業界毎の事例

2023/12/18

LPガス業界のM&A 10事例

LPガス業界のM&A 10事例

近年エネルギー業界では、規制緩和の流れを受けて小売販売の自由化が進んでおり、電力販売の自由化と都市ガス販売の自由化が相次いで行われました。LPガスの販売は元より自由化されていますが、都市ガスやオール電化への消費者の流出が見られています。また、それに伴い事業所の数も減少を続けており、LPガス業界全体としての市場の縮小傾向が見られています。

そのような状況の中、LPガス業界では市場縮小への対策としてM&Aが積極的に行われています。本記事では、LPガス業界についての解説から業界動向、業界の課題について、またLPガス業界で行われているM&Aの特徴と、実際の事例について紹介します。

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LPガス業界の市場展望
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【主なコンテンツ】
・統計データで見る現状と未来 業界課題
・ガス業界に迫る再編の波 6つの要因
・ガス業界 譲渡検討のポイントとM&A後のメリット
・M&Aよくある質問 気になる譲渡対価の評価法

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LPガス業界とは?

LPガス業界の会社は、主に3種類に分けられます。LPガスを海外から輸入したり国内で生産する元売業、元売業から買ったLPガスを小売業者に販売する卸売業、そしてLPガスを一般家庭などに直接販売する小売業です。

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・元売業:海外からLPガスを輸入、または国内でLPガスを生産
・卸売業:元売業からLPガスを購入、小売業に販売
・小売業:一般家庭などにLPガスを販売
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そもそもLPガスとは、「Liquefied Petroleum Gas(液化石油ガス)」の略称で、プロパンやブタンなどの比較的液化しやすいガスの総称です。
都市ガスとの違いが分かりにくいですが、都市ガスは主に天然ガスから生成され、主成分がメタンであるのに対し、家庭用LPガスの主成分はプロパン、工業用LPガスの主成分はブタンであるという違いがあります。

LPガス業界の市場

LPガス業界を取り巻く市場について解説します。

▷LPガスの需要・供給量の推移

日本LPガス協会によると、2021年度のLPガスの総供給量は約1,259万トンでした。
LPガスの総供給量のピークは1990年台となり、約1,950万トン前後となっていたため、約30年ほどで700万トンほどの供給が減少しています。

LPガスの供給量推移を示したグラフ

参考:日本LPガス協会 需給推移年報(~2021年度) 


同様にLPガスの総需要量(国内外合算)についても1990年台をピークに減少傾向にあり、ピーク時には約1,950万トン前後あったものが、2021年度には約1,259万トンとなっています。

LPガスの需要の推移を示したグラフ

参考:日本LPガス協会 需給推移年報(~2021年度) 

▷LPガス供給・需要量減少の背景

この背景には同じエネルギー市場の競合である、都市ガス市場やオール電化市場の伸長があります。

資源エネルギー庁が発表する『ガス事業生産動態統計調査』によると2022年度の都市ガスの販売量は前年度と比較し2.0%増加、またオール電化住宅の数も年々増加しており、伊藤忠グループのマイボイスコム社の調査によると、オール電化住宅の居住者割合は2021年3月に14.3%と前回調査時(2018年3月)の13.6%から増加していることがわかります。

このような都市ガスや電力といった他エネルギー業者との競争激化による収益性の悪化や、後継者不足を要因として、LPガス販売事業者数自体も減少傾向が続いています。
2022年12月時点の販売事業者数は約1万6,300事業所となっており、ピーク時の1968年と比べると約53%も減少しています。
将来的に、日本の人口減少がより加速化すると予測されている中で、今後はより市場が縮小していき、さらに事業所数も減少していくと見込まれています。

LPガス業界のM&A

LPガス業界において、多くの譲渡企業は大きく3つの課題を抱えており、その解決策として、M&Aが活発になってきています。
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1.後継者不足
2.従業員の人材不足
3.市場縮小や競争激化
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▷後継者不足

LPガスの販売事業者の経営者の平均年齢は63.0歳であり、高齢化が進み次の世代への事業承継の問題が顕在化しつつあります。
40歳以下の若い経営者の数もガス業界は少なく、高齢を理由に経営を継続することが困難になった卸売や小売会社ではM&Aを実施し、事業や会社を残すケースが増えています。

▷従業員の人材不足

経営者の高齢化と同様に従業員も高齢化が進んでいます。
肉体労働が多く給与水準も高くない業界であるため就職先として選ぶ人も少なく、また専門的な業務知識が要求されるガス業界では、人手不足がが深刻な課題です。

譲受企業にとっては、M&Aでは株式や譲渡益以外にも、譲渡企業の人材や譲渡企業の顧客などの獲得が可能です。
M&Aにより、他社の人材を獲得することが出来れば、上記の様な従業員の人材不足は解消されるため、M&Aは有力な選択肢と言えるでしょう。

▷市場縮小や競争激化

”LPガス業界の市場”でも触れた様に、LPガスの需要・供給量は年々減少傾向にあり、都市ガス自由化やオール電化など、都市ガスや電力会社との競争が激化しています。
この様な市場で売り上げを伸ばすことが求められていますが、LPガス事業者間でのM&Aを行う事でLPガスの事業エリアを拡大する事が可能なため、売り上げの増加が見込めます。

LPガスの小売業者には保安エリアが割り当てられており、各事業者の証券が定められています。
保安エリアはガス漏れなどの保安維持に基づく考え方で設定されており、保安エリア外への新規顧客の開拓は困難となっています。
こうした中でも他社を譲り受ける事で商圏の拡大を行う事が出来るため、売り上げ拡大にもM&Aは有効な手段となっています。

ガス業界同士のM&A事例 7選

まずはガス業界内におけるM&A事例を紹介いたします。

▷【2022年】岩谷産業による東京ガスエネルギー(現エネライフ)のM&A

2022年6月、岩谷産業は、東京ガスグループのLPガス販売部門を担う中核企業として、関東・首都圏においてLPガスの卸売や小売直売、自動車用LPガス販売などを手掛ける東京ガスエネルギーの全株式を取得しました。

東京ガスエネルギーは1960年の設立以降、関東・首都圏地域においてお客さまへ分散型エネルギーであるLPガスのトータルソリューションを提供してきました。

岩谷産業グループに入ることで、両社の保有するガス調達機能や卸機能、物販機能の連携強化により、LPガスの安定供給はもとより、営業の効率化や物流の合理化、業務効率化などさまざまなシナジー効果が期待されています。

▷【2021年】伊藤忠エネクス株式会社とWP ENERGY社(タイ)の資本提携

2021年5月、伊藤忠エネクスはタイ周辺のLPガスの販売事業や新規事業に参入すべく、タイのWP Energy Public Company Limitedと資本業務提携を行い、WP Energy Public Company Limitedの株式の一部を取得しました。

WP Energy Public Company LimitedはLPガス事業においてはタイ国内で2位、LPガス以外にも外食事業や太陽光発電事業を行っている企業です。

伊藤忠エネクスはWP Energy Public Company Limitedをパートナーとし、LPガス事業を共同で推進、LPガスのサプライチェーンの構築を目指すとともに、再生可能エネルギーへの取り組みやタイの近隣諸国への進出も検討しています。

▷【2020年】株式会社TOKAIによるベトナムLPガス販売事業者の株式取得

2020年7月、株式会社TOKAIホールディングスの100%子会社である株式会社TOKAIが、ベトナムのMIEN TRUNG GAS JOINT STOCK COMPANY及び V-GAS PETROLEUM CORPORATIONの株式をそれぞれ45%取得すると発表しました。

MIEN TRUNG GAS JOINT STOCK COMPANY及び V-GAS PETROLEUM CORPORATIONは両社ともベトナムの大手 LP ガス販売事業者の一社である PETRO CENTER CORPORATIONの子会社となります。

株式会社TOKAIホールディングスはベトナム LPガス市場への参入を足掛かりに、グループ LP ガス事業の更なる収益基盤の拡大及び収益力強化を目指すとしています。

▷【2020年】東京ガスアメリカ社によるキャッスルトン・リソーシズ社の子会社化

2020年7月、東京ガス株式会社の100%出資子会社、東京ガスアメリカ社はテキサス州でガス開発・生産事業を行うキャッスルトン・リソーシズ社の出資比率を46%から70%超に引き上げ、子会社化する事を発表しました。子会社の完了は2020年8月となります。

東京ガスグループの「Compass 2030」では、海外における利益を2030年までに3倍規模に拡大することを掲げており、北米での事業基盤の拡大に向けて投資を継続するとしています。

▷【2019年】カメイ株式会社による最上ガス株式会社の全株式取得

2019年1月、カメイ株式会社は最上ガス株式会社の全株式を取得してグループ会社の1つとしました。

カメイは1903年に石油、雑貨、砂糖、洋粉などの販売業を行う会社として創業され、現在では石油・LPガスなどエネルギー関連を中心に、食料部や建設資材部などの6つの事業を展開する総合商社です。最上ガスは山形県新庄市に本店を置き、LPガス及び灯油の小売業、並びに配管工事業を行っています。

カメイは東北一の供給体制・物流網を活かし、ホーム事業の中でも家庭用プロパンガスの販売や、導管によりプロパンガスを集団供給する簡易ガス事業を行っています。最上ガスをグループ内に迎え入れることで、ホーム事業の強化が図れるとしています。

また、カメイは他の事業においてもM&Aを積極的に活用して多角化を進めており、2018年4月には宮城県で調剤薬局を運営するM2メディカル株式会社を子会社化し、調剤薬局事業を強化しています。

▷【2019年】株式会社東邦ガスによる株式会社ヤマサの子会社化

2019年4月、国内3位のガス販売会社である株式会社東邦ガスが、ヤマサホールディングス傘下でLPガス事業子会社の経営統括を行っている株式会社ヤマサの全株式を取得して、ヤマサとその子会社を子会社化しました。

東邦ガスグループは、顧客に信頼され必要とされ続けるエネルギー事業者を目指して、都市ガスとLPガス、電気の3つのエネルギーの最適提案と新たなサービスによる付加価値の提供、リフォームを始めとしたくらしまわり事業の拡充に取り組んでいます。

ヤマサグループは、LPガスなどのエネルギー事業やくらしサポートに係わる事業、さらに地域密着・社会貢献活動など、長期にわたって地域の顧客との信頼関係を重視しながら事業展開を進めています。

東邦ガスは2019年度の事業計画においてLPガス事業の強化を掲げており、東海3県から活動エリアを広げ、顧客数や販売量の拡大を目指すとしています。また、LPガス事業強化の戦略の1つとしてヤマサとのM&Aを行いました。その結果、M&A実施後にはヤマサの7万8,000件のLPガス契約を合わせて東邦ガスグループのLPガス販売量は約1割増加する見込みです。

▷【2018年】静岡ガス株式会社による島田瓦斯株式会社の子会社化

2018年3月、静岡ガス株式会社が、同じく静岡県内でガスの販売事業を行う島田瓦斯株式会社の株式のうち55.8%を取得して子会社化しました。

静岡ガスは静岡県内において、都市ガスの製造、供給および販売や、LPガスの販売、リフォーム事業やガス機器の販売事業を行っている会社です。都市ガスの中では、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、西武ガスに次いで全国5位の売上高です。

島田瓦斯は1957年創立の会社であり、静岡県島田市を中心に都市ガス事業のほか、LPガス事業を展開しており、近年では静岡ガスより天然ガスの供給も受けています。

静岡ガスは、島田瓦斯の販売網を生かしてリフォームや電気事業の売上増を目的としています。また島田瓦斯が築いてきた地域における信頼と静岡ガスグループの技術力・提案力との相乗効果により、島田地域でのさらなる天然ガスの普及拡大と、顧客のくらしや地域のニーズに応えるとしています。

また、2018年12月には、静岡ガスグループの資本力・営業力・技術・ノウハウを活用し、より効果的・効率的な事業展開を目指すとして島田瓦斯を完全子会社化しています。

LPガスと異業種のM&A事例 3選

次にLPガスの元売会社が異業種の会社とM&Aを行った事例についてご紹介します。
近年は異業種の企業を買収することで、事業の多角化を目的としてM&Aを活用する企業も多くあります。

▷岩谷産業株式会社によるエヌ・ケイ・ケイ株式会社の子会社化

2016年9月、岩谷産業株式会社が、冷媒缶、ブロワーなどの製造・販売を行うエヌ・ケイ・ケイ株式会社の発行済み株式を100%取得して子会社化しました。

岩谷産業は、1953年に日本で初めて家庭用LPガスの全国販売を始めた会社であり、現在も「MaruiGas」のブランドで全国310万世帯にLPガスを供給しています。エヌ・ケイ・ケイ株式会社は製缶から充填まで一貫して行うエアゾール*1メーカーであり、環境に配慮した製品を多く製造、販売しています。

岩谷産業は中期経営計画において「成長戦略の推進」を基本方針の1つとして、成長分野に積極的に経営資源を投入するとしており、今回の子会社化はその一環として行っています。またエヌ・ケイ・ケイが販売するノンフロンのエアゾールの需要は今後高まっていくと見込まれ、岩谷産業の販路を活かして海外でのシェア拡大を目指していくとしています。

*1 エアゾール製品:気化した液化ガスまたは圧縮ガスの圧力によって、内容物を容器の外に自力で霧状や泡状などにして放出させる製品

▷株式会社ミツウロコグループホールディングスによる株式会社サンユウの株式取得

2018年5月、株式会社ミツウロコグループホールディングスは、子会社である株式会社ミツウロコヴェッセルを通して、株式会社サンユウの全株式を取得しました。

ミツウロコグループは主力のエネルギー事業のみならず、健康・スポーツ事業やリース事業、飲食事業など多岐に渡って事業を展開しています。その中でも子会社のミツウロコヴェッセルは各地の営業拠点や販売事業者を通して全国約80万世帯の人々にLPガスを供給しています。

一方サンユウは太陽光・蓄電池・省エネ設備機器の販売施工で20年近くの歴史があり、かつ多くの販売施工実績を持っている会社です。
サンユウの太陽光・蓄電池・省エネ機器の販売施工や販売代理店ノウハウを活かして、ミツウロコヴェッセルが培ってきた事業の更なる発展が期待できるとしています。

また、ミツウロコヴェッセルとサンユウが持っている双方の販売ネットワークを活かすことで、販売チャネルを拡大するなど既存のエネルギー事業や他の事業分野とのシナジー効果も期待できるとしています。

▷伊藤忠エネクス株式会社による大阪カーライフグループ株式会社の子会社化

2014年5月、伊藤忠エネクス株式会社は大阪カーライフグループ株式会社の発行済株式200株(発行済株式総数の51.95%)をNMC2007 投資事業有限責任組合より約60億円で取得して子会社化しました。

伊藤忠エネクスは全国108万世帯の家庭や法人のお客様にLPガスや都市ガス、ホームエネルギー販売事業や、LPガススタンドを運営するオートガス事業など、LPガスに関連した事業を多く行っています。

また大阪カーライフグループは、日産自動車系列ディーラーの中では、売上高約1,000億円という全国最大規模かつ大阪府下唯一のディーラーとなる日産大阪販売株式会社を傘下に持つ会社となっています。

伊藤忠エネクスはカーライフ部門において、燃料等の販売事業や、レンタカー、車販売、買取を行うCS(カースタ)事業の枠組みを超え、自動車関連事業への本格参入を目指してM&Aを実行しました。また大阪カーライフグループの事業資産を取り入れることで、燃料販売などを中心とした従来の事業基盤をより強化できるとしています。

LPガス業界のM&A|まとめ

近年都市ガスやオール電化といった他のエネルギー事業との競争激化や、日本全体での世帯数の減少により、LPガス業界は縮小傾向にあります。それに加え、後継者不足や人手不足も大きな課題となってきており、業界として厳しい状況に置かれています。

その中で、LPガス業界では元売業者同士のM&Aに限らず、卸売業者や小売業者とM&Aを行うことにより、事業規模の拡大や効率化を図るケースが多く見られます。また、異業種の企業とM&Aを行うことで、LPガス事業以外での収益を伸ばす企業も増えてきています。
M&Aをうまく活用することで、LPガス業界の会社が抱える課題解決につながっていくでしょう。

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