インタビュー

2022年7月22日、譲渡成立

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A
  • 譲渡企業
    三豊工業株式会社
    設立年月日
    1961年
    事業内容
    包装資材販売
    URL
    http://www.sanpou-k.jp/
  • 譲受企業
    松永産業株式会社
    設立年月日
    1954年
    事業内容
    食品容器、包装資材関連総合商社
    URL
    http://www.e-msk.net/

梱包資材の卸売業を営む三豊工業株式会社は、1961年に兵庫県神戸市で創業しました。地元企業からの厚い信頼を得ながら成長し、現在は全国に卸先を持つほど広い販路を持たれています。

創業者である父親が急逝し、突如として2代目社長に就任した前田晃江氏。数年前から同社に勤めていたものの、入社当初は会社を継ぐつもりはなかったと言います。しかし、従業員とお客様を思う責任感は人一倍強く、「皆の将来のためにも、会社はこれからも続いていかなければいけない」と、経営者として選んだ手段がM&Aでした。

梱包資材関連の総合商社である松永産業株式会社とめぐり逢い、2022年7月にM&Aが成約。松永産業の代表取締役社長・松永誠三氏が三豊工業の社長を兼任し、前田氏は会長に就任する形で、経営はますます強化されています。また、両社それぞれの得意分野、商材、エリアを最大限に生かした協力体制も、早速築かれ始めています。前田氏と松永氏に、M&A成約までの経緯や今後の展望について伺いました。

地元企業とともに歩んだ60余年、受け継いだ会社を続けていくために

三豊工業様の創業からの歴史についてお聞かせください。

前田氏:当社は1960年に私の父が神戸で創業し、当時からずっと梱包資材の卸売業を手掛けてきました。色々な包装資材を取り扱っていますが、なかでも有孔シート(小さな穴が開いたフィルム)で食品を上下から覆って密着包装する「スキンパック」の販売に、特に強みを持っています。昔、甘いものが手に入りにくかった時代に、神戸の菓子メーカーが台湾から輸入した砂糖を使ったどら焼きを作り、「三豊工業さんで何か良い包装方法はないだろうか?」と、相談に来られたんだそうです。そのときに、資材メーカーと一緒にフィルムを改良した密着包装を開発し、それがスキンパックを取り扱う始まりになったと聞いています。どら焼きの人気とともにフィルムの売り上げも順調に拡大し、次第に全国の和菓子店や土産物店にも普及するようになったので、まさに地元企業とともに成長してきた会社だと思います。

前田様が社長に就任された経緯や、経営者として意識されてきたことをお教えいただけますか?

前田氏:もともと私は別の会社で営業の仕事に就いていましたが、あるときに父から「もしよかったら三豊工業に来てほしい」と言われたんです。別の会社で多くのことを学んできたので、それを三豊工業で生かせられればと思い入社しました。ただ、当初は会社を継ぐつもりなんてまったくなかったんです。最初は事務職から始めましたが、前職の経験を生かして数年も経たないうちに営業にも出るようになりましたね。そうして忙しく過ごしていた中、2004年に父が急逝してしまい、私が会社を継ぐことになりました。突然、経営者になった形ですが、やはり従業員のためにも売り上げをどう上げていくかと常に考えてきました。それに、お得意様を大事にする気持ちはよりいっそう強くなったと思います。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A
三豊工業株式会社 前田晃江氏

社長として20年近く率いてこられましたが、M&Aを検討し始めたのはいつ頃でしょうか?

前田氏:メディアでもM&Aに関する情報を目にしていたので、5年ほど前から自分ごととして意識し始めていました。しかしそこから今日に至るまでには、いろんな困難がありました。4年前の台風では阪神間で数百棟が浸水する記録的な高潮に見舞われて、当社もその影響を大きく受けました。それから間もなくして、次はコロナ禍の打撃を受けるなど、目の前の困難を乗り越えていくうちに、M&Aもしないままあっという間に5年が経ったように感じています。

そうした苦境の中でも力強く事業を続けてこられた三豊工業様が、なぜM&Aを決断されたのでしょうか。

前田氏:それは、会社を存続させるためです。従業員の生活や将来のためにも、会社は続いていかないといけませんから。人間の寿命は延びていますが、不老不死ではありません。私も健康には気をつけていますが、いつかは次の世代に引き継いでもらわなければいけないと前から考えていました。私には娘と娘婿がいるのですが、二人とも別の仕事をしていますし、二人には自分の好きな仕事を続けてほしいと願っています。それに、世襲制のようにご子息が家業を継いだケースを色々と見ていても、本当に「やりたい!」と思って継いだ人でないと、会社を継続するにも難しい局面が多々あると思うんです。向き不向きもあるでしょうし、「経営後継者として適した人にやってもらいたい」と考えた結果、M&Aが最善の手段だと判断しました。

M&Aを進めるうえでも不安や迷いはなかったのでしょうか?

前田氏:当社は父の代からずっとお世話になっている会計事務所があり、そこの税理士さんにM&Aを検討していると相談すると「そういう方法もあるよね」と、肯定的に話を聞いてくれたんです。もちろん、「同じ業種の会社がいいのか?」など、考えることはたくさんありましたが、fundbookの担当アドバイザーさんも、いろんな相談に乗ってくれながら一生懸命に取り組んでくださったおかげで、無事ここまで進めてこられました。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A

両社の強みを生かし、更なる発展へ

fundbookがご提案したお相手は、松永産業様でした。面談される中で、お互いの印象はどのようなものでしたか?

松永氏:当社が取り扱ったことがないスキンパックは、三豊工業さんの一番の特徴であり、強みだと思いました。スキンパックは業界の中でもニッチな商材なのですが、三豊工業さんは長年の実績をお持ちですし、全国への販売もされています。また、スキンパックを全国展開しながらもしっかりと地域密着型の事業を展開されていて、地元企業からの信頼が厚いところも魅力だと感じました。当社も以前は神戸に営業所を構えていましたが、阪神大震災によって営業所を閉じることになり、以降は本社のある大阪から営業と物流を行っています。ですが、商売というのは地元に拠点がないと難しく、神戸の卸先は大幅に減少してしまいました。なので、地場に強い三豊工業さんと力を合わせて、神戸での商売をもう一度強化していきたいと考えたんです。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A
松永産業株式会社 松永誠三氏

前田氏:松永産業さんは、何と言っても会社の規模や取り扱う商材の豊富さが強みだと思います。特に、チェーン店のスーパーマーケットにもたくさん商材を卸されていらっしゃいますから。当社は容器やトレーなどに関してはあまり多く取り扱っていなかったので、そこに強みを持つ松永産業さんと手を取り合って、当社の販路も広げていきたいですね。

M&A成約後、三豊工業様の従業員の皆様はどのような反応をされましたか?

前田氏:私自身、M&Aは良い選択だったと確信していますが、従業員は当然、最初は少し心配そうな様子でした。ただ、私が60代を迎えていたこともあって、M&Aが成約する以前の「誰が後を継ぐんだろう?」という心配の方が大きかったように思います。松永社長も当社に何度も足を運び、従業員といろんな話をしてくださったので、そうしていくなかでだんだんと従業員の不安や心配は解消されていきましたね。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A

時代とともにニーズが変わりゆく包装資材業界

両社様ともに包装梱包資材を取り扱う事業を展開されていますが、業界特有の課題などはあるのでしょうか?

松永氏:包装資材や容器にはプラスチックなどが使われますから、やはり環境問題は大きな課題だと思います。私たち卸業者は直接製品を作っているわけではないので、代替商品の提案など、できることは限られています。それでも、植物由来の原料を使った資材や紙の資材、薄くて軽い資材などを提案して、できるだけプラスチックを使う量を少なくしようと努力しています。植物由来の原料であれば、使用後に燃やしてCO2が発生しても、植物は成長過程でCO2を吸収している分、全体のサイクルで見るとCO2排出量が増加しないカーボンオフセットにもつながりますからね。

前田氏:昔は食品を買うと新聞紙に包んでいたり、市場(いちば)でも木製のトロ箱が使われたりしていましたが、だんだんとプラスチックや発泡スチロールの入れ物に変わりました。しかし、廃棄方法の煩わしさや環境問題の観点から、自然に還りやすい素材が再び求められてきています。資材を作るメーカーも、耐水性や保冷力の高い段ボールを開発するなど試行錯誤をされていますから、私たちもそうした時代の変化に対応した販売をしていく必要があると感じています。

松永氏:両社とも主に食品の包装資材や容器を取り扱っていますが、消費者が急に食品を口にしなくなるわけではないので、この業界自体は普遍的に続いていくだろうと思っています。環境への配慮はもちろん重視しながらも、食品に関わるからこそ「安心安全」も常に大事にしなければいけません。また、お店にとっては容器にあまりコストをかけたくないことも重々理解しています。環境への配慮や安心安全といった“質”と、適正な“価格”を両立し続けないといけないと常に心掛けていますね。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A

お取引先様や消費者の声を傾聴しながら、事業を続けられているのですね。

松永氏:そうですね。一般家庭にしても、1世帯あたりの人数が減少していたりと、家庭環境もどんどん変化しています。人数が多かった頃はスイカを丸ごと買っていたのが、最近ではカットされた状態で店頭に並ぶことが一般的になっていますよね。カットすればラップをしなければいけませんし、ブロックカットであればカップも必要になります。それに、食卓に総菜を取り入れる世帯も多くなっているので、実は包装資材や容器というのは、昔に比べて用途も種類も増えているんです。

前田氏:最近では、「自宅用の買い物には簡易包装がいい」という声が聞かれるようになった一方で、ギフトは包装に凝る傾向が強まっています。当社も日々様々な要望をいただいています。日本は風呂敷や熨斗の文化がありますし、マナーや風習もしっかり受け継がれているためか、“包むこと”に対する意識が高いのかもしれません。そう考えると、包装というのは本当に難しい世界でもあり、日本らしさが表れるところでもあると思いますね。

事業の強みと社風の良さを、存分に生かしていく

前田様は三豊工業様の会長に就任し、松永様が両社様の社長を兼任されています。松永様から見た三豊工業様の様子はいかがですか?

松永氏:従業員同士のコミュニケーションが非常に活発で、皆さんの仲や雰囲気がとても良い会社だとつくづく実感します。三豊工業さんが60年以上会社を続けてこられたのも、事業の強みに加えて、こうした社風もあってこそお客様に受け入れられていると思います。なので、今の良さはこれからも存分に生かしていきたいですね。

松永産業様は今回が2度目のM&Aですが、グループに迎え入れるお立場として、感じられていることはありますか?

松永氏:長く継続されてきた企業ばかりですので、今までの経験や実績への尊敬の思いが大きいです。グループになったからといって、急激に松永産業の色に変えようとはまったく思いませんし、互いを尊重しながら徐々に馴染んでいく形が一番理想だと思います。当社の従業員を見ていても「三豊工業さんに行って新しいことを知りたい」と、積極的に手を挙げてくれる人がいます。それほど、グループ内で良い関係を構築していこうとする雰囲気が現場からも醸成されていますよ。

前田氏:コロナ禍でのM&Aだったので、従業員同士の直接の交流はまだまだ制約が大きいですが、落ち着いてきたらもっと活発化させようと話しているところです。今できることを着々と進めつつ、皆で親睦を深められる日が来るのを楽しみにしています。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A

早くも協力体制を築く両社。今後も安心安全で人に喜ばれる食を届け続けたい

M&A成約からわずか1カ月半(取材時)ですが、すでにご両社で動き始めていることがありましたら、ぜひお教えください。

松永氏:早速、両社間で仕入れルートの見直しを始めました。同じ業種とはいえ、それぞれに得意分野があります。お互いの得意なところを融通し合えば、仕入れコストが抑えられ、その分をお客様に還元できますからね。

前田氏:お客様の要望に応えていくためにも、仕入れルートの見直しは非常に重要です。もちろん、そう簡単に進められることではないので、これからいくつものハードルが立ちはだかるかもしれません。ですが、「今まで通りにやっていては何にもならへん!」と強く思うんです。新しいことをすると、しんどいと感じることもあると思います。でもそれを乗り越えていかないと本当の改良にはなりませんし、発展にもつながりません。松永産業さんと一緒に、三豊工業が良い方に変わっていくことこそが私の願いです。今からしっかりと改良していけば、ゆくゆくは従業員の負担ももっと軽減していけるものと期待しています。

松永氏:仕入れルートのほかにも、今後は物流の効率化も図っていく計画です。三豊工業さんは営業担当者が配送も兼務している一方、松永産業は営業担当と物流担当を分けています。そのうえ、三豊工業さんの地場である神戸の中でも、松永産業の配送エリアと被る部分がありました。それであれば物流を一本化して、三豊工業さんの営業担当者がより営業に専念できる体制を作っていくよう、戦略を練っているところです。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A

最後に、両社様の今後の抱負をお聞かせいただきたく思います。

松永氏:当社は経営理念の一つに「食品包装を通じて食品の流通に寄与し、継続可能な社会の創造に向け努力を続けます。」と掲げています。食のサプライチェーンの中でも、私たちは食品を安全に保つための商材を扱っており、私たちが抜けてしまうと消費者に食品が届かない事態にも陥りかねません。また、一度売って終わる商材とは違い、食品の包装や容器はほぼ毎日使用されるので、ほとんどのお取引先様とは長いお付き合いになります。食の流通を切らさないことを使命に、今後も安心安全な商材を適正な価格で販売し、適正な利益を得ながら、長く継続できる商売をしていきたいと考えています。

前田氏:私たちの関わる業界で最近起きた大きな変化の一つに、レジ袋の有料化が挙げられると思います。これを機に皆さんがエコバックを持ち歩くようになりましたが、やはり食品によっては衛生面が心配なものや、お寿司などお手持ちのエコバックでは傾いたり崩れたりして、きれいに持ち帰れないものもあります。お店側からすると、お客様には安心安全かつ、作りたてのきれいな状態で届けて食を楽しんでいただきたいという思いがあるので、商品の特性に応じた専用の袋を、環境に配慮した素材に替えて用意しておきたいという声はよく耳にするようになりました。袋や容器には、食品の作り手と販売者の気持ちまでもが詰まっているのです。私たちもその気持ちに寄り添い、これからも安心安全で、人に喜ばれる食を届け続ける責務を果たしていきたいですね。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A

会社を「手放す」ではなく、「良くする」ために自分ができること

三豊工業株式会社

取締役会長 前田 晃江氏

日本には、優れた技術を持つ小さな町工場や、世界に誇れる伝統工芸・伝統建築など、後世に残していくべき事業や職人の技が数多く存在します。しかし、そうしたところからも経営者や職人の後継者がいないという話はよく耳にします。素晴らしい技術や事業を未来につなげていくうえで、M&Aは役立つ手段になると思いますし、ひいては日本の発展にも寄与するのではないかと考えています。

企業には大事な従業員がいて、彼らを守っていかなければいけません。なので、経営者は先々のことまで、そして次の代のことまでを考えておく必要があります。今日は元気でも、明日も本当に大丈夫なのかは誰にも分からないものなので、根拠のない「何とかなるわ」という考えでは、責任を全うしているとは言えないのです。

次の代の最適な人材に経営を引き継いでもらうことは、会社を「手放す」ことではなく、会社を「より良くしていく」ために自分自身ができることだと、私は確信しています。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A

M&Aは成長戦略の一環として有効な手段になる

松永産業株式会社

代表取締役社長 松永 誠三氏

以前、松永産業の創業者である私の父から、「大阪は商売人が多いから、皆が皆、同じ1社から仕入れるのではなく、自社としっかり組んでくれる仕入先を持ちたがると思う」という話を聞いたことがあります。当社は、1954年の創業から大阪の地で着実にお取引先様との信頼関係を築き上げ、その実績を糧に大阪以外の地でも営業所を開設して、その土地に根付いた販売を続けてきました。そんななか、阪神大震災で神戸営業所の閉店を余儀なくされ、無念にも神戸での商売の大部分を失ってしまったという経験があります。

今回、神戸の地場に強い三豊工業さんと手を組めたことで、当社は再び神戸で販売展開できるようになり、三豊工業さんにとっても販路拡大が可能になります。今の社会の状況を踏まえると、後継者不在によるM&Aが今後も増えると考えられ、三豊工業さんも同じような課題を持たれていたと思います。それでも、前田会長は「会社の発展」を常に念頭に置いて、M&Aを進めてこられました。M&Aは譲渡企業と譲受企業の双方にとって、成長戦略の一環として有効な手段になると大いに期待しています。

父から継いだ会社を未来へつなぐために。私が選んだM&A

担当アドバイザー コメント

この度は、長年にわたって地域のお客様から信頼をいただいている地域密着型の企業様と、阪神淡路大震災で一度その地域を撤退された企業様の資本業務提携をお手伝いさせて頂きました。

一見同じ事業を行う企業様同士のM&Aに見えますが、顧客層、営業スタイルはそれぞれ異なっており、お互いの強み弱みを補完し合える、両社にとってとても良いご縁談だったと感じております。

従業員様開示に立ち会った際、ある従業員の方が「これから期待と、期待と、期待しかないです!」とお話されていたのが非常に印象的でした。世の中にはまだまだ我々の提供するサービスを待っている方が大勢いらっしゃるのだと改めて感じました。

これからも、企業様の存続・発展に寄与できますよう精進して参ります。

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