M&Aのいち手法である「株式交換」とは、株式を100%取得することで譲渡会社を譲受会社の完全子会社とする手法を指します。このとき、譲渡会社の株主は完全子会社となる会社の株式を譲り渡す代わりに、対価として親会社の株式もしくは現金等を取得します。このとき、親会社の株式と子会社の株式をどのような比率で交換するかを決める必要があり、この比率を「株式交換比率」といいます。

株式交換比率を公正に決めるためには、企業価値評価(バリュエーション)という手法を用いて株価を算定する必要があります。本記事では株式交換比率の決め方と算定方法、株式交換後の株価の変動傾向について解説します。

株式交換比率とは

株式交換比率とは、「譲渡会社を完全子会社化する際、譲渡会社の株式と譲受会社の株式を交換する比率」を指します。株式交換を行うと譲渡会社の株式を100%取得することになるため、実施後には譲受会社は完全親会社、譲渡会社は完全子会社になります(以下、譲受会社を完全親会社、譲渡会社を完全子会社として解説します)。例えば、完全親会社の株2株に対し、完全子会社の株が1株という形で株式交換比率を定めます。

▷参考URL:株式交換とは?メリットから株式交換比率、株価の変動と注意点までを徹底解説

株式交換比率の決め方

株式交換比率は、基本的に完全親会社と完全子会社の交渉により決定します。具体的には、双方の会社の規模や株式価値、発行済株式数などを総合的に判断した上での交渉になります。比率を決める上で最も重要になるのが、完全親会社と完全子会社の一株あたりの株価の算定です。株価を算出せずに比率を決めてしまうと、どちらか一方が損失を被ることになってしまいます。

そのため、まずは専門知識を持った第三者機関により株価を算定した上で、両社の協議により最終的な株価を算定し、その後に比率を決定する交渉を行います。実際には完全親会社が株式を取得する確率を上げるために、完全子会社の株式にプレミアム(株主に株式の売却を促すために加える買取価格の割増分)を乗せることが一般的です。

なお、比率や株式交換自体に公平性が確認できない場合は、無効であるという訴え(無効確認訴訟)を主張する権利が両社にあります。

株式交換比率・株価の算定方法

株式交換比率を決める上で、株価を明確にする必要があります。完全親会社と完全子会社が上場企業であれば株価が公表されていますが、どちらかが非上場企業の場合には、企業価値評価(バリュエーション)という手法を用いて株価を算定しなければなりません。

まず企業価値評価を理解する上で、「企業価値」と「株式価値」の違いについて理解する必要があります。企業価値とは「企業の魅力を貨幣価格で表したもの」になります。ここでいう「企業の魅力」とは「その企業が将来に渡って生み出すキャッシュフローを現在の価値に換算した金額」を意味します。一方で、株式価値とは「企業価値から有利子負債を控除し、現預金を加えた金額」になります。

企業価値評価には複数のアプローチが存在しますが、各アプローチによってどちらを算出できるかは異なります。株式交換比率を決める上ではどのアプローチも活用できますが、必ず株式価値に直すことは忘れないようにしてください。

本記事では、各アプローチおよび手法の概要について説明します。具体的な計算は、各項目の最後に「参考記事」として掲載している記事にて解説していますのでご参照ください。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、「株式市場やM&A市場における取引価額を基準に株式価値を算定するアプローチ方法」です。具体的な手法としては、「市場株価法」や「類似企業比較法」、「類似取引比較法」が挙げられます。

市場株価法は、上場企業向けに活用される手法です。株式市場にて公表されている株価を基に算出します。1〜3ヶ月間の毎日の終値を平均した値が評価額となります。

類似企業比較法は類似した上場企業の財務指標を、類似取引比較法は類似した会社の実際の取引価額を基準にする手法です。

マーケットアプローチには他社の事例を活用するため客観的な値を算出できるというメリットがあります。一方で、似た会社や取引事例を探すのが困難といったデメリットもあげられます。

▷参考記事:企業価値評価の一つ、マーケットアプローチとは?よく使われる計算方法やシミュレーションも解説

インカムアプローチ

インカムアプローチは、「今後見込まれる収益やキャッシュフローから、リスクなどを考慮して企業価値を算出するアプローチ方法」です。代表的な手法に「DCF法」があげられます。

DCF(Discounted Cash Flow)法は、将来的に見込まれるキャッシュフローから、リスクの大きさに合わせて設定した割引率(将来的な価値を現在の価値に直すための利子率)で割引く手法です。そのため、事業計画を作成した上で、キャッシュフローの予測を立てる必要があります。また、将来の会社の収益獲得能力を企業価値に反映させやすく、会社独自の収益性等をもとに価値を測定することから、会社が持つ将来の収益獲得能力や固有の性質を評価結果に反映させられるメリットがあります。

▷参考記事:【徹底解説】企業価値評価の手法の一つ、インカムアプローチとDCF法の計算方法を解説

コストアプローチ

コストアプローチは、「会社の資産および負債を基に株式価値を算定するアプローチ方法」です。帳簿上の数値を基にして計算するため、客観性に優れていることが特徴です。代表的な手法には「簿価純資産法」、「時価純資産法」、「時価純資産+営業権」があります。

簿価純資産法は、帳簿上の純資産額を株式価値とみなす手法です。帳簿上に記載された資産の合計から負債の合計を差し引いて算出します。しかしあくまで帳簿上の値のため、資産・負債の現在における市場価値を反映していません。

時価純資産法は、帳簿上の資産や負債を時価で評価し直し、時価純資産額を算出します。市場価値を反映するものの、将来の収益力は一切評価されていません。

時価純資産+営業権では、修正された時価純資産に営業権を加算して株式価値を算出します。営業権とは、企業が長年培ってきたブランド力や人的資源など、帳簿上で評価できない要因によって期待される超過収益力のことです。時価純資産に営業権を加算することで、将来の収益力を考慮した株式価値を算出できます。

▷参考記事:【図解付き】企業価値評価におけるコストアプローチとは?メリット・計算方法・他の方法との違いを解説

交換比率発表後の株価

株式交換を行うのが上場企業の場合、株式交換を行う旨を公表すると、株価に影響が及びます。投資家の期待によっては公表直後、株価が上下する可能性があります。

完全子会社の株価は上昇する傾向にあります。これはグループ化により完全親会社とのシナジーが期待されるためです。

また、株式交換が公表され、実施が確定的になると、株価は交渉によって決められた交換比率に収まっていきます。例えば、株式の交換比率が、完全親会社:完全小会社=1:2に決まったとします。公表日の前日の株価が、完全親会社300円、完全子会社150円だったとしましょう。このとき、株式交換が公表されたことにより、完全親会社300円、完全小会社600円という風に1:2の比率に近づいていきます。ただし、必ずしも一定価格に定まるわけではなく、この場合ならば600円前後を動く傾向にあります。

どちらの株価が動くかは、株式の時価総額(株価×発行済株式数)の大きさによって左右されます。一般的には、株式交換においては完全親会社の方が時価総額が大きいため、親会社の株価に合わせて、完全子会社の株価が上がる傾向にあります。

▷参考記事:譲渡企業側こそ意識しよう。企業選定で欠かせないポイント「シナジー効果」とは

まとめ

株式を100%取得し、完全子会社化する株式交換はM&Aではよく活用されています。一方で、完全親会社が株式の対価としてどれくらいの株式を交換するかを決めるためには、企業価値評価の各種アプローチと手法を理解しておく必要があります。また、上場企業においては株式交換の発表は株価に影響を与えるため、注意して実施を検討すべきです。株式交換を行う上ではこれらの知識を最低限身につけておきましょう。