吸収合併消滅会社

会社が行う組織再編行為は、対象会社の法人格そのものに着目した取引である「株式譲渡」「吸収合併」「株式交換」「株式移転」などと、対象会社の法人格そのものではなく、対象会社の事業に着目した取引である「事業譲渡」「吸収分割」「資産譲渡」「事業に関する個別の権利義務のみを取引の対象とする場合」などに分類することができます。

吸収合併は、このうち、対象会社の法人格そのものに着目した取引になります。

本記事では、吸収合併において、吸収され消滅する会社(吸収合併消滅会社)に着目して、手続きや決算、公告などのポイントを解説していきます。

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この記事を執筆した専門家

吸収合併 消滅会社
弁護士 髙田 光洋

東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。
明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取扱う中島成総合法律事務所にて、一般企業法務、事業譲渡・民事再生等の企業再生事件等を中心に担当している。

吸収合併における消滅会社と存続会社

合併は、2つ以上の会社が、法定の手続きにもとづき1つの会社になることです。合併には、合併により存続する会社を新しく設立する新設合併と、既存の会社を存続させ、消滅する会社の一切の権利義務を承継する吸収合併の2つがあります。

実務上は、会社が合併を行う場合、圧倒的に多くの場合で利用されるのは吸収合併です。新設合併では、新設会社が新しく免許を取得する必要があったり、証券取引所への上場は新規上場の扱いとなったり、新株券との交換や財産移転登記、登録手続きなどで吸収合併よりも多くの費用が掛かるためです。

そのため、経済的なパワーが同等の会社が対等に合併する場合においても、ほとんどが吸収合併を行います。そして、吸収合併後に立場を考慮して対等な商号に変更するのです。

合併は2つ以上の会社が統合して1つの会社になる、団体法上の特殊な契約であり、会社財産の包括的な承継が行われ、消滅会社とその従業員の間の労働契約も存続会社に引き継がれ、消滅会社は、当然に解散し、清算手続きを経ないで消滅します。

吸収合併においては、他の会社を吸収して存続し続ける会社を「吸収合併存続会社」(以下、存続会社)、吸収されて消滅する他の会社のことを「吸収合併消滅会社」(以下、消滅会社)といいます。

吸収合併消滅会社
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吸収合併の消滅会社が行うべき手続き

ここでは吸収合併の手続きの流れを解説していきます。

吸収合併における存続会社と消滅会社における手続きの大まかな流れは、次の通りです。

吸収合併消滅会社
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合併契約書の作成・締結

吸収合併を行う際には、吸収合併の当事会社間で、合併契約を締結しなければなりません(会社法(以下、法)748条)。

吸収合併契約においては、必ず定めなければならない事項が法定されていて(法749条1項(以下、法定記載事項))、吸収合併の手続きにおいて当該法定記載事項を記載した書面を株主や債権者の保護のために備置する必要があります(法782条1項、法794条1項)。

そのため、吸収合併には吸収合併契約書を必ず作成する必要があります。

合併契約の締結には、取締役会設置会社では取締役会の決議(法362条4項)、取締役会非設置会社では原則として、取締役の頭数の過半数の決定(法348条2項)をもとに、当事会社の代表取締役または代表執行役が会社を代表して締結することが必要です。

そして、その合併契約について、株主総会の特別決議を経る必要があります。吸収合併契約に関しては、下記の記事をご参考ください。

▷関連記事:合併契約書で押さえておくべき5つのポイント!契約の記載事項から締結後の修正の要否、印紙までを解説

また、株主総会の要否については、下記の記事をご参考ください。

▷関連記事:合併時の株主総会で承認が必要なケースや必要書類を弁護士が解説

反対株主の株式買取請求など

合併をする場合には、この合併に反対する当事会社の株主は、消滅会社・存続会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で、買い取ることを請求することができます(法785条1項、法797条1項)。この株式買取請求をすることができる株主のことを「反対株主」といい、以下の株主が該当します。

  • 合併をするために株主総会の決議を要する場合には
  • (1)株主総会に先だって合併に反対する旨を会社に対し通知し、かつこの総会において、合併に反対した株主
    (2)この株主総会において議決権を行使することができない株主

  • 株主総会の決議を要しない場合には、全ての株主(特別支配会社を除く)

反対株主の買取請求は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに、その買取請求にかかる株式の数を明らかにして、しなければなりません(法785条5項、法797条5項)。

また、株式買取請求をした株主は、会社の承諾を得なければその買取請求を撤回することができません(法785条7項、法797条7項)。ただし、会社が合併を中止した場合には、買取請求は失効します(法785条8項、法797条8項)。

買取価格は、合併により企業価値が増加しない場合の、合併をしなければ当該株式が有したであろうと認められる価格に限られず、企業価値が増加する場合には、合併についてのシナジー効果も含んだ「公正な価格」とされています。

価格の決定は、株主と会社の協議が調ったときは、会社は効力発生日から60日以内に、支払いをしなければなりません(法786条2項、法798条2項)。

効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主または会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立をすることができます(法786条2項、法798条2項)。効力発生日から60日以内に価格の決定の申立がないときは、その期間終了後は、株主はいつでも株式買取請求を撤回できます。

なお、会社は株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、当該会社が公正な価格と認める額を支払うことができます(法786条5項、法798条5項)。

吸収合併消滅会社

債権者保護の手続き

債権者保護手続きの内容

債権者保護手続きの始期については特段の定めはありません。

他方で、債権者が異議を述べる期間として最低1ヶ月を確保することが要求されています(法789条2項、法299条2項)。合併の効力を発生させるには、次の(1)~(3)までの債権者保護手続きを、少なくとも効力発生日前に完了しておく必要があります(法750条6項)。

  1. 公告
  2. 個別催告
  3. 債権者に対する弁済など

債権者手続きの具体的な手順など

(1)公告

会社法が定める事項を官報をもって公告します(法789条2項、法799条2項)。公告の内容は次のとおりです(法789条2項・法799条2項)。

  • 吸収合併をする旨
  • 合併の相手会社の商号および住所
  • 当事会社の計算書類に関する事項として法務省令(法施行規則188条、法199条)で定めるもの
  • 一定の期間内に異議を述べることができる旨(1ヶ月以上)

なお、公告は当事会社が共同で行うことも考えられます。

(2)個別催告

官報による公告以外に知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならないとされていますので、公告と同様の法定事項を債権者に催告します。

催告の方法は、実務的には普通郵便によるハガキまたは封書による例が多いようです。催告の期間は1ヶ月を下回らない一定の期間をとる必要があり、また、催告については到達主義(通知を発送したときではなく、到達したときにその効果が発生する)とされていることから、郵送期間も加味することになります。

(3)債権者に対する弁済など

債権者が異議を申述したときは、会社は債務を弁済するか、相当の担保を提供するか、弁済に充てる目的で信託会社に相当の財産を信託しなければなりません(法789条5項、法799条5項)。ただし、合併が当該債権者を害するおそれが無い場合は、この限りではありません(法789条5項ただし書き、法799条5項ただし書き)。

吸収合併の登記に際しては、吸収合併をしても当該債権者を害するおそれがないことを証する書面を添付する必要がありますが(商業登記法80条3号)、おそれがないと判断するケースはまれです。

なお、債権者が一定の期間内に異議を述べなかったときは、当該吸収合併を承認したものと見なされます(法789条4項、法799条4項)。

より詳細な債権者保護手続きについては、以下の記事をご参考ください。

▷関連記事:合併時の債権者保護手続きの手順は?個別催告の省略方法も弁護士が解説
 
吸収合併消滅会社

合併契約書などの事前の備置

消滅会社の場合

事前の備置

消滅会社は、吸収合併契約などの備置開始日から、求償合併がその効力を生ずる日までの間、合併契約などの内容、その他法務省令(会社法施行規則182条)で定める事項を記載・記録した書面・電磁的記録を本店に備え置かないといけません(法782条1項)。

そして、消滅会社の株主・債権者は、会社に対し、その営業時間内はいつでもこれらの書面・電磁的記録の閲覧、またはその謄本・抄本の交付・提供などを請求できます。

この事前の備置は、株主が株主総会で合併に反対するかどうか、株式買取請求権を行使するかどうか、債権者が合併に異議を述べるかどうかの判断材料を提供するものです。

備置開始日

備置開始日は、下記のいずれか最も早い日です(法782条2項 1号ないし4号)。

  1. 合併契約について株主総会決議によって承認を受けなければならないときは、その株主総会の日の2週間前の日
  2. 反対株主の株式買取請求にかかる通知、または広告のいずれか早い日
  3. 新株予約権買取請求にかかる通知または広告のいずれか早い日
  4. 債権者異議手続きをしなければならないときは、公告または催告のいずれか早い日
事前の開示の対象

事前に開示すべき対象として定められている事項は次のとおりです(会社法施行規則182条)。

  1. 合併対価の相当性に関する事項
  2. 合併対価について参考となるべき事項
  3. 吸収合併にかかる新株予約権の定めの相当性に関する事項
  4. 計算書類などに関する事項
  5. 吸収合併が効力を生ずる日以後における吸収合併存続会社の債務の履行の見込みに関する事項
  6. 備置開始後(1)から(5)までの事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項

存続会社の場合

存続会社は、備置開始日から合併が効力を生ずる日の後6ヶ月を経過する日までの間、合併契約の内容、その他の法務省令(会社法施行規則191条)で定める事項を記載・記録した書面などを備え置き、株主・債権者の閲覧などに供しなければなりません(法794条)。

備置開始日は、消滅会社の場合の(1)(2)(4)のいずれか早い日となります(法794条2項)。

株主総会

当事会社は上記の合併契約を締結後、上記の事前の備置をしなければなりません(法782条、法794条)。当事会社はこれらの情報の備置を前提として、株主総会を開催し、上記合併契約の承認を得なければならないのです。

消滅会社の場合

消滅会社は効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、吸収合併契約の承認を得なければなりません(法783条1項、法309条2項12号)。消滅会社が書面投票・電子投票を行う場合には、株主総会参考書類には当該合併を行う理由、合併契約の内容の概要などを記載しなければなりません(会社法施行規則86条)。

存続会社の場合

存続会社は効力発生の前日までに、株主総会の特別決議によって吸収合併契約の承認を受けなければなりません(法795条1項、法309条2項12号)。存続会社が書面投票・電子投票を行う場合には、株主総会参考書類には消滅会社の場合と同様の事項を記載しなければなりません。

また、承継する消滅会社の資産に存続会社の株式が含まれている場合には、取締役は株主総会で、当該株式に関する事項を説明しなければなりません。

効力の発生・合併の登記

合併契約にもとづき、効力発生日に、存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継します。

ただし、吸収合併においては、効力発生日と登記の日が異なりうることから、その間の法律関係が不明確になる可能性があるため、消滅会社の吸収合併による解散については、吸収合併の登記の後でなければ、これをもって第三者に対抗することができないとしています(法750条2項)。

吸収合併の登記は、効力発生日から2週間以内に、その本店所在地において消滅会社は解散登記をし、存続会社は変更の登記をしなければなりません(法921条)。

吸収合併消滅会社

吸収合併消滅会社の決算と承認

吸収合併においては、消滅会社の財産・債務は存続会社に包括的に承継され、消滅会社の株主は存続会社の株主などとなり、消滅会社は清算手続きを経ないで消滅します。

では、消滅会社は清算手続き以外にどのような手続きを行う必要があるのでしょうか。

吸収合併消滅会社の決算

効力発生日に消滅会社の権利義務を包括的に存続会社が承継することから、消滅会社は、吸収合併の効力発生日の前日を決算日とした決算を行うことになります。吸収合併の効力発生日の前日を決算日としますから、この決算には合併自体の会計処理は発生しません。

法人が事業年度の中途において合併により解散した場合には、「その事業年度の開始の日から合併の日の前日までの期間」をひとつの事業年度とみなすこととされています。

なお、吸収合併と新設合併の場合には、当該「合併の日」が異なります。

すでに述べたとおり、吸収合併を行う場合は、合併契約書に効力発生日を定めることとされ、吸収合併存続株式会社は、その効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継することとされています。

他方で、新設合併を行う場合は、その効力の発生は新設法人の成立の日(登記の日)とされるとともに、新会社はその成立の日において、新設合併消滅会社の権利義務を承継することとされています(法754条)。

このような会社法の規定を前提とすれば、法人税法上の「合併の日」についても、会社法との整合性を図る必要があり、これについて定めた通達では、「合併の日」とは、吸収合併にあっては効力発生日とし、新設合併にあっては新設合併設立法人の設立登記の日とすることとしています。

吸収合併消滅会社の決算公告

株式会社は、決算にかかる貸借対照表(大会社では貸借対照表および損益計算書)を、公告しなければなりません(法440条)。

また、株式会社計算書類を作成したときから10年間、その附属明細書とともに保存しなければなりません(法435条4項)。

消滅会社の場合、これらはどのように扱われるのでしょうか。一般的に実務上では存続会社が公告し、保管しています。これは存続会社が消滅会社の権利義務を承継する、ということからも妥当と考えられます。公告に関しては、存続会社が消滅会社から委任状をもらっておくということも考えられます。

まとめ

これまで吸収合併における消滅会社の手続きなどについてみてきました。重要なポイントとしては、吸収合併において消滅会社の権利義務は存続会社に包括承継されるという点にあります。

つまり、消滅会社における債権債務関係などのみならず、書類の保管義務なども存続会社は引き継ぎますから、注意が必要です。

吸収合併の手続きについては、具体的な吸収合併に即した内容で進める必要がありますため、弁護士やM&Aアドバイザーなどの専門家に相談しながら進めるべきでしょう。