新設分割 債権者保護

ある会社の事業を他の会社に承継させる方法の一つとして、会社分割があります。特に、新たな会社に事業を承継させたい場合には、会社分割の中でも新設分割といわれる手法が用いられます。

会社法ではさまざまな手続きを要求していることから、一つひとつが複雑な手続きを要求しているようにみえ、しかもそれを怠ると効果が無効とされたり、株主や債権者から差止めを受けるとされていることから、一見すると理解の敷居が高いとも思えます。しかし、全体としては複雑にみえる手続きも、その手続き一つをとってみるとそんなに複雑ではありません。

ここでは新設分割の全体の流れをみた上で、その手続きにおいて重要な債権者保護手続きについて詳しく解説していきます。

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この記事を執筆した専門家

M&A DA
弁護士 髙田 光洋

東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。
明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取扱う中島成総合法律事務所にて、一般企業法務、事業譲渡・民事再生等の企業再生事件等を中心に担当している。

新設分割とは?手続きの流れと債権者保護の必要性

新設分割とは会社の事業部門を新設する会社に承継させることをいいます(会社法(以下「法」)2条30号)。同様の手続きとして「吸収分割」があり、これは会社の事業部門を他の既存の会社に承継させることをいいます(法2条29号)。

新設分割と吸収分割のように会社の事業の全部または一部を他の会社に承継させるために、一つの会社を二つ以上の会社に分けることを、会社分割といいます。

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新設分割の流れ

新設分割の流れの概要は次のとおりです。

新設分割 債権者保護

債権者保護手続きの必要性

会社法上、一定の場合に実施することが定められている債権者保護手続きですが、なぜ実施しなければならないのでしょうか。

それは新設分割をすると、事業を分割して承継させる会社(以下「分割会社」)においては、事業を他の会社に承継させてしまいますから、分割後の分割会社の財産状況によっては、分割会社の債権者に影響を及ぼします。

債権者にとっては、あずかり知らない新設分割計画によって、分割会社に対する債権が分割会社か、または分割した事業を承継する会社(以下「新設会社」)かに振り分けられることは、不利益を与える可能性があるためです。

会社分割においては、不採算部門を分離して他の部門を生き残らせる手段として濫用される可能性があるため、不採算部門に振り分けられた債権者が大きな不利益を受ける可能性があるのです。

また、債務者となる会社の財産状態が悪くなかったとしても、多角的に事業を営んでいた会社が分割されると、各事業部門が相互に行っていたリスクヘッジの機能が失われ、債権者のリスクが増大するということも考えられます。

しかし、企業の譲受けなどのため会社分割の手続きを迅速に進めたいとの要請もあることから、会社法は異議を述べられる債権者を一定の者に限定しました。この点については後述します。

新設分割 債権者保護

債権者保護手続きの内容と注意点

では、どのような場合に債権者保護手続きをとらなければならないのか、そして、必要な債権者保護手続きはどのような内容であるかを具体的に解説していきます。

異議を述べられる債権者とは

上記で説明したとおり、会社法は新設分割によって債権者が負う不都合と、企業の譲受けなどの手続きの迅速化の要請とのバランスから、異議を述べられる債権者を限定しています。そこで、具体的に異議を述べられる債権者を見ていきます。

分割会社の債権者のうち会社分割後に分割会社に対し債務の履行を請求できなくなる債権者

新設分割計画の定めにより新設会社の債権者とされ、かつ、分割会社が当該債務について重畳的債務引受けや連帯保証を行わない場合には、新設会社による免責的債務引受けまたは債務者の交替による更改を受けることになり、債権者への影響が大きいため、当該債権者は異議を述べることができます。

つまり債務者が実質的に変わってしまい、もはやもとの債務者であった分割会社に請求できなくなる債権者が異議を述べることができるのです。

他方で、債権者が分割会社に対し債務の履行を請求できる(連帯保証も含みます)場合には、当該債権者は新設分割について異議を述べることができません。これは分割会社が新設会社から、移転した純資産の額に等しい対価を取得するはずだからです。つまり、財産状況が変わらないので債権者に不都合はないだろうから、異議を述べさせる必要がないという考え方です。

しかし、分割会社に対してのみ請求できる債務の債権者(以下「残存債権者」)を害する意図を持った会社分割が頻発したため、平成26年の会社法改正時に、分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合には、残存債権者は新設会社に対し、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求することができる旨の規定が設けられました(法764条4項)。

分割会社が分割対価である株式などを株主に分配する場合(人的分割・分割型分割)における分割会社の債権者

分割の効力が生じた日に、分割会社が新設会社から交付を受けた株式(株式に準じるものを含む(会社則178条・179条))を全部取得条項付種類株式の取得対価または剰余金の配当として分割会社の株主に分配する場合には、分配可能額による制約が課されません(法812条)。

そのため、この場合には分割会社の財産状態が変動しますから、先に述べた会社分割後に分割会社に対し債務の履行を請求することができる残存債権者も、新設分割について異議を述べることができます。つまり、最終的に新設会社の株式を分割会社の株主が取得するような分割(人的分割・分割型分割)の場合には、全ての債権者が新設分割に異議を述べることができます。

新設分割 債権者保護

債権者保護手続きはどのように行うのか

債権者保護手続きは次の事項を官報に公告し、かつ知れている債権者には各別に催告することにより、債権者に知らせなければなりません(法789条2項)。

  1. 新設分割する旨
  2. 新設会社の商号・住所
  3. 分割会社・承継会社の計算書類に関する事項として法務省令(会社則188条)で定めるもの
  4. 債権者が1ヶ月を下回ることのできない一定の期間内に異議を述べることができる旨

詳細は、後述します。

債権者保護手続きにおける異議の効果

債権者保護手続きにおいて、債権者が一定の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は新設分割を承認したものとみなされます。

しかし、異議を述べたときは、会社は新設分割をしてもその債権者を害する恐れがないときを除き、弁済をするか、相当の担保を提供するか、またはその債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社などに相当の財産を信託することを要します。

また、新設分割の場合には異議を述べることができる分割会社の債権者であって、各別の催告を受けなかった一定の者は、新設分割計画の定めにより債務を負担しない旨が定められた会社に対しても、その会社が会社分割の効力が生ずる日に有した財産の価額を限度として、その債務の履行を請求することができます(法759条2項・3項)。

この債権者は、下記の通りです。

  1. 官報公告のみが行われたときは、「知れている債権者」でないため受けなかった者を含む全ての各別の催告を受けなかった債権者
  2. 日刊新聞紙による公告または電子公告が行われた場合でも不法行為債権者であれば、「知れている債権者」でなかった者を含む全ての各別の催告を受けなかった債権者

債権者保護手続きが不要な場合と注意

すでに説明したとおり、債権者を害することがなければ、債権者保護手続きは不要です。つまり、上記の債権者保護手続きを行うべき債権者がいなければ、債権者保護手続きは不要になるわけです。例えば、一方当事会社が他方当事会社に対し併存的債務引受けをした場合や、連帯保証をした場合などです。

しかし、債権者保護手続きは、重要な手続きであり、この手続きをしなかった場合は、手続的な瑕疵があるとして無効訴訟を提起される可能性もありますから、その判断には十分な注意が必要です。

新設分割 債権者保護

官報公告・個別催告とは。活用時に知っておきたいこと

では、債権者保護手続きのスタートである、債権者への新設分割にかかる異議を述べることができる旨の連絡について具体的に見ていきます。まず、官報公告・個別催告で通知すべき事項について確認します。

  1. 新設分割する旨
  2. 新設会社の商号・住所
  3. 分割会社・承継会社の計算書類に関する事項として法務省令(会社則188条)で定めるもの
  4. 債権者が、1ヶ月を下回ることのできない一定の期間内に異議を述べることができる旨

債権者保護手続きの個別催告とは

債権者保護手続きにおいて、異議を述べることができる債権者がいるときは、知れている債権者に対し各別に催告をする必要があります。

知れている債権者とは債権者が誰であり、その債権がいかなる原因に基づくいかなるものかの大体を会社が知っている債権者をいいます。仮に会社がその債権の存在を争って訴訟中であったとしても、知れている債権者でないとは必ずしもいえません。

なお、実務上は少額の債権者には催告をせず、その債権者が異議を述べ、または訴訟を提起してきた場合に弁済することで対応するという例が多いようです。催告で記載すべき内容は官報に掲載する内容と同様であり、上記のとおりです。

この催告の方法については封書による郵送が一般的ですが、特段の定めはありません。しかし、催告が漏れてしまった場合には当該債権者から履行請求をされる可能性がありますから、催告を確実に行ったこと及び一定期間の経過が確認できる手段で行うべきでしょう。

個別催告の省略

分割会社が公告方法について、定款で時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙による公告または電子公告によりすると定めているときは、官報に掲載する方法での公告に加え、当該日刊新聞紙による公告または電子公告をすることで、各別の催告の省略をすることができます(法789条3項)。

これらの公告がなされることで、各別の催告がなくとも債権者に対する公示の機能は十分だと考えられるためです。

新設分割 債権者保護

債権者保護手続きの官報公告とは

異議を述べることができる債権者がいる場合には、会社はすでに指摘した事項について官報で公告しなければなりません。

官報公告を活用する上での注意点

官報公告を出す上で気をつけたいこととして、掲載までの日数があります。官報に掲載を依頼してから掲載までには、一般的に1週間から2週間程度かかります。そのため、スケジュールにもこの点を反映することが必要でしょう。

公告などを行うべき時期

また、公告などを行う時期については、会社法制定前は株主総会決議の日から2週間以内と定められていました。しかし、会社法にはそのような定めがないので、株主総会決議前に公告などを行い、株主総会決議後可及的速やかに行為の効力が発生するように計らうことも認められます。

まとめ

新設分割における債権者保護手続きの流れとその具体的な内容を見てきました。この新設分割における債権者保護手続きは、吸収分割における分割会社の手続きともほぼ同一です。

会社分割においては異議を述べることができる債権者の有無により、債権者保護手続きの要否が変わります。債権者保護手続きには1ヶ月以上の期間がかかり、コストもかかることから、省略したいと考えたくなることでしょう。しかし、上述したリスクもありますから、省略できるか迷われる際には、専門家に相談することをお勧めします。