よくわかるM&A

2023/10/02

【M&Aと法律】M&A実施における法務の注意点とは

【M&Aと法律】M&A実施における法務の注意点とは

M&Aを行う場合、どのような方法によるM&Aを行うにしても、法律や命令など(以下、法令)を無視して行うことはできません。

仮に規制している法令を無視して実行したとしたら、そのM&A自体が無効になったり、実行後に許認可を受けられなかったりして失敗するだけでなく、場合によっては損害賠償に発展するリスクもあります。

そのため、M&Aを行う場合には、実行しようとするM&Aの内容を十分理解したうえで、その方法に適用される、または適用される可能性のある法令をチェックし、その適用関係を明確にして実行する必要があります。

▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと手続きの流れ

髙田 光洋
この記事を執筆した専門家
弁護士 髙田 光洋
東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。 明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取り扱う中島成総合法律事務所を経て、あかつき総合法律事務所にて執務。一般企業法務、事業譲渡、民事再生等の企業再生事件等を中心に取り扱う。
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M&Aと法律の関係

M&Aの際に関係する可能性のある法令の数は無数にあると言ってよいでしょう。しかし、それら全ての法令を全てチェックするというのは大変ですし、適用されないことが明らかな法令まで確認することは業務量を圧迫し、非効率といえます。

他方で、法令の定めを遵守しないM&Aは、場合によっては無効となってしまう可能性があります。

そのため、適用の可能性がありチェックが必要な法令が何なのかを、実行するM&Aの方法から見定めていくことが重要となります。

M&Aを進めるうえでは多くの法律を確認する必要がある

会社が事業譲渡などのM&Aを行おうとした場合、会社の設立、組織、運営および管理を規律する会社法が適用され、その規律に服することになります。

そして、会社法においては、M&Aにより不合理な不利益を被る可能性のある会社の債権者や労働者などの保護のため、さまざまな手続きが法定されています。

さらに、例えば実行予定のM&Aが会社分割であった場合には、労働者の保護のため、労働契約承継法が制定されており、会社法の手続きに加えて、労働契約承継法にしたがった手続きを履践することが求められます。

また、会社法や労働者承継法などとは別に、取引などを規制する、金融商品取引法、独禁法や外為法などの規制も存在しますし、業種によって必要とされる許認可を規律する法律も存在します。

つまり、M&Aに関連する法令は無数にあり、譲渡企業や譲受企業の業態・業種や規模、M&Aの手法などにより、その適用関係はM&Aの数だけ存在するといっても過言ではありません。

では、M&Aに関する主な法律としてはどのようなものがあるでしょうか。次に一部を例にとって簡単に説明していきます。

M&Aと法律の関係

M&Aに関する主な法律

1.会社法

会社法は会社の設立、組織、運営および管理を規律する法律です。およそ会社がM&Aを行う場合には必ず適用されます。主に一般的な場合の会社債権者や労働者などの保護、手続きや対抗要件などが定められています。

また、これらの手続きに従わなかった場合における効果や、訴訟などでの争い方なども定められています。

▷関連記事:会社法とは?経営者が知っておきたい会社法とM&A

2.労働契約承継法

労働契約承継法は、会社分割時における労働者の保護を図ることを目的とする法律です。

会社法にもとづく会社分割においては、分割会社と承継会社などが締結または作成した分割契約などの定めに従って、分割会社の権利義務が承継会社などに包括的に承継されます。

しかし、労働契約の承継については、そのまま承継されるとした場合、労働者に与える影響が大きいため、会社分割時における労働者保護のため、労働契約承継法では以下を規定しています。

(ア)労働者および労働組合への通知
(イ)労働契約の承継についての会社法の特例
(ウ)労働協約の承継についての会社法の特例
(エ)会社分割にあたっての労働者の理解と協力を得る手続き

また、別途、商法等改正法附則第5条に労働者との協議の規定、更に法施行規則および分割会社および承継会社などが、講ずべき当該分割会社が締結している労働契約および労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針が定められ、これらにより労働契約承継のための手続きなどを具体化しています。

3.独占禁止法

独占禁止法は会社による企業結合が、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合および不公正な取引による企業結合が行われる場合に、当該企業結合を禁止します。

また、企業結合計画を行うにあたっては、事前届出制が採られていて、当該企業結合計画が、一定の取引分野における競争を実質的に制限することになるかどうかなどについて、公正取引委員会による企業結合審査が行われます。

企業結合とは、会社の株式の取得・所有(独占禁止法10条)、役員兼任(同法13条)、会社以外の者の株式の取得・所有(同法14条)または会社の合併(同法15条)、共同新設分割もしくは吸収分割(同法15条の2)、共同株式移転(同法15条の3)もしくは事業譲受(同法16条)などを指します。

4.金融商品取引法

金融商品取引法は、その1条で「国民経済の健全な発展」「投資者の保護」に役立てることを目的としています。

そして、同条は、この法律が定めるべき規制の内容として「企業内容等の開示規制」「金融商品取引業者に対する規制」「金融商品取引所に対する規制」を掲げて、それによって「有価証券取引の公正化、有価証券の流通の円滑化」「金融商品等の公正な価格形成」を図り、それによって目的を達成することを定めています。

公開買付金融商品取引法は、公開買付の透明性、投資者間の公平性の確保などの観点から規定を設けています。

公開買付とは、対象となる会社の経営支配権の獲得を目的として、買付者が上場会社の株券などを、取引所金融商品市場外において短期間で不特定多数者から買い付けようとする場合に、買付期間、買付数量、買付価格、買付目的などの情報を予め公告して、株式を買い集める方法で、投資家に対し公平な売却の機会を保証することにより、投資家の保護と証券市場の取引の円滑化を図ろうとするものをいいます。

公開買付の対象は、(ア)有価証券報告書提出会社または特定上場有価証券の発行会社の(イ)株券などについての(ウ)発行会社以外の者が行う取引所金融商品市場外での買付などであって(エ)金融商品取引法27条の2第1項1号ないし6号に従い(オ)一定の適用除外要件に該当しないものです。

上場会社のM&Aに関する株式取得については、公開買付により行われることが多くあります。

▷関連記事:TOB(株式公開買付け)の際に知っておきたい5%ルールと1/3ルール、アメリカや英国・EUのルールを紹介

開示規制

開示制度は、投資者が自己責任のもとで投資判断を行うためには、有価証券および発行会社に関する情報が、発行会社などから公平かつ適時に提供されていることが前提となるため、有価証券の発行会社に一定の情報開示を義務づけることによって、投資者に適切な情報が公平かつ適時に提供することを保証し、事実を知らされないことによって被る損害からの保護を図っています。

インサイダー取引

会社関係者が会社経営に影響を与える重要情報を知っていたり、公開買付者などの関係者が公開買付などに関する事実を知っていたりすると、それを知らない一般投資家に比べ、対象となる株式など金融商品の売買などにおいて著しく有利となり、金融商品取引市場における公正性・健全性に対して一般投資家は信頼することができなくなります。

そこで、金融商品取引法は、このようなインサイダー取引を規制しています。

5.建設業法・その他の許認可

建設業法は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化などを図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的としています。
この目的を達するため、法は建設業を営もうとする者は、軽微な建設工事のみを請け負って営業する場合を除き、建設工事の種類ごとに建設業の許可を受けなければならない規制を設けています(法第3条、令第1条の2)。

現行の建設業許可制度では、事業譲渡・合併・分割・相続があっても建設業許可の承継はできません。具体的には現行制度では上記のような承継があった場合、事業を譲り受けた側は、もとから建設業許可を得ている場合でないときは、建設業許可を許可行政庁に新規に申請し、許可審査期間を経て、改めて建設業許可を取得する必要があります。これは、現行の建設業の許可について承継にかかる定めがないためです。

他方、建設業法では今後、建設業の全部を譲渡・合併・分割などにより承継会社に承継させる場合に限り、許可行政庁の「事前の認可」を得れば承継が可能になります。

同様に、許認可などを得なければ合法的に業務を行えない業態の場合(老人ホームや医療法人なども)、当該許認可が承継できるのかは、それぞれの業務を管掌する法令の定めによることになります。

建設業法・その他の許認可

M&Aのプロセスと法務

ここまでM&Aに関連する法令をみてきました。M&Aを実行する場合における主な点にかかる法務はどうなるのでしょうか。ここでは、どのようなM&Aでもほぼ必要となるような契約書の締結、および従業員の承継について解説します。

契約書の作成

M&Aは、基本的に譲渡会社(譲渡人)と譲受会社(譲受人)との間で合意により実行されます。そのため、合意内容を明確にするための契約書が重要となります。

秘密保持契約書

M&Aにおいては、その企業価値の算定や、業務内容などを知るために、財務状況など重要な秘密事項を互いに開示する必要があります。しかし、開示したからといって必ずしもそのM&Aが最終的に合意され実行されるとは限らず、また実行されたとしても譲渡会社と譲受会社の双方が存続する場合もあります。

自己の重要な秘密が相手方に開示されるわけですから、その管理体制や不要になったときの取扱いなどを明確に定めておくことが重要です。そのため、まずは秘密保持契約書を締結するのが一般的です。

▷関連記事:秘密保持契約書(NDA)の解説とひな形使用時の注意点 M&Aの情報漏洩対策のために

基本合意書

M&Aの取引は、最終の契約まで至るまで長期間を要するのが一般的なため、当事者間で重要な条件の交渉が進み、当事者が最終契約の締結に向けての交渉の継続を決定した場合に、その時点でのそれまでの基本的な合意事項を当事者が確認するための書面を取り交わす場合があります。

この書面を基本合意書もしくは覚書、またはMOU(Memorandum of Undwestand)もしくはLOI(Letter of Intent)といいます。

その内容や目的はさまざまあり、また法的拘束力についても全ての条項について法的拘束力がないもの、一部の条項について法的拘束力がないもの、または全ての条項に法的拘束力があるものなど、さまざまなケースがあります。

基本合意書は、最終契約に至る途中段階での合意を書面化したもののため、本合意書ではM&Aを実行することができません。そのため、当事者の意図としても独占交渉権、独占交渉期間、秘密保持義務などを除き法的拘束力を有しないとされるのが一般的です。

仮に法的拘束力を持たせる条項を策定する場合には、特定して明示するべきでしょう。

▷関連記事:M&A契約における「基本合意書」とは?

最終契約書

最終契約書という契約書の名称があるわけではなく、正式かつ最終的なM&Aなどにかかる契約書のことをいいます。

例えば合併であれば、会社法で規定する必要的記載事項を含み、当事者双方の合意を得て、取締役会の決議などを経て、当事者間で締結する合併契約書のことになります。

M&Aの契約書のひな形をご覧になりたい方は、下記をご参照ください。

▷参考URL:M&A契約書等のひな形データ | ZEIKEN LINKS 事業承継・M&Aの知識・情報

労働契約の承継

合併

合併においては、合併により消滅する会社の権利義務はそのまま承継会社が包括的に承継します。そのため、労働契約もそのまま当然に承継されることになります。

他方、従業員との雇用関係を承継しないことを合意することもできますが、合併の場合には、このような合意により当然に従業員を解雇することはできず、合併の効力発生日前に労働契約の終了などの適正な手続きをとる必要があり、当該手続きを経なければ、雇用関係は存続会社に承継されます。

しかし、吸収合併においては、各合併当事会社の労働条件は異なっているのが通常であり、2つの労働条件を維持するのは好ましいことではないことから、合併後に労働条件の変更が行われることが一般的です。

この場合、労働条件の変更にかかる手続きなどの履践が必要となります。

▷関連記事:従業員の待遇はどうなる?合併時の退職金制度や勤続年数との関係性について解説

会社分割

会社分割は、事業単位の部分的な包括承継を採用しているため、吸収分割では分割会社と承継会社間の合意、新設分割では分割会社の意思によって分割契約・分割計画に定めることによって、承継される労働者の範囲を労働者の意思とは無関係に定めることが可能です。

そのため、すでに説明した労働契約承継法により、労働者の保護のための手続きが定められています。

▷関連記事:会社分割の手続きの流れは?吸収分割・新設分割の期間や事業譲渡との違いを解説

事業譲渡

事業譲渡は、合併や会社分割のような包括承継ではなく、譲渡人と譲受人の合意により承継する権利義務を定めるもので、債権者の同意を得て、始めて承継されることになります。

労働契約の承継に関しても、労働者の個別同意を必要とします。従業員が事業譲渡先に移るかは最終的に従業員の同意の有無にかかることになるため、当該事業のキーパーソンにあたる従業員の移転の諾否は、事業譲渡の成否を左右することもあるでしょう。

▷関連記事:事業譲渡の際に注意すべき会社法の項目は?定義や手続き、重要なポイントをわかりやすく解説

事業譲渡

弁護士がM&Aにかかわる場面とは

M&Aにはさまざまな法令が適用される可能性があり、またその手続きも複雑なことが多くあります。

このように法的な手続きが絡む場合には、弁護士が関与することで法令に関するチェックの脱漏を防ぐことができます。

では、弁護士はM&Aにどのように関与するのかをみていきます。

弁護士事務所が行うM&A

一般的にM&Aにおいては、M&A仲介会社・M&Aアドバイザーなどが主体的に関与する場合が比較的多いといえます。

これに対し、弁護士事務所(弁護士)が行うM&Aの場合、相談者である企業の代理人として関与することがほとんどです。相談者の資金繰りなどに関して事業再生などを検討し、その方法としてM&Aを行ったりスポンサーからの資金提供を受ける場合などが考えられます。

ただ、一般的に弁護士事務所でM&Aの相手方やスポンサーを探すことは難しいため、通常は相談者の取引先などの関係先をあたったり、M&A仲介業者などをあたることが多いと思われます。

また、弁護士事務所でのM&Aでは基本的に法的な部分などを担当することが多いため、企業価値算定などは提携している公認会計士などと協力して行います。

弁護士事務所がM&Aを行う場合には、通常、利益相反を避けるため、譲渡人か譲受人の一方の代理人となります。

また、M&Aを行う場合に、法務デューディリジェンスを行うために関与する場合もあります。譲受人として、譲渡人の事業に法的な問題点などがないかをチェックして、企業評価を適切に行うためです。

より限定的には、一般的なアドバイスとして、当事者から法的な手続きなどについて質問を受け、これに回答する場合もありえます。

M&A仲介会社が関与する場合における弁護士の役割

では、M&A仲介会社・M&Aアドバイザーなどが関与する場合には、弁護士はどのような役割を担うのでしょうか。

M&A仲介会社などと弁護士事務所との大きな違いは、すでに指摘したM&Aの相手方を探せるかどうかという点にあります。

そのためM&A仲介業者などが関与している場合の弁護士の役割としては、M&A仲介業者や当事者と協力して、法的な手続きなどのチェックを行うことになります。

弁護士が関与することにより、後々に法的な紛争が勃発するリスクを低減することができます。

規模の大きい小さいにかかわらず、M&Aの場合には、これまでみてきた通り相当数の法令が適用される可能性があるため、弁護士が関与した方がよいでしょう。

▷関連記事:M&Aにおける弁護士の役割と業務

まとめ

M&Aにおける法律、弁護士の役割を説明してきました。

M&Aにおいては、2つの異なる会社(人)が合意をするものになりますから、その当事者の数だけ種類があるといえます。そうするとそのM&Aの数だけ適用される法令にも違いがあり、その手続きやチェックする項目にも違いが出てきます。

そのため、M&Aを行う場合には、実行しようとするM&Aの方法などを十分に検討し、必要に応じて弁護士など専門家のアドバイスを受けながら実行していくべきでしょう。

※この記事は執筆当時の法令等に基づいて記載しています。

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