インタビュー

2022年9月20日、譲渡成立

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ
  • 譲渡企業印刷会社
    設立年月日
    -
    事業内容
    和紙印刷等
  • 譲受企業服部プロセス株式会社
    設立年月日
    1970年
    事業内容
    総合印刷業
    URL
    http://www.oide.or.jp/

印刷業を手掛ける譲渡企業は、仏事の挨拶状制作に関する豊富な知識を強みに、全国のお客様からの注文に対応しています。

2代目社長の佐藤貴史氏(仮名)は、わずか25歳にして社長に就任。創業者である父が急逝し、「会社を継ぐのは自分しかいない」と覚悟を決めたと言います。父が築き上げてきた会社で、佐藤氏は社長就任後一つ一つの業務を改善・進化させるために奮闘してきました。そうして十数年が経ったとき、今度はコロナ禍による大打撃を受けることに。雇用を守り、会社の持続的な発展を実現することを第一に、そして、40代を迎えた自身の第二の人生のため、最善の道として選んだのがM&Aでした。

その後、同じ印刷業で事業を展開する服部プロセス株式会社と出会い、2022年9月にM&Aが成立。譲渡企業は服部プロセスとともに、強みをより発揮できる施策を練り始めており、それを見届けた佐藤氏は、自身の新しい人生を歩み始めようとしています。佐藤氏と服部プロセスの代表取締役・服部晴明氏に、M&A成約までのストーリーや今後の展望について伺いました。

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ

25歳で家業を継ぎ経営者に。雇用を守ることを最優先に考えてきた

譲渡企業様の事業内容や強みをお教えください。

佐藤氏:当社は創業当時から印刷業を手掛けており、特に挨拶状の制作を得意としてきました。たとえば、葬儀の参列者には四十九日の法要後に香典返しと挨拶状を贈る慣習が至る地域で根強く残っていますが、葬儀自体が人生でそう何度も経験することではないので、挨拶状の書き方や送り方のマナーに不安を持つ人は多いと思います。当社には、お客様の宗教や地域性など、様々な状況に合わせて対応できる豊富な知識が蓄積されており、それが独自性と強みになっています。

また、昔は近所の印刷屋さんに依頼するのが一般的でしたが、昭和時代からいち早く、FAXで受注して全国に発送するという通販形式の手法を取り入れていたことも特徴です。現在は複数の通販モールにも出店しており、全国のお客様がネットからも注文できるようにしています。

佐藤様が譲渡企業様の社長に就任されるまでの経緯をお教えいただけますか?

佐藤氏:創業者である父が亡くなったことがきっかけでした。幸いにも会社には借金がなく、健全な経営ができていたものの、「自分が会社を継がなかったら、従業員はどう思うだろう」と考えるようになり、父がこれまで育ててきた会社の今後について考えた結果「こうなったら自分しかいない!」と、継ぐ覚悟を決めたんです。父が亡くなってすぐの3年ほどは母が経営を担い、その後25、26歳で私が社長に就任しました。

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ

若くして家業を継がれた佐藤様。経営者としてどういったことを意識してきましたか?

佐藤氏:雇用を守ることを最優先に考えてきました。周囲からも倒産や破産をする企業の話が耳に入っていたので、雇用を守るためにはまず、現金を残すことが私の第一の使命でした。それに、挨拶状や仏事の専門として今まではやってこられたものの、今後もこの事業だけでいいのだろうかという思いが常にあり、印刷と関連した別事業の立ち上げを考え続ける日々でしたね。

社長に就任されてから、嬉しかったことや苦労したことなど、印象に残っている出来事をお聞かせください。

佐藤氏:社長に就任した頃は、業務の改善に苦労していました。時代の変化に合った新しいやり方を従業員に浸透させるのはなかなか難しく、こういう作業を一つ一つやっていく生活が10年も20年も続いていくのかと思うと、多少なりとも気落ちしたものです。父の話なら聞いても、若い私では聞いてくれないんだと。

なので、従業員の理解を得ながら地道に業務を改善してこれたことは、経営者として嬉しく思います。父と比べれば、印刷業に詳しくないことは重々分かっていましたが、それでも何とか説得して改善・進化させていこう――その積み重ねでしたね。時間はかかっても、従業員の皆とお互いに分かり合うことができたと思っています。

コロナ禍を機に、会社も自身も次のステージへ向かおうと決心

服部プロセス様はこれまで数回のM&Aを実施されていますが、貴社グループの強みをお教えいただけますか?

服部氏:服部プロセスはオフセット印刷をメインに事業展開しており、これまでM&Aによってその分野を強化してきました。現在、十数社あるグループ会社は、基本的には独立採算で個々の強みを伸ばしつつも、グループ全体で最良のシステムを導入したり、キャパシティーや技術などを集約したりする形で、全体的なパワーアップを図っています。

今の時代の印刷会社は、単純に印刷を請け負うだけではなく、デジタルマーケティングやウェブ技術などもお客様から求められるようになっているため、小規模の印刷会社1社で競争するには難しい側面が多々あります。その点、当グループには技術やノウハウの特殊性が高い企業が集まっているので、互いに手を取り合いながら、必要に応じてそれぞれのリソースを生かせられていることが一番の強みになっていると思います。

印刷業界で発展していくために、M&Aが役に立っているということですね。

服部氏:そうですね。ご存じの通り、“紙離れ”は顕著にあらわれていますが、お客様の中にある“紙以外のニーズ”を、私たち印刷会社は丁寧に拾っていかなければなりません。それができない印刷会社が淘汰されていることが、業界の課題になっていると思います。日本には小規模の印刷会社が多く、経営者の高齢化も進んでいるので、ある時期が来たら、廃業・倒産・譲渡のいずれかを選ぶしかない状況です。倒産はやむを得ないとしても、廃業はまだお客様を保有しているわけですから、非常にもったいないと思うんです。

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ
服部プロセス株式会社 服部晴明氏

佐藤氏:服部社長がおっしゃるように、小規模の印刷会社が淘汰されていく未来は見えています。規模がある印刷会社には紙代ですら勝てず、印刷後の完成品の価格が紙代にもならないような事態は決して珍しくありません。規模を拡大するのか、ゼロにするのかという選択を、近い将来迫られる時が来るだろうというなかで、私は少し早めにその選択をしたと思っています。

佐藤様が具体的にM&Aを検討し始めた時期や理由についてお教えいただけますか?

佐藤氏:私は経営学の修士号を取得しているので、M&Aが最善の策であれば譲渡すべきだし、企業価値が高い状態で譲渡する方が良い、と冷静に考えていました。なので、前々からM&Aは選択肢の一つと捉えながら、客観的に自社の価値を見続けてもきました。ただ、コロナ禍の影響はあまりに突然でした。感染防止のためにお葬式が行われなくなり、挨拶状や仏事に特化した当社の弱みの面が一気に露呈したのです。以前から考えていた事業の多角化を早急に進めつつも、M&Aという手段も急がなければいけないと、切迫感を持って決心しました。

経営者としての冷静な判断をされた一方で、佐藤様ご自身としての迷いはなかったのでしょうか?

佐藤氏:迷いはありませんでした。コロナ禍になったときがちょうど40歳になった頃で、「今が第二の人生を始められるギリギリのところだ」という考えもあったんです。父は60歳で亡くなったので、自分の残りの人生を考えたときに、「別の人生もあるんじゃないか?」と。社長を引退するには早すぎると言われることもありますが、人生の時間は限られていますからね。会社と自分が次のステージへ向かうべき時期が重なって、もう1日も遅らせることができないという思いでした。

会社の成長とご自身の第二の人生のために、スピーティーなM&Aの成約を望まれていたのですね。

佐藤氏:M&Aを決心してすぐ、顧問税理士に相談しようと思ったのですが、ちょうど一番忙しい時期で、時間をいただけるまで10日ほどかかるとのことだったので、同時に複数のM&A仲介会社にも問い合わせをしました。fundbookさんはCMで知ったのですが、どこよりも早く「岐阜に伺います」と返信をくださったんです。そのスピード感で進めていただきたいと思い、fundbookさんに依頼することにしました。実際、お会いしてから半年ほどでM&A成約に至れたので、本当にスピーディーに進めていただけたと思っています。

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ

M&Aの裏に常にあった、従業員と亡き父への思い

服部様は、譲渡企業様のどのようなところに魅力を感じましたか?

服部氏:ほぼ競争がないようなニッチな領域で事業を確立されていることですね。そして、パート従業員も含めて、少ない人数でしっかりと事業を回せるような会社の仕組みづくりが良く出来上がっていることも強みだと感じました。もちろん、技術面や営業面などで何かを必要とされた際にはいつでも協力したいと思っていますが、これほどまでに何も心配しなくてもいいような体制が整えられている会社も珍しいなと思いました。

面談でのお互いの印象はいかがでしたか?

佐藤氏:経営者の中には売上高を重点的に見ている人も多いと思いますが、服部社長は売上高のみならず、総合的に数字をしっかりと見られている経営者だと思いました。また、朗らかなお人柄も非常に魅力的な方だと感じました。

服部氏:私は佐藤さんに、真面目で誠実な人柄という印象を受けましたね。M&Aの過程では、最初に譲渡企業の資料だけを見てM&Aを進めるか否かを決めないといけませんが、譲受する側としても「何か隠されていることはないか?」など、少なからず心配事はあるものです。しかし、佐藤さんとお会いすると「この方の会社の資料は信頼できるな」と分かりました。「知りたいことはもっと聞いてください」と仰っていたほどでしたから。

M&A成約後、譲渡企業様の従業員の皆様の反応はいかがでしたか?

佐藤氏:従業員には、服部社長にも同席いただいた上で今回のM&Aについて知らせました。私が以前から仏事専門だけで不安に思い続けていたことや、コロナ禍の影響を受けても雇用を絶対に守りたかったこと、そして自分ができる選択肢の中で最善の方法を取ったことをしっかり説明したので、納得してもらえたと思います。

服部氏:私からも、一部の経理システムなどを導入するだけで、「今まで通り、人も仕事も企業文化も変わりませんよ」と伝えました。当社は譲受した企業の社風や文化を変えるつもりは一切ありませんし、従業員の皆さんにもその思いが伝わって、抵抗感なく受け止めていただけてよかったです。初めて譲渡企業を訪問したときから従業員の皆さんの真面目さが伝わってきて、佐藤さんのお人柄が表れている会社だなと感じましたし、これからも譲渡企業らしい社風を大事にしていただきたいと思っています。

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ

M&Aが成約したときの佐藤様のお気持ちをお聞かせください。

佐藤氏:ここ数年、亡くなった父がどれほど努力してきたかということをずっと考えてきましたし、そのうえで出した結論だったので、「M&Aが実現できてよかったな」と。もう本当に、その気持ちだけです。

服部様も「父が創業した会社を継いだ」という同じ境遇だと伺いました。

服部氏:譲渡企業・譲受企業という立場の違いはあっても、家業を譲渡された佐藤さんの気持ちを慮ると、やはり嬉しさと寂しさの両方をすごく感じられているんだろうなと思います。それに、当社も困難な時期を経験したことがあるので、佐藤さんが抱いてきた不安には深く共感するばかりです。不安でいっぱいでも、寂しさやいろんな感情がよぎって譲渡に踏みきれない経営者がたくさんいますが、その中で佐藤さんは“自分を違う自分で見る”ことができていらっしゃる。だからこそ、会社や従業員にとって一番良い方法を選ぶことができたんでしょうね。

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ

会社も自身も、新たなステージで今後も成長していくために

譲渡企業様の今後の展望をお教えください。

服部氏:社内には佐藤さんの手腕を受け継いで事業推進の中枢を担っている従業員の方がいます。その方と一緒に、さらに強みを発揮できるような施策を考えて、それを全国展開していこうと話しているところです。1社1社の強みをより高めていけることがグループの良さですから、今後も服部プロセスグループ全体でさらなる発展を目指していきたいと考えています。

佐藤様が今後期待されることや、ご自身の今後の抱負をお聞かせください。

佐藤氏:今後も従業員の雇用が守られて、かつ発展を続ける会社でいてくれれば嬉しいです。私個人としては、倒産や破産をする企業も少なくないなかで、約20年間にわたって経営者を続けてこられました。また、イグジットをしっかりと考えたうえで、雇用を守りながら、経営者として円満な幕引きもできたと思っています。25歳で経営者になって、40代で引退するという経験はなかなかできることではないと思うので、この貴重な経験を困っている人の課題解決に生かせられるような第二の人生にしていきたいと考えています。

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ

奥深くてやりがいのある“経営者の仕事”を全うできてよかった

譲渡企業
3代目代表取締役 佐藤 貴史氏(仮名)

寂しさやいろんな感情が邪魔をして、会社の譲渡に踏みきれずにいる経営者がいらっしゃれば、私はぜひ「躊躇せずに一度相談してみてはどうか?」とお伝えしたいです。やはり、企業価値を測るには、自社を客観的に見た視点が必要で、相談すらしないうちに企業価値が落ちていれば、もう手遅れになってしまうからです。

経営者は日頃から一人で意思決定をしなければいけないことばかりですし、最終的な責任を問われる立場だからこそ、「経営者は孤独」と言われるのだろうと、20年間を通して身に染みて感じています。従業員に知られないようにM&Aを進めていたときも孤独感は伴うもので、「一度決めた以上はもう振り向くな」と、ずっと自分に言い聞かせていました。しかし、M&Aが成約した今は、経営者という仕事は奥深くてやりがいがあったと思うと同時に、その仕事が全うできてよかったと思っています。

廃業はもったいない。第三者への譲渡でお客様と従業員が守れる

服部プロセス株式会社
代表取締役 服部 晴明氏

私は、廃業という選択が非常にもったいないと心から思っています。社名もお客様も全てがなくなってしまう廃業は、従業員にとっても悲しいことなのではないでしょうか。事業に価値があるならば、譲渡をしてお客様を次の会社にしっかりと託す方が、あらゆる人にとって良い選択になる可能性は大いにあります。「会社=自分のもの」と思って、寂しい気持ちでがんじがらめになってしまうのではなく、会社や従業員のことを一番に考えて最善の道を論理的に判断できる力が、経営者に求められていると思うのです。

今は仲介者がいるおかげで、廃業せずに事業・お客様・従業員を守っていくことができる時代です。これからも、M&Aがなくなることのない世の中であってほしいと願っています。

コロナ禍を機に、M&Aで新たなステージへ

担当アドバイザー 田中 公彦 コメント

この度のご成約の一番のポイントは、譲渡企業の佐藤様が会社の成長の為に、M&Aを進めることをご決断され、計画的なお相手探しを推進されたことでした。経営者にとって最も重要かつ難しい判断となるのはM&Aを行う「タイミング」の見極めですが、家業を手放すことに対する寂しい気持ちや社長業への未練などの様々な感情が複雑に交差し、経営者として客観的な判断が難しいケースも多く見られます。佐藤様におかれましては、40代とお若いながらも、市場環境が激しく変わる中で、譲渡企業の存続と成長の為の手段として、早い段階からM&Aをご検討され具体的な準備を進めたことが、結果的にこの度の良いお相手との出会いに繋がったと感じております。

譲渡企業様は、挨拶状に特化した印刷物を手掛けており、創業以来長年に亘って培った挨拶状特有のノウハウをお持ちで、全国約40都道府県の法人顧客との取引実績を有しております。また、昨今では個人向けのEC販売も展開しており、販売先の多角化を進めておりました。

服部プロセス様は、ご創業当初は製版事業を専業として展開されておりましたが、印刷業界が大きく変化していく中で業態変革を推進し、M&Aも積極的に進めていくことで事業拡大を図り、服部プロセスグループとしての総合力を高めておられます。これまでに10社以上の会社のM&Aをされておりますが、M&A後の経営統合は円滑に実施し、グループ全体として高い効率性と高付加価値を実現しております。

譲渡企業様は服部プロセスグループの一員として、今後はその強みを更に磨き上げつつ、グループ内のシステムやリソースを活用することで、更なる業容拡大や新たな事業創出の機会が得られると思います。今回のご両社の出会いと新たなスタートに立ち会い、また、このご成約に微力ながらお手伝いさせて頂けたことに大変光栄に感じております。

今後の両社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。

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