インタビュー

2025年12月26日

60代で起業。従業員のため会社の永続を決意した社長のM&A

2025年7月18日、譲渡成立

60代で起業。従業員のため会社の永続を決意した社長のM&A
  • 譲渡企業
    株式会社和歌山総合建設コンサルタント
    設立
    2010年
    事業内容
    建設コンサルタント事業
    URL
    https://www.wskc.co.jp/
  • 譲受企業
    有限会社三備建設
    設立
    2005年
    事業内容
    土木工事、不動産業、測量、補償コンサルタント
    URL
    https://sanbi-okayama.com/

大手建設コンサルタント会社で勤めていた上山隆司氏は、定年退職後、会社員時代の同僚と共同で株式会社和歌山総合建設コンサルタントを創業。経験豊富な両名の技術力と地元に密着したきめ細かな活動が、発注者である自治体からの信頼を集め、2010年の創業から県内で数多くの案件を受注してきました。

少数精鋭で順調な同社でしたが、共同創業者の逝去により、上山氏は“自然消滅的”に会社を閉じていこう考えます。そんなとき、思いがけない縁で従業員が2名加わり、心機一転、会社を継続させていくことを決めました。

会社を引き継ぐ方法を模索していたなか、またしても偶然の出会いが重なりM&Aの検討を開始。その後、2025年7月に岡山県の有限会社三備建設とのM&Aが成約しました。これまで通り和歌山での仕事に励みながら、業容拡大に向けたグループ間での協業も始まっています。

事業継続を願う地元の声が届いたかのような一連の出来事を上山氏に振り返っていただくとともに、三備建設グループとの今後の展望などもお話しいただきました。

定年後に会社を設立。少人数体制で地元密着の経営を続けてきた

はじめに、和歌山総合建設コンサルタント様の創業の経緯をお教えください。

上山氏:私は以前、大手総合建設コンサルタント会社に勤めていました。私はそのグループ会社で大阪の支店長をしていたのですが、その当時の仕事仲間の1人に、同い年の藤原という人物がいました。彼こそ、後に当社の共同創業者となる人です。

定年後の人生を考え始めたとき、恩義のある会社で嘱託として勤務を続けるのも良い選択だとは思いましたが、藤原と「一緒に自分たちで事業を立ち上げよう」という話になり、起業を決意しました。お互いが定年を迎えた2010年、私はしばらく会社に残ることになり、藤原と彼の知人で先に和歌山総合建設コンサルタントを設立しました。4年後にようやく会社を退職する段取りがつき、2014年に私も和歌山総合建設コンサルタントに加わって、同時に代表に就任しました。

創業の地に和歌山を選んだ背景をお教えいただけますか?

上山氏:藤原は和歌山で営業所長を務めていた経験があり、建設コンサルタントとして県内のお客様から広く認知されていました。また、この業界は実績がないとなかなか仕事が取れないものですが、和歌山は比較的オープンな土地柄で、事業を立ち上げたばかりの会社にも公平に門戸を開いて入札に参加させてもらえる状況だったことも、和歌山を選んだ理由の一つです。

私自身は大阪の出身ですが、会社員時代にも何度か単身赴任をしていましたし、大阪と和歌山は同じ関西圏で週の半分ずつ行き来できるので、和歌山での創業は良い選択だったと思っています。

改めて、和歌山総合建設コンサルタント様の事業の強みをお聞かせください。

上山氏:和歌山県内の仕事に特化した地元密着型の会社ですので、発注者である県や市とのコミュニケーションを密にして、しっかりと意に沿った成果を出すようにしていることが強みです。

私たちの土木の仕事は、設計するうえでまず現地の状況を十分に把握しなければいけません。当社は和歌山県内に拠点を置き、フットワークよく現地を確認できるため、他の地域の大手企業以上に、細かく現地の状況に即した設計ができているのではないかと思っています。

60代で起業。従業員のため会社の永続を決意した社長のM&A
株式会社和歌山総合建設コンサルタント 上山隆司氏

上山様はこれまで、どういったことを意識して経営を続けてきましたか?

上山氏:やはり公共の仕事なので、お客様の要望を丁寧に汲み取って、持っている技術を存分に発揮しながら必要とされる成果を出し続けようと、常に心掛けてきました。

この仕事は経験を積んでいくことが重要なので、人材を育成するにも長い目で見ないといけないものですが、なにぶん私も藤原も定年退職後に立ち上げた会社です。なので、従業員数を拡大することにはあまり力を入れてこず、協力会社の方々のお力を借りながら、若い従業員1人とパートの方だけで、コンパクトかつ柔軟に動ける経営を目指してきました。

会社員の頃に比べて、会社を率いる代表になられてからは、どういったところに一番の違いがありましたか?

上山氏:会社員の頃は与えられた仕事を手堅くこなそうという姿勢でしたが、自分で会社を経営するとなると、従業員の負担を考慮しながら、積極的に仕事を取りにいくのか、それとも控えるべきか、そういった判断を自らがしなければなりません。そういったところに、会社員時代とはまた違った苦労があるなと思いました。

特に、私が元々在籍していた会社は業界トップクラスの大手だったので、私が専門としない技術が必要な場合も、その分野に長けた技術者が社内に大勢いたため、協力を仰ぎやすい環境にありました。ですが、少人数で会社を立ち上げてからは、自分の分からない技術は自分で勉強しなければいけません。ときには他社の専門家に教えていただく機会を設けるなど、知識を身につけることにも、より全力で取り組まなければならない大変さはあったと思います。

一時は廃業も視野に。従業員のために事業継続を決断し、M&Aを本格的に検討

将来的に、どのような形で会社の引き継ぎをしようと想定していましたか?

上山氏:実は、引き継ぎについてあまり現実的には考えていなくて、藤原とも「もしどちらかが倒れたら、この会社を畳まざるを得ないな」なんて話をしていたんです。そんな話で事業を続けていたところ、もう4年前になりますが、藤原が亡くなってしまったんです。私にとっても会社にとっても、藤原は非常に大きな存在でした。4人いた会社は私と従業員とパートさんの3人になり、さらにはその従業員も退職して、ついには私とパートさんだけになりました。

私は橋梁の設計などを手掛けていたのですが、当然ながら橋や道路の工事は設計後に行われるので、完成までの数年間はお客様からのお問い合わせに責任を持って対応していく必要があります。なので、既存の案件の対応は続けつつ、新規の受注は徐々に抑えていき、3~5年間で自然消滅的に会社を終わらせていこうと。藤原が亡くなった直後は、そういう計画で進めていました。

当初は、「ご自身の引退=廃業」と考えていらっしゃったのですね。

上山氏:はい。ところが、2年前に近くの同業他社を退職した人が「ここで雇ってくれないか」と当社にやって来まして、事情を聞いた私はその人を雇用することにしたんです。さらにもう1人、知り合いの経営する橋梁の点検調査会社から、技術者が当社に転職してくることになり、働き盛りの従業員が一気に2人も加わったのです。そんな経緯があって、「会社を徐々に畳んでいくのではなく、もうひと頑張りしようかな」と、考えが変わっていきました。

会社を続けていくと決めた時点から、承継方法を考えるようになったのでしょうか?

上山氏:それが、従業員2人が入社した時点でも、まだ承継について具体的に考えるには至っていませんでした。ただ、同業の建設コンサルタント会社から当社に来た従業員が後を継げるようであれば、経営を教えて引き継いでもいいのかなという程度に、一つの候補として自分の中で薄々と考えてはいました。

従業員承継も選択肢の一つと考えていたなか、どのような背景があってM&Aをご検討するようになったのでしょうか?

上山氏:従業員承継以外にも選択肢があり、橋梁の調査・点検業務で連携している会社が、当社の事業を引き継ぎたいという提案をしてくださったんです。当社が受注した仕事の調査部門をその会社に請け負ってもらっている関係性なので、その会社にとっても当社の事業を引き継げば、元請けで仕事が受けられるメリットがあることから、これも良い形の事業承継になりそうだと思っていました。ですが、具体的な話を進めるまでに1年、2年と待つことになりました。

ちょうどそのときにfundbookさんから当社に連絡があり、「このまま先延ばし状態が続くだけでは仕方ないから、話だけでも聞いてみよう」と、お会いすることにしたんです。

前々からも、いろんな会社からM&Aの案内が頻繁に届いていたので、M&Aという手段自体は認識していたのですが、それまでちゃんと目を通したことはほぼありませんでした。しかし、fundbookさんの話を聞いていくうちにM&Aに対するイメージが変わり、前向きに考えるようになったんです。それに、fundbookさんがとても誠実な会社だと感じたので、これからも会社を長く続けていくために、体制をもっと整えていただけるようなしっかりした会社を紹介していただければと、M&Aの仲介を依頼することにしました。

今振り返っても、担当してくれたfundbookのアドバイザーさんと出会えて、運が良かったなと思います。

M&Aに対して、以前はどんなイメージをお持ちだったのですか?

上山氏:当社のような小規模の設計会社を譲受するのは、いわゆる大手の設計会社で、なおかつ、和歌山の地場に根差した会社をグループに取り込みたいと考えている企業だろうと思っていました。その場合、当社に入社したばかりの2人が、親会社の抱える大勢の技術者の中で肩身の狭い思いをしないだろうか、また、そもそも技術者が2人しかいない当社にお相手の企業が見つかるのか――など、不安はすごく大きかったです。

そんなイメージや不安も、fundbookさんに三備建設さんを紹介いただいたことですっかり払拭されました。建設・測量・LPガス工事や不動産などを手掛ける三備建設さんは、これから設計分野(建設コンサルタント)を強化していきたい意向を強くお持ちで、そうであれば良い協力関係が築けるだろうと思い、面談させていただくことになりました。

60代で起業。従業員のため会社の永続を決意した社長のM&A

「お互いにとって良いM&A」と確信。成約前に従業員の不安も払拭

三備建設様との面談では、どういったお話をされましたか?

上山氏:三備建設さんからは、これから設計分野に力を入れていくことや、将来的には全国展開を目指していることなどをお話しいただきました。M&Aによってすでに岡山県外にもグループの輪が広がり始めていらっしゃって、そのなかで、和歌山の地に密着した当社にも興味を持っていただいたのだそうです。

また、当社の従業員たちは地元の和歌山に根を下ろしているため、今後も変わらず和歌山を拠点にしたいこちらの希望を、三備建設さんは十分ご理解いただけていると面談の場で確認できました。本社も今のままで、これまで通り和歌山県内の仕事を続けながら、全国展開の一員として和歌山総合建設コンサルタントにグループへ加わってほしいのだと。「これはきっとお互いにとって良いM&Aになる」と思い、2度のトップ面談を経て三備建設さんとのM&Aを選択しました。

2025年7月にM&Aが成約しました。従業員の皆様からは、どのような反応が寄せられましたか?

上山氏:一般的には従業員への開示はM&A成約後が多いのだそうですが、実は成約の1週間前に、三備建設さんの林取締役らが当社にご来社されて、今回のM&Aについて従業員に直接お話しくださったんです。M&A後に従業員が不安を感じて会社を辞めることなく、安心して働き続けられるよう、三備建設さんからのご意向で成約前の従業員面談が行われました。

グループになってからも、当社は変わらず和歌山で仕事をしていくことを三備建設さんからお伝えいただき、「一緒に頑張っていきましょう」と力強く仰っていただけたので、従業員も抵抗なく受け入れられた様子でした。

M&Aが成約した際の上山様のお気持ちはいかがでしたか?

上山氏:「グループになれてよかったな」と、安心したのは正直なところです。三備建設さんと一緒になったことで、自社もグループもさらに成長していけば、これまで以上に従業員の生活も安定すると思いますから。

あとはやはり、「三備建設さんを失望させてはいけない」という思いが一番強いですね。M&A成約と同時に、今後に向けた意気込みが高まりました。

60代で起業。従業員のため会社の永続を決意した社長のM&A

協力関係が広がるグループの中で、さらなる発展を目指しながら次代へ繋いでいく

三備建設様やグループ各社様との交流はすでに始まっていらっしゃいますか?

上山氏:三備建設さんがグループ間の交流に積極的で、グループ会社で開く懇親会のメンバーに当社も加入しました。年に1、2回のペースで各社から数人ずつ集まって、仕事の話だけにとらわれず親睦を深める会を開いているそうです。次回から私と従業員も参加する予定で、今から楽しみにしています。

事業や経営の面では、グループでどのように協力体制を構築し始めていますか?

上山氏:私たちの業界では、入札に出された仕事の条件などを見て、まず費用を積算するのですが、公共工事の場合はある程度の歩掛り(ひとつの作業を行うにあたり、必要な手間を数値化したもの)が決まっていて、ほぼ正確に費用が出せる形になっています。そうは言いつつも、少し曖昧な部分もゼロではないので、グループ各社で協力して、お互いの一つ一つの仕事に対して積算をして、精度を高めていこうと動いています。

和歌山ではこれまで測量の仕事が比較的少なかったため、当社はあまり測量の仕事の入札に参加していませんでした。一方で、兵庫にあるグループ会社が測量業を中心に手掛けていらっしゃるので、測量での積算ノウハウに長けていらっしゃいます。入札案件に出ている仕事の条件を見て、発注者の予算の想定や入札できる見込み金額などをお互いに積算し、その結果を両社で突き合わせる取り組みが、今まさに始まろうとしています。また別の岡山のグループ会社には、当社から積算の支援をするなど、グループ間で良い協力関係が築けてきています。

グループの今後のお取り組みで期待することもお聞かせいただけますか?

上山氏:当社としてはやはり、技術者の補強です。和歌山県内だけで募集をしても雇用はなかなか困難な状況で、今いる従業員も新たな資格を取得しようと頑張ってくれています。今後はグループで全国の広いエリアから募集をしたり、グループの中に和歌山で働いてみたい方がいれば来ていただいたり、必要な時期に技術者を派遣していただいたりと、人員増強の可能性が広がっていけば嬉しく思います。

一時は入札への参加を控え、過去の設計のメンテナンスだけを続けて自然消滅的に閉じていこうとしていた当社も、新しい従業員が加わった時点から入札への参加を積極化させました。今後はさらに、兵庫のグループ会社との協力で測量業の仕事を積極的に取りに行く方針になりましたし、来年度以降は地質業にも着手していきたいと考えています。

このように、グループの力を生かして、当社もグループ全体もますます発展していくことを期待しています。

最後に、上山様ご自身のこれからの抱負をお聞かせください。

上山氏:三備建設さんに譲受いただいたことで、私が引退する道もあり得たかもしれません。ただ、建設コンサルタント会社を運営するにも資格が必要です。当社においては私が複数の資格を保有していることで公共の構造物をつくれるコンサルタント登録ができており、私がいなくなるとコンサルタント登録ができなくなってしまいます。三備建設さんにも、後任の方が決まるまでは私も精力的に代表を続けていく意思を伝えました。

当社の従業員か、もしくは別の方から後継者を見つけ、今後2年間を目途に引き継いでいく考えです。これまで通り日々の業務や事業の発展にも力を注ぎながら、後継者となる人へ和歌山総合建設コンサルタントをしっかりバトンタッチできるよう、引き継ぎにも尽力していきたいと思っています。

60代で起業。従業員のため会社の永続を決意した社長のM&A

「三方よし」のM&Aで、世の中はもっとうまくいく

株式会社和歌山総合建設コンサルタント
代表取締役社長 上山 隆司氏

以前から、様々なところでM&Aの案内を目にしていたほか、私の周りにも会社を譲渡した知人がいたので、世の中ではM&Aが意外と広く行われているのだろうとは実感していました。それでも最初は、「自然消滅させようと思っていたほどの当社を、マッチングからコーディネートまでしてくれる会社があるわけない」と、よそごととして考えていました。ですが、行動に移した結果、譲渡企業と譲受企業と世間の「三方よし」となるM&Aが実現したのです。

譲渡企業と譲受企業の双方がWin-Winで、お客様や世間の皆様のためにもなるM&Aの事例が増えていけば、世の中がもっとうまくいくのではないだろうか――と、今となってはそんな思いすらあります。

親族や従業員に引き継ごうにも、何らかの障壁で事業承継が進まずに悩んでいる高齢のオーナー経営者は少なからずいらっしゃると思います。廃業ではなく、会社や事業を続ける道を探っているのであれば、M&Aを選択肢の一つとして捉えておくことは大事だと考えています。

60代で起業。従業員のため会社の永続を決意した社長のM&A

担当アドバイザー コメント

本件は、上山様が長年培われてきた技術力と、従業員の皆様を何よりも大切にされるお人柄があったからこそ実現したM&Aだと感じています。
当初は事業の自然な終息も視野に入れていらっしゃいましたが、「会社を続けたい」「従業員の働く場を守りたい」というお気持ちが次第に明確になり、その想いに真摯に向き合ってくださった三備建設様とご縁をお繋ぎできたことを、担当者として大変嬉しく思います。
成約前から従業員様への配慮を徹底されたことも、本件が“三方よし”のM&Aとなった大きな要因でした。今後、グループとしてさらなる発展を遂げられることを心より願っております。
今後は、三備建設グループが有するネットワークやノウハウを活かしながら、和歌山という地域に根差した強みを一層発揮されることで、事業の安定と成長の両立が実現していくものと考えています。本件が、後継者不在や事業継続に悩まれる経営者の方々にとって、M&Aを前向きな選択肢として捉えるきっかけとなれば幸いです。

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