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2023/09/15

株式譲渡制限とは?メリットと譲渡決議の承認フローを完全ガイド

株式譲渡制限とは?メリットと譲渡決議の承認フローを完全ガイド

株式とは、株式会社における出資者である株主の地位を細分化して、割合的地位の形にしたものです。また、株主が会社との間で有するさまざまな法律関係の総体(地位)を指すものでもあります。

そしてこの株式は、原則として自由に譲渡することが可能です(会社法(以下「法」)127条)。これは、投下した資本を回収するための手段でもあるからです。

しかし、中小企業のような閉鎖型のタイプの会社では、まったく関係ない者や対立関係にある者が株主になってしまうと、実質的に経営が困難になる場合があるため、人的な信頼関係にある者に株主を限定したい、とする要請があります。

このような要請に答えるために、会社法は、株式の内容として譲渡による当該株式の取得につき、会社の承認を要する旨を定めることができることとしました。このような株式を譲渡制限株式といいます。平成29年の中小企業庁の調査では、調査対象となった会社のうち、実に約76%もの会社が、株式の譲渡制限をつけているとされています。

発行する全部または一部の株式の内容として、譲渡制限をしていない会社のことを公開会社といいます(法2条5号)。つまり、一部についてのみ株式譲渡制限をしている会社も公開会社となります。対して、全ての株式に譲渡制限を定めている会社を、一般的に非公開会社、譲渡制限株式会社といいます。

ここでは、譲渡制限株式の定め方、内容、譲渡方法、会社の承認などM&Aの検討時に欠かせない知識を解説していきます。

髙田 光洋
この記事を執筆した専門家
弁護士 髙田 光洋
東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。 明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取り扱う中島成総合法律事務所を経て、あかつき総合法律事務所にて執務。一般企業法務、事業譲渡、民事再生等の企業再生事件等を中心に取り扱う。
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株式譲渡自由の原則

株式は、原則として自由に譲渡できます(法127条)。株式譲渡が原則的に自由なのは、株主が投下した資本を回収する方法として、会社の解散による残余財産の分配や、剰余金分配(配当)などの場合以外には、株式の譲渡によるしかないためと一般的にいわれています。

株主は出資した限度しか責任を負わないため、会社の債権者にとっては、会社の資本のみが債権の引き当てになるため、株主に対する出資の払い戻しは認められないからです。他方で、株式会社の株主たる地位は割合的単位である株式に細分化されるため、株主の個性は問題ならないことから、自由譲渡性を認めても支障はありません。

そのため、株主が当該会社から離脱しようと思っても、会社が当分解散する見込みがなければ残余財産の分配はできませんし、剰余金の配当だけでは当分の間投下した資本の回収ができないとなったときに、株式を譲渡する手段を残すことで、早期の投下資本の回収・離脱が可能になるのです。

株式譲渡制限とは?会社による規制を確認

上記でみたとおり、株式の譲渡は原則として自由です。他方で、会社としては、株主が保有する株式を誰にでも譲渡できてしまうと、会社の望まない人が経営に関与してきたり、所有関係が複雑になってしまうことがあることから、それらを防止する必要がある場合があります。

そのため、このような不都合がある場合には、株式を譲渡する際には、株主総会や取締役会などの承認を得ることを必要とするという「譲渡制限」を掛けることで、この不都合を回避できるのです。

譲渡制限株式とは

譲渡制限株式とは、株式の内容として、譲渡による株式の取得について株式会社の承認を要することを定めた株式をいいます(法2条17号、107条1項1号、108条1項4号)。

会社法では、譲渡制限を設けることを株式の種類とし、株式の種類ごとに譲渡制限を設けることを可能にしています。また、定款の定めにより、一定の場合には承認を要しないとすることや、譲渡による取得が承認されなかった場合の指定買取人をあらかじめ指定しておくことを可能にしています。

譲渡制限のない株式

 譲渡人 → 譲受人 

 ⇒自由に譲渡が可能

譲渡制限のある株式

 譲渡人 → 譲受人

 ⇒会社の承認が無ければ、譲受人は権利を会社に主張が出来ない

譲渡制限株式と名義書換

譲渡制限株式については、会社の承認がない限り、株主名簿の名義書換を請求することができません(法134条)。

しかしながら、譲渡制限株式について会社の承認を得ずに譲渡したとしても、譲渡の当事者同士では私法的に有効な譲渡とされています。譲渡制限とはあくまで会社に対して株主としての権利を主張できないということなのです。

株式の譲受人が株主の権利を会社に行使するには、会社によって株主名簿に自分の住所、氏名を記載してもらわなければなりません(法130条)。これを名義書換といいます。

この名義書換は、すでに株主名簿に記載されている株式譲渡人と、その譲受人が共同で会社に請求します(法133条2項)。名義書換がなされて初めて、譲受人は議決権を行使したり、配当を得たりすることができます(法130条)。

そのため、譲渡制限株式では会社の承認がない限り、株主名簿の書き換えを請求することができませんから、結局会社としては株主名簿に記載されている者を株主として取り扱えば足りることになり、譲受人は会社に対し権利の主張をすることができないのです。

▷関連記事:株式譲渡承認請求書とは?株式譲渡の記入例や手続きの流れを完全ガイド
 

譲渡制限を設ける方法

譲渡制限は、定款により定めることができます。

しかし、現在は譲渡制限を定めておらず、これから譲渡制限を新たに設けるためには、会社法に定める手続きをとる必要があります。株主にとっては、今まで自由に譲渡できるはずだった株式が、突然自由に譲渡することができなくなってしまうためです。

1種類の株式のみを発行する会社が譲渡制限を設ける場合

1.株主総会の特殊決議
2.効力発生日の20日前までの株主・新株予約権者に対する通知または公告
3.反対株主・反対新株予約権者による買取請求
4.株券発行会社の場合は株券提出公告及び通知

1種類の株式のみを発行する会社が譲渡制限を導入する場合には、株主総会の特殊決議(その株主総会において議決権を行使できる株主の頭数の半数以上および議決権の3分の2以上の賛成)が必要です(法309条3項1号)。

また、譲渡制限を設ける場合には、株式買取請求権および新株予約権買取請求権の適用があります(法116条1項1号、2号、118条1項)。適用がある株主および新株予約権者に対して通知または公告を行う必要があります(法116条3項、4項、118条3項、4項)。

株券発行会社が譲渡制限を設ける場合、効力発生日までに譲渡制限が設けられる種類の株式にかかる株券を提出しなければならない旨を、効力発生日の1ヶ月前までに公告し、かつ株主および登録株式質権者に対して各別に通知しなければなりません(法219条1個1項)。

譲渡制限は株券の必要的記載事項であるため、譲渡制限が設けられている旨が、記載された株券が代わりに交付されることになります(法216条3項)。

種類株式発行会社がある種類の株式について譲渡制限を設ける場合

1.株主総会の特別決議
2.譲渡制限を設ける種類株式およびこれを取得請求・取得条項の対価とする種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の特殊決議
3.効力発生日の20日前までの株主・新株予約権者に対する通知または公告
4.反対株主・反対新株予約権者による買取請求
5.株券発行会社の場合は、譲渡制限を設ける種類株式について株券提出公告および通知

種類株式発行会社について、ある種類の株式につき譲渡制限を設ける場合は定款変更にあたるため、株主総会の特別決議が必要です(法466条、309条2項11号)。

また、譲渡制限を設ける種類の株式の種類株主、譲渡制限を設ける種類の株式を対価とする取得請求の定めがある株式の種類株主、および当該種類の株式を対価とする取得条項の定めがある株式の種類株主を、構成員とする種類株主総会の特殊決議が必要となります(法111条2項、324条3項1号)。

なお、この場合には、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときに、種類株主総会の特別決議を必要とすることを定める法322条1項は適用されません(法322条1項1号柱書括弧書)。ただし、定款の変更に他の株式の内容の変更なども含まれる場合などは別です。

また、株式買取請求にかかる部分、および株券発行会社の場合の株券提出にかかる部分は、1種類の株式のみを発行する会社の場合と同様です。

譲渡制限の内容の変更・廃止の手続き

承認機関を変更するなど、譲渡制限の内容を変更する場合、または譲渡制限条項を廃止する場合は、定款変更のための株主総会の特別決議が必要です(法46条、309条2項11号)。また、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれのある場合は、種類株主総会の特別決議が必要になります(法322条1項1号ロ、324条2項4号)。

株主総会や種類株主総会の特殊決議は不要であり、株式買取請求権および新株予約権買取請求権の適用もありません。

譲渡制限を定める定款の記載例

複数種類の株式を発行していない会社における譲渡制限条項の記載例としては、取締役会を承認機関とするときは、「当社株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を要する。」とするのが一般的です。

また、会社法で認められている譲渡制限株式について、一定の場合には承認をしたものとみなし、承認を要しないものとする定め(みなし承認)を規定するときは、例えば株主に対する譲渡について承認を不要とする場合には、「譲受人が株主である場合においては、取締役会が法第136条または第137条1項の承認をしたものとみなす」と記載するのが一般的です。

譲渡制限がある株式譲渡の流れ

譲渡制限株式の譲渡までの大まかな流れについては、フロー図をご覧下さい。手続きの具体的な内容は、フロー図の下で解説します。

譲渡制限がある際の株式譲渡の手続きとその流れ

株式を譲渡するために会社に対し承認を請求する方法

譲渡制限株式を譲渡しようとする株主は、会社に対し、その譲渡を承認するか否かの決定をするよう請求することができます(法136条)。この請求は「株式譲渡承認請求書」と呼ばれる書面を会社に提出して行います。

株式譲渡承認請求書には、以下を記載する必要があります。

・株主が譲渡しようとする譲渡制限株式の数(株式の種類が複数ある場合には、その種類)
・譲り受ける者の氏名または名称
・会社が譲渡承認をしない旨の決定をする場合において、当該会社または指定買取人がその当該株式を買い取ることを請求 
するときは、その旨

会社における譲渡の承認・不承認の決議・承認機関

会社は、株式譲渡承認請求を受けて、取締役会の決議により譲渡承認をするか否かを決定します(法139条1項)。取締役会では、原則として取締役の過半数が出席、更に出席者の過半数が賛成することが必要です(法369条1項)。取締役会の非設置会社の場合には、株主総会の普通決議で決定することになります(法309条)。

また、会社は定款でこれと異なる定めをすることができます。例えば、取締役会設置会社において、承認機関を株主総会の決議にしたり、代表取締役にすることなども可能です。

譲渡の承認・不承認の決定の株主に対する通知

会社が譲渡承認をするか否かの決定をしたときは、譲渡承認請求をした株主に対し、結果の通知をしなければなりません(法139条2項)。

この点、承認請求の日から2週間以内にその通知をしなかったときは、仮に株式譲渡を不承認とする決議を行っていたとしても、譲渡承認を決定したものとみなされることになります(法145条1号)。

承認された場合

会社が譲渡の承認をしたときは、譲渡を実行し、株主名簿の書き換えを行い、譲渡の手続きは終了します。

不承認の場合

譲渡制限株式の場合、譲渡承認請求をしても認められないことがあります。この点、譲渡承認請求書で求めた譲渡の相手方に対する株式譲渡が認められないとしても、株主は譲渡することが一切できないわけではありません。

株式譲渡承認請求書に、会社が譲渡承認をしない旨の決定をする場合に、当該会社または、指定買取人がその株式を買い取ることを請求したときは、会社は、譲渡承認請求にかかる対象株式を買い取るか、または対象株式の全部もしくは一部を買い取る者(指定買取人)を指定しなければなりません(法140条1項、4項)。

この場合、指定買取人が対象株式の一部を買い取り、残りを会社が買い取ることを決定することはできますが、譲渡承認請求された株式の一部のみ譲渡承認し、残りの一部を会社や指定買取人が、買い取るという決定は認められないとされています。詳しくみていきます。

会社による買取の場合

譲渡承認請求を不承認とし、会社が自ら買い取る場合には、株主総会の特別決議で、対象株式を買い取る旨および、株式会社が買い取る対象株式の数(種類がある場合はその種類)を決議しなければなりません(法140条1項、2項、309条2項1号)。

※譲渡承認請求をした株主は、当該決議に利害関係を有していますから、議決権行使をすることはできません(法140条3項)。ただし、当該株主以外の株主全員が、議決権を行使することができない場合にはこの限りではありません(法140条3項ただし書き)。

売買価格については後で説明しますが、株主総会で決めるわけではありません。しかし、会社が自社の株式を買うのですから、自己株式の取得と同様に、株式買取の対価として交付する金銭などの帳簿価額の総額が、買取の効力発生日の分配可能額を超えることはできません(法461条1項1号)。

これに違反した場合は譲渡承認請求をした株主と、業務執行者(取締役等)に会社に対する責任が生じ得ます(法462条1項)。期末に欠損が生じた場合は、業務執行者は会社に対する責任が生じる可能性があります(法465条1項1号)から、注意が必要です。

会社自身が買い取ることを決定した場合は、譲渡承認請求をした株主に対して、当該決定した事項を通知しなければいけません(法141条1項)。

さらに会社は、この通知に先だって、1株あたりの純資産額に譲渡承認請求された株式の数を乗じて得た額を、会社の本店所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を譲渡承認請求した株主に交付しなければなりません(法141条2項)。この供託の前に株主に対して行った当該通知は原則として無効とされます。

この点、株主総会の特別決議で、会社が買い取ることを決定したにもかかわらず、会社が譲渡承認請求を不承認とした旨の通知を行ってから40日以内に、株主に対し、上記の会社が買い取る決定の通知・供託を証する書面の交付が行われなかったときは、譲渡承認を決定したものとみなされてしまうので注意が必要です(法145条2号、3号)。

つまり、譲渡承認請求がされてから、2週間以内に譲渡しない旨の決定・通知をして、更にその通知から40日以内に、会社が買い取ることを株主総会の特別決議で決定し、供託をし、通知と供託を証する書面を交付しないといけないのです。そのためにも、手続きの流れに関する知識は重要になります。専門家の助けも適宜借りるべきでしょう。

会社が株券発行会社である場合、譲渡承認請求した株主は、上記の会社の通知・供託を証する書面の交付を受けたら、1週間以内に、当該株式にかかる株券を会社の本店所在地の供託所に供託し、会社に通知しないといけません(法141条3項)。

1週間以内に株券を供託しなかったときは、会社は対象株式に関する売買契約を解除することができます(法141条4項)。

指定買取人による買取の場合

会社が指定買取人を指定する場合、取締役会の決議(取締役会非設置会社の場合には株主総会の特別決議)により、指定買取人を指定しなければなりません(法140条5項、309条2項1号)。

会社が買い取る場合と異なり、株主総会の特別決議で指定買取人をしている場合には、譲渡承認請求をした株主も議決権を行使することができます。

指定買取人が指定されたあとは、指定買取人は譲渡承認請求をした株主に対し、指定買取人になった旨、および指定買取人が買い取る対象株式の数(種類がある場合は種類)を通知します(法142条1項)。

この通知をする際には、指定買取人が供託し、供託を証する書面を株主に交付する必要があり、この通知を受けた株主はもはや撤回をすることができないこと、供託を証する書面の交付を受けた株主が1週間以内に株券を供託し、会社に通知しなければならない点、期限内に株券を供託をしなかったときは指定買取人は売買契約を解除することができる点は、会社が買い取る場合と同じです。

しかし、指定買取人の場合には、指定買取人が、会社が株主に対して譲渡承認請求を不承認とする通知を行った日から10日以内に、指定買取人が株主に対して行うべき通知、および供託を証する書面を交付しなかったときは、会社が譲渡承認を決定したものとみなされます。つまり、会社が買い取る場合には40日以内だったことが、10日以内とされているのです。

売買価格の決定

これまで譲渡請求をしてからの手続きの流れを概観してきましたが、譲渡承認請求が認められなかった(不承認となった)株主の関心事は、会社や指定買取人の株式の買取価格です。どのように決定されるのかを解説します。

協議

会社から会社または指定買取人が買い取ることの通知があった場合、売買価格は会社または指定買取人との協議によって定まります(法144条1項、7項)。

裁判所に対する申立て

株主は、会社または指定買取人から通知があった日から20日以内に、裁判所に対して、売買価格の決定の申立をすることができます。これは、協議を行わずにいきなり申立をすることも可能です。

裁判所による売買価格の決定は、DCF法、純資産方式、類似会社比準方式、取引先例方式収益還元法などにより、またはそれらの組み合わせにより算出されます。裁判所に対し、売買価格の決定の申立がなされた場合、裁判所が定めた額が、株式の売買価格となります(法144条4項)。

※株主に対する通知から20日以内に協議がまとまらず、また裁判所に対する申立がないときは、1株あたりの純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が、売買価格となります(法144条5項、7項)。

譲渡承認を受けずに譲渡制限株式を譲渡した場合

譲渡承認を受けずに譲渡制限株式を譲渡した場合、すでに上記「譲渡制限株式と名義書換」の項で説明したとおり、譲渡の当事者同士では有効な譲渡となります。つまり、譲渡人が譲受人に対し代金を請求し、譲受人は株券の交付を譲渡人に求めることができます。

しかし、譲渡制限株式については、会社の承認がない限り、株主名簿の名義書換を請求することができないため(法134条)、譲受人は会社に対し権利を行使することができないのです。

株式取得者からの承認請求

このような承認なく株式の譲渡を受けた譲受人(株式取得者)から、会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて、承認をするか否かの決定をすることの請求をすることもできます(法137条1項)。

株式取得者による譲渡承認請求は、原則としてその取得した株式の株主として株主名簿に記載・記録された者または、その相続人、その他の一般承継人と共同してしなければなりません(法137条2項)。

ただし、例外的に会社法施行規則24条の列挙の自由に該当する場合には、株式取得者が単独で譲渡承認請求を行うこともできます(法137条2項ただし書き、会社法施行規則24条)。

株式取得者からの承認請求の手続き

株式取得者からの承認請求は、譲渡制限株式を譲渡しようとする株主からの承認請求と同様に、株式譲渡承認請求書に記載すべき事項を明らかにして行わなければなりません(法138条)。その他の手続きについても、譲渡制限株式を譲渡しようとする株主からの承認請求と同様です。

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譲渡制限株式の相続人などに対する売渡請求

譲渡制限を定めていたとしても、相続などで一般承継される場合には、譲渡にあたらないため、会社の承認なく承継されます。

このような場合も、会社が望まない者が株主にならないよう、相続その他の一般承継により、譲渡制限株式を取得者に対し、相続人などの合意がなくとも、会社が当該株式を会社に売り渡すことを請求できる旨を定款に定めることができます(法174条)。

相続人などからの取得に際して、自己株式取得の例外を定めた法162条と異なり、このような定款の定めは、非公開会社に限られず、公開会社であっても譲渡制限について設けることができます。

なお、相続人などのうち、特定の者や一定の範疇に属する者を定款で明示したうえ、そのような相続人などに対してのみ、譲渡制限株式の売渡請求をすることも、その定めが明確である限り可能であるとされています。

また、これは相続などが生じた後であっても、会社は譲渡制限株式の相続人などに対する売渡請求に関する定款の定めを新たに設ける旨の定款変更をしたうえで、当該相続などにかかる相続人などに対して売り渡しを請求することも可能であるとされています。

このような定款の規定例としては「当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる」とすることが考えられます。

売渡請求の手続き

会社は、定款の定めにもとづき譲渡制限株式の相続人などに対して売渡請求をしようとするときは、その都度、株主総会の特別決議によって、次に掲げる事項を定めなければなりません(法175条1項、309条2項)。

・売渡請求をする株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)
・売渡請求をする株式を有する者(相続人など)の氏名または名称

売渡請求

会社は、株主総会の特別決議により売渡請求をする株式の当該株式を有する相続人などを定めたときは、当該相続人などに対し、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内に限り、売渡請求をする株式を会社に売り渡すことを請求することができます(法176条1項)。

売渡請求は、その請求にかかる株式の数を明らかにしてしなければなりません(法176条2項)。

譲渡制限株式についての売買契約は、売渡を求める会社の意思表示がその相手方である相続人などに到達した時点で成立します。株式会社は、いつでも売渡請求を撤回することができますが(法176条3項)、撤回が可能なのは、売渡の効果が生じる前に限られます。

売買価格の決定

相続人などに対する売渡請求があった場合、売買価格は、会社と相続人などとの協議によって定められます(法177条1項)。

また、会社または相続人などは、売渡請求の日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立をすることができます(法117条2項)。この点、協議を行わずに裁判所への申立を行うことも可能であるとされています。

裁判所は、会社の資産状態その他の一切の事情を考慮して売買価格を決定し、決定があった場合には、当該価格が売渡請求にかかる株式の売買価格になります(法177条3項、4項)。

20日以内に会社と相続人などとの協議が調わず、かつ裁判所に対する売買価格の決定の申立もされないときは、売渡請求は効力を失います(法177条5項)。

株式を取得した場合、会社は株主名簿記載事項を株主名簿に記載・記録しなければなりません(法132条1項2号)。

まとめ

譲渡制限のある株式を譲渡するためには、取締役会などの承認が必要となります。承認を受けずに譲渡してしまうと、譲受人が会社から株主として認めて貰えず、契約の解除や損害賠償を請求されてしまったりする可能性もあります。

特に譲渡制限を後から設ける場合や、譲渡の承認を請求された場合には、会社がとらなければならない手続きが細かく法定されています。手続きなどに不明な点がある場合には、必要に応じ、専門家に相談された方がよいでしょう。

※この記事は執筆当時の法令等に基づいて記載しています。

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