業界毎の事例

2023/10/02

太陽光発電業界のM&A事例9選

太陽光発電業界のM&A事例9選

地球温暖化が進行し、国際的に環境問題が取り上げられている中で、太陽光や風力といった再生可能エネルギーへの注目が高まっています。2015年にはパリ協定が締結され、世界各国に2020年以降の温室効果ガスの削減量が定められました。

数ある再生可能エネルギーの中でも、太陽光発電は国の補助制度などが充実しており、現在急速に普及が進んでいます。実際、2017年度の国内の全発電量のうち5.9%を太陽光発電が占めており、電力需要に対する太陽光発電の割合は世界で5番目に高い値となっています。

本記事では、太陽光発電業界についての説明から業界動向、業界の課題について解説した上で、太陽光発電業界で行われているM&Aの特徴と、実際の事例について紹介します。

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太陽光発電業界とは?最新の業界動向

太陽光発電事業者は、主に余剰電力を電力会社などに売却する「売電事業者」、太陽光パネルなどの設置、施工を行う「施工事業者(太陽光発電設備施工業)」、「O&M事業者(管理メンテナンス事業)」の3事業に分けられます。

業界動向としては、2012年7月に政府による再生エネルギーの固定価格買取制度(FIT)などの支援策が導入されたことにより、太陽光関連市場は急速に拡大しました。しかし、新規参入する事業者の増加による競争激化や、買取価格も大きく引き下げられたことなどによって、多くの中小事業者にとって厳しい状況となりました。

そのため、太陽光発電関連事業者の倒産件数は年々増加傾向にあります。2018年度の太陽光関連事業者の倒産件数は過去最多の96件であり、2013年の16件と比較しても6倍に増加しています。

売電事業者は、2015年3月に廃止された特別一括償却制度の影響で倒産するケースが見受けられます。特別一括償却制度とは、設備取得額の全額を一括して償却することで、税金を将来に繰延べできるというものですが、税金負担自体がなくなるわけではないため、繰延べてきた税が重い負担となり、倒産するケースが増えています。

また、2017年4月に施行された改正FIT法では、設備を持たずに売電の認可だけを持つ事業者は設備工事を行い、発電を行わなければ認可が取り消されると規定しています。そのため、設備投資を行う余裕がない会社は制度変更への対応が難しくなりました。
さらに、メンテナンスを含む事業計画書の提出が必要となったため、メンテナンスを行ってこなかった中小事業者にとっては大きな負担となっていることも、倒産増加の一因となっています。

施工事業者とO&M事業者においては、FITの影響で新規参入する事業者が増加して競争が激化したことと、それに伴い工事単価が下がったことが事業者減少の要因となっています。

太陽光発電業界の市場規模については、富士経済によると、太陽光パネルの2018年度の市場規模が5,460億円の見込みであるのに対し、2030年には3,840億円になると見込まれており、太陽光パネルの市場は縮小していくと考えられています。
しかし、太陽光発電設備を用いた電力小売事業であるPPA(Power Purchase Agreement)モデルの国内市場規模は増加していくと見られており、2018年度の市場規模は前年度比6倍の12億円と見込まれています。また2030年度の市場規模は823億円と大幅に増加すると予測されています。

太陽光発電業界のM&Aの特徴

上記で挙げたように、競争激化や法律改正による収益の悪化、市場全体の縮小などを背景にM&Aの件数は増加傾向にあります。

売電事業者にとっては、FIT法の改正により売電権利だけを持つ会社やメンテナンスを行わない会社が存続できなくなるため、M&Aによる譲渡ニーズが高まっています。

新たに発電するための設備投資を行ったり、メンテナンス事業を開始することは、中小事業者にとって大きな負担であり、M&Aにより売電事業を譲渡する事例が多く見られます。譲受側にとっても、市場の価格よりも高い固定価格で電気を売却できる権利は魅力的であり、売電事業者の譲受けニーズは高いといえるでしょう。

また、近年は世界中で太陽光発電の需要が高まっており、日本企業の海外進出が相次いで行われています。特に大手総合商社は、海外で長く発電事業に携わってきた実績と、豊富な資金力を生かして積極的に事業展開を行っており、M&Aもその手段の1つとなっています。

同業種のM&A事例3選

1.株式会社レノバによる四日市ソーラー匿名組合事業の子会社化

2019年3月、株式会社レノバは持分法適用関連会社*1である四日市ソーラー匿名組合事業(以下、四日市ソーラー)の株式のうち62%を芙蓉総合リース株式会社より取得し、従来より保有していた株式38%と合わせて100%の株式を取得、子会社化しました。

レノバは太陽光・バイオマス・風力・地熱などの再生可能エネルギーの発電施設を開発・運営し、電力会社を通じて各家庭に電力を提供する売電事業を行う会社です。

子会社化以前から四日市ソーラー匿名組合事業を通して四日市ソーラー発電所を建設しており、2019年3月1日に営業運転を開始しています。四日市ソーラー発電所が運転を開始したことで、レノバは8ヶ所目の大規模発電所を保有することになりました。

この子会社化を通して、レノバは収益規模を拡大すると共に、発電事業者として今後も地域と共に発展を続けていくとしています。

*1 持分法適用関連会社:連結財務諸表上で、持分法を適用する対象となる関連会社のこと。会社の保有する議決権比率が20%以上50%以下の非連結子会社や関連会社が原則的に持分法適用会社となる。

2.株式会社ジー・スリーホールディングスによる永九能源株式会社の子会社化

2018年8月、株式会社ジー・スリーホールディングスは、永旺能源株式会社の子会社であり、太陽光発電事業を行う永九能源株式会社の株式を100%取得して子会社化しました。

ジー・スリーホールディングスは太陽光発電所の保有による電力会社への売電事業や、太陽光発電所の買取事業、太陽光発電運用会社への投資事業を行っています。永旺能源は、General Energy Solutions UK Limitedの完全子会社であり、再生エネルギー開発及び売電に関する事業を行なっています。

今回のM&Aは、永九能源が福岡県福津市に保有する太陽光発電所の取得を目的しています。今回取得した福岡県福津市の太陽光発電所の出力容量は5,000kWであり、このM&Aによってグループ全体の太陽光発電所の運営規模の合計は約16,307kW(キロワット)となる見込みです。

3. SBエナジー株式会社とMULエナジーインベストメント株式会社によるとまこまい勇払メガソーラー株式会社の全株式の取得

2017年3月、ソフトバンクグループのSBエナジー株式会社と、三菱UFJリース株式会社の子会社であるMULエナジーインベストメント株式会社は、総合商社の丸紅株式会社より、とまこまい勇払メガソーラー株式会社の全株式を取得しました。

SBエナジーは、2011年の東日本大震災を契機にソフトバンクグループが設立した会社であり、自然エネルギーに関わる事業を行っています。MULエナジーインベストメントは、親会社の三菱UFJリース株式会社が保有する太陽光発電用リース資産や発電事業者が保有する太陽光発電資産の運営管理や、発電事業の取得・売買・仲介事業を行っています。

とまこまい勇払メガソーラー株式会社が運営するとまこまい勇払メガソーラーは、北海道苫小牧市において2015年10月に運転を開始しており、出力規模が約2万9,800kW、年間予想発電量が約3,200万kWh/年を見込むメガソーラー発電所です。

このM&Aの後、SBエナジーとMULエナジーインベストメントが折半で出資参画する特別目的会社「とまこまい勇払ソーラーパーク合同会社」が同発電所を運営することとなっています。FITの買取価格が下がり続ける中で、既に認可を得て一定の発電実績がある発電所を譲受けることで、安定的な収益の確保が見込めると見られています。

異業種によるM&A事例2選

1.レカム株式会社による株式会社産電の子会社化

2018年12月、レカム株式会社は住宅用太陽光発電システム販売を行う株式会社産電の全株式を、ACAシナジー3号投資事業有限責任組合より取得して子会社化しました。

レカムは中小企業のお客様に対して情報通信機器の販売、設置工事、保守、インターネットサービスの販売を行う情報通信事業や、BPO事業*2、電気小売事業などを行う会社です。一方、産電は約30年間にわたり住宅用太陽光発電システムやオール電化システム、蓄電システムなどの環境に配慮した商品を販売から施工まで一貫して行っており、東北から関西間に10拠点を保有しています。

レカムは産電が行う太陽光発電システムや蓄電池などの販売事業を自社のグループに加えることで、環境関連事業をより拡大できるとしています。また、レカムは2018年9月よりベトナムでの事業も開始しており、今回のM&AでASEAN地域などでの太陽光発電システムの事業をより加速することが可能になるとしています。

*2 BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング): 自社の業務プロセスを外部企業に委託すること。

2.日成ビルド工業株式会社によるアーバン・スタッフ株式会社の子会社化

2018年7月、日成ビルド工業株式会社は、太陽光発電設備工事事業を行うアーバン・スタッフ株式会社の株式を取得して子会社化しました。

日成ビルド工業は、プレハブ建築事業と立体駐車場事業を中心に行う総合メーカーの会社です。一方、アーバンスタッフは、栃木県を中心に建設業を展開しているのみならず、太陽光発電事業分野にも進出し、自社で30ヶ所を超える太陽光発電設備を保有しています。

日成ビルド工業は、事業の多角化を通じて安定した収益基盤の確保を目指しており、太陽光事業への参入はその一環としています。また、太陽光発電事業分野に参画することで、グループの商品・サービスの広がり、ソリューション提案力の深みが増すとしています。

総合商社によるM&A事例4選

先述のように、近年は発電事業に強みを持つ大手総合商社が、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーによる発電事業に参入する事例が増えています。

また最近では、大規模な太陽光発電装置であるメガソーラーの活用ではなく、電力消費地に近い地域の太陽光発電施設を使って少量の発電をする、地産地消型の分散型太陽光発電事業が世界的に普及し始めており、この分散型太陽光発電事業を譲受ける事例も多く見受けられます。

1. 三菱商事株式会社によるSOLAR HOLDING S.R.L.の株式取得

2013年3月、三菱商事株式会社は官民ファンドの株式会社産業革新機構(以下INCJ)と共に、イタリアのSolar Holding S.R.L.(以下ソーラーホールディングス社)の株式を親会社のSolar Ventures S.R.L.(以下ソーラーベンチャーズ社)より取得しました。

三菱商事は株式のうち50%を、INCJは35%の株式を取得しており、三菱商事とINCJとソーラーベンチャー社の3社の合弁会社として運営します。

ソーラーホールディング社がイタリア国内に保有する太陽光発電所は19ヶ所(2013年3月当時)であり、イタリアの約2万世帯にクリーンな電力を供給しています。ソーラーホールディング社は、イタリアで再生可能エネルギーが導入され始めた初期段階から太陽光事業に参入し、これまでに10万kW以上の開発・運営実績を持っています。

イタリアは世界有数の日射量を誇る国であり、国内の電力需要のうち約7%を太陽光発電が占めるなど、国に奨励を受けて太陽光発電の活用が急速に増加しています。

三菱商事とINCJは、太陽光発電の先進国であるイタリアにて、日本企業がリードする大規模なプラットフォームを形成し、イタリアにおける発電事業の展開及びノウハウの蓄積を行っていくとしています。

2. 双日株式会社によるALTEN RE DEVELOPMENTS AMERICA社の子会社化

2017年8月、双日株式会社はオランダのAlten Renewable Energy Developments社より、子会社のAlten RE Developments America社(以下アルテン・アメリカ社)の株式のうち66.7%を取得して子会社化しました。

アルテン・アメリカ社を通じて保有する太陽光発電事業会社2社は、2018年9月までに、メキシコのアグアスカリエンテス州で、それぞれ180MW(メガワット)と168MWの太陽光発電所を建設しています。長期売電契約に基づいて同国の国営電力公社(Comisión Federal de Electricidad)の100%子会社に対して電力およびクリーン電力証書*3を販売する予定です。

双日は既に2015年にペルー、2017年にチリにおいてそれぞれ44MW、98MWの太陽光発電事業に参画しており、ラテンアメリカで関与する太陽光発電の総発電量は約500MWと、日本企業で最大規模となります。

*3 クリーン電力証書 : 一般的な売電収入とは別に、クリーン電力の発電量に応じて受け取ることができる収入の裏付けとなる証書。

3.住友商事株式会社によるオーストラリアのINFINITE ENERGY社の子会社化

2019年1月、住友商事株式会社は子会社のSummit Southern Cross Power Holdings社(以下SSCPH社)を通して、オーストラリアの分散型太陽光発電事業者であるInfinite Energy社(以下IE社)の株式を100%取得し、子会社化しました。

IE社の太陽光発電システムの販売シェアは、西豪州で第1位、豪州全体で第4位の実績を誇ります。また、太陽光発電システムや卸売電力市場より調達した電力を、既存の送電網を利用して販売する電力小売事業を展開しています。

IE社は高い顧客認知度・ブランド力に加えて、大手地場企業との戦略的パートナーシップを構築しており、幅広い業種との協業を通じた販売チャネルを有しています。

SSCPH社はオーストラリアに2つの発電所を有しており、西オーストラリアにおいて約30%の電力供給を担っています。このM&Aにより住友商事はオーストラリアにおける分散型太陽光発電・蓄電池供給事業を活用した電力小売事業のプラットフォーム構築に取り組むとしています。

また、住友商事グループが持つ豊富なビジネスラインのノウハウやネットワークを活用し、電力と他のビジネスを掛け合わせた新ビジネス領域の創造を目指しています。

4. 三井物産株式会社によるアメリカSUNEDISON社のCOMMERCIAL & INDUSTRIAL部門の譲受

2017年2月、三井物産株式会社はアメリカで産業・商業需要家向けに分散型太陽光発電事業の開発・運営を手掛けるSunEdison社のCommercial & Industrial部門(以下SunEdison社C&I部門)を譲受けし、新たに設立したForefront Power社に統合しました。

三井物産はIPP(独立系発電事業者)として世界各国で約11GW(当社持分発電容量)の発電資産を保有し、電力事業の開発・運営を展開しています。またSunEdison社C&I部門は、工場・商業設備の屋上や遊休地を利用した米国の分散型太陽光発電事業の先駆者として累計800MW超の実績を誇っています。

M&Aによって統合されたForefront Power社は、アメリカ国内外において分散型太陽光発電開発分野でリーディングカンパニーとなることを目指しています。また、三井物産が総合商社として世界各地に張り巡らされたネットワークを活かし、分散型太陽光発電事業のグローバルな事業展開を推進していくとしています。

▷関連記事:クロスボーダーM&Aとは?目的・メリットと成功のポイントから事例まで解説

まとめ

太陽光発電業界は国の政策の影響を受けやすい業界であり、近年は売電価格の低下や事業認定の条件の変更により業績が悪化したり、事業の継続が難しい会社が増えています。そのため、譲渡企業は収益確保を目的としてM&Aに踏み切ることが多々あります。

また、譲受企業は主に太陽光発電事業の規模を拡大したり、事業の多角化の1つとして太陽光発電業界に参入する、といった狙いがあります。

また、パリ協定で温室効果ガスの削減が各国に義務付けられていることもあり、世界的に太陽光発電の需要が高まっています。特に近年は地産地消型の分散型太陽光発電事業が注目されており、総合商社を始めとした大企業による投資やM&Aが積極的に行われています。

このように、国内外で太陽光発電事業に関わるM&Aが多く実施されており、この傾向は今後も続いていくでしょう。

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