人手不足

東京商工リサーチの調査によると、2019年上半期の人手不足に関連する倒産は191件(前年同期比3.2%)を記録し、これは集計を開始した2013年以降、最多となっています。

実際に、日本商工会議所と東京商工会議所が全国の中小企業4,125社を対象に実施した調査(2019年度)では、対象の企業の66.4%が「人員が不足している」と回答しています。

このように日本の人手不足は深刻化しており、会社の倒産も相次いで起きている状況です。本記事では日本企業が人手不足になっている背景を解説するとともに、経営における解決方法をご紹介します。

人手不足を引き起こす社会的原因

まず、人手不足が起こっているその原因について、複数の社会的視点から説明します。

原因1.少子高齢化による、生産年齢人口の減少

少子高齢化が進行している日本の総人口は、2008年をピークに減少局面を迎えています。総務省の調査では、2060年には総人口が9,000万人を割り込み、65歳以上の人口が40%近い水準となることも推計されています。

少子高齢化によって生じる課題は、15〜64歳の生産年齢人口の減少に伴う、労働力の減少です。生産年齢人口とは、一般に15歳以上から64歳までの生産活動に従事できる年齢の人口を指します。戦後、生産年齢人口は増加を続け、1995年には8,726万人にものぼりました。しかしその後は減少が続き、2015年には7,728万人となっています。

将来的には日本の生産年齢人口は、2030年には6,773万人、2060年には4,418万人と推計され、生産年齢人口が最も多かった1995年と比較しておよそ50%も減少すると見込まれています。

生産年齢人口の減少により、企業は激しい人材獲得競争を勝ち抜かなければならない状況といえます。

原因2.従業員の高齢化

人手不足を感じている多くの企業では、主力従業員の高齢化も問題となっています。企業を支える熟練の従業員が定年を迎え退職すると、生産力の低下は避けられません。

先述の生産年齢人口の減少による人材獲得競争の激化で、若年層の社員を新たに雇うことも難しくなっているため、現場の人手不足に拍車がかかっているのです。中小企業庁の「承継アンケート」では、高齢者層の退職によって「影響がある」「少し影響がある」と回答した企業の割合は54.8%と、半数強に昇っています。

原因3.求人数と求職者の需要と供給がかみ合っていない

内閣府の調査によると、仕事の見つけやすさの指標である「有効求人倍率」が2017年4月にバブル期最高の1.46倍を超える1.48倍になったことが判明しました。

この1.48倍という有効求人倍率は、求職者数よりも求人数の方が上回り、人手が不足しているという事実を示しています。求職者側はさまざまな企業の中から仕事を探すことが可能ですが、企業側にとっては採用活動をしても、人材が集まらなかったり、他企業に人材が流れる可能性が高くなっている状況といえるでしょう。

依然として求職者の大手志向は根強いため、人材が大手企業に流れ、中小企業業の求人に応募が集まらず、人手不足が続く可能性は高いです。

原因4.働き方の多様化

求職者の中には、賃金よりも仕事のやりがいや、福利厚生を重視する人も増えているため、金銭面の労働条件の改善のみではなく、従業員の「働きやすさ」を意識した企業の人気が高まっています。福利厚生や労働環境の改善に大きなコストを割くことが難しい中小企業では、採用活動で苦戦が強いられることが多いことも現状です。

また、厚生労働省は個人で企業から仕事を受ける専門技術者をはじめとする「フリーランス」の労働者が約170万人いると試算しています。

正社員の獲得が難しい場合、派遣社員やフリーランス人材の活用を視野に入れるべきですが、こうした人材を活用するためには、新しい働き方を受け入れられる組織体制や風土、業務の調整が必要になるでしょう。また、フリーランス労働者の権利が法令で十分に保護されていないことが問題となっており、厚労省が対策を検討しています。

人手不足は、少子高齢化をはじめとした社会全体の課題や、「労働環境の改善が進んでいない」企業側の体制や求職者の価値観の変化など、さまざまな要因によって引き起こされています。

人手不足が深刻化すると倒産のリスクも

企業では、人材の採用と退職によって人数の変動が発生します。もし退職によって従業員の人数が減った際には、失った人材分の生産力を補わなければなりません。人員が減ることは、現場の従業員への負荷は少なからず増加するため、商品やサービスの質が低下する可能性も高まります。

高齢従業員の定年退職に加え、転職へのネガティブな印象が薄れてきている現在は、若手従業員の流出も珍しくなくなっているため、深刻な人材不足に陥り、事業を継続できなくなる企業も増えています。実際に、厚生労働省が発表する「学歴別卒業後3年以内離職率の推移」では、2015年時点での早期退職者は、大学卒業者においては約30%にのぼります。

東京商工リサーチの調査では、2016年に発生した「人手不足」関連倒産310件のうち、代表者の死亡や後継者がいないことによる「後継者難」型が268件(前年度287件)、求人に対して人材が集まらなかった「求人難」型が24件(前年度19件)となりその他にも、「従業員退職」型が18件(前年度15件)、「人件費高騰」型が18件(前年度25件)と判明しています。

このデータから特に注目すべきなのは「求人難」型倒産が増加している点です。「退職者が出ても、その分採用すれば問題ない」と考えていても、採用そのものが上手くいかなければ人手不足は解消されません。その状況が改善されなければ、倒産リスクが徐々に高まっていくのです

人手不足

人手不足が著しい業界とその理由

厚生労働省の報告では、一部の業界において入職率、退職率がともに高いことが報告されています。入職率とは全労働者に対して新たに就業した労働者の割合であり、上昇している場合は、企業が積極的に採用を行っている状態であることを指します。しかし入職率と離職率がともに高い場合は、採用と退職が多く見られるため人材が定着してしないことを表します。

ここでは、人材が定着しない状況が依然として続いている主な業界と、その背景をご紹介します。

宿泊業

宿泊業は訪日観光客の増加により需要の高まりを迎えています。その反面、祝日や大型連休などの繁忙期には休日が取りにくいほか、長時間労働を課せられやすく、また長時間の立ち仕事や清掃作業など体力が求められる業務のため、労働環境が原因の離職が高い傾向にあります。

総務省の調査では、宿泊業・飲食サービス業の労働時間は、週60~69時間が55.6%、週70~79時間が29.6%、週80時間以上が14.8%にのぼっています。

顧客に満足してもらうことも重要ですが、そのサービスを提供する人材が欠けてしまっては事業が成り立ちません。勤怠制度や福利厚生、サービス内容の改善によって、従業員が働きやすい環境を整備する必要があるでしょう。

飲食サービス業

飲食サービス業界も、訪日観光客の増加に伴って需要が高まっています。飲食サービス業界は慢性的な人手不足であり、正社員に対してアルバイトやパートが占める割合が高いという特徴があります。

アルバイトやパートは学生や主婦からの応募が集まりやすいものの、学生は就職や進級をきっかけに、主婦は家庭環境の変化に伴い退職する可能性も大いに考えられます。また、少子化により若者の人口そのものが減少しており、採用しにくくなっている点も大きな要因といえます。正社員の平均勤続期間も、2015年時に「3年以下」の割合が60%を超えるなど短く、従業員に長く働いてもらうための企業努力が欠かせません。

建設業界

東京オリンピックによる建設ラッシュやインフラの老朽化により、建設業は需要が急速に拡大しています。しかし、2016年の建設業就業者数は約492万人(ピーク時/1997年末より約28%減)と、人手不足の傾向が見られるようになりました。

建設業は体力を必要とするため、高齢の従業員が働き続けることが難しい業界です。現時点で就業者の約34%が55歳以上、約11%が29歳以下と高齢化が進行しており、高年齢層が10年後に引退することを踏まえると、次世代への育成が大きな課題とされています。

また、作業員の給与が月収制ではなく、就業日数に経験や資格に応じて決められる倍率をかけて算出される「日給制」であることがほとんどです。そのため、日給制を受け入れられず、退職する若手就業者も非常に多いです。

そのためにも建設業界に対しあまり良くないイメージを持つ若年層も一定数あり、イメージ払拭に向けた取組みが求められています。

運輸業

2018年に人手不足を理由に倒産した「運輸・通信業」の企業の数は、前年度に比べ88.2%も増加しました。運輸業は近年のインターネット通販の拡大により、急激に需要が高まっています。その一方で人手不足が改善できず、倒産する企業も増えているのです。

また、国土交通省の資料によれば、現在稼働しているトラック1台あたりの平均積載効率は約40%です。約60%が空の状態となっている原因は、荷物の時間指定配達や再配達などの配達サービスによるもので、インターネット通販の利用者に向けた便利なサービスが配達の非効率化を招いています。

運輸業は配達時間だけでなく、荷待ちとよばれる荷物を受取る、納品するための待ち時間が長時間化していることも問題になっています。実際に1運行あたりの荷待ち時間が2時間を超える割合は28.7%であり、改善に取組むことが重要視されています。

人手不足

人手不足を解消するための、ふたつの視点

これまで解説してきたように、従業員数が変動する要因は、「採用」と「離職」です。そのため、主に「採用力を強化する」「離職率を下げる」というふたつの視点から人手不足の解消に取組むとよいでしょう。

最後に、それぞれの取組みで効果を上げる主な方法をご紹介します。

採用力を強化する方法

 

1.知名度を上げる

企業が求職者からの応募を集める際には、企業が求職者に知られていることで優位になります。例えば、専門的な領域に特化している企業や、地域に根ざしている企業は、求職者が社名を知らないケースも多いです。

「求人媒体に掲載する」「就職フェアをはじめとするイベントに参画する」「知人や取引先に口コミで広めてもらう」といった活動を中心に、企業を知ってもらうための取組みを意識的に行うとよいでしょう。

2.自社の魅力やイメージを整理し、発信する

求職者に企業そのものを知ってもらった後は、「ここで働きたい」と感じてもらう必要があります。求職者に対して訴求力のある自社の魅力やイメージを構築し、求人媒体やイベントなどで発信しましょう。

自社の魅力を整理しておけば、面接の際にも求職者へのアピールがしやすくなります。現在はほとんどの業界で人材獲得競争が激しいため、「ここで働いてみたい」と求職者に感じてもらえるような働きかけが重要です。

3.採用のミスマッチを防ぐ

採用後に「想像と違った」という理由から早期に退職してしまう人も少なくありません。採用に投じたコストを無駄にしないためにも、採用時点でお互いのミスマッチを防止することを意識しましょう。

「どんなスキルを保持している人が足りないのか」「選考基準があいまいになっていないか」など、現時点で抱える採用の課題を洗い出すといった解決方法を探すのが最適です。

離職率を下げるための取組み

1.労働環境の改善

「適切な休日が取れない」「勤務時間が長い」といった労働環境は従業員の不満の要因となるだけでなく、従業員の疲弊により生産性が低下してしまいます。

仕事が多いからといって、残業や休日出勤が慢性化すると、残業代などが発生するため、かえって利益を生みづらくなります。利益を生むためには、現場の労働生産性向上が重要です。生産性を高めるために、研修を実施したり、効率化ツールを導入したりするなどの取組みを行うとよいでしょう。

労働生産性が向上すれば、残業や休日出勤が減少し、従業員は勤務と休日のメリハリをつけられるようになるため、さらなる生産性の向上が期待できます。

2.柔軟な働き方を取り入れる

退職者のなかには、ネガティブな動機から企業から離れていった従業員だけではなく、出産や育児、介護などをきっかけに退職せざるを得ないケースもあります。

時短勤務やフレックス制度、リモートワークといった柔軟な働き方を取入れることは、「可能であれば、仕事を続けたい」という意志がある従業員の離職を回避する効果的な施策でしょう。

3.評価制度を改める

「評価基準に不満があった」という理由から、離職する従業員も少なくありません。どれほど仕事内容にやりがいを感じていたとしても、自分の頑張りに見合った評価が得られなければ、従業員のモチベーションは低下してしまいます。

それぞれの社員に適切な評価をするためにも、人事評価制度を見直すことは欠かせません。明確な評価基準を策定し、従業員へ周知するなどの取組みが必要です。

人手不足は放置しない。深刻な課題として解消に取組む

今や人手不足は業界や業種を問わず深刻な課題となっています。社会全体から個々の働き手に至るまで、さまざまな変化や課題が生じており、人手不足の根本的な解消は簡単ではありません。人手不足を感じたら、自社が改善すべきは「採用」なのか「離職」なのかを見極めたうえで、対策を考えましょう。

実際は、人手不足を解消できずに経営が成り立たなくなり、倒産してしまう企業が多いのが現状です。しかし、人手不足だったとしても「M&A(Merger and Acquisition)」によって倒産を防げるケースもあることを知っておくことで選択肢が広がるでしょう。

他社に自社を譲渡し、倒産によって経営者が負債を背負うリスクを回避できる可能性があります。M&Aについての初期的なご相談も承っていますので、ぜひFUNDBOOKにお問い合わせください。