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2023/09/26

M&Aの最終契約書(DA)とは?基本合意との違いや各種項目を弁護士が解説

M&Aの最終契約書(DA)とは?基本合意との違いや各種項目を弁護士が解説

M&Aを進めて行くにあたり、譲渡側と譲受側の最終的な合意内容を明らかにしたものが、最終契約書です。
M&Aでは、段階によりさまざまな合意を締結していきます。秘密保持契約から始まり、基本合意、デューディリジェンスを踏まえた最終契約といった具合です。このようにM&Aを進めて行くにあたり、締結していく基本合意、そして最終契約へと至る流れやそれぞれの役割の違いなど、また、最終契約書についての基本的な記載事項や知識についてを解説していきます。

髙田 光洋
この記事を執筆した専門家
弁護士 髙田 光洋
東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。 明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取り扱う中島成総合法律事務所を経て、あかつき総合法律事務所にて執務。一般企業法務、事業譲渡、民事再生等の企業再生事件等を中心に取り扱う。
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M&Aの最終契約書(DA)とは

いわゆる最終契約書(Definitive Agreement = DA)というのは、そのような名称の契約書があるわけではなく、M&Aにかかる正式かつ最終的な契約書のことです。吸収合併でいえば会社法749条1項に定める法定(必要的)記載事項を含み、当事者双方の合意を得て取締役会の決議を得た上で締結する「合併契約書」のことを指します。

最終契約の締結タイミングと法的拘束力

M&A取引実施の流れの概要は次のとおりです。

手順内容資料など
1譲受・譲渡候補の選択譲渡側は譲渡条件、 譲受側は買収戦略を検討します。
2会社概要(ノンネームシート) による検討譲受企業は譲渡企業の会社概要により、M&Aの交渉を開始するかを検討をします。ノンネームシート
3秘密保持契約の締結譲受企業が譲受対象にたりると判断した後、詳細な資料を入手するために双方の名前を公開し交渉を開始します。秘密保持契約
4基本合意締結相当程度の譲受意思を持つ譲受企業に対し、 買収監査の調査権 や、独占的交渉権を与えます。基本契約書
5デューディリジェンス譲受側ないしその代理人が、譲渡企業をあらゆる面で調査します。
6最終契約締結買収条件を合意の上、 買収を決定します。最終契約書
7契約実行株式の譲り渡し、 代金の支払いなどを行います。
クロージング監査や譲渡価格の修正を行うことがあります。

一般的に、最終契約は基本合意後に行われる買収監査(デューディリジェンス)や対象企業に関する分析の結果、譲受側の譲受の意思が確定し、また譲渡価額の合意がされたときに締結します。最終契約は、M&Aに関する最終的な意思を双方が確認しあったものなので、法的な拘束力があります。つまり、この契約後にどちらかの理由により破棄される場合には、解約の申出を受けた当事者は相手に損害賠償請求することが可能です。そのため、最終契約締結前には、十分なM&Aについての検討が必要となります。

基本合意との違い

基本合意は基本的な事項に関する合意であって、いわばその確認書であるため、法的拘束力はありません。M&Aの成約を約するものでも、最終的な譲渡価額を決定したものでもありませんから、基本合意後にどちらかの理由により破棄されても解約の申出を受けた当事者が、相手に解約違約金や損害賠償請求することもできないのです。

基本合意書にはさまざまな条項が記載されますが、排他的に譲受企業が譲渡企業と交渉できる権利(独占的交渉権)や会社に調査のために立ち入ることを認める条項(買収監査権)は、ほぼどのようなケースでも含まれることが多いです。

▷関連記事:M&A契約における「基本合意書」とは?

最終契約書の作成 デューディリジェンスの結果の反映

最終契約書は、それ以前に基本合意書が作成されている場合には、基本合意書をベースに作成されることになります。しかし、実際には最終契約書の作成前のデューディリジェンスにおいて、問題点が発見されることで新たな交渉が始まり、条件などが変更されることもあります。

▷関連記事:M&Aの最後にして最大の難関。「デューディリジェンス(DD)」を徹底解説

最終契約書の基本的な構成要素

最終契約書はM&Aにかかる契約の場合、次のような条項が定められることが一般的です。

定義M&Aにかかる対象事業や対象契約など、 契約にかかる定義を定めます。
取引対象の特定と取引金額の確定または価格調整譲渡対象にかかる譲渡価格を決定します。
ただし、最終契約締結時点において譲渡価格の最終的な決定が困難である場合など、契約で定めた譲渡価額を事後的に調整し、一定期間終了後に最終価格を決定する場合があり、価格調整条項が設けられることがあります。
表明保証表明保証とは、一般的に、譲渡人が譲受人に対して、主として対象会社及び目的物に関し、一定の時点における一定の事実が正しいことを、譲受人に表明しかつその内容を保証することをいいます。
デューディリジェンスにより重要な問題点は明らかになっていますから、当該表明保証条項において問題点の総仕上げを行うことになります。
譲受人も法律上譲受けることができることなどについて表明保証を行います。
補償条項補償条項は、表明保証条項の違反だけでなく、 契約上の義務違反があった場合に相手方当事者が被った損害を填補する旨を定めたものをいいます。
誓約事項誓約は、クロージングまでまたはクロージング後も、当事者が実行しなければならない行為及び禁止される行為などを定め、それらの行為の履行または行わないことを義務づけるものです。
たとえば、クロージング日まで、通常の方法で事業の運営及び財産の管理を行うことや、クロージング日までに取引などに関する締結済みの契約上の地位の移転について承諾書を取得する、というようなことが挙げられます。
前提条件多くのM&A契約においては、一定の前提条件が満たされた場合にのみクロージングを実行する規定が定められます。相手方による一定の条件が満たされていないと、クロージングをしてもその後の手続きの不可が多き場合があり、それではクロージングを延期若しくは中止し、または契約を解除した方がよい場合があるからです。
そこで、各当事者は、解除条項と組み合わせることにより、一定の時期までに前提条件が満たされなかった場合には、この取引から離脱する権利を定めることが多いのです。
解除条件M&A取引においては、最終契約締結日からクロージング日までに一定の期間がおかれることが通常です。そのため、その間に当事会社の財産状態や経営状態の重大な悪影響を及ぼす事由が発生した場合、譲受側にクロージングを拒否する権利が与えられ、譲受側は解約金や損害賠償金などの義務を負うことなく、本取引から撤退することができる条項を定めることがあります。これをMAC (Material Adverse Change) 条項といいます。
債務不履行にかかる損害賠償当事者が契約にかかる債務を履行しなかった場合における損害賠償の予定などを定めます。
秘密保持最終契約締結の内容や、それまでの経緯などについて秘密を保持することを定めます。
公表M&Aにかかる事実を公表する場合、いつ、どのように公表するのかなどを定めます。
競業避止義務譲渡企業が譲渡した事業と同一の事業を行わないことを定めます。
費用負担M&A実行にかかる費用の負担などについて定めます。
裁判管轄M&Aにかかる紛争が発生した場合の、合意裁判管轄を定めます。

表明保証の内容

最終契約書に記載される一般的な譲渡人の表明保証の内容は次のとおりです。

組織適法に設立された有効に存続している会社であること
権限本譲渡を行う権限などを有し、 法令上の手続きを完了していること
所有権対象資産に瑕疵・担保権の設定がなされていないかなど
財務諸表・計算書類直近の財務諸表などの正確性
資産譲渡資産の全てが存在し、 毀損がなく譲渡可能であること
債権債権が回収できるか
債務簿外債務がないか、 偶発債務の可能性はないか
契約譲受人が引き継ぐ契約の相手方の契約履行能力は十分か、契約履行過程で譲受人に生じる損失損害がある可能性はないか、チェンジオブコントロール条項はないか
労務関係労働組合の有無、 労働組合との関係、従業員との訴訟・トラブルの有無、 未払賃金などの有無
税務関係税法違反などがないか
取引先など譲渡後も取引先との取引が可能であるか
知的財産権第三者との知的財産権を巡る訴訟などはないか、 第三者の知的財産権を侵害していないか
法令独禁法など重要法令に関する遵守体制・違反の有無など
訴訟法的トラブルの有無
反社反社勢力でないこと

M&Aにおける最終契約書の種類 株式譲渡契約

すでに解説したとおり、最終契約書という内容の契約はありません。M&Aにかかる正式な最終契約のことをいいます。そのため、一口に最終契約といっても、M&Aの手法によって最終契約の内容や性質は異なります。たとえば、株式譲渡の方法によってM&Aを実行するのであれば、最終契約書は「株式譲渡契約書」になりますし、吸収合併の方法によってM&Aを実行するのであれば、最終契約書は「吸収合併契約書」となり、事業譲渡の方法であれば、最終契約書は「事業譲渡契約書」となるのです。

ここでは、中小企業のM&Aの手法として一般的な株式譲渡の場合を前提に、最終契約書である、株式譲渡契約書を例に見てみましょう。

▷関連記事:株式譲渡とは?中小企業のM&Aで最も活用される手法のメリットや手続き、事前に確認しておくべき注意点を徹底解説
▷関連記事:株式譲渡契約書(SPA)とは?株式譲渡制限や株券不発行の場合の手続きについて具体的に解説

譲渡制限

株式譲渡によりM&Aを行う場合でも、上記のとおりのM&Aの流れと大きく変わりません。譲受企業が当該株式を譲受しようと思った場合には秘密保持契約を締結して検討を進め、M&Aの可能性が相当あるとなったら、基本合意を締結し、当該株式にかかる会社の状態を監査して、最終的に株式譲渡契約を締結することになります。

株式譲渡の場合には当該株式が譲渡制限付株式であるのかにより、手続きが大きく変わります。そのため、株式譲渡契約の内容も変わってきます。中小企業においては株式のほとんどが譲渡制限付きですから、それを前提として解説します。

▷関連記事:株式譲渡承認請求書とは?株式譲渡の記入例や手続きの流れを完全ガイド

株式譲渡契約における特徴的な条項例

a.譲渡株式の特定と対価

譲渡対象となる株式を特定する必要がありますから、譲渡する株式の種類と数を記載します。また、その株式の譲渡にかかる対価も記載します。

b.株式譲渡の実行

株券不発行会社の場合、譲渡の効力を対抗するためには、株主名簿の名義書換が必要となりますから(会社法130条1項)、対価の支払いと株式の譲渡だけでなく、株主名簿の書き換えにかかる手続きを定める必要があります。

c.譲渡人の義務

譲渡制限株式の場合、最終契約締結後クロージング日の前日までに、当該株式譲渡にかかる株主総会などの承認を受けて、当該総会議事録などの写しを譲受人に交付する義務を定めるのが一般的です。また、最終契約の締結からクロージング(株式譲渡の実行)まで、通常の業務範囲を超える事項や、重要な処分または取得に関する事項について行わないように定めることも多くあります。株式の価値を毀損したりしないためです。

d.前提条件

譲渡人がクロージング日において、最終契約に定める条件を充足していることを前提として、株式譲渡の実行をすることを定めることができます。たとえば、契約に定める譲渡人の義務を全て履行していることなどです。

e.その他

株式譲渡後の役員の選退任や、損害賠償・補償に関する定めを入れたりもします。行おうとしている株式譲渡に必要な条項を過不足なく盛り込むことで、後の紛争を回避することができます。

まとめ

最終契約のイメージはつかめたでしょうか。結論としては、最終契約という名の契約があるわけではなく、実行するM&A取引にかかる正式かつ最終的な契約であるということです。最終契約において大事なのは、実行しようとしているM&A取引にもっとも適している内容の契約を締結するべきであるということになります。

最終契約を締結したからといって、M&A取引は終了したわけではありません。むしろ、最終契約に基づいて実行し、成功させることが重要です。そのため、最終契約は、デューディリジェンスの結果を踏まえて、実行において問題になりそうな部分を洗い出し、後で紛争となることをできるだけ回避するという意味で、重要な契約となるのです。

上で説明した内容や、各契約書のひな形は、一般的なものを羅列しているに過ぎません。実行しようとする取引の実態に合わせた内容を考えることが重要です。不明点などがあれば、専門家に相談することも必要でしょう。

※この記事は執筆当時の法令等に基づいて記載しています。

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