機械業界 M&A

近年、機械業界は分野によって市場動向にばらつきがみられますが、業界としては今後も緩やかな増益傾向が見込めまれています。しかし、国内外の政治や経済事情に影響されやすいため、先行きは不透明であるといわれています。

また、官民一体となってインフラの輸出促進を行っていることなどから、中東やアジアといった新興国を市場のターゲットにする動きが高まっています。

このような状況を受け、多くの企業がグローバル化を目的として海外の企業とのM&Aを行ったり、事業の強化、多角化を目的としてM&Aを行っています。

本記事では、機械業界の現状や市場動向について解説したうえで、機械業界で実際に行われたM&Aの事例についてご紹介していきます。

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機械業界の現状と市場動向

業界動向サーチによると、機械業界の2017年度の市場規模は30兆9,106億円となっており、前年比+3.4%と増加しています。市場規模の過去10年の推移を見ても、2007~2009年はリーマンショックの影響などにより減少するなど、多少の増減はありますが業界全体としては増加傾向にあります。

機械業界は主に、「建設機械」「工作機械」「産業機械」「造船」の4つの分野に分けられます。また、日本企業による海外輸出が盛んなことから、それぞれ4つを海外需要と国内需要の2つの指標からみることができます。

国内では熟練労働者の減少や人件費の高騰、さらにはAIの急速な発展もあり、製造現場では人の手から高度な機械への置き換えや、IoT化が進みつつあります。

海外需要に目を向けると、2009年のリーマンショックの際に大きな影響を受けました。近年は回復傾向にありますが、2019年は米中の貿易摩擦の影響などもあり、減益となった分野もあります。

2019年度の市場動向を分野ごとにみると、工作機械は米中貿易摩擦による設備投資停滞の影響を受け減益の見通し、造船は前年比に比べて増加するものの、依然とした船腹過剰の状態のため、低水準の状態とみられています。

建設機械は資源価格の上昇による海外需要の高まりから増益傾向、産業機械も同様にLNGプラント*1関連事業の海外需要の高まりにより、増益傾向とみられています。

*1 LNGプラント:ガス田で取り出された天然ガスから不要物や環境汚染物質、水分などを除去し、冷却を行って液化する施設

機械業界 M&A

機械業界のM&A動向

近年、機械業界ではM&Aが活発化しています。その理由のひとつに、M&Aが譲受企業と譲渡企業のどちらにも、メリットがあることが広く知られるようになったことがあげられます。

例えば、譲受企業はサプライチェーンの中で自社が対応できることの幅を広げ、事業を強化することができます。また、譲渡企業は後継者問題の解決や、大手企業の傘下に入ることでブランド力が強化されたり、販売ノウハウの獲得ができたりといったメリットがあります。

製造業の中小企業では後継者問題に直面しており、株式会社帝国データバンクによると、2017年時点でその割合は約59%にのぼっています。中小企業の後継者不足は社会問題となっており、機械業界においても今後M&Aがより活用されるとみられます。

また、新興国への進出や事業の拡大、多様化を目的として譲り受ける動きも盛んです。ヒト、モノ、カネの動きが活発になり海外進出のハードルが低くなる中で、多くの企業が国内のみならず海外に市場や成長を求めています。

人手不足解消という目的においては、優秀な人材を確保するためにM&Aをする以外にも、IoTの分野を強化し、サプライチェーンの中で人が行う作業を減らすことを目的とした動きもみられます。

IoT事業を取り込むことでは機械単体の性能をあげるだけではなく、ソフトウェアやサービスの見直しやコスト削減による経営効率の改善など、多くのメリットがあげられます。

政治や経済事情が大きな影響を与える機械業界では、こうした外的要因に対応するための、事業基盤を強化することを目的としたM&Aの事例は多々あります。どのような目的で各企業がM&Aを行ったのかに注目して、実際の事例をみていきましょう。

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海外企業とのM&A事例3選

1.株式会社小松製作所によるImmersive Technologies Pty Ltd.の子会社化

機械業界 M&A引用元:https://home.komatsu/jp/

2019年7月、株式会社小松製作所は、オーストラリアのImmersive Technologies Pty Ltd.社を、オーストラリアの100%子会社を通じて買収しました。

小松製作所は油圧ショベルやブルドーザーなどの建設・鉱山機械のメーカーです。建設機械の日本でのシェアは1位を誇り、海外にも複数のグループ会社を展開しています。

Immersiveは鉱山機械向けシミュレーターを開発、製造、販売しています。また、シミュレーターを活用した現場の安全性、生産性の向上を目的とした教育プログラムや、オペレーションの最適化を目指したトレーニングソリューションを提供しています。

コマツは2019年の4月より3か年の中期経営計画をスタートし、成長戦略による収益向上とESG課題解決の好循環で持続的成長を掲げています。

具体的には、イノベーションによる価値創造、事業改革による成長戦略、成長のための構造改革の3つです。そのために成長分野への投資を重点的に行い、コマツが目指す安心安全で生産性の高い現場作りの実現を目指しています。

鉱山機械の分野は、短期的にみると需要の変動幅は大きいものの長期的にみると緩やかに増加傾向にあることもあり、持続的な収益向上を加味して積極的な投資を行いました。

今回のM&Aにより、Immersiveが持つ鉱山機械向けのシミュレーターを取り入れることで、安全性の向上や環境負荷の軽減、コストの削減などが可能となりました。コマツの掲げる中期経営計画の目的に沿ったM&Aとなった事例といえるでしょう。

2.日本電産株式会社によるEmerson Electric Co.の一部事業取得

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2016年8月、日本電産株式会社は、Emerson Electric Co.のモーター・ドライブ事業および発電機事業を取得しました。

日本電産は、精密小型から超大型モーターまで手がける、「回るもの、動くもの」に特化したモーターの応用製品・ソリューションを手がけています。

Emerson Electricは米国を代表するコングロマリット企業のひとつであり、産業分野、商業分野、一般顧客向けなどの幅広い市場に対して、エンジニアリングサービスを提供している会社です。

60を超える独立した事業が独自の経営スタイルを持ちながら、ひとつの企業としてサービスを提供し続けています。

日本電産は2010年に同じEmerson ElectricからMotors & Controls事業(現:日本電産モータ)を買収し、この日本電産モータを基軸として、産業用・商業用事業の強化を狙っていました。今回の事業取得も同分野でのさらなる強化、成長を図ったものになります。

例えば、欧州や北米といった地域での強固な顧客基盤の獲得に加え、同様の分野での事業領域が広くなるため、製品のラインナップの増加により顧客提案力を強化することを見込んでいます。

3.長野計器株式会社によるRueger Holding SAの子会社化

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2019年4月、長野計器株式会社は、Rueger Holding SA(以下、RHSA)の発行済株式の全てを、海外子会社であるAshcroft-Nagano Keiki Holdings, Inc.(以下、ANKH)の傘下であるAshcroft Instruments GmbHを通じて取得し、子会社しました。

長野計器は創業120年を超える、圧力計測の専業メーカーで、圧力計や圧力センサーを主軸とする各種センサーなどの精密機器を開発、製造、販売しています。

競合会社の規模が比較的小さいため、機械式圧力計の国内での市場シェアは高い一方、圧力センサーは後発のため、国内と海外の市場シェアは未だ低い状態にあります。

RHSAは、スイスを拠点として温度測定機器、特に電子式温度センサー、バイメタル式、ガス圧式温度計および圧力計の開発と製造販売を事業としている企業です。「Rueger」ブランドは、スイス、フランスにおいて強いブランド力を持っています。

ANKHがRHSAの株式を取得し、子会社とすることにより、電子式温度計関連事業において欧州地域のシェアの拡大が可能になりました。

これにより、長野計器は石油化学、バイオテクノロジー、ディーゼルガスなどの市場分野において、圧力関連の製品だけでなく温度関連の製品を総合的に提供することが可能となり、シェアの拡大を見込んでいます。

海外事業の強化を目的としたM&A事例2選

4.住友商事株式会社による浅間技研工業株式会社の子会社化

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2019年9月、住友商事株式会社は、浅間技研工業株式会社の株式を取得し完全子会社化することを発表しました。

住友商事は、さまざまな事業分野においてグローバルネットワークを活用して事業を展開している総合商社です。資源開発や製造事業などの川上分野から流通事業などの川中分野、そして小売り・サービス業などの川下分野に至るまでの幅広い範囲で事業を拡大しています。

浅間技研工業は、主にホンダやホンダ系の部品メーカーに自動車ブレーキ関連部品を納入している製造会社です。積極的な海外展開もおこなっておりアメリカに2拠点、インドネシアに1拠点の工場を構えています。

住友商事は2004年に自動車ブレーキ関連部品事業を手がける株式会社キリウを子会社化しており、積極的な海外展開をおこなってきました。

今回の子会社化は、自動車ブレーキ関連部品の付加価値向上とともに、日本、アメリカ、インドネシアでの市場シェアでトップクラスになることを目的としてM&Aを実施します。

5.株式会社マルカによる株式会社ミヤザワの子会社化

機械業界 M&A引用元:http://www.maruka.co.jp/

2019年7月、株式会社マルカは株式会社ミヤザワの株式を取得し子会社化しました。

マルカはアメリカとアジアに23拠点を持ち、国際ネットワークと60年以上の海外取引を活かした国際ネットワークを有する商社です。

自動車・家電・農機具・鉄道・食品などの企業向けに、商品製造のための機械を販売しています。アメリカでは航空機・医療・エネルギー業界でも販売を行い、アジアでは日系企業の海外進出サポートも行っています。

ミヤザワは食品機械製造、精密機械板金、精密部品加工、菓子製造販売などを事業としている会社です。主に食パンを薄くするためのスライサーやサンドイッチの形にカットするハーフカットの機械といったものを販売していました。

マルカは、食品機械を扱う部門を立ち上げ、食品機械の販売拡大に注力していました。そこで東南アジアの食品製造会社向けと、国内外の中食業界へ食品機械の販売拡大を目的として、今回の買収を行いました。

国内のM&A事例4選

6.倉敷紡績株式会社による株式会社山文電気の子会社化

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倉敷紡績株式会社は化成品や食料品、不動産といった事業部ごとに独立した経営を行っています。

中でも環境メカトロニクス事業部は、プラスチックフィルムやシートおよびその表面に施される多層のコーティング素材などの塗布厚みを、非接触で高精度にオンライン計測できる赤外線方式の膜厚計測装置の開発・販売を行っています。

山文電気はプラスチックフィルム・シートの厚さを計測する装置の専門メーカーです。特に赤外線方式では難しい不透明な素材や厚手素材の計測においては、高い技術力と装置のラインアップを有しています。

今回の買収では、両社がもつ高い技術力を生かした新しい厚み計測装置の開発・販売と、同事業の基盤強化と拡大を目的としての買収となりました。

7.富士紡ホールディングス株式会社による株式会社東京金型の子会社化

機械業界 M&A引用元:https://www.fujibo.co.jp/

2018年8月、富士紡ホールディングス株式会社は、株式会社東京金型の全株式を取得し子会社化しました。

富士紡ホールディングスは、フジボウグループの持ち株会社であり、フジボウグループは富士紡ホールディングスと複数の子会社から構成されています。

事業は、研磨材、化学工業品、繊維、溶剤精製といったものから、車両・自動車部品等の輸出やプラスチック成形の技術開発など多岐にわたります。

東京金型はプラスチック金型の設計・制作をしている会社です。コスト削減の観点から韓国で海外生産を行うなど、早い段階から海外進出にも積極的に取り組んでいました。

富士紡ホールディングスでは、経営計画において基本方針である「研磨材事業」「化学工業品事業」「繊維事業」の重点3事業の成長加速に加え、新たに第4の柱事業を育成すべ く「化成品事業」の拡大に向けた事業基盤の整備を進めていました。

プラスチック用金型の設計・製作分野において、優れた技術力を持つ東京金型の買収は、新規事業の基盤強化や事業拡大といったシナジー効果を見込んだものでした。

8.富士電波工業株式会社による白光電気株式会社の子会社化

機械業界 M&A引用元:http://www.fujidempa.co.jp/

2018年12月、富士電波工業株式会社は白光電気株式会社の全株式を取得し子会社化しました。

富士電波工業は電気をエネルギー源とした工業加熱のノウハウを用いて工業炉の設計・製作を行うメーカーです。昭和23年の創業以来、金属工業や半導体産業などに寄与し、現在は環境に配慮したエコカーの部品生産などを熱技術を利用して行っています。

白光電気は主に電気炉用の電源装置および操作盤の設計制作をおこなっている会社です。電気炉制御盤、各種制御盤の設計・製作、乾式変圧器、タップ切替器、高周波誘導加熱電源装置といったものが主な事業です。

富士電波工業は首都圏において多数の納入先を有しており、顧客満足度向上の観点から、当該地域での製電気炉の設置工事、メンテナンスサービスを迅速化かつ円滑化する対策を検討していました。

そこに白光電気からの株式譲渡提案があり、電気炉用の電源装置および操作盤の設計製作に関する高い技術力を保有していることや、首都圏における納入分野の実績もあることから、事業戦略と合致すると判断し買収をおこないました。

9.明治電気工業株式会社による名電エンジニアリング株式会社の子会社化

機械業界 M&A引用元:https://www.meijidenki.co.jp/ja/index.html

2007年8月、明治電機工業株式会社は名電エンジニアリング株式会社の株式を取得し子会社化しました。

明治電機工業は、電気機器・計測器などの販売・輸出入やエレクトロニクス製品・各種検査装置・メカトロ・FA・情報・物流システムの開発、設計、製作、その他にも計測・制御・情報処理のコンサルティングや工業計器・電気計測器の保守などをおこなっている専門商社になります。

名電エンジニアリングは愛知県北名古屋市にある配電盤、分電盤、制御盤といった電気機器の設計・製造を行っている会社です。1982年の創業以来、社長が一代で経営してきました。

名電エンジニアリングも社長が一代で築き上げた会社です。家族会議などを経て親族に事業を継承しないという結論に至ったため、事業承継をしてくれる企業を探していました。そこで候補として上がったのが、同じ愛知県を地元とする明治電機工業でした。

電気機器の商社でありながらエンジニアリング部門の強化を考えていた明治電機工業と、各種電気機器に対して優れた技術力を持っていた名電エンジニアリングはシナジー効果が期待できると両社の意見が合致し、M&Aが実行されました。

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まとめ

機械業界では、事業規模に関係なくM&Aが行われています。規模の大きい大企業ほど世界情勢の影響を大きく受けるため、政治や経済などの動向を見極めながらM&Aを検討する必要があります。

また、地方の中小企業などは後継者不在に直面していることもあり、事業継承の手段としてM&Aが選択肢のひとつになっています。その他にも、優れた技術を持つ会社が販売に強い専門商社の傘下となるように、川上から川下までの流れを統一し業績を伸ばそうとする動きがみられます。

機械業界のM&Aは、譲渡企業・譲受企業の双方に大きなメリットがあります。ただし、世界情勢や景気の動向といった影響が出やすい業界だけに、M&Aの相手やタイミングについては、M&Aの専門アドバイザーなどの専門家を交えて検討することをお勧めします。