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2005年に、25歳の若さで人材派遣業の株式会社アーツを創業した寺野圭一郎氏。リーマンショックなど数々の困難に襲われながらも、持ち前の行動力と、派遣スタッフや顧客への気配りが実を結び、企業理念「人と地域と社会に最高のサービスを」の通り、地元から厚い信頼を集める会社へと成長してきました。
経営は軌道に乗り、順調そのものだったある日、寺野氏は突然の病に倒れてしまいます。それまで多くの業務を一人で背負ってきましたが、「今後また不測の事態が起きたときに会社をどうすべきか」と深く考え、M&Aに向けて舵を切りました。
その後、同じ人材派遣業で、環境や雰囲気がマッチした株式会社ティー・シー・シーと、2022年3月にM&Aが成約。寺野氏は新たに会社を立ち上げ、次の夢へと歩みを進めています。アーツのM&Aに至るまでの経緯や、ご自身の今後の抱負について、寺野氏にお話を伺いました。
寺野氏:私は高校卒業後に専門学校に通っていたのですが、だんだんと「自分の得意分野とは違うのではないだろうか」と、授業内容に悩むようになっていました。そんな最中に地元のパチンコ店でアルバイトを始め、最終的に学業より仕事をする道を選ぶことにしたんです。そのアルバイト先で私の働きぶりが評価されて正社員となり、20歳で本部の人事課に配属となったのですが、その頃から漠然と「将来は自分で何かをやってみたい」と思うようになりました。人事課で学んだ業務と、アルバイト時代のサービス業を組み合わせて、人材サービスを立ち上げたら面白いのではないか――。そういった考えから、25歳で人材派遣業のアーツを創業しました。
寺野氏:南足柄市で生まれ育った私にとって、神奈川県西部には幼い頃から日常的に見聞きしてきた企業が数多くあったからです。それに、派遣の仕事は企業数と人口が多い地域に集中しやすい分、都心部では当然、競合も多くなってしまいます。そうした理由から、まずは地の利を知っている神奈川県西部から事業を始めようと考えました。
それと、これは今になって思うことですが、神奈川県西部で事業を展開してきたことにより、結果として地域貢献や地元への還元にもつながったという自負もあります。アーツの売り上げ・利益によって事業税が地域に納められ、アーツの雇用によって人がその地に住み、住民税や所得税なども納められる状況を16年以上も続けてこられたわけですから。地元を拠点とした意義は大きかったと思います。
寺野氏:初期・中期・後期と大きく5年ごとに分けると、初期はとにかく売り上げと利益を作ることに必死でした。そんな、ただでさえ大変なことばかりなのに、2008年に起きたリーマンショックは本当に大打撃となりました。国内でも“派遣切り”が瞬く間に広がり、職を失った人たちへの炊き出しが各地で行われるなど、まるで戦後のような状況でした。アーツも売り上げが6~7割も減少し、このときは「家族を守らないといけない!」という、ただその一心でした。
中期にはリーマンショックが徐々に落ち着いてきて、派遣の採用が再開し始めましたが、やはり企業も慎重になるものです。なかなか派遣の単価は上がらず、実質的な収益としては辛うじて黒字を維持するような状況がしばらく続いていました。
そして後期あたりになった頃、大手通販の物流業務を手掛ける企業との大口契約が決まったのです。まとまった派遣先があれば、派遣会社の請求書業務など様々な作業負荷が軽減されるため、これはとても良い転機になった出来事でした。
寺野氏:とにかく「順法(法律を守ること)」を第一に意識してきました。例年10月頃には最低賃金が引き上げられていますし、労働基準法や安全衛生法なども頻繁に改正が行われています。法改正では事業者にとっての緩和はほぼなく、厳しくなる一方ではありますが、しっかりと対応していこうと常に気を引き締めてきました。
それと、地道な努力ですが、派遣スタッフ一人一人への出勤前日の連絡も大事にしてきましたね。大半のスタッフは真面目に勤務してくださっていますが、遅刻や欠勤をしてしまうスタッフもゼロではありません。しかし、当然ながら派遣先の企業は、派遣会社ごとにスタッフの遅刻・早退・欠勤率を見られています。スタッフ一人が出勤した際の売り上げと利益だけでなく、真面目に働いているほかの派遣スタッフの待遇も損なわないよう、丁寧にリマインドのメールやLINEを送り続けてきた結果、出勤率の高さは各派遣先で1~2番目に良い状態を維持してこられました。
寺野氏:あの日のことは忘れもしませんが、2019年5月のある夜、突然苦しくなって呼吸ができない状態に陥り、救急車で搬送されたんです。診断結果は肺気胸で、すぐに処置していただけたおかげで何とか一命を取り留められました。ただ、そのときは給料日の1週間ほど前で、救急車の中でも「給与計算をしないと…」と頭をよぎっていましたし、入院中の病室でも資料とパソコンを持ってきてもらって作業をしていました。自分がどうなろうと、人に迷惑をかけてはいけないと。
私が経営している期間は税理士以外、弁護士や社会保険労務士なども入れていないほど、ほぼ全ての業務を自分一人で手掛けていたんですよね。どうにか給料日には間に合いましたが、「こんなときも休めないの?」という葛藤や、今後また急な事故や入院があったときに会社をどうしようかという迷いが、一気に浮上してきました。会社は順調でも、こんなところで困るんだと、身に染みて実感したものです。仮に会社を拡大するにしても、もっと色々と考えなければいけないと、経営者としての責任感を新たにしていた矢先、偶然fundbookさんから連絡をいただき、そこからM&Aを視野に入れるようになりました。
寺野氏:病気になる前にほかのM&A仲介会社からお話をいただいたことがあったのですが、M&Aをしようとはまったく考えていなかったので、そのときはお断りをしていたんです。病気というのはそんな考えが一変するほど大きな出来事でしたし、悩んでいたところで偶然にもfundbookさんから連絡をいただけてよかったとも感じています。
私は20歳頃から株式投資をしていたのですが、当時はまだM&Aという言葉が今ほど広がっておらず、どちらかというとネガティブなイメージの方が強かったと思います。しかし、今回fundbookさんと話していくなかで、現在は戦略的かつ前向きなM&Aが可能であることも十分理解できました。アドバイザーさんも人材派遣業に見識があって、こちらの話にも理解を示していただけそうだと思い、「必ず譲受企業を見つけてください!」と、仲介を依頼しました。
寺野氏:やはり同業の会社ですね。派遣会社はほかの業種と違い、派遣スタッフと顧客(派遣先企業)を派遣会社がサポートするという、特殊な「対スタッフ」「対顧客」の関係性があります。単純に売り上げや利益率だけでは測りきれない評価基準が、運営を続けていくうえで非常に重要になるので、異業種だと難しいかもしれないと思っていたんです。
寺野氏:ティー・シー・シーの多羅澤社長とお話をして、考え方が似ているな、という印象を受けました。また、宇都宮市の本社にも伺わせていただいたのですが、活性している地方都市でありながら、少し離れれば田畑や自然に囲まれた豊かな環境であることも、小田原市に本社を置くアーツとどこか親近感がわくような感覚を抱きました。
譲渡後も私の妻や従業員はアーツに残るので、譲受企業の環境や雰囲気、双方のフィーリングは大事にしたいと思っていました。実際にお会いして「うまくいきそうだ」と直感できましたし、面談後もスムーズにM&A成約まで進みました。
寺野氏:苦労もたくさんしてきたので、M&A成約直後はいろんな感情が混ざりましたね。嬉しさや安堵の気持ちもありますし、創業の年度で言うとアーツは私の娘と同級生ですから、少し寂しさもあるような、不思議な感覚ではありました。
ただ、譲渡後すぐにアーツから離れたわけではなく、業務の引き継ぎのために半年間はアドバイザーとして在籍していたのですが、そのうちに心情も変化していきました。16年間、これが普通だと思ってやってきた業務も、いざ引き継ぐとなると、私一人で背負ってきた業務があまりにも膨大だったことを再確認するばかり。それに、ずっと毎日夜遅くまで仕事をして、家族で夕食を囲んだことも片手に収まる程度しかなかったことを思い返すと、だんだん「早く引き継ぎを終わらせて、自分は次に向かわないと!」という思いが本音になっていました。
寺野氏:病気になった経験から、人生観が大きく変わったんですよね。正直なところ、今までは“いっぱい働いて、いっぱい稼ぐ”ことに重きを置いてきました。もちろん、お金はあって損するものではありませんし、同じ時間働くならば、より高い対価が得られるように頑張ることも大事だと思います。ただ、過去の私は相当な無理をしながら、時間と能力と体を切り売りしていたからこそ、病気になってしまったんだという自省の念もあるんです。これからも、時間・能力・体を使いながら働くことに変わりありませんが、それと同じくらい“自分への投資”も大事にしていきたいと考えています。
もしあのとき病気から快復せずに、いろんなことが経験できないままだったら、せっかくの人生がすごくもったいなかったなと。これからは、両親を旅行に連れて行ってあげたり、ワールドカップを現地で観戦したり、読書や映画に没頭したり、そういった知識や経験を積み重ねる時間も、バランス良く持つようにしたいと思っています。
寺野氏:ありがとうございます。アーツの創業、成長、譲渡を経て、結果的には間違っていなかったと実感していますから、やっぱり起業や事業承継って、すごく夢があるなと改めて思いますね。私はアーツで手にした結果だけで終わるつもりはなかったので、新たに立ち上げた株式会社ネクストで再度、未来に向けた種まきをしているんです。将来的には地元の神奈川県西部にある複数の小規模事業会社をグループに迎え入れ、シナジーの高い事業会社同士で新規事業や新サービスを創出するような複合企業にしていきたいと考えています。
日本人の寿命は80歳超で、さらには「人生100年時代」と言われるようになっても、病気を経験した私からすると、仕事をするうえでも「今日が一番若くて、一番体が動かせる日」という考えが大前提にあります。その考えに基づくと、一般的な定年退職の年齢もあながち間違ってはいないと思いますし、実質的な自分のコアな時間もあと25年ぐらいかな、とも思うわけです。その時間を、もっと張り合いのある時間にしたい。だから、60歳頃までにもう一度、アーツと同じ規模の譲渡ができるように前進しよう――今、そんな思いを巡らせているところです。
株式会社アーツ
創業者 寺野 圭一郎氏
日本は少子高齢化に伴う人口減少時代を迎えています。人材の確保が困難になれば、企業の事業活動に多大な影響を与えることは明らかですし、特に町工場のような特殊な技術と業務を誇る事業者が継続できなくなってしまうと、失うものは計り知れないだろうと懸念せざるを得ません。加えて、職業や働き方が多様になった今は、経営者のご子息が当然のごとく家業を継ぐとも言い切れなくなっているのではないでしょうか。こうした状況の中で企業や事業を続けていくためには、身内に固執しすぎるのではなく、外部からもやる気のある人を探し出して、しっかりと引き継いでもらうことが最善の道なのではないかと思うのです。M&Aを経験した立場として、事業譲渡や事業承継は今後ますます増えていくべきであり、増えていかなければいけないと現実的に感じました。
企業は二つとして同じものがないからこそ、M&Aをするうえではデューデリジェンスが絶対的に必要で、そこに煩雑さや不安を感じることがあるかもしれません。しかし、逆に言えば、1社1社がオリジナルだからこそ、高く評価してくれる譲受企業が現れる可能性が十分に広がっているということです。何事も、自分が知らないことは怖いものですが、それはM&Aでも同様です。相談したり、情報収集したりすれば、M&Aはそんなに難しいことでも怖いことでもないと、広く認識されるようになればと願っています。
相談料、着手金、企業価値算定無料、
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担当アドバイザー コメント
本件のご成約にあたり、寺野社長の会社に対する情熱・創業から大切にされてきた派遣スタッフさんへの想い・困難な場面での苦労などを肌で感じることができました。譲受企業であるティー・シー・シー様におかれましても、寺野社長同様に創業オーナーであることから、面談の場で意気投合したことが印象に残っております。
今後、両社が一緒になることにより、派遣サービスを利用される企業様・就業される派遣スタッフにとってより良いサービス提供ができ、両社が更なる飛躍をされることを陰ながら応援しております。