戦略

M&Aは、経営戦略として用いられることがあります。事業の多角化、規模の拡大などを目的に戦略的に実施されることも多いため、M&Aを検討する経営者の方の中には、経営戦略としてなぜ重要なのかを知っておきたい、と思う方も多いのではないでしょうか。

本記事では、M&Aを経営戦略として活用する目的やメリット、シナジー効果を生み出す相手企業や相談先の選定、M&Aの事例などを解説します。

経営戦略としてのM&Aとは?課題解決・シナジー効果が目的

M&Aとは、企業の合併と買収を指した言葉です。合併や株式、事業の譲渡、会社分割などその手法はさまざまですが、最終的には自社の利益を目的とした戦略であるということは共通している点です。ここでは、M&Aを経営戦略として活用する目的とは何か、メリットや注意点を説明します。

経営戦略としてのM&Aの意味

M&Aの実施によって、新規事業への参入や短期間での事業成長、業界内でのシェア拡大などが実現可能です。自社の強みや弱み、取り巻く外部環境を分析し、事業のどの領域を強化していくか検討しましょう。自社が達成したい目的に沿ってM&Aを行うことで、経営戦略を実現するための選択肢になります。

一般社団法人「日本能率協会(JMS)」の調査では、2018年度の日本企業が抱えている経営課題の1位は「収益性向上」としています。収益性の向上は利益の増加によって達成されるため、具体的な対策としてコストの削減が挙げられます。

M&Aによって譲渡企業を譲り受けることで、企業の規模が拡大するためスケールメリット*1が発生します。その結果、仕入れコストの削減や、販売拠点の統合による販売コストの削減、製造コストの削減が見込めるため、事業の拡大とコストの削減を同時に期待できます。

M&Aは経営戦略を実現するためのひとつの手段です。自社の企業活動において欠けている部分があり、自社だけではその問題が解決できない際に、適切な外的資源を獲得することを主な目的として実施されます。

*1 スケールメリット: 事業規模が拡大することで販売する商品やサービスの1単位あたりの費用が小さくなること。規模の経済ともよばれる。

M&Aの効果・メリットは?売り手と買い手、事業承継の問題解決

M&Aを行うことで譲渡企業、譲受企業共にさまざまなメリットが享受できます。

譲渡企業のメリット

経営の安定

譲渡企業は、M&Aによって譲受企業のリソース、人材育成のノウハウ、譲受企業のブランド力などの経営基盤の獲得が期待できます。そのため、経営の安定を図るために大手傘下に入る企業も多く存在します。

雇用の継続

基本的に、譲受企業はこれまで譲渡企業を支えてきた従業員を含めて譲り受けることを検討するため、従業員の雇用は守られるケースがほとんどです。確実に従業員の雇用を継続してもらうために、譲渡企業は条件交渉の際にM&A後の雇用について確認するようにしましょう。

後継者問題の解決

中小企業の事業承継では、主に後継者の不在、後継者の能力不足が課題として挙げられます。M&Aによって他社などの親族、従業員以外の第三者に承継をする選択ができ、廃業することなく事業を継続できます。

譲受企業のメリット

新規事業への参入

自社と異なる業界、業種の企業を譲り受けることで、新規事業へスムーズに参入することができます。優秀な人材やその業界のノウハウを有する企業を譲り受ければ、既に事業基盤が固まっているため、リスクを低減して参入することが可能です。

市場の拡大

企業や事業を譲り受けることで、新たな販路などが得られるため、スムーズに市場を拡大できます。あわせて、対象企業の取引先や顧客を引き継げる点もM&Aのメリットです。

その他にもM&Aによって会社規模が拡大することでとし交渉力やブランド力が強化されると、生産規模もの拡大しに伴い、知名度向上による広告公告費用の削減や費用の削減や大量仕入れによる仕入れコストの引き下げなどの、スケールメリットが見込めます。また、知名度向上による広告費用の削減も期待できます。

事業成長にかかる時間の短縮

M&Aではノウハウや独自の技術など、短期間で築くことが難しいものの獲得が期待できます。新規事業を自社で一から立ち上げるよりも、既に基盤ができている企業を譲り受けることで、必要なコストを削減し、素早く収益を生み出すこともあります。

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上場企業と非上場企業のM&Aは?予想される問題や注意点

株式の上場、非上場によってM&Aにおける注意点が異なります。

上場企業のM&Aの問題点

上場企業は、株式を広く一般に公開し、取引可能な状態にして出資者を募る企業です。

一般的なM&Aの手法である株式譲渡や事業譲渡などに加えて、上場企業の場合はTOB(株式公開買付け)という手法で買収されることがあります。これは、株式の買付数や、価格、買付期間を公表したうえで、不特定多数の株主から市場外で株式を買い付け、経営権を取得する方法のことを指します。このTOBによって買収される可能性があるというリスクを上場企業は持ちます。

また、特に上場企業がM&Aを実施する際には、インサイダー取引へのより一層の注意が求められます。金融証券法によって、証券取引での公正性と透明性を保持するために、会社の関係者が情報を知っているときには、その事実が公表される前に有価証券の売買を禁止する規制が定められています。これをインサイダー取引規制とよびます。

譲受企業が上場企業の場合には、従業員などの会社関係者が、重要事実を知った状態で株式の売買を行わないよう情報の取り扱いやコンプライアンスの徹底に注意しましょう。

このように上場企業のM&Aには、株式や法律に関係する留意すべきことが点在しています。

非上場企業のM&Aの問題点

非上場企業は基本、定款において株式の譲渡制限を設けています。そのため、株式譲渡において、株式総会での譲渡承認を受けなければなりません。また、譲渡企業が非上場の場合には、譲渡側と譲受側の株主で相対取引*2が行われます。株式が分散していると、譲受企業は多くの株主と相対取引を実行する必要があり、目的とする株式数を取得するのが難しいことがあります。

また、上場企業と異なり、市場における株価が存在しないため、株価の算定が難しいという問題もあります。非上場企業の株式の評価には「収益還元法」「配当還元法」など複数の算定方法が存在し、選択した評価方法によって価値が決まるため、上場企業と異なり絶対的な取引価額はありません。

客観的かつ適正な価格の算出には専門家の支援が必要です。M&A仲介会社やM&Aアドバイザーなどに助言を得て、適切な企業価値を算出することが重要です。

*2 相対取引:市場を通さずに、価格や売買数量を決めて行う取引のこと。

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戦略

戦略的M&Aでシナジーを生み出す相手企業の選定方法

事業の拡大や、事業承継による経営の安定など、双方の企業に目的がある戦略的M&Aでは、どのような基準で相手企業を選ぶのか解説します。

バリューチェーン分析

M&A 戦略 バリューチェーン分析

バリューチェーン分析とは、どの工程で付加価値がどれほど生まれているか分析する手法です。早急に解決すべき課題の割り出しや、競争優位性を高める差別化戦略の構築を容易にするフレームワークを指します。

例えば、自動車産業では鉄など同種類の原料を使用しているにも関わらず、製品の価格が大きく異なる場合があります。前提として材料が同じ場合、バリューチェーン分析を行うことで、どの工程で付加価値が生み出されているかを明確にする事ができます。

また、工場を持っている企業の分析を行う際には、工場の中で材料が製品になるまでの小規模のバリューチェーンと、顧客に製品が届くまでの物流や小売店までの大きいバリューチェーンで分析を行う場合があります。自社の弱みを補ったり、強みを更に強化する目的で、SWOT分析*3と並列して使用されることもあります。

また、バリューチェーンとは、一連の事業活動を個々の行程の集合体ではなく、価値の連鎖として連続的に捉える考えを指します。以下は、アメリカの経済学者マイケル・ポーター氏が提唱した分析のフレームワークです。

企業の活動は、原材料を製品にして顧客に届けるまでの過程で行われる主活動と、主活動をサポートする支援活動とに分かれます。各活動にかかるコストを把握し、コスト削減に役立てることと、自社の強みと弱みを把握し、差別化戦略に役立てる2つの目的のために行われます。

M&Aを活用することで、新たな競争力の源泉である、技術や製品を自社のバリューチェーン上に得ることができます。M&Aの目的である、統合後の企業価値向上を実現するために、複雑化したバリューチェーンを再編し、効率的に運営するためのマネジメント体系を整理する必要があるでしょう。

これは自社の分析を行い、M&Aによって強化したい部分を明確にするための助けになります。譲渡企業は、事業成長を目的としてM&Aを行う際に、譲受企業先のリソースの分析を行い、自社の事業の成長をが見込めるか確認します。また譲受企業は、譲渡企業に対して上記の分析を行うことで、譲渡企業の優れた点を把握し、M&A後の戦略的な計画を立案することができるでしょう。

そのために、相手先企業の個別の活動ごとに分析を行い、どの工程で高い付加価値が生み出されているのか、どの工程に問題があるのか詳しく分析することで、適切な戦略を考えられます。バリューチェーンは業種などによって異なるため、相手先企業のバリューチェーンを把握しましょう。

*3 SWOT分析:対象組織の外部環境を強み、弱み、機会、脅威の4つを組み合わせて確認し、自社にとっての市場機会や事業課題を分析する手法のこと。

ナレッジ分析

M&A 戦略 ナレッジ分析

ナレッジ分析とは、対象企業の知識や技術の従業員個々人への帰属の度合いや、技術の具体的な重要性を図るために利用される分析手法です。

例えば、町工場などで保有されている特殊な加工技術が高齢の職人のみ扱える場合、個人に知識技術が紐づいているため、個人知に技術が集中している状態です。重要なのは、その知識や技術が伝承できるかで、個人に紐づいた知識がM&A後に全体知として承継できる場合はM&Aを検討すると良いでしょう。ナレッジ分析で重要な事項は、技術の再現性です。

対象会社の社員に声をかけ、技術に関して社員の誰に聞いても回答可能な場合は全社知、特定の個人のみ対応可能な場合は個人知と判断できます。技術の高さと知識の集積度合いはトレードオフ*4の関係のため、高い技術が全体に広まっている際には会社の価値は高まります。また、許認可などによって技術が模倣不可能な場合には、会社の価値は更に高まります。

上記の分析をもとに、譲受企業にとって必要な技術が、ある一個人に帰属しており、技術のコア度はある程度高いと判断できる場合、投資の採算の視点からM&Aではなく、個人をヘッドハンティングすることが、リスクの少ない方法であると分析できます。

しかし、個人知を全社知に転換可能な場合は、M&Aを検討しても良いでしょう。更に対象企業に蓄積されている知識やノウハウの専門性が高く、また、全社の知識として定着している場合は、M&Aを行うことが適しています。

対象企業に必要とする知識や技術が存在するのか、その価値がどこに帰属するのか、また、伝承による再現が可能なのか確認することで、M&Aを行うかの判断が可能です。

*4 トレードオフ:一方を達成するために他方を犠牲にしなければならない関係性のこと。

戦略

戦略的M&AにおけるM&Aの相談先の選び方

M&Aの目的が明確になった後、相談先を決めます。M&Aには法律や税務、会計など、さまざまな専門知識を要する手続きが行われるため、M&Aを自社のみで進めるのは難しいのが実際です。そのため、M&A仲介会社などのサポートを受けながら進めることがお勧めです。

M&A仲介会社

M&A 仲介会社

M&A仲介会社は、基本的に譲渡企業と譲受企業の双方を支援しながら成約へ導くM&Aの仲介を役割としています。そのため、当事者双方に対して原則中立的かつ客観的という特徴があります。譲渡企業と譲受企業の利益のバランスを考えたM&Aを目指します。双方の経営陣の同意によって進む友好的なM&Aを成立させる際に有効です。

また、仲介会社はM&Aに関するあらゆる知見があり、M&Aにまつわる税務や法務などを包括的に対応できるというメリットがあります。

FA(ファイナンシャルアドバイザー)

FA

FAはM&Aを検討する会社へのアドバイスを主な役割としています。譲渡企業、譲受企業のどちらか一方と契約し、M&Aの成約に向けての助言業務を行います。実際の交渉においては、相手企業の事情や目的も考慮しますが、原則としてFAは契約した企業の利益を最大限に考えるため、条件面で妥協せず、より企業の理想に近い条件でのM&A実現を後押しします。

また、M&Aのパートナーとして戦略コンサルタントのように助言を受けることが可能であるなど、自社の意向を最大限に反映してくれることは、大きなメリットになります。一方で、お互いの利益を主張し合うことで対立点も明確になるため、交渉がまとまりにくいというデメリットがあります。

事業引継ぎ支援センター

中小企業庁が各都道府県に設立している事業引継ぎ支援センターでは、M&Aの支援サービス会社や金融機関で勤務経験のあるスタッフに、基本的に無料で相談することが可能です。

また、2018年の東京商工会議所のアンケート調査では、従業員承継ができない場合に経営者が次に検討する選択肢として、M&Aの検討に次いで事業引継ぎ支援センターへの相談がが挙がっています。

また、相手企業が決まった後にも契約書の作成など、手続きの面で支援を受けられることもあります。セカンドオピニオンとしても相談に乗ってもらえる公的な機構です。

しかし、2011年に設立されたばかりで認知度が低く、M&A、事業承継の実績がまだ少ないという点には注意が必要です。

中小企業基盤整備機構の2011年の調査によれば、事業承継にあたって、経営者が相談しているのは、1位が税理士で、その他役員や従業員などの身内関係、公認会計士や弁護士、取引先金融機関となっています。

しかし、士業の方は専門的な知識を保有しているものの、M&A全体のプロセスに対してのサポートができないこともある、というデメリットもあります。そのため、士業などの専門家に加えて、M&A仲介会社やFAに相談することをお勧めします。

▷関連記事:M&Aの相談は銀行、証券会社、税理士、弁護士、M&A専門家など、どこにすればいいのか?費用の違いは?

目的別の戦略的M&Aの事例

前述のようにM&Aは目的によって、選択する相談先や注意点が異なります。M&Aによって経営課題の解決を図った3つの事例を紹介します。

新規事業立ち上げ

2017年2月、アパレル業などを事業展開する株式会社オンワードホールディングスは、株式会社KOKOBUYと、米国のInnovate Organics, Inc.の株式を取得して子会社化しました。

オーガニック化粧品の販売会社であるKOKOBUYと製造会社のInnovate Organics, Inc.は天然由来の成分を使ったヘアケア商品や化粧品を、「product」のブランド名で販売しており、オンワードホールディングスは2社の株式を取得することで化粧品業界に参入しました。

国内外104社にのぼるグループ企業のネットワークを活用し、販売経路の拡大やグローバル展開で事業拡大を図っています。

販路拡大

2017年、日本電産株式会社は、アメリカのプレス関連機器メーカであるヴァムコ・インターナショナル社を譲受しました。日本電産は総合モータメーカとして、HDD用モータや家電・AV用ファンモータなどで世界トップシェアを誇る企業であり、海外企業を含めたM&Aに非常に積極的です。事実として創業時から2019年現在まで行ったM&Aの件数は64件に昇ります。

ヴァムコ社を譲受することで、ヴァムコ者の技術と日本電産の可変速モータ技術との組み合わせにより製品力を向上させ、得意分野によるアメリカでの販路拡大を図りました。

海外進出

2017年1月、「タイムズ」のブランドで国内最大規模の駐車場ネットワークを築くパーク24株式会社は、Secure Parking社から事業買収を行い、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、イギリスの計5ヶ国への進出を果たしました。

Secure Parking社は、1979年にオーストラリアで駐車業事業を開始し、オセアニア・アジアを中心に世界11ヶ国で駐車場を展開しています。そのうちの上述の5ヶ国の駐車場事業をグループ化しました。パーク24社はオーストラリア、シンガポール、マレーシアへの進出も予定しています。

まとめ

戦略的にM&Aを行うことで、自社内では解決が難しい経営課題の解決や、事業承継を実現することができるでしょう。自社内の問題を明確化し、相手先企業や相談先を選ぶ準備を行いましょう。不明点や疑問点がある場合は、M&Aアドバイザーをはじめとした専門家の意見を聞くことをお勧めします。