありました。ですが、自社のマーケットシェアが拡大するに従い、「業界をどう伸ばそうか」という健全な考え方へ自然と変わっていきました。なぜなら、その産業や業界がなくなることの方がはるかにリスクになるからです。
「1産業1業者」と言うと極端かもしれませんが、その産業を発展させるためには、一つのパイを大勢で食い合いながら多くの無駄を発生させるのではなく、今後は集約して力を合わせていく方がますます重要になってくるのではないでしょうか。新規参入が難しい第一次産業においても、M&Aは有効に働くと私は考えています。
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担当アドバイザー コメント
本件は、100年もの歴史を誇る地元に無くてはならない青果卸売会社の譲渡企業様と、国内・国外とグローバルな展開をする青果専門商社の譲受企業様とのM&Aという青果業界に多大な影響を与えるマッチングだと思います。
青果卸売会社である譲渡企業様は、地元の「食」のインフラとして、重要な役割を有しています。大手量販店、小売店側と生産者側との間に入り、需要と供給のバランスを整え、両社にとってメリットがあるためには時には損をしながらも消費者の台所に野菜や果物を届ける必要があります。
しかし、現在、青果業界は非常に厳しい環境にあります。
生産者様が減少の一手をたどっていることに加え、市況に伴う青果物の低価格化などが主な要因です。単独の経営戦略と資本ではなかなか解決できない悩みが、どこの青果事業者にも当てはまる状況です。
また青果業界のM&Aは同業同士が多いのですが、それでは面の取り合いになってしまい、根本的な解決にはならないことが多いです。
このような背景から、譲渡企業の山本社長様と青果事業として「食」のインフラ機能を大事にしつつ、抜本的な改革を起こせるM&Aを一緒になって考えてきました。
譲渡企業様の願いである地元の生産者と一緒になって販路を見出していくためには、譲受企業様のような国内のみならず国外にも「青果」の販路を保有しているのが一つ、またその上で販路が確定できれば、譲渡企業様のバックにいる生産者にも自信を持って何を作れば生産者として安定するのかを提案できる。そこに商品としてのブランドを作り上げ、低価格だけではない付加価値のあるものを市場に流していくことができます。これは単独資本ではなかなか難しくM&Aだからできることと言っても過言ではありません。
M&Aは終わりではなく、ここからがスタートとなります。
今後、ご両社が日本の青果業界に新しい風を吹き込むことをとても楽しみしています。