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除雪機などの作業機械やLPガスの販売等を手掛ける株式会社角昌機械店は、2022年1月にLPガス卸大手である株式会社サイサンとのM&Aが成約しました。サイサンがグローバルに展開するブランド「Gas One (ガスワン)」グループの一員となって3年以上が経った現在(取材時)、代表取締役社長の阿部賢司氏は「これまで後悔したことは一度もないし、もっとやりがいに満ちている」と語っています。その言葉の背景とは――。
秋田県鹿角市に拠点を置く角昌機械店は1946年に創業し、時代の変化に自社の事業を適応させながら、地域の農業や住民の生活を支えてきました。ところが、加速する人口減少に伴う課題に単独で立ち向かうには、限界が見えていたと言います。
父の急逝で若くして家業を守ることになった苦悩や、厳しさを増す事業環境への不安、機械部門とガス部門の双方で地域に貢献し続けたい熱意と葛藤など、様々な思いを抱えていた阿部氏。なぜサイサンとのM&Aを実施し、そして今どのようなシナジーを得て成長に向かっているのか、阿部氏にお話を伺いました。


阿部氏:創業者は私の祖父で、戦後すぐの1946年に食糧不足解消のため、農具の販売から始めたと聞いています。時代とともに田植機やトラクター、コンバインなどが登場し、取扱商材もそういった稲作用機械が主力となっていきました。
その後、平成から令和へと移り変わるなかで、さらに主力商材は変わりました。稲作用機械はメーカー直販の店舗や農協がシェアの大半を占める時代となったため、今は一般家庭用の除雪機や草刈り機、チェーンソーなどの小型作業機械へと完全に移行しています。
LPガス販売部門は、1968年に始まりました。売り上げ構成比率の3分の2を機械部門が占め、ガス部門は3分の1を占めている状況です。
阿部氏:私は高校までを地元で過ごし、大学進学を機に横浜へ出ました。当時は、正直なところ家業を継ぎたくないとずっと思っていて、「このまま就職して、東京の辺りでずっと暮らしていたい」と考えていたんです。ところが、大学の頃に2代目社長を務めていた父にがんが見つかり、余命があと数カ月と宣告されたのです。会社は専業主婦だった母が3代目社長を務めることになり、東京で勤めていた姉も、母を支えるため家業に戻ることに。そして、長男の私は就職活動を中断して、当社のお取引先から紹介していただいた茨城県のLPガス会社に就職し、LPガスの販売や保安業務といった実務を学んだのち、26歳で当社に入社しました。
1995年に父が亡くなってからも、長らく母が社長を続けてくれて、私は専務の役職を経て2018年に社長に就任しました。

阿部氏:当社を取り巻く環境は常に厳しいものでした。ですが、厳しい状況が続いていても黒字経営を続けて生き延びていこうと、時代の移り変わりに合わせて当社も変化させることを意識してきました。
阿部氏:2008年頃までは会社も生活も維持できていました。ですが、秋田県北部のこの地域は1960年代以降、ずっと人口減少が続いており、機械部門の主な顧客である農家さんの戸数もどんどん減るばかりです。また、先ほどお話ししたように、農業機械はメーカー直販や農協のシェアが拡大するなかで、当社のような個人店の農機具屋は苦戦が強いられ、この流れは今後も続いていくだろうと思っていました。そこで、私が専務だった時代に大型農業機械の販売を停止し、それらのアフターサービスは全てメーカー直販の営業所に移管して、小型作業機械に業態転換したのです。
もう一方のガス部門も、決して安泰ではありませんでした。人口減少に加え、平成に入ってからはオール電化住宅が普及し始めたため、顧客数は年々減少傾向にありました。
どこをとっても苦しい事業環境を何とかしようと、以前は3拠点あった営業所を、2015年から2017年にかけて現在の1拠点に集約しました。そして拠点の統合に伴い、従業員に協力を仰いで多能工化を進め、ガス部門と機械部門で協業する体制を構築してきました。
阿部氏:私は将来の予測を立てていて、若い従業員はその考えについてきてくれたのですが、やはりベテランの従業員からは「現状でも農業機械のお客様がこれだけ来てくれているのに、なんてことをするんだ」などと反対され、社内でうまくいかない時期がありました。
業態転換をすればまた新たな業務が始まるので、ベテラン従業員も決して仕事がなくなるわけではないのですが、農業機械の取り扱いを停止すると自分の居場所がなくなると感じたのだと思います。私もいろんなところからデータを引っ張ってきては、農業機械の現状と業態転換の必要性を説明する日々でした。
阿部氏:ただ、拠点を閉じていくことは、経営する立場にとって実はとてもつらい作業なんです。それに、確かに拠点をスリム化するたびに利益が出る体質にはなりますが、数年経つとまた人口が減ってきて苦しくなる。この繰り返しです。最後の1拠点になった後は何ができるのだろうかと、不安は尽きませんでした。
阿部氏:当社は1959年に祖父が法人化して、その際に多数の農家さんに株主になっていただいていたのですが、父はそこに何ら手を付けられないまま急逝してしまいました。将来私が事業承継することを見据えると、私自身に株式を集める必要があると感じ、地元に戻ってきてから1年に一人のペースで株主のもとを訪問しては、「株式を集約させてほしい」とお願いして回りました。
そうして親族以外からの株式の買い取りを終えた後、次は筆頭株主である母から株式を譲り受ける際にも大きな障壁が立ちはだかりました。苦しいながらも何とか黒字経営を続けてきていたため、当時の相続税評価額がかなり高まっていたのです。地元の金融機関に相談し、相続保険などを使った株式移転のスキームを組んで、私が社長に就任したほぼ同時期に、ようやく株式の承継を完了させられました。

阿部氏:母も姉も私も、父の急逝で突如として人生を路線変更せざるを得なくなった経験から、今の時代に親族だけで事業承継することがいかに苦難を伴うことか、それは20代の頃から理解していました。
また、私に後継者がいないと分かりきっている状況で、「従業員の雇用を守ります」と言って70歳頃まで奮闘し、そこから従業員の皆に退職金をお支払いして、一人で会社を閉じる作業ができるかというと、おそらくそのときには体力、気力、資金も残っていないでしょう。40代に入ってからはそんな悶々とした思いが頭から離れず、同時に「将来的には親族外で事業承継ができれば」という願望を持つようになっていました。
業界を見ても、鹿角市と隣の大館市には農業機械の個人店が7つありましたが、私が当社に入ってからの四半世紀の間で、残る店は当社だけになってしまいました。LPガス業界でも同じ現象が起きれば生きていけませんし、十分起き得ると予測したことも、M&Aを考え始めた大きな理由の一つです。
阿部氏:機械部門とガス部門の両輪で地域に密着した事業を展開してきたので、M&A後もこの形の経営を続けさせていただけること。そして、従業員の雇用を継続していただけることと、私自身もまだ40代だったので、引き続き経営業務に尽力させていただける企業と出会えればと考えていました。
阿部氏:サイサンについては、業界新聞などではよく見かけていました。ガス関連の大手には、ガス以外にも様々な商材や部門を展開する総合商社などがありますが、サイサンは「Gas One (ガスワン)」のブランド名の通り、ガスエネルギー事業をメインとしています。なので、最初は「機械とガスの2部門で、なおかつ機械部門が主業の当社は譲受してもらえるのか」「機械部門は要らないと言われないか」という心配がありました。
ところが、面談でサイサンの川本知彦副社長(現社長)が当社にお越しいただいた際、「大丈夫です」とはっきり仰ってくださり、不安は一気に解消されました。また、川本武彦社長(現会長)の著書にも書かれてある通り、サイサンは創業以来「大家族主義」を大切にしていて、グループになった企業の元オーナー経営者や従業員をとても大事にしていることを面談で直接お聞きし、安心したことを覚えています。
阿部氏:そう思います。両社間の面談だけでなく、サイサンからガスワングループに参画した企業に訪問させていただく機会もいただきました。そこの社長から色々とお話を伺ってより一層安心感が増し、サイサンとのM&Aを決意する後押しになりました。
fundbookさんにM&Aの相談を始めたときから、1年半にわたって望ましい譲渡先を協議してきた結果、ご紹介いただいたお相手がサイサンです。面談やグループ企業の訪問を経た頃には、もう一切の迷いはありませんでした。
阿部氏:私自身は自社を取り巻く環境や、お相手のサイサンを十分知ったうえで、一番良い道に進んでいると確信していました。ただ、従業員がM&Aとはどういうことかを理解し、受け入れてくれるのか、どういう反応を示すのか――など、成約当初はそんな不安があり、まだ中間地点だなという思いでした。
成約式当日は大雪で、私たちも朝から除雪機の修理などで大忙しだったのですが、そんな悪天候にもかかわらず、当時の川本社長・副社長が当社にお越しくださったんです。従業員にM&Aをした旨を伝えたときは、皆よく分からない様子で静まり返っていましたが、そんな中でも川本社長・副社長は、皆に安心感を抱かせるような心強い挨拶をしてくださりました。おかげさまで、M&Aによる退職者はこれまで一人も出ておらず、私の中にあった不安もすっかりなくなりました。

阿部氏:サイサンからお一人が、当社の代表取締役専務(以下、専務)として出向してこられました。グループ入りしたからと言って、急激にこれまでのやり方を変えるようなことは一切なく、当社を尊重した仕事の進め方をされていましたし、専務ご自身が角昌機械店に馴染むよう、皆の輪の中に溶け込んでいってくださいました。
それでいて「角昌機械店を良い会社にしよう。従業員の待遇ももっと良くしよう」と尽力してくださり、その気持ちや働き掛けがだんだんと従業員にも伝わって、社内の雰囲気もより良くなっていく様子が身をもって感じられました。
阿部氏:まず、ガスの使用量を自動計測する「スマートメーター」を導入して、検針業務を効率化しました。この地域の人手不足は深刻で、当社も一般社員はおろか、ガスメーターの検針員の募集にも人が集まらないほど、人材確保も慢性的な課題となっていました。専務もここに来てから体制が整うまでは、検針からあらゆる現場仕事まで従事してくださっていたんです。
全面的にスマートメーターの導入が完了し、運用を開始してからは、検針のために1軒1軒を訪問する必要がなくなりました。スマートメーターは業界のトレンドではありますが、おそらく当社だけでは導入が難しく、今も自分たちの足で回っていたことと思います。
このほか、労務管理においても、サイサンと同じ勤怠管理クラウドサービスを導入し、効率化が図れました。有給休暇等の申請も紙からウェブに移行し、経理側と申請を出す側の双方とも負担が大幅に軽減できています。
阿部氏:大きく改善と前進ができたと思います。これまで昔ながらの働き方が染み付いていたので、「家にいるより会社に来てお客様の対応をしているほうがいい」というマインドが社内では普通になっていました。それでも労働基準法を満たす年間休日数を確保していたのですが、M&A後は108日まで増やすことができました。大企業では当然の日数だと思いますが、この辺の中小企業では健闘しているほうなんです。将来的にはサイサンやガスワン東北と同じレベルまで、年間休日を増やしていきたいと考えています。
阿部氏:ものすごく変わりました。当社はLPガス認定保安機関として、24時間365日体制で保安業務に当たらないといけません。M&A前までは年間を通して、ほとんどの問い合わせに私一人で対応していたんです。地域密着のガス会社の社長には同じ境遇の方がたくさんいると思いますが、これがとても大変で、常に備えておかなければいけません。心身ともにだんだんと疲労も蓄積してきていました。
M&A後はサイサンと同じ方法を採用し、従業員に手当を付与して5人体制で交代する仕組みにしました。今は何十年ぶりに少しプライベートな時間が持てるようになりましたね。
また、専務に来ていただいたおかげで、経営管理も二人で役割分担でき、「私一人じゃない」という心強さを初めて持てました。同じ目線で相談できる存在はすごくありがたいですし、非常事態が起きたときも専務がいたから乗りきることができました。
阿部氏:本当にそう思います。専務は2年半ほど当社に常駐いただいた後、2024年秋にまた新たに別のグループ会社へ出向されていきました。従業員の皆も、専務ととても親しく良い雰囲気で仕事をしていたので、いなくなった寂しさはあったと思います。ただ、しっかりと土台を作ってくださったので、皆も専務が去った後の実務面の不安を感じることなく、次の勤務地へ送り出せたと思います。
当社はグループの前例では珍しく、後任の出向役員は来ていないんです。ずっと黒字経営を続けており、将来を見据えて体制もだいぶ整備できたため、出向役員がいなくてももう大丈夫だろうとの判断だったのかもしれません。
阿部氏:引き続きグループから信頼される会社でいようと、私自身改めて気を引き締めているところです。
振り返ると、専務が去るときが「ガスワングループの一員だ」という意識をさらに強く持つ大きな転機になりました。ガスワングループへの報告書の作成や会議への出席、社内へのグループ指針の浸透など、今までは専務が主導していた業務を、私が担うようになったからです。
これまで自営業者だったので報告書も初めてで、慣れるまでの数カ月間は大変でしたが、徐々に身についてきました。また、グループの会議があるときも単に社長として出席するだけでなく、営業担当と一緒に事前準備をしたり、会議の場に一番乗りで行って交流を図ったり、そんな風に取り組んでいます。決して嫌々そうしているのではなく、「グループの一員として協力したい」という思いのもと、自然と動いているだけなんです。
グループのことがよく分かるようになり、責任感ややりがいも持たせていただけて、とてもありがたく思うばかりです。

阿部氏:お客様や地域の商工業者の方々からは、「地元の角昌機械店」として以前と何ら変わらぬお付き合いを続けていただいています。
一方で、周辺の同業社はというと、40~50代の比較的若い経営者の方々からは、M&Aやガスワングループについて興味深く聞かれることが時折あります。中には会社を存続させるためにM&Aが必要だと思っている経営者もいるようで、「阿部さんがM&Aをした当時は何をしているのか理解できなかったけど、ずっと先の将来を見ていたんですね。今ならそれが分かります」などと言われたこともありました。
阿部氏:私自身が事業承継や会社の将来について真剣に悩んだ時期を経験してきたので、真剣な質問には真摯に応えるようにしています。各社がM&Aに興味を持つ一番の理由は、人口減少への危機感や、財務状況の悪化など様々ありますが、私から見て気がかりなのは「うちは大丈夫。まだ5年、10年くらいはいける」と、関心すら持っていない事業者です。
私はガスワングループに入って3年超が経ちますが(取材時)、これまで1日たりとも後悔したことはありません。なので、周りの同業社にもぜひM&Aを関心ごとの一つに持ってほしいと思いますし、悩みや不安を持つ経営者には、遠慮せずにもっとたくさん聞いてほしいとすら思っています。
阿部氏:おかげさまで、とても良い形で進んでいます。ここ20年ほど、ガス業界はオール電化住宅の普及にシェアを脅かされてきたという思いが私にはありました。ですが、サイサンは電力事業にも取り組んでいて、電力自由化を追い風にますます成長しています。当社がM&Aをした年には、中部電力ミライズさんと「エネワンでんき」を設立し、当社もグループとして電気を販売できる体制になりました。
今後、ガス・電気・灯油の各種エネルギーの取り扱いは、ボーダーレス化が進んでいくかもしれません。その中で電気が当社のラインアップに加わり、さらにビジネスチャンスが広がったと私は感じています。
阿部氏:ガスワングループは2045年の創業100周年に向けて、「我が国を含め、アジア・太平洋地域において総合エネルギー・生活関連事業でリーディング企業になる」というビジョンを掲げています。サイサンの翌年に創業した角昌機械店も、そのビジョンをこの地域において実現することを長期的な目標に据えました。
サイサンがガス・電気・水などの生活関連産業で人々の生活を支えているように、当社は雪深いこの地の生活に欠かせない除雪機の販売や整備などで、地域の皆様を支えています。機械部門は引き続き地域一番店として、長くお客様に寄り添っていくこと。そして、総合エネルギー事業のガス部門は、グループのプラットフォームを十分に生かし、また可能であればこの辺りの地域で仲間となる同業社を増やしていきながら、シェアを拡大していくこと。お客様第一を信念に、これらの目標を実現していきたいと思っています。

株式会社角昌機械店
代表取締役社長 阿部 賢司氏
LPガスの国内需要がピークを迎えたのは30年前の1996年で、以降はほかのエネルギーとの競争激化が進んでいます。近年は全国で毎年約500社ずつ減少している状況で、特に小規模事業者が単独で運営し続けるには、非常に困難を極める時代を迎えています。地域に根差す事業であるため、人口減少率の高い地元の秋田県の事態もかなり深刻で、年間約10社も減っているそうです。
多くのオーナー経営者は、将来に何らかの悩みを抱えているのではないでしょうか。必ずしも全てのケースでM&Aが解決策や最適解になるとは限りません。ですが、少なくとも事業承継に関しては早めに行動しておくことが、経営者自身と後継者になる方、そして従業員やお客様にとっても大事だということをお伝えしたいです。M&Aをするか否かはさておき、たった一人でひたすら悩み続けるよりも、一度はfundbookさんのような仲介会社などに相談してみると、視界が開ける可能性は十分にあると思います。
私自身はオーナー経営者ではなくなりましたが、譲渡先のサイサンは、オーナー企業として一番オーナーの気持ちを理解していただけているグループだと実感しており、グループ参画後は、以前にもまして経営業務へのやりがいに満ちあふれています。そんな私の今一番の希望は、私と同じような志を持ち、一緒に成長する仲間が増えていくことです。

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担当アドバイザー コメント
ご譲渡から3年を迎えた譲渡オーナー様のインタビューをさせていただきました。
記事にも記載がありますように、M&Aから3年、「後悔した日は1日もない」と真っすぐお話いただきました。
現在は、譲受企業グループであるガスワングループとともに地域を牽引する企業を目指しております。
3年経過した今だからこそ、譲渡オーナー様、譲受企業様双方にとって最善の選択だったと改めて実感することができました。
今後とも両社様の更なる発展を心より応援しております。