M&Aは、円満に完了すれば、譲渡する側にも譲り受ける側にもメリットが多いものです。しかし、M&Aには結果的に失敗となるリスクも少なからず存在します。

M&Aがうまくいかない、あるいは途中で挫折してしまう失敗の要因を、譲渡企業と譲受企業、それぞれの立場から考えてみます。

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譲り渡す側はこんな失敗に注意!【譲渡企業編】

M&Aは、非常に多くの工数や時間がかかるものです。その手続きの過程では、予想もしなかった障害が現れたり、成約直前で破談となってしまうようなトラブルが起こったりもします。
しかし、そうした問題にも対応策があります。まずは譲渡企業の立場から、起こりやすい失敗とその対策、事前に回避する方法を考えてみましょう。

譲渡側が気をつけるべき12のポイント

1.情緒的な判断に偏ってしまう

M&Aを行う際には、情緒的な面と合理的な面の両面から判断することが重要です。例えば譲受先の候補として、「付き合いが長いから」といった情緒的な理由で、取引先や大口の優良顧客を譲受企業として安易に選ぶことは好ましくありません。

また、大手企業のブランド力のみを判断材料として検討することにもリスクがあります。譲受企業を選ぶ上では、「シナジー効果が期待できるかどうか」「財務状況に問題はないか」など、数多くの根拠に基づいて合理的に判断をすることが大事です。両面からしっかりと検討した上で、明確な理由を持って意思決定をするようにしましょう。

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2.情報漏洩による業績悪化や取引停止

M&Aを進める上で、情報漏洩は絶対に避けなければいけません。自社はM&Aを検討している、という情報が漏洩することで、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。社外に対しては不安を感じた取引先との取引縮小や取引停止、社内に対しては従業員の士気の低下や離職者が出るなど、社内外において悪影響を及ぼす可能性があります。このようなことが起こると、M&Aの交渉においても譲渡額が減額されるなどの不利な状況になることや、場合によっては破談になってしまうケースも考えられます。

そのため、M&Aの検討を進めているあいだは、機密保持には細心の注意が必要です。多くの場合、M&Aを行うという事実はオーナーや親族など一部の経営陣のみに情報を留める必要があります。社内においても、社員がいるところでM&Aの話は厳禁です。社員や関係者への通達は成約後となりますが、正式なアナウンスをいつどのような形で行うかは、信頼できるM&Aアドバイザーと十分に相談することが大切です。

3.株主・役員・従業員と経営者の意見が一致しない

株主や役員、従業員など社内外において利害関係にある人々のあいだに意見の不一致があると、スムーズな交渉ができなくなります。特に、譲受側との交渉を進めている最中に問題が表面化すると、M&Aが頓挫してしまう可能性が高まります。M&Aの検討を共に行う株主や役員、経営陣のあいだでは、交渉を始める前から明確な共通認識を確認しておくことが大切です。

また、従業員に対しても時期を見て説明し、将来的な不安のない環境や待遇を約束することが必要です。M&Aが成約したとしても、従業員が反発するような条件で進めてしまっては、譲渡後のシナジーは上手く発揮されません。従業員の離職を招くことのないよう、時間をかけて丁寧な説明を行いましょう。

4.相手先企業を尊重しない

M&Aでは、譲受企業と慎重に話し合い、お互いの希望する条件をすり合わせながら話を進めていくことになります。譲渡価格や譲渡後の方針など、お互いに譲れない条件はあるかと思いますが、会社の将来的な成長を共に考えるパートナーです。「譲渡してやる」「譲受けてやる」という姿勢だと、成約は遠のくばかりです。相手先を尊重し、意見もしっかりと受け止めた上で話し合いを進めましょう。

5.譲受企業側の言いなりになってしまう

M&Aを早く確実に実施したいがために、譲受企業側の条件をことごとく飲んでしまうケースがあります。例えば、価格について譲受側が強気に出て、本来の価値よりも著しく低い金額で提案をされる場合もあります。しかし、現実的な企業価値から乖離しているような安値で妥結してしまうと、株主から訴訟を起こされるリスクもあります。交渉は焦らず、明確なロジックを踏まえて冷静に進めるようにしましょう。

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6.M&Aアドバイザーを介さず直接交渉する

M&Aの手続きは短くても数ヶ月〜1年以上かかるものです。これはお互いの経営戦略や財務状況など、様々な内容を検討した上で進められます。そのため、焦らずひとつひとつ時間をかけて進めることが重要です。特にプロセスを熟知しているM&Aアドバイザーは、トラブルがないように慎重に手続きを進めます。

M&Aアドバイザーを介さずに相手先と直接交渉をしてしまうと、知らぬ間に不利な契約を結んでしまう可能性があります。特にM&Aに積極的な大手企業が譲受する場合には、社内にM&Aの専門チームを設けていることが多いです。M&A未経験の譲渡企業の場合、知識量や体制にも差があり、単独でこういった企業と話を進めるのはあまり有利な状況とは言えません。交渉は焦らず、M&Aアドバイザーに相談しながら手続きを進めるようにしましょう。

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7.デューデリジェンスで伝えていた事実との相違が発覚

M&Aで重要となるのがデューデリジェンス(DD)です。譲渡企業の経営状態を、譲受企業が調査するプロセスですが、その過程で簿外債務や粉飾決算が明らかになることもあります。意図的な情報隠しが発覚すると大きく信用を損ないますし、たとえ悪意がなかったとしても、譲受を検討している側にとって、伝えられていなかった事実がこの時点で明らかになることは不信感を抱くことに違いはありません。些細なことでも懸念点があれば予め開示するようにしましょう。

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8.名簿や議事録などの書類が整備されていない

株式や株主名簿が未整備のままでは、株式を譲渡する段階で大きくつまずきます。特に中小企業では、発行している株式の所有者が不明であるというケースもよく見られます。また、株式総会・取締役会の議事録がないと、「役員登記を正しく行っているのか?」という疑いをかけられかねません。司法書士などに相談の上、事前に整備しておきましょう。

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9.一方的な条件変更や不誠実な対応

M&Aを進める中で、譲受を希望する企業が他にも現れた際に、「価格を引き上げてほしい」などと、一方的な条件変更を求めてしまうケースもあります。こうした不誠実な対応は、双方の信頼関係を大きく損ないます。交渉をスムーズに進めるにはお互いを尊重し、交渉の中で信頼関係を構築することが重要です。どうしても条件に不満がある場合は、M&Aアドバイザーを通して相談するのが賢明でしょう。

10.M&Aの手続き中の業績悪化

M&Aの手続きは、短くとも数ヵ月~1年以上かかります。その手続き中に業績が大きく悪化してしまうと、M&Aの話そのものが立ち消えになってしまうこともあります。譲受先が見つかり、交渉が順調だったとしても気を抜かず、これまで以上に本来の業務を十二分にこなしていくことが重要です。特に、季節や流行に左右されやすい業種は注意が必要です。特に譲渡企業のオーナーは1人で手続きを進めなければならないため、非常にやることが多くなります。手続きに関してはM&Aアドバイザーの手を借りながら進行するようにしましょう。

11.優秀な人材の流出

M&Aが成約となった際、場合によっては雇用契約を従業員ひとりずつと契約し直すことになります。その際に、M&Aを機会に退職する人も出てくる可能性があります。それが、企業にとって貴重なノウハウや技術を持つ人材であればあるほど、想定したシナジーが発揮できなくなってしまいます。そういったことのないよう、譲渡側の企業は従業員が将来的に希望を持てるような経営戦略・ビジョンを譲受側企業とともに構築し、しっかりと説明することが大切です。

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12.敵対的買収によって経営が悪化する(上場企業の場合)

上場企業の株式を買取る手法として「TOB(Take-Over−Bit)」という手法があります。これは「株式公開買い付け」といい、経営権を得ることなどを目的に、証券市場を通さずに、既存株主が保有している株式を買取ることです。これは譲渡企業側の合意を得なくても実行することができる上に、他社とのM&Aを進めている最中でも実行可能なため、成立した場合には強制的に会社を譲渡しなければなりません。そうした敵対的買収は頻繁に起こることではなく、防衛のための手法も存在しますが、譲受企業の意に沿わないばかりでなく、従業員の士気の低下、業績の悪化にもつながります。こうした動きを察知した場合には、いち早く対策を講じる必要があります。

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譲り受ける側はここに気を付ける!【譲受企業編】

譲受側が気をつけるべき7のポイント

では次に、譲受側企業に起こりやすい失敗について確認していきましょう。譲渡側企業と共通する部分もありますが、いずれもM&Aの大きな障害となりうるものばかりです。

1.ゴールが不明確

対象企業を買い取って何がしたいのか、そのビジョンが明確でなく、M&Aそのものが目的化しているケースがあります。M&Aは経営戦略上の手段であって、成約後に何をどうするのかが本来の目的であるはずです。そのポイントが曖昧なまま手続きを進めたところで、成約後の事業運営がうまくいかなくても当然です。初めに、M&Aを実施する目的を必ず確認しましょう。

2.譲渡企業の選定ミス

M&Aの目的にマッチしない企業を譲受してしまうというケースも考えられます。このような事態を避けるためには、M&Aの戦略立案を事前にしっかり練っておくことと、譲受を希望する業種などの条件について、できるだけ細かく設定しておくことです。
ただし、これはM&Aの交渉の初期段階では気付きにくいものです。自社の希望要件を十分に理解しており、譲渡先の企業に詳しいM&Aアドバイザーに依頼することが大切です。

3.ファイナンシャルアドバイザー(FA)や仲介会社の言いなりになってしまう

M&A仲介会社の中には、自社の利益を重視して、「まずは成約ありき」「着手金だけもらって何もしない」という対応をする会社も残念ながら存在します。ですから、事前の相談などの段階で、信頼できる会社、M&Aアドバイザーを見つけることが肝要です。また、専門家の意見はとても貴重なものではありますが、実際にM&Aの契約を締結するのは当事者である双方の企業です。譲受条件に関する疑問や不満、不安があれば放置せず、積極的に相談・調査するようにしましょう。

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4.デューデリジェンスが不十分

デューデリジェンスで対象企業の財務やコンプライアンスの状況を洗い出すと、何らかの未知の事案が表面化するケースがあります。デューデリジェンスの外部委託には費用もかかりますが、それを惜しんで自社内にあるリソースのみで手続きを行ったりすると、簿外債務など大きなリスクを見逃すことにもつながりかねません。デューデリジェンスは譲受に向けて避けては通れない道ですから、専門家に依頼して適切に進めるべきです。

5.価格設定の根拠が弱い

譲渡側は、少しでも高く譲渡したいと思い、譲受側はわずかでも安価で譲受したいと考えます。その心情は当然ですが、「だいたいこれくらいだろう」という根拠の弱い数値では、交渉がうまくまとまりません。M&Aでの価格の算定は、企業価値評価(バリュエーション)やデューデリジェンスの結果をベースとした上で、双方の交渉で決定します。何か懸念点があれば、第三者であるアドバイザーが提示する根拠のある数値をベースに納得行くまで話し合うべきでしょう。

6.譲受後のPMIを怠る

M&Aの成約後は、組織体制を見直す必要があります。経営陣同士の慎重な検討を重ねた末に成約したとはいえ、元々は全く異なる企業です。組織文化や価値観、ルールなど全てが異なるため、慎重に統合をしていかなければ組織がバラバラになってしまう可能性もあります。この組織の統合をPMI(Post Merger Integration)といいます。

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7.従業員の離職・業績悪化

譲受後に優れた人材が離職していくと、当初想定していたシナジーが発揮できず、M&Aによる効果が期待できなくなってしまいます。そのため、M&Aの過程で譲渡企業と相談を重ねた上で、個々の従業員に対する待遇について、しっかり確認しておくことが肝要です。また、先述した企業文化の違いも離職の大きな要因になりますから、M&A後も時間をかけて融合を図ることが必要です。

M&Aの失敗を未然に防ぐ方法は?

M&A 失敗

M&Aには多くの困難と障害があり、時間もかかるものです。近年、日本におけるM&Aの件数は2012年以来、7年連続の増加となっており、近年では海外企業とのM&Aも盛んです。

M&Aを適切に実施するためには、M&Aアドバイザーなど専門家の存在が不可欠です。何でも相談でき、信頼できるM&Aアドバイザーを見つけることが、M&Aを成功に導く、最初にして最大のポイントといえるでしょう。