よくわかるM&A

2023/09/26

M&Aの仕組みとは?企業買収の手法とその種類

M&Aの仕組みとは?企業買収の手法とその種類

2021年のM&A件数は4,280件で2020年比:14.7%増、金額は16兆4,844億円と2020年比:11.7%増となりました。その背景には、高齢化や人口減少による後継者不在の企業の増加や、業界内の競争激化による業界再編が挙げられます。

このように近年、活発化しているM&Aですが、M&Aの仕組みや、そもそもM&Aとは何かなどをご存知でしょうか。

本記事では、M&Aの意味やその具体的手法、メリット・デメリットといった基礎知識に加えて、企業買収の具体的な成功事例や成功するために意識すべきことについて解説していきます。

山口 智寛
この記事を執筆した専門家
弁護士 山口 智寛
虎ノ門第一法律事務所パートナー弁護士。M&A、事業再生、事業承継、中国台湾関連案件、その他企業法務全般を取り扱う。モットーは、「紛争解決よりも紛争予防」「フットワークは軽く、コミュニケーションは厚く」。経済産業省の経営革新等支援機関の認定を受け、規模、業種、地域を問わず様々な企業法務案件を手掛ける。
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・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと

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M&Aの仕組みとは?全体像と手法の種類

M&Aにおける手法の種類は以下の図の通りです。

<M&Aの種類>

M&Aの区分

M&A(エムアンドエー)とは「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)の略で、資本の移動を伴う企業の合併と買収を指します。読み方はマージャーズ・アンド・アクイジションズとなります。

狭義的な意味のM&Aにおいては、吸収合併・新設合併などの企業の「合併」と、株式譲渡、新株引受、第三者割当増資、株式交換などの手段を通じた会社・事業の「買収」を指します。広義的な意味では、事業の多角化などを目的とした資本提携(資本参加、合弁会社設立など)を含む、企業の経営戦略を指す場合もあります。

M&Aに関しては、上記のような手法(スキーム)に着目した区分だけではなく、会社の業種と業態という観点から「水平型M&A(水平統合)」「垂直型M&A(垂直統合)」という区分をすることもあります。「水平型M&A」は同じ業種、業態の会社を買収するのに対し、「垂直型M&A」は同じ業界でも川上や川下の会社を統合することを指します。この2つのM&Aは、目的や期待されるシナジー効果が異なっています。

ここでは、手法に着目した区分に従って、実際にどのようなことを行うのかの概要をご説明します。M&Aの手法は、株式の取得と事業の取得に大別することができます。株式の取得としては、株式譲渡、株式交換、第三者割当増資が挙げられ、事業の取得としては、事業譲渡、合併、分割が挙げられます。以下、順に具体的な内容について見てみましょう。

▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと手続きの流れ
▷関連記事:水平型・垂直型M&Aとは?企業・事業のタイプで変わる戦略とシナジー効果

①M&Aの最も一般的な手法である「株式譲渡」

M&Aにおける株式譲渡前後の違い

「株式譲渡」は、会社を譲り渡す側(A社)の株主(株主A)が、譲り受ける側(B社)に対して50%超の株式を金銭等の対価と引き換えに譲渡することで、A社がB社に承継される手法です。これによりA社はB社の子会社となります。

中小企業では経営者などが自社の株式の大半を保有していることが多いため、一般に「会社は経営者が持っている」と思われていることが多いですが、法律的な観点では、株式会社は経営者のものではなく、出資をしている株主が保有しているといえます。

そのため、株式譲渡を実行した場合は、会社の所有者が変わるだけであり、会社に属する従業員や資産、契約などは全て承継されます。

株式の譲渡対価は企業価値の算出によって定めますが、企業価値を測るためには譲渡企業の将来性・収益性やM&Aによるリスクについて調査(デューディリジェンス)し、把握する必要があります。

なお、金融商品取引法上の株式公開買付け(TOB)規制の対象となる場合(買収対象会社が上場会社である場合など)には、所定の法定手続きを踏まなければいけません。

▷関連記事:株式譲渡とは?M&Aの手法におけるメリットや仕訳、税金・消費税の手続きについて
▷関連記事:M&A(企業買収)のリスクとは?売り手と買い手双方のリスクと対処法

②出資による財務基盤の強化として用いる「第三者割当増資」

「第三者割当増資」とは、譲渡企業(A社)が新たに株式を発行し、特定の第三者(B社)に株式を割り当てることを指します。A社はB社から出資を受けることにより、財務基盤を強化することができます。

公開会社の場合は、発行可能株式総数の範囲内であれば、原則として、取締役会決議によって新株の発行ができるため、比較的スムーズにM&Aを行えますが、一定の場合にA社議決権の10分の1以上を有する株主が反対の通知をしたときには、原則、株主総会の普通決議が要求されます。また、完全譲渡を希望する際には、第三者割当増資ではなく株式譲渡や株式交換の手法を用いる必要があります。

▷関連記事:資金調達の手法、第三者割当増資とは?株式譲渡との違いや注意点の紹介

③子会社化に用いる「株式交換」

M&Aにおける株式交換前後の違い

「株式交換」は、譲渡企業(A社)が譲受企業(B社)の100%子会社となる会社法上の組織再編行為を指します。

A社の株式を保有している株主A全員から、B社の発行済株式を対価として全株式を譲り受けるというM&Aの手法です。B社が上場企業の場合は、株主Aが譲渡対価として完全親会社となるB社の株式を受け取るケースもありますが、B社が未上場企業の場合には、現金で譲渡対価を受け取るケースが一般的です。

株式交換と株式譲渡との違いは、実施の決定に株主の同意が必要となる範囲が異なる点です。

株式譲渡の場合、A社を完全子会社とするためにはA社の株主全員の同意が必要です。これに対して、株式交換の場合は、原則としてA社の株主総会における特別決議(議決権の過半数以上の出席、出席した株主の3分の2以上の賛成が必要)によって、株式交換の実施が可能となります。

なお、令和3年3月1日施行の改正会社法では、株式交付という制度が新設されました。株式交付は、株式交換と類似していますが、B社の株式の全部ではなく一部を譲り受けてA社の子会社にできるという点で、株式交換と異なります。

▷関連記事:株式交換とは?メリットから株式交換比率、株価の変動と注意点までを徹底解説

④特定事業だけを譲渡する「事業譲渡」

事業譲渡の流れ

「事業譲渡」は、企業全体ではなく、特定の事業だけを譲渡する手法です。譲渡企業の経営者が一部の事業だけを譲渡したい場合や、譲受企業が赤字の事業を承継したくない場合などに利用されます。

法的には、特定の事業に関わる権利義務の譲渡となるため、譲り受けた資産についての対抗要件の具備や、債務の引き受けについての個々の債権者の承諾が必要です。さらに、各種契約の結び直しや許認可の再申請、従業員の再雇用などが必要となる場合が多く、手続きがやや複雑になりますが、譲渡の対象を特定事業に限定できる点や、事業譲渡実施後も経営者が譲渡企業の経営権を持ち続けられる点に利点があります。

▷関連記事:M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡との違いやメリット・デメリットを徹底解説
▷関連記事:事業譲渡と株式譲渡の違いとは?メリット・デメリットとM&Aの手法として判断するポイントを解説

⑤複数の会社を統合する「合併」

M&Aにおける吸収合併と新設合併の違い

「合併」は、複数の会社を1つの会社に統合することです。合併しようとする会社が全て消滅して、合併と同時に新しく設立する会社に消滅した会社の資産や権利を承継する「新設合併」と、既存の会社がほかの会社の資産や権利を承継する「吸収合併」の2つに分けられます。

合併では、吸収される側の法人格はM&A後に消滅します。

また、実務においては、新設合併は事業に必要な許認可の取得など手続きが複雑で、費用面でも不利になるため、吸収合併の方が多く活用されています。

▷関連記事:M&Aにおける合併とは?意味や手続き、種類の違いを解説

⑥企業再編として利用されることが多い「会社分割」

M&Aにおける新設分割と吸収分割の違い

特定の事業を承継させる方法としては、「会社分割」という方法もあります。
会社分割とは、譲渡企業の特定の事業をほかの会社に承継させる手法です。A社が特定の事業に関する権利や義務を、会社分割と同時に新しく設立する会社に承継させる場合を「新設分割」といい、既存の会社に承継させる場合を「吸収分割」といいます。

M&Aで新設分割を用いる場合、新設分割により交付された株式を譲受企業に譲渡するという方法があります。
もっとも、この手法は企業再編として利用される場合が多く、中小企業が事業承継するためのM&A手法としてはあまり一般的ではありません。

▷関連記事:会社分割とは?メリットから意味や種類、類型までを解説

M&Aの目的

M&Aを行う目的としては、事業承継が多いといわれています。少子高齢化や団塊世代の引退を背景にして、後継者不在によって廃業に追い込まれる中小企業が増加しています。

2021年の日本企業の後継者不在率は、帝国データバンクの『全国企業「後継者不在率」動向調査』によると61.5%にのぼり、深刻な社会問題となっていますが、この問題を解決する手法としてM&Aは非常に注目されています。

▷関連記事:M&Aの目的とは?買い手・売り手から見るそれぞれの目的について
▷関連記事:事業承継を成功させる方法とは?事業承継としてのM&A
▷関連記事:M&Aの課題と具体的な対策。中小企業のM&Aにおける懸念点とは?

M&Aのメリットとデメリット

ここでは、M&Aを行うメリットとデメリットについて、譲渡企業と譲受企業それぞれの立場から見ていきたいと思います。

譲渡企業のメリット

・事業基盤の強化
・創業者利益の確保
・従業員の雇用の継続
・技術やノウハウの承継

譲渡企業のメリットとして、まずは後継者不在の解決がまず挙げられます。後継者がおらず廃業を迫られる中小企業の経営者にとって、M&Aを行うことで廃業コストをかけずに引退することができ、また譲渡の対価を引退後の生活費として獲得することが見込めるのです。

さらに、経営者が引退した後も従業員の雇用を守ったり、今まで培ってきた技術やノウハウを承継できるのも大きなメリットといえるでしょう。

▷関連記事:【M&A後の経営者】事業承継をした経営者や社長は第二の人生をどう過ごす?

譲渡企業のデメリット

・最適な譲受企業が見つからない可能性
・M&A後の従業員と組織の問題
・取引先との関係性の変化

現在M&Aが盛んなこともあり、新規事業への参入や既存事業の拡大を目的にM&Aを検討する譲受企業は多く存在します。しかし譲渡企業は必ずしも希望の条件を全て満たす譲受企業と出会えるわけではありません。

また、M&A後に従業員が希望する労働条件で働くことができなかったり、譲受企業の社員や社風と合わないこともあります。そのためM&Aを実施する前に労働条件を確認したり、M&A成立後の両社の経営方針や業務ルール、社員の意識を融合するプロセスであるPMI(M&A後の企業同士の融合プロセス)をしっかりと行うことが重要となります。

▷関連記事:PMIとは?M&A成立後の統合プロセスについて株式譲渡を例に解説

譲受企業のメリット

・新規事業への参入
・既存事業の強化
・スケールメリット*1によるコストの削減
・技術、人材、ノウハウの獲得

譲受企業はM&Aを通じて既存事業を拡大したり、新規事業への参入を迅速に行うことが期待できます。本来、新規事業への参入や既存事業の強化には新しい技術の開発や新規市場の開拓、従業員の教育などが必要であり、金銭的、時間的コストがかかります。

そこでM&Aを活用することで、迅速かつ効率的に譲渡企業の人材や資源を引き継ぐことができるため、これらのコストを削減することができます。

また、事業規模を拡大することによって得られるスケールメリットを目的としてM&Aを行う事例も多く見られます。

*1 スケールメリット: 事業規模が拡大することで販売する
商品やサービスの1単位あたりの費用が小さくなること。規模の経済とも呼ばれる。

譲受企業のデメリット

・想定したシナジーが得られない可能性
・のれん代の減損リスク
・優秀な人材の流出

シナジーとは、複数の事業などを掛け合わせることで総和を超える効果を発揮する相乗効果のことです。一般的に譲受企業は、上述したスケールメリットなどのシナジーを期待してM&Aを行います。
しかしM&A成約後にPMIが上手くいかなかったり、人員が流出したりする場合には、見込んだ利益が得られない、もしくは得るまでに時間がかかってしまう可能性があります。

▷関連記事:M&Aの成功を左右する「シナジー効果」とは。種類や事例と評価方法を紹介

また、譲渡企業の純資産(簿価)と実際の買収価格の差額であるのれん代の減損リスクにも注意が必要です。
M&Aを行う際には、譲渡企業の資産を上回る譲渡額をのれんという形で計上することになります。

しかし予想したシナジーが生まれなかったり、優秀な人材が流出したりすることでM&A時ほどの企業価値はないと判断されると、のれん代を損失として計上する必要が出てきます。

▷関連記事:M&Aで必ず知っておくべき「のれん代」を徹底解説

M&Aの仕組みとは?企業買収の手法とその種類

企業買収の具体的な事例と成功の秘訣

企業買収の具体的な事例

楽天株式会社によるM&A


楽天株式会社は1997年に創立以来、多方面に渡って事業の展開を行い、その多くをM&Aによって獲得してきました。

2004年9月に株式会社あおぞらカード(現楽天カード株式会社)を買収してカード事業に参入し、2008年9月には株式会社オーネットを買収、結婚情報サービスを提供する「楽天オーネット」を開始しています。また2010年にはビットワレット株式会社のサービス「edy」を買収して、現在も続く「楽天Edy」サービスを提供しています。

楽天はクロスボーダーM&Aも積極的に行っており、2012年にカナダのKobo社を買収し、電子書籍市場へと参入しました。その他にも2014年にキプロスのバイバー・メディア社の無料メッセージングアプリViberを買収しています。

日本調剤株式会社による合同会社水野の子会社化


2016年9月、調剤薬局業界において売上第2位の日本調剤株式会社は、東京都文京区で調剤薬局を2店舗経営する合同会社水野の株式の一部を取得して子会社化しました。

日本初の調剤薬局であり、かつ近年も革新的な取組みを行ってきた合同会社水野ですが、後継者不足を理由にM&Aを行ったということで、業界に大きな衝撃を与えました。

譲受側である日本調剤は合同会社水野のICTを活用した効率的な店舗運営や、医療安全性向上への取り組みやノウハウを既存店舗に活用することで多大なシナジーが得られるとして買収を行いました。

▷関連記事:【2019年最新版】調剤薬局業界のM&A事例9選

M&A成功の秘訣

M&Aを成功させるためには、以下のことを意識することが重要です。

1. シナジー効果の創出


譲受企業のM&Aの目的の1つでもあるシナジー効果はM&Aの成功において重要なポイントです。シナジー効果を得るためには、事前にM&Aの目的を明確に定め、達成するためにはどのような事業内容や技術などが必要なのかを見極めることが大切です。

また、M&Aが成約したとしても、想定していたシナジーがPMIの準備不十分などによって発揮されない場合があります。異なる2つの会社の制度やシステムが混在すれば非効率な会社運営となってしまい、また社員の士気も低下しかねません。業務面と意識面の双方で譲渡企業と譲受企業の融合を進めていきましょう。

2. 相談先の選定


M&Aは会計や法律などの専門知識が欠かせないため、通常M&A仲介会社やアドバイザリー会社などに仲介を依頼します。基本的には専任契約を結びM&Aを進めていくことになるため、途中で依頼する会社を変更することは難しいことも多いです。そのため、複数社を比較検討した上で納得できる会社に依頼することが大切です。

まとめ

本記事では、M&Aの手法の概要、具体的な事例と成功の秘訣といった内容を解説しました。

M&Aの各手法の具体的なプロセスが複雑であることは否めませんが、その特徴と全体像だけでも把握しておくことで、最も適切な手法を選択し、M&Aの効果を最大限に獲得することが可能となります。
M&Aの仕組みを理解した上で、事業承継や成長戦略のためのM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。

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