インタビュー

2022年5月13日、譲渡成立

訪問診療も再開へ 沖縄の専門医療を担うクリニックの事業承継

訪問診療も再開へ 沖縄の専門医療を担うクリニックの事業承継
  • 譲渡企業
    医療法人かなの会
    設立年月日
    2001年
    事業内容
    無床診療所
    URL
    http://www.kozaclinic.or.jp/
  • 譲受企業
    介護事業所等運営法人
    事業内容
    通所介護事業所など

沖縄県で生まれ育った川平稔氏は、2001年に内科・神経内科・リハビリテーション科を診療科目とする「医療法人かなの会 コザクリニック」を沖縄市で開設。県内で神経内科に対応する医療機関が少なかった頃から神経疾患の治療に励み、パーキンソン病治療の「LSVT BIG」を県内で初めて導入したほか、「全国パーキンソン病友の会・沖縄支部」の立ち上げも率いてこられました。

後継者を探すべくM&Aに動き始めていたコザクリニックに、突如としてコロナ禍の影響が降りかかることに。当初の予定よりも早く譲受法人を見つけなければならない――。不安と焦りの中でしたが、リハビリや介護事業に強みを持つ法人とめぐり逢い、2022年5月、M&Aの成約に至りました。譲受法人との連携によりコロナ禍で打撃を受けていた収益は大幅に改善し、休止していた訪問診療も再開に向かうなど、相乗効果が顕著に表れています。

川平稔理事長と、医師の町田憲彦氏、総務を担当するご子息の川平史明課長に、M&A成約までの経緯や、今後への期待などについて伺いました。

訪問診療も再開へ 沖縄の専門医療を担うクリニックの事業承継

沖縄県を代表する神経内科専門クリニック

川平理事長がコザクリニックを開設された経緯をお教えください。

川平稔氏:私はここ沖縄県で生まれ育ち、大学進学等で10年近く県外へ出た後沖縄に戻り、以降はずっと県内で医師として勤めてきました。私自身、神経内科を専門にしてきたのですが、昔は県内に神経内科が少なかったんです。県内の患者さんが県内で治療とリハビリを受けられるようにしたいと思い、2001年にコザクリニックを開設しました。現在は北は本島最北端の辺戸から、南は石垣島・宮古島からも患者さんが来られています。沖縄県は非常に広域ですが、当院の近くまで高速道路が通っていますし、離島と本島間の航空便も充実してきましたから、県外の病院に通わなければならなかった頃に比べて、コザクリニック開設後は患者さんたちもはるかに治療が受けやすくなったと思います。

特にパーキンソン病治療では沖縄県の第一線で活躍されてきたそうですね。

川平稔氏:当院は県内初のパーキンソン病治療を行うクリニックですが、沖縄県でパーキンソン病の患者会を立ち上げてはどうかとずっと働きかけてきて、ようやく「全国パーキンソン病友の会・沖縄支部」を発足させられたことは思い出深いです。当院は沖縄市に位置していますが、友の会の拠点は県内の中心都市にあった方がいいだろうと提案し、那覇市に拠点を置くこともできました。コザクリニックに来てくださった皆さんが中心となって立ち上げられたことはとても嬉しかったですし、今も継続して友の会の活動に力を注いでいます。

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医療法人かなの会 川平稔氏

M&Aを進め始めたところで襲い掛かったコロナ禍の大打撃

かなの会様がM&Aを検討し始めたきっかけをお聞かせください。

川平稔氏:私の年齢やクリニックの建て替えなどいろんな事情が相まって、数年前からM&Aを視野に入れるようになっていましたね。神経内科の医師として、20年以上にわたって続けてきた訪問診療も、年齢的にだんだん難しくなってきたと感じていた矢先、4年ほど前に病気を患ってしまったんです。そのときに課長の呼びかけで町田先生が当院に来てくれたのですが、町田先生にはご自身が続けてきた研究に専念できる時間も必要です。診療以外の病院経営の面まで負担をかけないようにしたいという思いから、M&Aが最善の策ではないかと真剣に考えるようになりました。

町田先生はそのような状況をどう感じられていましたか。

町田氏:私はコザクリニックに来てから2年間ほど訪問診療にも携わってきました。神経疾患は進行すると通院が困難になる場合もありますし、療養病棟に入院するより、落ち着いて過ごせる自宅での療養を選ばれる患者さんも多くいらっしゃいます。また、特別養護老人ホームに伺って診療することもあるなど、訪問診療は地域医療の一端を担う重要な取り組みであることは間違いありません。

一方で、訪問診療は人材と時間と体力が要求されるため、容易には行えない医療サービスでもあります。また、私はコザクリニックに来る前からある医療分野の研究を続けている最中の身で、川平理事長と従来のペースのまま訪問診療を続けていくには限界があり、やむを得ず休止することになりました。訪問診療はコザクリニックの看板でもあるので、将来的に再開できればと色々な考えを巡らせていました。

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医療法人かなの会 町田憲彦氏

その後、いつ頃からM&Aに向けて本格的に動き始められましたか?

川平史明氏:2021年末に開催されたfundbookさんのセミナーを受講したことが、第一歩になったと思います。セミナー後に個別の相談をしたこともあってM&Aが具体的にイメージできるようになり、翌月には担当アドバイザーさんとともに、M&Aに向けて動き出しました。

当初はM&A成約まで半年から1年弱のペースでゆっくり進めていこうと話していたのですが、直後に当院がコロナ禍の影響を大きく受けてしまったのです。県内でオミクロン株が急速に感染拡大し、途端に運営状況が悪化してしまいました。私がここで勤めてきたなかでも、最も大きな困難でした。資金繰りの不安もあり、その時点からスピードを上げてM&Aを進めていただくことになりました。

短期間でM&Aを進めるうえで、大変だったことはありましたか?

川平史明氏:強いて挙げるならば、資料の準備が大変でした。ただ、分からないことがあったときもfundbookさんが丁寧に教えてくださったので、問題なく資料を作成することができました。私たちとしては大変だったことより、時間が限られた中でも素晴らしい法人を紹介していただけたことに感謝の思いでいっぱいです。

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医療法人かなの会 川平史明氏

譲受法人の支えで、クリニックの経営や職員の意識が向上

譲受法人様と面談されたときの感想をお聞かせください。

川平史明氏:当院はリハビリに力を入れており、譲受法人さんもリハビリを得意とされていらっしゃいますので、まず率直に相乗効果がありそうだと感じました。譲受法人の代表からも「一緒にやりましょう!」という熱い言葉を掛けていただき、こちらとしてもぜひ手を組ませていただければと、初回の面談から思いましたね。本格始動から4~5カ月でM&A成約に至れたことは奇跡的と言いますか、本当に良いご縁をいただけたと身に染みて感じています。

町田氏:私も、初めて代表にお会いしたときから、そのエネルギッシュさと、従業員や周りの人々を大事にされているお人柄を見て、「とても良い法人さんを紹介していただけたな」と嬉しく思ったことを覚えています。また、私は鍼灸の分野にも興味を持っていて、研究対象にしたいと考えていたことがあったんです。譲受法人さんは鍼灸治療にも強みを持たれていますから、色々と勉強させていただけるのではないかという期待も膨らみました。

M&Aが成約した際の川平理事長のお気持ちはいかがでしたか?

川平稔氏:もう、「良かった」の言葉に尽きます。クリニックの移転や建て替えから後継者のことまで、今後どうするべきかと模索し続けていましたし、とにかく職員の雇用を守るために一番良い方法は何だろうかと探っていましたから。譲受法人さんに経営を応援していただけることになり、安堵の気持ちはひとしおでした。私は80歳(取材時)を迎え、無事にM&Aも成約したので、これからは少しゆっくりさせていただこうかなとも思いましたが、患者さんやクリニックが必要としてくださるときはぜひ、引き続き力になっていきたいと考えています。

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M&A成約後、コザクリニックではどのような変化が表れているでしょうか?

川平稔氏:今までも「コザクリニックの人たちは良心的だ」という評判は得られていたと思います。ただ、クリニックを長く続けていくには、そういった評判と同時に、経営もしっかりしておくことが大事です。譲受法人さんの代表が当院を見てくださるようになって、評判と経営の双方が乖離なく良い状態になったと実感しています。

やはり経営者というのは、自身の生活をかけてその職を担っているものでしょうから、バイタリティーがあって、職員に対する気配りも大事にしてくださる代表が当院を率いてくださることは、すごく良いことだと思いますね。代表の「一緒にやっていくんだ!」という思いがこれからますます職員にも浸透していくと、さらに当院が発展していくのだろうと楽しみにしています。

川平史明氏:職員にM&A成約を伝える際は、多くの人が離れていかないだろうかと心配していましたが、今も大半の職員が勤務し続けています。それに、譲受法人さんの施設との連携や職員間の交流も進んでいますし、譲受法人さんによる教育によって、職員の意識もますます向上している状況です。

また、以前はほぼ私一人だけで財務管理をしていたのですが、譲受法人さんからノウハウの提供やサポートが受けられるようになり、負担もかなり軽減されました。様々な連携と支援によって、医業収益もM&A成約前に比べて倍近くまで伸長しています。

訪問診療も再開へ 沖縄の専門医療を担うクリニックの事業承継

クリニックの存続は患者の安心につながっている

今後のコザクリニックに期待することをお聞かせください。

川平稔氏:まずはこのコザクリニックが存続し、職員が安心して生活できる基盤を固めることですね。医療機関であっても、世の中の移り変わりに合わせて、その都度、柔軟に方向性を変えていくことは必要です。その際に、医療法人としての核となるものをしっかりと持ちながら、経営に長けた譲受法人さんからアドバイスをいただいていけば、最適な方向に進んでいけると信じています。医療も経営も、一人だけで全てができるとは考えられませんから、皆がお互いに協力し合うことはとても大切です。職員同士、そして譲受法人さんと当院との協力が相乗効果を生み出し、その雰囲気が患者さんや外に向けても伝わっていけば嬉しく思っています。

町田氏:ありがたいことに、譲受法人さんとの取り組みによって、訪問診療が小規模から徐々に再開できるようになりました。川平理事長も市外の患者さんのところまで行かれているんですよ。

訪問診療も再開へ 沖縄の専門医療を担うクリニックの事業承継

川平稔氏:訪問診療はまさに、コザクリニックの一つの核です。

訪問診療について少しお話させていただくと、診療報酬のルール上、訪問診療を行えるエリアは医療機関から16km以内という決まりがあります。今でこそ神経内科に対応する医療機関が増えてきましたが、当院を開設した20年前は県内にほとんどなく、その上離島に住む患者さんも多くいらっしゃるので、当時は何とか遠方の患者さんにも訪問診療を行えないかと、厚生局などへ熱心に掛け合ったものでした。その結果、専門的な治療が必要な患者さんを例外として認めてもらえたこともあります。それだけ訪問診療は必要とされていますし、私たちにとっても強い思いがあるんです。

訪問診療の再開など、M&Aは患者様とコザクリニックの双方にとって喜ばしい結果を生み出しているのですね。

川平稔氏:そう思います。クリニックがより良くなって経営を続けられ、そして求められる医療が提供できるのですから。

いろんな事情で閉院するクリニックがありますが、そのときは患者さんをほかの医療機関にお願いするわけですよね。いつも診てくれていた医師や医療機関を丸ごと変えなければならなくなると、患者さんに対しても大きな不安や負担を与えかねません。しかし、M&Aでその医療機関が続いていくのであれば、職員も然り、患者さんも心配せずに過ごせられると思うのです。M&Aがなければ、ただ単に閉院することになる医療機関もあるでしょうから、医療業界にとってもこういう手段があって本当に良かったと思っています。

訪問診療も再開へ 沖縄の専門医療を担うクリニックの事業承継

個人レベルではなく、公共の視野で物事を考えることが大切

医療法人 かなの会

理事長 川平 稔氏

十数年前までは、M&Aに関するネガティブなニュースの影響で、M&Aに対して悪い印象を持った人は少なくなかったと思います。しかし今は、後継者不在など様々な課題を解決する手段を模索するなかで、M&Aは必要だと認識する人が多くなったのではないでしょうか。実際に当院もM&Aを実施してみると、課題を解消しながら、これまでの長所はさらに伸びていると実感しています。

人は物事に対する良い印象は忘れやすく、悪い印象の方が残りやすいものです。医療業界でも「M&Aをして良かった」というところは当院以外にもたくさんあるでしょうから、もしM&Aに対して悪い印象が払拭できないまま悩んでいる医療機関があれば、ぜひ良い事例にも目を向けてみてはどうかと思うのです。

理事長である以上、年齢を重ねるといくら健康に自信があっても「このまま続けられるのか?何かあったときにどうするのか?」という、将来の不安は必ず出てきます。そのときに、個人のレベルで物事を理解するのではなく、職員や患者さんたちも考慮した公共の視野で物事を理解し、考えようとすることが大切です。今回のM&Aを経て、改めてそう思いました。

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担当アドバイザー コメント

この度は、沖縄県でも数少ないパーキンソン病の専門治療を担うクリニックとリハビリに強みを持つ譲受法人のM&Aをご支援させて頂きました。

クリニックには毎年延べ数万人のパーキンソン病患者が通い、地域に欠かせない医療機関の代表例のような存在でした。そこに突如として襲い掛かかったオミクロン株の影響で経営にも打撃が・・・、1日でも早くM&Aでお相手を見つけたいと願った矢先、奇跡とも呼べるタイミングと相性で現れたのが譲受法人でした。

譲受法人の経営支援により患者数が増え、コロナ禍の影響で失われた業績も一気に回復、休止していた訪問診療も再開の目途が立ちつつあり、新たな風が吹いたことで職員にも活気が湧いてきたように思えます。

理事長から成約式で言われた「いいお相手に縁を持たせてくれてありがとう」という言葉が今でも胸に残っています。医療法人かなの会が地域に欠かせない医療機関として更に存在感を増していく姿をとても楽しみにしております。

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