M&A 目的

M&Aと聞くと、豊富な資金力を持った会社が強制的に他社を傘下に収めるといった、マイナスのイメージもあるかもしれません。しかし、それはM&Aのほんの一側面に過ぎず、実際は経営戦略としての活用や、後継者問題の解決策になるなど、大きなメリットを持っています。

ここでは、M&Aが注目される理由やメリットをお伝えします。M&Aの実施を考えている方に、検討される際の材料の一つとしていただければと思います。

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M&Aの目的とは?増加している背景と動向

日本でのM&Aが注目されている背景に、後継者問題の深刻化があります。帝国データバンクの「2017年後継者問題に関する企業の実態調査」によると、国内企業の約67%が後継者不在と回答しています。

この問題を受け、法整備も進んでいます。独占禁止法改正(1997年)や株式交換・株式移転制度の導入(1999年)、会社法施行(2006年)などといった法律の改正が行われてきました。

後継者が不在であっても、M&Aにより第三者への承継が実現すれば、事業を継続し、従業員の雇用を守ることができるのです。その他にも、M&Aが日常的にニュースなどで取り上げられ、経営戦略として検討すべき手段であるとの認識が徐々に浸透していることも、M&Aが注目される理由の一つです。

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後継者問題の解決を目的としたM&A

M&A増加の理由として大きいのは、上述のように後継者問題です。少子高齢化や団塊世代の引退などにより、特に中小企業では、黒字の会社であっても後継者不在を背景に廃業を選ばざるを得ないというケースも増えています。そのような事態を避けるために、M&Aの活用が検討されることも、いまや一般的な判断となりつつあります。

「2017年版中小企業白書」によると、後継者不在の中小企業のうち、事業を継続させるためM&Aを検討している会社は全体の3割を超えています。

また、従業員にとっても後継者問題は悩みの種になります。勤務している会社に廃業の可能性があるなら、危機感から転職などの手を打つ人も出てきます。雇用の先行きが不安定な状態は、優秀な社員を逃すことにも繋がってしまうのです。

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会社の成長戦略を目的としたM&A

M&Aは、会社を存続させるだけの手法ではありません。自社の未来を考え、成長戦略の一環として自社の譲渡を検討する経営者も多くいます。譲渡側、譲受側の会社が融合することによりシナジーを発揮することができ、会社のさらなる発展が見込めるのです。

例えば、ソフトバンクや楽天といった会社も、M&Aを会社の成長戦略として位置づけ、積極的にM&Aを行うことで、急速に事業領域を拡大し業績を大きく伸ばしています。

両社のM&Aの大まかな特徴としては、ソフトバンクは中核事業に近い事業を集中的に強化し、楽天はさまざまな領域の企業/事業を次々に譲り受けて多様化を図り、それぞれ巨大企業への階段を一気に駆け上がりました。

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経営再建などを目的としたM&A

M&Aは経営の再建や、事業の整理を目的として行われることもあります。譲渡企業においては、M&Aを行い経営基盤が安定している企業の傘下に入ることで、譲受企業の資金やノウハウを生かして経営状態を改善できる可能性もあります。

また、複数の事業を行っている企業では、業績の芳しくない一部の事業によって会社全体の経営状態が優れていないときに、一部の事業を事業譲渡や会社分割の手法を用いて他社に譲渡し、経営の改善、事業の整理を図ることも可能です。自社が赤字の状態では譲渡先が見つからないイメージがありますが、適切な経営方針や将来性をアピールできる材料を持つことによって譲渡先を見つけやすくなります。

譲受企業としては、赤字企業を譲り受けることで節税効果を得られるケースもあるため、赤字の企業を譲り受ける場合もあります。

個人・サラリーマンの人生戦略を目的としたM&A

最近では企業同士のM&Aだけではなく、個人間でのM&Aも行われています。小規模なM&Aを対象とした支援サービスが充実してきたことも、個人のM&Aを後押ししているといえます。

譲渡側の目的には、譲渡対価の獲得や事業の承継が挙げられます。具体的には、次の事業を始めるための資金としたり、事業承継のために飲食店や美容サロン、病院、薬局などの小規模な事業を譲り渡す場合などが挙げられます。

他方、譲受側の目的としては、すでに存在する事業を譲り受けることで事業を一から立ち上げるリスクの回避や時間の短縮などがあります。また、投資の一環として事業を譲り受けることもあります。

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譲渡企業がM&Aを実施する目的

M&Aを行う目的としては後継者問題や会社の成長戦略が挙げられますが、それらを含むさまざまなメリットがあります。ここでは、どのようなメリットがあるのかを紹介します。

譲渡企業のM&Aの目的

後継者問題の解決

前項でも触れましたが、後継者問題の解決は中小企業に置けるM&Aの重要なメリットの一つです。後継者がいない会社を廃業させるのではなく、M&Aによって事業を承継することで、多くの場合、創業者利益を得てリタイアできるなど、オーナーにとっても良い手段ともいえます。

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事業の整理

M&Aでは会社全体ではなく、会社の一部の事業だけを譲渡することも可能です。事業を幅広く展開していると経営資源をうまく配分出来ていなかったり、業績が伸び悩んでいたりすることがあります。そのような場合には不採算事業を切り離すことで、必要な中核事業に集中できます。

従業員やノウハウの承継

廃業して自社を清算してしまうと、従業員は職を失ってしまいます。その点、M&Aでは譲受企業もこれまで事業を支えてきた従業員を含めて譲り受けることを検討するため、多くの場合において従業員の雇用は守られます。また、これまで会社が培ってきたノウハウや技術を残すことができることもメリットの一つです。これは譲渡企業のみでなく、数多くの中小企業が支える日本社会全体にとってのメリットともいえるでしょう。

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譲受企業がM&Aを実施する目的

譲受企業のM&Aの目的

一方、譲受企業には次のような目的があります。

新規事業への参入

M&Aで会社や事業を譲り受ける側にも、大きなメリットがあります。新規事業への参入を考えている場合には、一から新規事業を立ち上げるよりも、M&Aで譲り受けた方がリスクやコストの軽減が見込めます。すでに軌道に乗っている事業の技術やノウハウ、販路、それに関わる人材を手に入れられるためです。

既存事業の強化

また、自社事業とシナジーが期待できる会社を譲り受けることで、既存事業を強化できます。自社サービスと関連した事業を得ることにより、生産性の向上や必要とする優秀な人材、新たな取引先も事業強化に役立ちます。

スケールメリットの獲得

譲渡企業の資産や従業員などを自社に譲り受け、会社の規模の拡大を図ることが出来ます。一般的に、会社規模が拡大すると交渉力やブランド力が強化され、スケールメリットが見込めるのです。例えば、大量仕入れによる仕入れコストの引き下げや、知名度向上による広告費の削減や採用力の強化などがあります。

M&A デメリット

M&Aの課題(リスク)とデメリット

後継者問題の解決も見込め多くのメリットもあり、その点だけを見ると利点ばかりのように思えますが、M&Aには注意すべきデメリットもあります。デメリットを理解し、対処できるようにすることが重要になります。

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譲渡企業のデメリット

譲渡企業においては、自社を譲り受けてくれる会社と出会えるかが課題となります。従業員の雇用は継続されるのか、シナジーを見込めるのかなど、譲渡先を決める際に考慮すべき点はさまざまあり、M&Aを成功に導くためには最適なマッチングが大切です。しかし、譲渡先の候補を自力で集め、その中から自社に適した企業を見つけ出すことは難しいのが実情です。M&A仲介会社など、専門家による助けを得ながら進めていくべきでしょう。

また、M&A成約後には従業員と組織の問題があります。譲渡企業の組織は、譲受企業が最大限の生産効率やシナジーを求めて、譲渡企業にとっては希望しない形で組織改編される可能性もあります。そのため、事前に希望する条件をきちんと譲受企業に伝えることが得策です。

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譲受企業のデメリット

新しく会社・事業を取り込んだ場合、M&A成立後の統合プロセスであるPMI(Post Merger Integration)と呼ばれる経営方針や業務ルールの融合が必要になります。事業内容や技術的には最高のマッチングでも、PMIがうまくいかないばかりに想定したシナジー効果が得られなかったり、優秀な人材の流出といったことが起こり得ます。検討段階からPMIを意識し、事前に計画を立てることが大切です。

また、M&Aでは譲渡企業の資産を上回る譲渡額をのれんという形で計上することになります。のれんは資産としてその額の評価をすることになりますが、M&A時ほどの価値はないと判断されると「減損」として処理をすることとなり、営業利益を減らすことになるというリスクがあるので注意しましょう。

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M&Aの種類の紹介

M&Aは、その手法によって株式譲渡や合併などに分類することができます。また、手法だけではなく、会社の業種と業態という観点で分ける「水平型M&A(水平統合)」「垂直型M&A(垂直統合)」という2つの類型が存在します。

水平統合型M&A

「水平型M&A」は同じ業種・業態の会社同士で行うM&Aのことで、例えば、飲食店と飲食店がM&Aをするケースなどです。

垂直型M&A

一方、「垂直型M&A」は、同業種であっても業態が異なり、統合することで川上から川下まで組織が垂直的にM&Aすることを指します。例えば部品メーカーと販売メーカーが垂直統合することで、技術開発、製造、流通、販売までがスムーズになります。

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M&Aによる会社売買の流れ

M&Aによる会社売買の流れは準備、交渉、最終契約の3つのフェーズに分けることで理解がしやすくなります。

まず、準備フェーズではM&Aが自社の経営戦略に適しているのかを検討します。検討する際には、M&A仲介会社などに相談をすることも一般的です。自社にとってM&Aという選択肢が適していると判断した場合、M&AのサポートをM&A仲介会社などに依頼します。

M&Aには法律や会計といった専門的な知識が欠かせないため、専門家のサポートを受けながら進めることが一般的です。依頼後は、秘密保持契約やアドバイザリー契約を締結し、自社の情報をM&A仲介会社などに共有して、相手探しであるマッチングを始めます。

次に交渉フェーズでは、マッチングした両者の経営者などによるトップ面談を経て、スケジュールや譲渡価額、譲渡日などを定めた基本合意を交わします。

最後の最終契約フェーズにおいては、譲受企業が譲渡企業を調査するデューデリジェンスを実施し、最終契約に進みます。最終契約を締結した後に、社員などの関係者にM&Aを公表するディスクロージャーを行い、M&Aの主な手続きは完了します。

また、M&Aと会社売買は基本的に同じものを指し、流れに関しても同様になります。しかし、会社売買は事業承継をしないM&Aを意味することもあります。

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まとめ

M&Aにおいては後継者問題の解決や会社の将来的な成長など、明確な目的をもって行われます。昨今では、M&Aが経営上の目的を達成するための手段として知られるようになり、その件数は増加しています。

こうした背景の中で、M&AアドバイザーやM&Aの相談を請負う弁護士、司法書士などの専門家も増えているので、M&Aを検討する場合はぜひアドバイスを求めてみてください。