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元来、好奇心旺盛で我が道を行く性格だったという吉瀬融氏が、35歳のときに創業した株式会社コアー建築⼯房。1989年、平成という新たな時代の始まりを告げる年のことでした。
四畳半一間からのスタートではありましたが、創業1年目から売上1億円を達成。地域の木材を使用した「⾃然と調和したこだわりの家」を掲げ、⼤阪南部を中⼼に厚い顧客基盤とブランド⼒を持つ注⽂住宅企業へと成長。新築施工実績は700件以上を数え、創業以来30年以上連続で黒字決算を達成し続けてきました。
そして過去最高利益を記録した2020年6月に、三和建設株式会社とM&Aの成約に至ります。好調な中でのM&Aのニュースに、吉瀬氏が携わる地域のNPO法人、バスケットボール協会、⼀般社団法⼈からは驚きの声が上がったといいます。
「事業承継は、経営者がいつか向き合わなければならないもの。親族か、社員か、あるいはM&Aか。その3つの選択肢を並行してずっと考えてきました」と語る吉瀬氏。
地域に愛される創業社長のM&Aは、どのように決断されたのか。吉瀬氏、三和建設株式会社代表の森本尚孝氏、専務取締役の谷直人氏を交えて、お話を伺いました。
吉瀬氏:高校を卒業後、一旗揚げようと建設会社に就職しました。そのなかで「自分にしかできないことをやれ」と言ってくださる人生の師となる方との出会いもあり、何事も体当たりで突き進むようなサラリーマン生活を送っていました。「いい家を作りたい」という想いが強すぎて、会社の経営方針とぶつかってしまうこともあったため、35歳のときに2社目の会社を退社することに。そのときの社長が「よそに勤めるくらいだったら、自分でやらないか」と言ってくれたので、“これも縁だな”と思って独立することにしたんです。妻と一緒に、四畳半一間から始めました。
吉瀬氏:ひとことで言うとすれば、コアー建築⼯房“らしさ“でしょうか。自然を受け入れる暮らし。建物と建物を取り巻く自然との境界を緩やかにつなぐ家。日本人が木と共に歩んできた長い歴史を大切に、国産材の家づくりを推進してきました。
逆を言えば、“らしさ”とは何かを模索する日々でもありました。創業して10年、15年のころは迷いの多い時期だったと思います。まずは売上を立てないといけないと考えていたので、営業スタイルも目標達成型。「背に腹はかえられない」とよく口にしていたと妻が言っていたので、当時を振り返ると私自身の軸がいかにブレていたのかがわかります。
当社の“らしさ“はそうした迷いや葛藤を経てようやくたどり着いた答えなんです。前職時代から創業時、そして今に続く家づくりへの想いをまとめた「らしさブック」という本も作りました。社員はもちろん、お客様やお取引先の方にもその本を通じて、コアー建築⼯房を知っていただこうと思ってのことでした。
吉瀬氏:地域とのつながりですね。数字ばかりを目指すのではなく、地域に存在価値を示せるような会社にならないといけないと思うようになった頃、地域の方からいろいろな役を手伝ってほしいという声をいただきまして。「地域密着」というのは、地域で商売させてもらうことではなく、地域への感謝の気持ちを何かで返していくことが、本当の「地域密着」ではないかと考えるようになりました。ビジネスだけではない形でも、地域に貢献していく必要があるのではないかと。
若い頃に夢中になったバスケットボールの大会を主催したり、街の祭りに参加させていただいたり……いつしか子どもたちからも「吉瀬さん」と呼んでもらえる環境が出来上がっていったのは、ありがたいことですよね。ちょうど、その時期に現本社を建てたのも大きかったと思います。ここは小高い山で雑木林があった場所。自然を身近に感じる家づくりを本社で形にしてみせたことで、私も地に足がついたのかもしれません。それからは堺の暮らしを大切にすることも、コアー建築工房の家づくりの思想として掲げてきました。
吉瀬氏:3年前くらいからです。この堺の街で生まれ育ったコアー建築工房を、せっかくなら長く続けていきたい。そのためには、私の個人的な感情でしがみつくのはよくないと思いました。会社は自分のものではない。役割で今、たまたま社長をやらせてもらっているんだ。いつしかそんな考えになっていきました。
事業を承継していくとなると、方法は3つ。身内に継がせるか、社員に継がせるか、M&Aか。
仕事を手伝ってくれている娘にはもともと継がせるつもりはなかったんです。それでも可能性があるのなら一度任せてみようとも考えましたが、年齢も若く経験も少ない娘に、これからの時代の経営者としてより良い決断をしていけるのかと、自問自答を繰り返しました。次に社長候補として考えた取締役も、ナンバー2として会社を支えることはできてもトップの覚悟はなかなか持てない様子でした。
今は額に汗を流して頑張るだけでは勝てない時代ですから、引き継ぐのは簡単なことではないです。挑戦することができないのであれば、無理に継がせるわけにはいかないので、ここは慎重に考えました。
吉瀬氏:幸い業績は好調で、今すぐに引き継がなければならないわけではなかったので、じっくり時間をかけて考えていきました。きっと、M&Aが最善の選択であれば、いい出会いがあるだろうと。実際、いくつか手を挙げてくださる企業はいらっしゃいました。
しかし、どうしても決めきれない。条件面に不満はなかったんですがなぜか気が進まずお断りしたお話がいくつかありました。もしかしたら、自分では「しがみつくのはよくない」と言いながら、どこかで「誰にも渡したくない」と思っているのではないか、と悩みました。fundbookのアドバイザーの方には長期間に渡って根気強くサポートしていただいてたんですが「もう申し訳ないから一旦、M&Aの検討をやめようか」と、こぼしていたほど。
そうした矢先、出会ったのが三和建設さんだったんです。不思議ですよね、話を聞いたときに「ここや!」と思えた。これぞ、巡り合わせだと思いました。
森本氏:当社はこれまでもいくつかM&Aを経験してきました。その多くが、業務領域の拡大を目的としたもので、fundbookさんにも同業種を中心にご紹介いただこうと思っていました。しかし、コアー建築工房さんはその条件とは全く異なる会社でした。
当社は鉄骨で、コアー建築工房さんは木造。BtoBとBtoC、非住宅と住宅、大阪北部と南部など……注文建築という大枠は同じでも対極的。それを「シナジーがない」という発想もありますが、むしろ我々が持っていない考え方やソリューションでイノベーションが起こりうるのではないかと思ったんです。
谷氏:最初は業容が全く異なる企業で驚きましたが、よくよく聞いてみると当社にとって可能性の広がりを感じさせる納得の提案だと思いました。表面的なニーズだけではなく、当社の現状や今後の方向性についても耳を傾けてくださり、親身になって考えてくださったのだと感じました。
森本氏:早速お会いしてみようと思っていたところ、アドバイザーの方からコアー建築工房さんの「らしさブック」をいただいたので、私も著書「人に困らない経営 ~すごい中小建設会社の理念改革~ 」をお渡しすることにしました。
吉瀬氏:こんな会社が建築業界であるんだな、と思いました。もちろん、各社人材を大事にしていこうという試みはありますが、それを本という形にしている会社は珍しい。書籍を出版してまで高らかに宣言しているということは、それをやらなきゃいけないという覚悟の表れ。実に勇気がいることです。この考えを掲げられる人になら、社員と職人たちを安心してお任せできると思いました。
森本氏:確かな価値観を持っていらっしゃる方だと思いました。イチから叩き上げで創業された方は、感覚でお話されることも少なくないのですが、吉瀬社長の話は理路整然としていて実に明快。理論的な戦略家だと、話していてすぐに感じられたので、この方とならご一緒できるとすんなり思いました。
吉瀬氏:心が踊りました。やっとベストな選択ができたわけですから。実は、条件面は以前手を挙げてくださった企業とまったく同じだったんです。あのときはなぜか決めきれなかったのに、今回はすんなりと受け入れられた。これが、フィーリングというものなのでしょうね。
森本氏:これまでのM&Aもそうでしたが、結局は人と人との相性のような気もします。M&Aで大事にしているのは、その会社のキャッシュフローよりも、「この人と一緒に働きたい」と思えるか。コアー建築工房のビジネスが素晴らしかったのはもちろんですが、最終的には吉瀬社長に対して「こういう面白い人と一緒に仕事したいな」と思えたことが大きかったので、本当に巡り合わせだと思います。
吉瀬氏:社員には、事業承継を考え始めたころから半年に1度くらいのペースで「3つの選択肢のなかで、ベストだと感じたものにするから」という話を繰り返ししていました。そのため、彼らなりに心の準備ができていたのではないかと思っています。また、今回のM&Aで社員へも還元できるよう手続きを進めたので、成約したときは思わぬ恩恵を受けられたと喜んでもらえました。
意外だったのは、社長候補として考えていた取締役が辞めなかったことですね。一度はトップになることを真剣に考えたわけですから、これが昔の私だったら辞めていたと思います。でも、彼は残る選択をしたんです。やみくもに誰もがトップを目指すのではなく、それぞれの良さが活かせる場所を選んでいく。きっとそういう意味でも、このM&Aはみんなにとっていい選択だったと思っています。
森本氏:当社としては、木造をひとつの軸に打ち出していきたいと考えています。コアー建築工房さんのノウハウを活用して、木の香りがするオフィスなど、これまでになかった発想で木造非住宅のゼネコン案件を作り出していけるのではないかと見込んでいます。建築の基本は住宅ですから、そういう意味ではやはり木造は本能的に心地いいもの。新たな価値を提供できるのではないかと考えています。そのためにも、人材交流や営業機会・プロセスの共有、管理部門のインテグレーションも進めつつあります。吉瀬社長にはあと2年、現場に立っていただくことになりました。その間に、新たな社長を選出していく予定です。
谷氏:現在、定期的にコアー建築工房に訪問し、吉瀬社長と社内の引き継ぎを行なっています。社員の方とも直接お話させていただく場面が多くあり、皆さん本当に真面目で誠実な方が多い。三和建設の社員と似ている部分が多いと感じています。今後、主体性はさらに伸ばしていけたらいいなと思う部分です。また、コアー建築工房の家づくりは建築に携わる者として、とても興味を抱いています。鉄骨やRCにはない本能的な親しみが木造にはある。建築の面白さや可能性が広がっていくのが楽しみです。
吉瀬氏:創業以来黒字を続けてきたからには、引き継ぐまでずっと続けていくというのが、今後の私の目標です。社員に対しても「私と三和建設さんの求めるものは一緒だから」と話しています。「せっかくご縁があって共に働くことができるのだから、がっかりされないようにしっかりやるんだよ」と。私が去った後も、変わらぬモチベーションで仕事に取り組めるような心持ちにしていくこと。それが、創業社長としての最後の仕事だと思って取り組んでいきます。
株式会社コアー建築⼯房
代表取締役 吉瀬 融氏
私の希望はあくまでも「会社を永続させること」。娘に継がせるか、取締役を社長にするか、それともM&Aか……ずっと並行して考えてきたなかで、ありがたいことにベストな選択にたどり着くことができました。経営者として事業承継は避けては通れない道。社員、職人、技術を守るためにどうすればいいのか。考えれば考えるほど、これまでのように親族や社員に継がせることだけが、その全てではないということは、多くの経営者が思い至ると思います。
しかし、まだまだM&Aには「事業がうまくいかなくなったからするもの」というネガティブなイメージが強く、今回のM&Aにも「順調なのに、なぜ?」という声が地域の団体から多く寄せられました。私としては、むしろ業績がいいタイミングに検討を始めたからこそ、社員や職人たちが不安なく新しい道を受け入れられたし、私もじっくりと時間をかけて決断をすることができたと思っています。
創業社長にとって事業承継は、自分自身の執着心との折り合いが大切です。私は「これだ」と決めたらスパッと去ることができる、カッコいい社長でありたい。それが、自分らしい引き際だと思いました。この私の決断が、同じような悩みを抱えている多くの創業社長の方の参考になれば幸いです。
三和建設株式会社
代表取締役社長 森本 尚孝氏
創業社長から2代目社長への承継は、最もデリケートなタイミング。きっとどなたが社長になったとしても、100点にはならないでしょう。その重圧こそが事業承継の阻害になっているとも言えますね。おそらく今後そうしたタイミングでM&Aを検討される方が、増えていくのではないでしょうか。
ただ、M&Aが必要な選択肢であることを頭では理解しているのに、どこかで感情的な抵抗があるのは、その会社らしさが失われてしまうような気がするからだと私は考えています。今回で言えば、これまで吉瀬さんが大切にされてきた想いまで引き継ぐことができず、「吉瀬さんらしさがなくなった」「コアー建築工房らしさが消えてしまった」という事態になってしまうのではないかという懸念です。
当社として目指しているのは、その会社“らしさ”を残したM&A。もちろん、これからもコアー建築工房さんが続けてきた地域貢献活動や、家づくりに対する考え方もそのまま承継していきます。そうしていくためにも、M&Aにおいては社長の人柄が99%。「この人と働きたい」が全てなのです。会社の数字なんて、いいときもあればそうでないときもありますから。
仮にコアー建築工房さんの業績が悪化していたタイミングだったとしても、間違いなくM&Aを進めていたでしょう。今、譲受企業を求めている経営者の方も、きっとその会社らしさに共感し「一緒になりたい」と思ってくれる会社がいるはずです。それは、今回のようにまったく検討していなかった企業を、アドバイザーの方から紹介されることで出会えるかもしれません。
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担当アドバイザー コメント
今回のM&Aは「RC造×木造」の、建物構造の垣根を超えたシナジー効果の発揮を目的としたものです。平成12年「建築基準法改正」及び設計技術の向上から中高層の木造建築が可能となったこと、平成22年「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」から国策として木造建築が推進されていること、そして2015年に国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」を基軸とする社会・環境課題への貢献を見据えており、時代のニーズを的確に捉えたM&Aが実現しました。
こうした背景には、吉瀬様が私とお会いする以前から、社員や大工の皆様の安心できる体制とは何かを熟慮されていらっしゃったからだと感じています。吉瀬様の判断軸が明確に定まっていたことで、過去最高の業績を記録したタイミングでも迷いなくM&Aをご決断されることができたのではないでしょうか。
ご一緒になられた三和建設様は、これまで多くの実績を重ねてこられた関西を代表する総合建設企業です。「つくるひとをつくる」をいう理念のもと、普遍的な価値を大切にされているからこそ、互いに意気投合し、良縁となったのではと考えております。
今後も、両社がさらに発展されることを祈念するとともに、本件のような理想的なM&Aのお手伝いが出来るよう、精進してまいりたいと思います。