M&A 会議

東京商工リサーチの調査によると、2018年に全国で休廃業・解散した企業は4万6,724件と、前年に比べて14.2%増加しました。また、休廃業・解散した企業の代表者の年齢は、60代以上の割合が83.7%に達しており、事業承継の困難さが企業の休廃業・解散の一因になっています。

こうした状況を受け、実子や親族といった「身内」への承継に代わる企業存続の手段として注目を集めているのがM&Aです。M&Aによる第三者への承継は、経営者にとって後継者問題を解決する選択肢の一つになっています。

本記事では、譲渡側と譲受側、双方の視点を通じて、中小企業の円滑な事業承継を達成するためのM&Aのメリットを解説します。

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もくじ

M&Aのメリットとは?買い手側と売り手側の視点

M&Aは買い手側と売り手側それぞれに多くのメリットがあります。

買い手側のメリットは経営資源の強化による競争力強化、時間の節約などさまざま

M&Aによる買い手側のメリットは以下の通りです。

譲受企業(買い手)のメリット 譲受企業(買い手)のデメリット
  • 生産の効率化
    (ノウハウと技術の獲得)
  • 競争力強化
  • シナジー効果
  • 市場環境の変化への対応
  • 時間の節約
  • 規制市場・外国市場への参入
  • 資金の調達
  • 計画的に進まない
  • 融合に時間がかかる
  • 優秀な人材の流出
  • シナジーが生まれない
  • のれん代の減損リスク

1.生産の効率化(ノウハウと技術の獲得)

今後の成長が期待される分野や収益性の高い分野に多くの資産を集中することは、経営戦略において重要です。M&Aを行い、他社の優れた技術やノウハウを獲得することで、事業規模の拡大や経営基盤の強化ができます。また、生産の規模が大きくなることで、製品ひとつあたりのコストが下がるといった規模の経済が期待できます。

あわせて、M&Aによって事業や企業を譲受けることで、これまで注力できなかった分野や、新たな技術、生産のノウハウ、人材などを他社から譲受け、生産体制を強化し収益性を高めることが可能となります。

実際に経済産業省の調査では、事業の譲受けや吸収合併といった企業再編を行った中小企業は、労働生産性が向上する結果となっており、M&Aは生産の効率化にも有効であるといえます。

2.競争力強化

経済産業省の調査によると、2017年度に海外に現地法人を有する日本の企業は、25,034社と前年度の24,959社より6.5%増加しています。グローバル化が進むことで、コスト削減がより求められるなど競争が激しさを増しています。

特に、日本市場は少子高齢化による人口減少や長引く不況で市場が縮小傾向にあり、厳しい経営環境となっています。こうした中、M&Aによって他社を譲受けることで、競合他社の市場シェアを獲得できるだけでなく、相手先のノウハウを獲得できるため、競争力の強化に非常に有効です。

3.シナジー効果(経営の効率化)

M&Aによって、単純な足し算にとどまらない多くの効果を得られる可能性があります。こうした総和を超えて得られる効果を「シナジー効果」と呼びます。複数の企業が共同で事業を運営することで、販売、設備、技術などの機能を相互に活用できるため、多くのシナジー効果を見込めます。

補完的な事業を譲受けることで、新たな価値を生むことが期待されるほか、重複している事業の統合、物流や生産体制の一体化などによる効率化、経営ノウハウの共有などでも、シナジー効果に期待できます。

▷関連記事:M&Aの成功を左右する「シナジー効果」とは。種類や事例と評価方法を紹介

4.環境変化への対応

インターネットの発展によるオンラインショッピングの利用拡大や、決済のデジタル化などによって、消費者の行動は日々変化しています。変化の激しい消費者の行動に対応するには、自社のみの努力では限界があり、同業種・異業種間での提携や統合が有効に働く場合があります。

5.時間の節約

事業の多角化や新規市場への参入を目指す場合、一から技術や事業を育て上げるには長い時間がかかる場合があります。特に、経営環境の変化が激しい現代では、可能な限り時間をかけずに事業を立上げて、目的を達成する必要もあるでしょう。

迅速に事業を立上げ、軌道に乗せる場合、すでにその事業を有している他社を譲受け・提携するといったM&Aが効果的です。事業の立上げと成長にかかる時間が短縮されることはM&Aの大きなメリットです。

6.規制市場・外国市場への参入

金融や通信、航空、放送などの規制業種の場合、許認可などの法規制が存在しており、新たに市場参入するのは多くの手続きや時間を必要とします。こうした業界への参入を検討する際は、M&Aによって許認可などを含めて譲受けることは有効といえます。

また、海外市場への進出は、法律や商習慣、言語が異なり難しいといわれます。そのため、進出したい国の企業を譲受けることで、自社のみでの進出に比べて進出しやすくなる場合があります。さらに、すでにその地域でのノウハウやブランドを確立している企業と連携すれば、より多くのシナジー効果が望めるでしょう。

実際に日本企業による海外企業の譲受けは増加しており、2018年度上半期の日本企業の海外企業に対するM&Aの金額は11兆7,361億円、件数も340件といずれも過去最高の結果となっています。このように海外市場の参入にもM&Aは活用されています。

M&A メリット 会議

買い手側のデメリットは資金の調達や計画的に進まない可能性がある点

一方で、M&Aを成功させるためには、良い面だけでなくデメリットについても把握することが大切です。M&Aによる買い手側のデメリットは、以下の点などが想定されます。

1.資金の調達

企業の譲受けには多額の資金が必要です。特に規模の大きな企業や評価の高い企業の譲受けほどその傾向は顕著ですが、中小企業であっても独自の技術を持つ企業の株式には、予想以上の評価額がつくケースもあります。

そのため、資金の調達はM&Aにおける課題の一つといえるでしょう。アイルランドの製薬大手のシャイアー社を譲受けた武田薬品工業株式会社のように、大型M&Aによって負債が膨らみ、本社ビルなどの資産の売却を迫られる事例も見受けられます。

▷関連記事:M&Aを目的として資金調達する方法とは?一般的な調達手法やLBO、MBOについても解説

2.計画的に進まないことがある

M&Aは買い手側と売り手側の双方が納得し、お互いにとって良い効果をもたらすことが理想です。ただ、双方にそれぞれ株主や社員、取引先といった多くのステークホルダーが存在するため、交渉が難航したり、株主総会や書類の作成に時間がかかったり、破談に終わったりと計画的に進まないこともあります。

このように、M&Aにはメリット・デメリットの両面が存在しますが、多くの場合で買い手側にとっては、経営的なメリットがデメリットを上回ります。

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3.融合に時間がかかる

異なる企業文化や制度を持つ企業同士を融合する際、多くの時間を必要とすることがあります。組織体系や人事制度などのハードの面の統合が完了しても、企業文化や従業員の意識などのソフトの面が統一されるまでに、従業員同士の軋轢などが生じる可能性も考えられます。

4.優秀な人材の流出

M&A後の労働条件の変更や、就労環境の変化、M&Aの目的などに対し、譲渡企業の従業員から理解が得られず、離職に繋がる可能性があります。そのため、譲受企業は譲渡企業の人材の流出を防ぐため、M&A後の処遇やビジョンについて譲渡企業と事前に話し合った上で、M&Aには従業員にしっかりと説明を行い、理解を得ることが重要です。

5.シナジーが生まれない

前述のような文化の違いなどによって、M&A後の文化や人材の融合が上手く進まなかった場合、M&A前に想定していたシナジー効果を発揮できない場合があります。そのほかにも、M&A後に行われた社内システムや人事制度の融合が不適切な場合なども、シナジーが生まれない可能性があります。

6.のれん代の減損リスク

会計上における「のれん」の減損処理が発生するリスクは、デメリットのひとつといえます。のれんは、貸借対照表における勘定科目の一つです。具体的には譲渡企業の純資産(簿価)と実際の買収価格の差額を指しています。

譲渡価額に計上されたのれん代がM&A後に実際の価値よりも下回ると判断された場合、のれんは棄却され、減損の原因になります。のれんの減損が発生すると、資産の減額に合わせて決算書に表示する資産の金額も減少するため、決算時に減損処理をします。

減損が発生すると、資産の減少による財務面の圧迫、投資家には業績が不調という印象を持たれるなどのデメリットがあります。このように、M&Aにはメリット・デメリットの両面が存在しますが、多くの場合で買い手側にとっては、経営的なメリットがデメリットを上回ります。

売り手側のメリットは後継者不足の解消(廃業の回避)、企業の存続と発展、経営者利益最大化など

M&Aによる譲渡企業のメリット、デメリットは以下のようにまとめられます。

譲渡企業(売り手)のメリット 譲渡企業(売り手)のデメリット
  • 事業承継問題の解決
  • 経営者利益最大化の実現
  • 企業の存続と発展
  • 従業員の雇用が守られる
  • 売却益には税金がかかる
  • 時間的な制約がある

1.事業承継問題の解決

中小企業を中心に経営者の高齢化が進み、黒字であっても廃業を余儀なくされる企業が増加しています。中小企業は日本の産業を支えているため、その減少は日本経済全体の衰退をもたらすともいえます。

帝国データバンクの調査によると、2018年の日本企業の後継者不在率は全国で66.4%にも上ります。一方で、調査対象企業内で後継者の選定が済んでいる約9万3千社の後継者候補の属性を見ると「子供」が39.7%で最も多いものの、従業員など親族以外の第三者である「非同族」も33.0%と3割を超えて存在感を示しています。

近年では、実子が家業を継ぐという潮流が薄れつつあります。また、市場環境が不透明な中、無理に家業を継がせて我が子に苦労をさせたくないという考え方もあり、実子や親族による承継が減っているのです。

こうした状況を受け、政府も税制度の改正で事業承継を後押ししています。例えば、事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する、法人向け事業承継税制を平成30年度の税制改正で拡充しています。その結果、申請件数が年間400件から6,000件に迫る勢いで増加していると中小企業庁が発表しています。

M&Aによって、業績が良く意欲も高い企業に事業や会社を譲渡することで、こうした後継者不足の問題の解消につながります。

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2.経営者利益最大化の実現

中小企業の場合、オーナーである経営者が個人保証によって会社の負債を背負っているというケースが多く見受けられます。こうした場合では、会社を清算したとしても経営者個人に負債が残り、金融機関からの借入れの返済に追われたり、担保としていた資産(自宅・車など)を差し出さなくてならない必要に迫られます。

このような状況では、第二の人生に向けた資金計画が立たない状況にもなりかねません。M&Aによって会社を譲渡する場合、多くのケースで負債ごと譲渡します。負債などを買い手企業に引継いでもらうことで、個人保証などの解消が可能となり、引退後に負債が残る可能性は低くなります。M&Aによって「ハッピーリタイアメント」に向けて、経営者利益の獲得ができるでしょう。

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3.企業の存続と発展

M&Aによって、企業や事業の存続と発展を図ることができます。廃業を選択すると、従業員は職を失うことになります。これまで自社を支えてくれていた従業員の未来を考えると、会社清算には踏み切れないという経営者の方も少なくありません。

M&Aでは、従業員の雇用継続を条件に掲げることが一般的です。そのため、従業員の雇用を継続したまま会社を引継ぐことが可能です。また、雇用が継続されるため、退職金を支払う必要もなくなり、清算に比べて支出も抑えられます。

▷関連記事:従業員の待遇はどうなる?合併時の退職金制度や勤続年数との関係性について解説

4.従業員の雇用が守られる

先祖代々続く家業の場合などでは、「自分の代で会社をたたむことはできない」という意識を強く感じている経営者の方も多く見られます。M&Aによる譲渡を選択すれば、自らの代で廃業することなく、長年培ってきた技術やノウハウ、従業員や取引先との関係をそのまま譲渡することが可能です。

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M&A メリット 会議

売り手側のデメリットは税金や時間的な制約

では、売り手側が注意すべきM&Aのデメリットはどのようなものがあるでしょうか。

1.売却益には税金がかかる

中小企業のM&Aにおいてもっとも活用される手法である「株式譲渡」では、譲渡所得に対して20.315%(所得税+復興特別所得税15.315%、住民税5%:2019年1月現在)の税金が課されます。

譲渡所得は、譲渡価額から「取得費」と「手数料」を差引いて算出します。取得費は株式の取得にかかった費用のことで、創業者では会社を設立した際にかかった費用のことです。手数料はM&Aアドバイザーなどに支払った費用を指します。

ただし、会社清算に比べると、譲渡税を引いたとしても、得られる金銭は多くなることが一般的です。

▷関連記事:株式譲渡にかかる税金って何があるの?その種類や計算方法を徹底解説

2.時間的な制約がある

M&Aで事業や会社を譲渡するには、譲渡先の企業を探す必要があります。譲渡先の候補が見つかったとしても、企業の現状や情報をまとめたり、条件交渉を行ったりと、数ヶ月から数年の交渉が必要になる場合もあります。

また、交渉が難航した結果、お互いの条件が折り合わずに破談となることもあるかもしれません。そのため、M&Aによる第三者承継を検討する場合は、いつまでにM&Aをしたいのかということを考えるとともに、念入りに準備と計画を進める必要があります。

▷関連記事:M&Aを売り手企業の視点から考える手続きの流れ、メリット、リスクとは

円滑に事業承継を成功させるために

廃業の危機。中小企業の経営者が高齢に

高齢化は、中小企業にも大きな影響を与えています。帝国データバンクの調査によると、2019年時点での社長の平均年齢は、前年比プラス0.2歳の59.7歳で過去最高を更新しています。 年商別に見ると、「1億円未満」が60.8歳で最も高く、中小企業ほど社長の高齢化が進んでいることがわかります。

東京商工会議所が2018年に実施した調査では、経営者の年齢が60代の企業では約3割、70代では約2割、80代でも1割が「後継者を決めていないが、事業は継続したい」と回答し、「自分の代で廃業する」との回答をした企業は約1割となります。

多くの中小企業の経営者は、何らかの形で事業や企業を引継ぎたいとは考えているものの、後継者不在から事業承継が円滑に進まず、リタイアのタイミングを逃してしまうことが少なくありません。こうした場合、後継者が見つからなければ廃業に追い込まれる可能性が高くなるでしょう。

親族内での後継者育成は、3年以上。早めの対策が必要

一般的に、親族内承継であっても後継者の育成には3年以上かかるとされています。経営に関する経験と知識の習得、経営理念の引継ぎ、経営者としての責任感・資質の確認、人脈の形成など、経営者となるには覚えるべきことや課題が多々あります。後継者の負担を減らすためにも、早めの取組みが大切でしょう。

先に紹介した東京商工会議所による調査でも、30代、40代前半という比較的若い年代で事業を引継いだ経営者は、事業に対する積極性を活かし、業況を好転させている割合が高いという結果が出ています。

M&A メリット

事業を継続させるには?M&Aを含めた第三者への承継が選択肢として受け入れられるように

後継者への承継は一般的に経営者から、後継者への株式の移転であるため、贈与などによる場合を除いて、後継者が株式を取得するための資金を準備し、経営者から株式を買取る必要があります。その金額は大きく、後継者は資金の準備が難しいという問題があります。

実際に、東京商工会議所による調査では、親族内承継の課題として「後継者への株式の譲渡」、「自社株の評価額」を挙げている企業が多く見られます。特に、自社株式の評価額が1億円以上の企業では、「後継者への株式の譲渡」、「自社株の評価額」つまり自社株の承継に伴う資金の工面が難しいと感じている企業が多いようです。

このように、後継者候補はいるものの、資金面で承継が難しいケースも多く見受けられます。

また、親族内で後継者がいない場合、従業員へ事業を引継ぐケースもあります。ただ、従業員承継においても借入金・債務保証の引継ぎや株式譲渡に伴う資金の工面に課題を感じている経営者が多く、実現が難しいことも多々あります。

政府は後継者の負担を減らすため、相続税や贈与税の特例を認める事業承継税制の利用促進を図っています。さらに事業承継やM&Aなどを機に、経営革新や事業転換を図った企業に対する「事業承継補助金」などもあります。

同補助金には、親族承継や第三者承継に対する「後継者承継支援型」とM&Aによる「事業再編・事業統合支援型」の2種類があるため、事業承継を検討する際には、こうした国の制度も積極的に活用するとよいでしょう。

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事業承継にM&Aを含めた第三者承継の可能性を

超高齢社会に突入した日本では、中小企業の事業承継は今後も活発化することが予想されます。 後継者が見つからない場合には、廃業を検討する前に、M&Aを含めた第三者承継の可能性も探ってみましょう。

適切な進め方をすれば、M&Aによる事業承継は、買い手側にも多くのメリットをもたらします。また、売り手側にとっては、後継者問題を解決し、会社の存続ができます。

まとめ

中小企業の後継者不在の解決策としてのM&Aは、売り手企業、買い手企業ともにメリットが多い選択肢です。また、譲渡後の金銭も期待できるため、経営者のセカンドライフの資金獲得としても有効な手段です。企業の存続や従業員の雇用のためにも第三者承継の可能性を検討することをお勧めします。

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