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2023/10/02

特例事業承継税制とは?他制度との違いや利用の流れ、活用事例をわかりやすく紹介

特例事業承継税制とは?他制度との違いや利用の流れ、活用事例をわかりやすく紹介

事業承継を円滑に実施することを目的として、承継時の贈与税・相続税の納税猶予を受けられる事業承継税制が国によって設けられています。

また、2018年度の税制改正では、より使いやすく、リスクが軽減された特例事業承継税制が創設されました。

そのため、中小企業の経営者の中には、事業承継に特例事業承継税制の活用を考えている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、特例事業承継税制の概要や変更になった点を解説する他、税制を利用する流れと事例も紹介します。事業承継を検討している経営者は、ぜひ参考にしてください。

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特例事業承継税制とは?

特例事業承継税制とは、2018年度の税制改正によって創設された事業承継税制の特例措置です。

そもそも事業承継税制は、中小企業の事業承継を円滑に実施するために策定されました。

事業承継税制を活用することで、後継者(受贈者・相続人等)が中小企業の非上場株式等を贈与または相続等で引き継いだ時に、本来支払うべき多額の贈与税や相続税の納税猶予が受けられるため、事業承継に伴う後継者の負担が大幅に軽減されます。

税制改正で新たに創設された特例事業承継税制では、以前の事業承継税制(一般)に加え、10年間(2027年まで)の措置として「納税猶予の対象となる非上場株式等の制限の撤廃」や「納税猶予割合の引き上げ」等がされています。

特例事業承継税制が創設された背景

近年、中小企業の事業承継では、後継者不足または未決定の問題が深刻化しています。

後継者が決まらない理由の1つには、事業承継に伴う税負担があります。

事業承継は遺産相続のように、資産を単純に引き継ぐだけではなく、自社株や事業用資産等の事業に関するさまざまなものを引き継ぐことになります。

そのため、事業承継に伴う贈与税・相続税が後継者にとっては大きな負担になってしまう傾向があります。

例えば、現預金で贈与・相続ができれば納税は難しくありませんが、自社株式の贈与・相続では受け取った株式をそのまま納税できないため、後継者は納税額に応じて多額の現金を用意しなければいけません。

こうした贈与税・相続税の納税負担によって後継者が決まらず、黒字経営の優良企業でも事業承継が困難となり、廃業を余儀なくされるケースがあります。

このような背景の中、事業承継に伴う後継者の納税負担を軽減させ、事業承継を円滑に行うために事業承継税制が設けられたのですが、要件が厳しく活用しにくいという問題がありました。

そこで、2018年度の税制改正では事業承継税制が見直され、10年間の期限付きとなるものの、より活用しやすいように特例措置が新たに創設されたのです。

特例事業承継税制と事業承継税制(一般)の違い

特例事業承継税制では、より制度が活用しやすくなり、リスクも大幅に軽減されています。特例事業承継税制と改正前の事業承継税制(一般)の主な違いは、以下のようになります。

   特例事業承継税制 事業承継税制(一般)
 特例承継計画策定・提出 必要 不要
 適用期間 2018年1月1日~2027年12月31日 なし
 対象株数 全株式 総株式数の最大3分の2まで
 納税猶予割合 100% 贈与:100%
 相続:80%
 後継者 最大3人(10%以上の持株要件) 1人のみ
 雇用確保要件 実質撤廃 承継後5年間、平均80%以上の雇用維持が必要
 経営環境変化に対応した免除 あり なし
 相続時精算課税 60歳以上から18歳以上の者への贈与 60歳以上から18歳以上の推定相続人・孫への贈与

特例事業承継税制を利用する流れ

ここでは、特例事業承継税制を利用する流れを贈与税と相続税を分けて紹介します。なお、事業承継税制を利用するためには要件を満たしている必要があります。

主な要件は以下のようになるので、特例事業承継税制の利用前に確認しておきましょう。

会社

・中小企業であること

・従業員が1名以上であること

・非上場会社かつ風俗営業ではないこと

・資産管理会社ではないこと

先代経営者

・会社の代表であったこと

・相続・贈与時に親族で自社株式の過半数以上を保有し、筆頭株主であったこと

・先代経営者は贈与時に代表ではないこと(贈与の場合)

後継者

・相続・贈与時に後継者と親族で自社株式の過半数以上を保有し、親族の中で筆頭株主になること(※)

・会社の代表であること

・18歳以上で、贈与時まで役員を3年以上務めていること(贈与の場合)

・相続直前に役員であり、相続してから5か月後に代表であること(相続の場合)

(※)後継者が複数の場合は、それぞれの後継者が10%以上の議決権を有しており、議決権保有割合が2位または3位である必要があります。

贈与税の猶予

特例事業承継税制を利用して、贈与税の納税猶予を受けるための基本的な流れは以下のようになります。

1.「特例承継計画」の提出と確認

2.贈与の実行と円滑化法の認定

3.贈与税の申告書及び一定の書類を税務署へ提出

4.申告期限5年間の書類提出と5年経過後の実務報告

各手順を必要な書類を交えながら解説します。

①「特例承継計画」の提出と確認

まずは、会社が特例承継計画を作成し、認定経営革新等支援機関(商工会、商工会議所、金融機関、税理士等)に所見を記載してもらう必要があります。特例承継計画は2024年3月31日までに都道府県庁へ提出し、確認を受けてください。

なお、特例承継計画は、株式等の贈与後に作成することも可能です。贈与後に作成する場合は、次のステップである「円滑化法の認定申告時」までに作成しましょう。

②贈与の実行と円滑化法の認定

贈与後は、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに特例承継計画を添付し、都道府県庁から「円滑化法の認定」を受けます。審査後に問題がなければ認定書が交付されるので、保管しておきましょう。

③贈与税の申告書及び一定の書類を税務署へ提出

贈与税の申告期限までに、認定書の写しや贈与税の申告書等を税務署へ提出します。この時点で納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供します。

なお、特例を受ける非上場株式の全てを担保として提供すれば納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保の提供とみなされます。

④申告期限5年間の書類提出と5年経過後の実務報告

贈与税の申告から5年間は、年に1回、以下の書類の提出が必要です。

・都道府県庁:年次報告書

・税務署:継続届出書

また、5年経過後は実績報告を行い、雇用が5年間の平均で80%を下回った場合は、満たせなかった理由を記載し、認定経営革新等支援機関が確認します。理由が経営悪化の場合には認定経営革新等支援機関による指導・助言を受ける必要があるので、覚えておきましょう。

6年目以降は年次報告書の提出が必要なくなりますが、3年に1回、税務署に「継続届出書」を提出しなければいけません。

なお、贈与税の納税猶予期間中に先代経営者が死去した場合、贈与税は免除されるものの、相続税の納税義務が発生するケースがあります。この場合は一定の手続きによって、相続税の納税猶予へと切り替えることが可能です。

相続税の猶予

特例事業承継税制を利用して、相続税の納税猶予を受けるための基本的な流れは以下のようになります。

1.「特例承継計画」の提出と確認

2.相続の開始と円滑化法の認定

3.相続税の申告書及び一定の書類を税務署へ提出

4.申告期限5年間の書類提出と5年経過後の実務報告

各手順を必要な書類を交えながら解説します。

①「特例承継計画」の提出と確認

贈与税の時と同様に、会社が特例承継計画を作成し、認定経営革新等支援機関(商工会、商工会議所、金融機関、税理士等)が所見を記載します。

2024年3月31日までに都道府県庁に提出を行い、確認してもらいましょう。なお、株式等の相続後に特例承継計画を作成することも可能です。相続後に作成する場合は、円滑化法の認定申請時までに作成しましょう。

②相続の開始と円滑化法の認定

相続の開始後は、相続の開始日の翌日から8ヵ月以内に特例承継計画を添付して、都道府県庁から「円滑化法の認定」を受けます。審査後に問題がなければ認定書が交付されます。

③相続税の申告書及び一定の書類を税務署へ提出

相続税の納税期限までに、認定署の写しや相続税の申告書等を税務署へ提出します。この時点で納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。

特例を受ける非上場株式の全てを担保提供すれば納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保の提供とみなされるので、覚えておきましょう。

④申告期限5年間の書類提出と5年経過後の実務報告

贈与税の時と同様に、相続税の申告から5年間は、都道府県庁へ「年次報告書」を、税務署へは「継続届出書」を年1回提出する必要があります。5年経過後の実務報告や、80%以上の雇用要件を満たせなかった場合の対応、6年目以降の継続届出書の提出も同様です。

なお、相続税の場合は5年経過後に、後継者がさらに次の後継者へと贈与する「猶予継続贈与」を行うことで納税が免除されます。

その他、以下のような場合も相続税の納税は免除されるので、覚えておきましょう。

・5年経過前にやむを得ない理由で代表権をなくし「猶予継続贈与」をした場合

・5年経過後に会社が破産や清算といった事態に陥った場合

・後継者が死亡した場合等

特例事業承継税制を利用する時に確認しておきたいポイント

特例事業承継税制は、事業承継税制の特例措置として創設されたため、いくつか注意点があります。ここでは、特例事業承継を活用する前に確認しておきたいポイントを紹介します。

平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続が対象

特例事業承継税制は、永久的に利用できるわけではなく期限があり、2027年12月31日までの贈与・相続が対象となります。そのため、事業承継に特例事業承継税制の活用を検討している方は、できるだけ早めに行動するようにしましょう。

「特例承継計画」の提出が必要

贈与・相続にかかわらず、特例事業承継税制を利用するためには、後継者の氏名や事業承継の予定時期、承継までの経営の見通し・承継後5年間の事業計画等を記載した「特例承継計画」を都道府県庁に提出する必要があります。

特例承継計画の提出期限は2022年度の税制改正により1年延長され、2024年3月31日までとなっているので、覚えておきましょう。

株式評価額の引き下げのための対策と打ち切りリスクの考慮が必要

特例事業承継税制は、あくまで税額が「猶予」される制度です。そのため、自社の株式評価額の引き下げ対策は必要です。

また、特例事業承継税制の活用により、贈与税・相続税の納税猶予を受けられるため、後継者にとっては大きなメリットになるものの、適用となった後も継続要件を満たす必要があります。

継続要件にはさまざまあり、要件を満たせない場合は打ち切りとなってしまうので、注意しましょう。打ち切りになると猶予分の納税額と利子税の支払いが発生するため、万が一、打ち切りになった時のリスクも考慮して利用を検討してください。

都道府県及び税務署への継続的な報告が必要

前述しているように、特例事業承継税制を活用した場合は、事業承継後も継続要件を満たさなくてはいけない他、都道府県庁及び税務署に報告し続ける必要があります。

多少の手間が必要になるため、都道府県及び税務署への報告をスムーズにできる形態を考えておくと良いでしょう。

特例事業承継税制を活用した事例

特例事業承継税制を活用して、実際に事業承継を実施した例を2つ紹介します。事業承継に特例事業承継税制の活用を検討している方は、参考にしてください。

株式会社シンエイ企業の事業承継

株式会社シンエイ企業は、地域に密着した管工事・設備工事業の会社で、2019年1月に特例事業承継税制の認定を受けて事業承継を実施しています。事業承継時の年商や従業員数は以下のようになっています。

業種:管工事・機械器具設備工事業
年商:5億
従業員:16名

株式会社シンエイ企業では、後継者候補として先代経営者自身の息子が決まっていたものの、事業承継をするにあたって晩年まで具体的な対策を取っておらず、事業承継に伴う金銭面の問題がありました。

また、後継者も当初は税負担を懸念して承継することに消極的だったようです。

しかし、特例事業承継税制の活用によって、承継時にかかる税額3,300万円が100%猶予となり、円滑に事業承継を実施しています。

株式会社釜淵商事の事業承継

株式会社釜淵商事は、「子・孫世代を見据えた、地域に支持される運送業」を営む会社です。2018年12月に特例事業承継税制の認定を受け、事業承継を実施しています。事業承継時の年商や従業員数は以下のようになっています。

業種:一般貨物自動車運送業
年商:6億円
従業員:49名

先代経営者は、以前から事業承継について考えていましたが、税負担のことを考えると事業承継に踏み切れなかったという経緯がありました。

また、後継者となる自身の息子も税負担を懸念して承継を躊躇していたようです。

特例事業承継税制の活用によって、承継時にかかる税額1,600万円が100%猶予となり、税負担の不安が解消されたことで円滑な事業承継を実施しています。

まとめ

特例事業承継税制は2018年度の税制改正により、事業承継税制の特例措置として10年間限定で設けられた制度です。改正前の制度に比べて、より使いやすく、リスクが軽減されている点が大きな魅力でしょう。

ただし、特例事業承継税制を活用するためには特例承継計画の提出が必要な他、適用後も要件を満たさなければいけないといった注意点があります。

特例事業承継税制は、贈与税・相続税の猶予を受けられる点では大きなメリットとなりますが、自社の株式評価額の把握や要件の確認等の幅広い専門的な知識が必要となるので、制度を活用する際は、専門家に相談すると良いでしょう。

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