インタビュー

2019年3月28日、譲渡成立

「雷に打たれたような出会い」エンジニア社長のM&A

「雷に打たれたような出会い」エンジニア社長のM&A
  • 譲渡企業
    株式会社トライテック
    設立年月日
    1981年
    事業内容
    組込機器ハードウェア、ソフトウェア設計・開発、筐体設計、機械制御装置販売等
    URL
    http://www.trytech-inc.co.jp/
  • 譲受企業
    東海電子株式会社
    設立年月日
    1979年
    事業内容
    業務用アルコール測定器の製造・販売・サポート、その他電子機器の製品設計、製造等
    URL
    https://www.tokai-denshi.co.jp/

株式会社トライテック元代表の深野義昭氏は、入社して以来20年以上にわたって技術畑を歩み、開発部門のリーダーとして会社を支えてきました。2005年に創業者から経営を引き継いでからは、様々な苦労がありながらも、それまでの経験を活かし、より現場に近い目線での経営を心がけてきたそうです。

そして2019年3月、深野氏は東海電子株式会社への株式譲渡を行いました。M&Aに対して、当初はネガティブなイメージを持っていたものの、実際にM&Aによる譲渡を経験したことで、価値観が180度変わったと語ります。東海電子とのM&Aの過程で、どのように価値観が変わっていったのか。トライテックの深野氏と、東海電子の代表取締役である杉本一成氏にお話を伺いました。

技術者から社長に 周囲の支えがあって今日がある

トライテック様の事業や、経営で心がけてきたことを教えてください。

深野氏:当社は、組込機器のハードウェア、ソフトウェアなどの受託開発・設計などを行っています。現在の主力事業は、長年手がけている建設用機械の制御装置と、海苔巻きを自動で巻く寿司ロボットの電子基板製造です。業界・業種を問わず依頼を受けてきたので不得意分野がなく、お客様のニーズに合わせた製品を提供できるのが強みです。

とにかく真面目に、誠実に、お客様と向き合うことにこだわってきました。おかげさまで、ここまでお客様や関係者に大きな迷惑をかけることなく、経営を続けてくることができました。

「雷に打たれたような出会い」エンジニア社長のM&A

2005年に経営を引き継がれましたが、親族内承継ではないそうですね。社長就任後、どのような点で苦労されたのでしょうか?

深野氏:創業者が病気を患い、当時取締役だった私が経営を引き継ぎました。ただ、若くして入社してからこれまで技術者としてしか仕事をしてこなかったので、会社を経営するとはどういうことなのか、本当の意味での理解はできていませんでした。実際に引き継ぐと大変なことだらけでしたね。

まず、資金繰りに関しても素人ですから、総務から「借入金の返済期限ですが、どうしますか?」と聞かれても、逆に「どうすればいいの?」と聞き返す始末でした。長年お付き合いがある経営者の先輩や銀行の担当者、税理士の先生方の親身なアドバイスのおかげで、なんとかやってこられたのだと思います。

また、バブル崩壊以降、電機業界全体が構造不況に陥ってしまっており、私の頭の中には常に「このままではいけない」という思いがありました。バブル崩壊以前は国内で様々な仕事が生まれていたので、当社のようなシステム開発会社への依頼も豊富にありました。しかし一転、会社が株主重視の経営になってくると、単価の安い海外の開発会社に、設計から製造まで一括で依頼する動きが強まり、国内の需要は縮小しました。そのような時代の変化に、我々はどう適応していけばいいのか。
「このままではいけない」と思いつつも、時代に合わせた新しいサービスを生み出すことには苦心しました。

「雷に打たれたような出会い」エンジニア社長のM&A

「雷に打たれたような出会い」エンジニア社長のM&A

M&Aの扉を開くと理想的な経営者に出会えた

M&Aを検討された理由を教えてください。

深野氏:今年で還暦を迎えるにあたり、数年前から会社の引き継ぎを真剣に考えていました。しかし、私と同じ大変な思いをさせたくなかったので、親族や従業員の誰かに引き継ぐという選択肢はなく、出口が見えず動こうにも動けない状況でした。

そんなときにfunbdookからご連絡をいただきました。実はM&Aに対して「お金のために会社を売る」「経営者として負け」といったネガティブなイメージがあったのですが、アドバイザーの方から話を聞いて、気持ちが大きく変わりました。「自分と会社は一心同体で墓場まで一緒だという考え方は、経営者としては本望でも、従業員に対して責任をとったことにはならない。でもM&Aなら事業を継続させることができて、従業員への責任も果たせる」という言葉が強く印象に残っています。

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M&Aを進めるうえで、不安な点はありましたか?

深野氏:本当に理想的な譲渡先が見つかるのかという点ですね。fundbookから話を聞いて、M&Aが最良の選択だと気持ちは固まっていったのですが、トライテックの事業を理解し、ともに歩んでもらえるような企業がどれだけあるのだろうかと。従業員の転勤や会社の移転を強いられないか、M&A後に会社に残る人を選別されないか、ということも気がかりでした。

そして、fundbookがご提案した譲渡先が、東海電子様でした。

(東海電子株式会社 杉本 一成氏)

杉本氏:当社は大手時計メーカーの製造下請けとして創業しました。専門的な技術はなく、パートの従業員を集めて単純な組立作業を行う、労働集約型の事業を22年続けておりましたが、90年代の円高進行とともに、メーカーの生産拠点がより安く生産できる海外に移転してしまい、当社の経営は非常に不安定な状態でした。

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東海電子株式会社 杉本 一成氏

それが今では売上高25億円です。なぜ躍進できたのでしょうか?

杉本氏:長男の入社を控えた2001年に、親子で新事業を展開していこうと一念発起し、システム開発事業本部を設立して自社開発に挑戦しました。何を作るかも決めずに走り出したのですが、当時は飲酒運転による交通事故が多発し、大きな社会問題となっていましたから「私たちの技術でこのような痛ましい悲劇を減らしたい」と、アルコール測定器を開発することに決めました。

測定器自体はすでに世に存在していたのですが、当社は検知結果の記録・管理機能や不正防止の仕組みを導入して、ドライバーを雇う会社向けの「業務用アルコール測定システム」として完成させました。新たな市場を開拓したのです。そして、精度にこだわり製品を改良し続けたことと、ただ製品を売るのではなく年間保守契約をセットにした直接販売にしたことで、今日ではこの分野でトップとなりました。

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なぜ今回M&Aを検討されたのでしょうか?

杉本氏:第二創業期以降、測定器の開発はずっと自社で行ってきましたが、数年前に予算や人材の都合で開発がストップし、新製品を出せない期間が3年も続いてしまいました。そこで、開発を外部に委託してみたのですが、今度は設計変更など開発後の小回りがきかなくなってしまい、やはりもう一度内製化しようという結論に。そうして改めて技術者の採用を始めたものの、なかなか欲しい技術者が見つかりませんでした。

fundbookとの出会いはその頃ですね。普段はM&A仲介会社から届く手紙に目を通すことはないのですが、fundbookからの手紙には目が留まり、会ってみようと思ったのです。実際にお会いすると、アドバイザーの方が前職で設計をしていた経験をお持ちで、非常に話が合いました。これは縁としか言いようがない。そして、当社のニーズにぴったりな企業として、すぐにトライテックを提案していただきました。

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東海電子や杉本様について、深野様はどのような印象を持たれましたか?

深野氏:譲渡先の候補として5社と面談させていただいたのですが、杉本社長との面談にはまるで雷に打たれたような衝撃があり、すぐに心が決まりました。お互い下請け時代に苦労した経験から意気投合し、大きな会社の代表で、経営者として大先輩であるにもかかわらず、こちらが緊張しない距離感で向き合ってくださるお人柄が魅力でした。

後日お会いした役員の方々も人当たりの良い方ばかりで、「こんな会社があるのか」と杉本社長の経営者としての手腕の高さを改めて感じました。また、当社と東海電子は創業時期がわずか2年違いなのですが、相当な覚悟と独自のアイデアで第二創業に挑み、下請けから飛躍されたところも非常に尊敬します。

杉本様は、トライテックや深野様にどのような印象を持たれましたか?

杉本氏:深野さんは真面目で実直そうな技術畑の方。従業員の方々も真摯に仕事に取り組まれており、一貫して製品を作れる技術も揃っていました。お相手にはピッタリだと感じ、ぜひお話を進めたいと思いました。

トライテックには利益を生み出す技術力があります。資料を見れば一目瞭然。創業者時代の負債が重荷になっているようでしたが、深野社長のもと、非常に頑張っていることが分かります。当社もお金のことでは本当に苦しみましたが、利益体質に生まれ変わることと、適切なコストコントロールをすることで脱却できました。

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成約までの過程で印象に残っていることはありますか?

深野氏:当社の「数字にならない部分」まで丁寧に光を当て、理解していただけたことです。特に人材の価値は単純に数値化できないものですが、fundbookのアドバイザーの方が従業員一人ひとりとの面談を通して彼らの価値を拾い上げ、それを東海電子に伝えてくださいました。

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「雷に打たれたような出会い」エンジニア社長のM&A

従業員の雇用が守られ、待遇改善も実現

2018年秋に最初の顔合わせがあり、半年後に譲渡が成立しました。成立した際のお気持ちは。

深野氏:最終契約書の調印までとても忙しい日々が続いたので、直後は脱力状態、数日後にこれまでの重圧から解放された感覚がありました。譲渡後も私は会社に残っておりますので、新たなスタートから4ヶ月経った今は、会社のさらなる成長に向けて、これまで以上に頑張らねばと身の引き締まる思いです。

会社や事業にはどのような変化がありましたか?

深野氏:従業員への公表は調印直前でした。調印後すぐに杉本社長が当社を訪問され、M&Aに伴う転勤や会社の移転はなく、全従業員の雇用が維持されること、さらに待遇改善を行うことを説明してくださいました。新しいトップの言葉を直接聞くことができて、社内にホッとした雰囲気が広がったのを感じました。

現在は東海電子の開発内製化に向けたプロジェクトが進んでいまして、とても大きな役割を当社に任せていただいてます。従業員の士気も高まっていますし、以前より活気のある雰囲気の中で働けていると思います。

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「会社という資産を社会に残す」それがM&A

株式会社トライテック
取締役 深野義昭 氏

経営者は一国一城の主です。会社と、ともに働く従業員を守るために、死力を尽くすのが経営者だと考えてきました。そのため、M&Aに対しては、会社を守りきれなかった経営者が選択するものというネガティブな印象があり、当社には他に選択肢がないと分かっていながら、なかなか踏ん切りがつきませんでした。

しかし、M&Aによって会社を譲った現在は、価値観が大きく変わっています。より広い視野で考えてみると、長い歴史を通じて会社が培った固有の技術や組織としての力、優れた人材は「社会にとって貴重な資産」と言えます。M&Aは、その資産を絶やすことなく次世代に伝えていける選択肢。会社と従業員を守りたいと願う経営者にとって、検討する価値のあるものだと気づかされました。事業承継を考える経営者の方々に、もっとM&Aのプラスの面が認知され、今後ますます活用されていくことを願っています。

「雷に打たれたような出会い」エンジニア社長のM&A

M&Aがもたらしてくれた素晴らしい出会い

東海電子株式会社
代表取締役 杉本一成 氏

今回は、当社にとって初めてのM&Aです。製品開発の内製化のために、優れた技術者を確保することが目的でした。しかし、トライテックをご紹介いただき、深野社長とお話しを重ねるなかで、単なる人材確保というニーズ以上に、この会社と一緒に成長していきたいという気持ちが、強くなっていったのを覚えています。会社の業績や技術力を冷静に見極める必要があるのはもちろんですが、このお相手だからこそと思えるのが、理想なのだと感じます。

トライテックと出会えたおかげで、当社は自社製品の開発を再び内製化する目処が立ちました。それと同時に、同社の優秀な従業員の方々の将来に対する責任も引き受けました。今後、お互いが補い合い、シナジーを最大限に発揮していけることを楽しみにしています。

「雷に打たれたような出会い」エンジニア社長のM&A

失くしてはならない優れた技術を次代へ

(担当アドバイザーのコメント)

私がfundbookに入社して、初めて担当させていただいたのがトライテック様です。

前職で設計に携わっていたこともあり、深野様とは技術に関するお話をすることが多かったのですが、技術的なお話をされる際、まるで少年のように目をキラキラさせていらっしゃったことが印象に残っています。トライテックは技術者集団であり、従業員一人ひとりが強い信念を持っていると仰っていました。無理難題と思えるようなお客様のご要望にも粘り強く取り組み、解決に導いてきた従業員の方々の技術レベルは非常に高く、深野様はそれを、中小企業だからこそ培われた強みなのだと自負されていました。お話を伺うたびに心惹かれ、この経験と実績の詰まったトライテック様の技術を絶対に日本から失くしてはいけない、という強い使命感でサポートさせていただき、こうして良いご縁を結ぶことができたこと、大変嬉しく感じています。

東海電子の杉本社長は、深野様との面談の際に、現在抱えている問題点や、今後の課題をご自身の口からお話しくださいました。過去に下請けとして事業を行っていたご経験から、深野様に共感される部分があったのではないかと思います。何事にも誠実に対応され、技術者としてのプライドを持った深野様。独自のアイデアで第二創業を成功された凄腕経営者の杉本社長。トライテック様と東海電子様が一緒になれば、今までにない素晴らしい製品を開発できると当初から確信しておりましたが、このM&Aが成約に至ったのは、深野様と杉本社長のお人柄がマッチし、それぞれの経営者としての想いが通じ合ったからこそだと思います。

今後、両社がそれぞれの強みを活かしながら、精力的に新たな製品の開発に取り組んでいかれることを、心から楽しみにしております。

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