業界毎の事例

2023/09/14

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

本記事では、医療・ヘルスケア業界における人材不足の状況、およびそれがもたらす問題について確認します。

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国全体で進行している労働力不足

我が国では他に類例を見ないような少子高齢化とそれに伴う人口減少が進展しています。人口減少が進む中では、当然ながら、労働力人口、およびその基礎となる生産年齢人口(※)も減少していきます。また、高齢化の進展は、全人口に占める生産年齢人口の割合も減少させていきます。(※:15歳から65歳の人口。この中で実際に働いている人や働く意志を持ち求職中の人が「労働力人口」となります)。

<図表1>減少が続く生産年齢人口

将来の人口予測

データ出所:経済産業省 第6回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会「人生100年時代に対応した「明るい社会保障改革」の方向性に関する基礎資料」令和元年5月20日 

労働力人口が急速に減少しているため、労働市場を総体的に見れば、需要過多・供給不足による人手不足が常態化しています。

直近1年ほどは、コロナ禍により、外食や旅行、観光など、一部産業で業務の停止や縮小が余儀なくされており、その影響で労働市場の需給も緩んでいます。しかし、早晩ワクチン接種が行き渡り、国内でも経済活動が正常化されれば、ふたたび人手不足問題が焦点化されていくことは間違いありません。人手不足はこれから本番に入るのです。

医療・福祉業界の人手不足感は特に大きい

総体的、長期的に見て不可避である人手不足状況の中でも、医療・ヘルスケア業界では他産業と比べて特にそれが顕著です。経営者がどれだけ「人手が不足している」、または「過剰である」と感じているのかを調査した代表的なデータとして「労働経済動向調査」(厚生労働省)の「労働者過不足判断D.I.(ディフュージョン・インデックス)」があります。これは、労働者の雇用状況について事業所へのアンケート調査をおこない、「不足」と回答した事業所(経営者)の割合から「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いた値を表しています。プラスであれば「人手不足」、マイナスであれば「人手過剰」を示します。

<図表2>医療・福祉業界の人手不足感は強い

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:厚生労働省「労働経済動向調査」2016年5月分~2021年5月分を元に著者が作成。労働者過不足判断D.I.は、労働者の状況について「不足」と回答した事業所の割合から「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いた値。数値は、「正社員等」のもの。

直近5年ほどの労働者過不足判断D.I.の推移を見ると、調査産業全体で人手不足が続いていますが、医療・福祉業界の値は、ほぼ一貫して、調査産業全体を上回っています。ここから、医療・ヘルスケア業界の現場では、他業界にも増して人手不足が常態化しているとわかります。

2020年5月調査以降はコロナ禍によりいくつかの業種において労働需給が緩んだことから、調査産業全体のD.I.は顕著に減少して(人手不足感が緩和されて)います。一方、医療・福祉業界では、コロナ禍においても人手不足感は緩和されていません。むしろ、看護師不足が大きく報道されたように、コロナ禍は一部の医療現場での労働需給をタイトにさせる影響ももたらしています。

国際的に見て顕著な日本の医師不足

医療・ヘルスケア業界において、特に人手不足感が強いことには、複数の理由が考えられます。

まず、医師についてはそもそもその人数が少ないという点があります。たとえば、OECD(経済協力開発機構)が公表しているOECD加盟国(38カ国)の医療状況の各国データを比較すると、「人口あたりの病院数」において、日本は、最上位クラスにランクしています。

<図表3>病院数の国際比較(OECD加盟国)

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:OECD.Statより著者作成人口100万人あたりの病院数。データは2019年(オーストラリアのみ2018年)のもの。

また、同じくOECDデータをベースにして、日本およびG7の病床数をまとめたデータが日本医師会から公表されていますが、これを見ると、人口比の病床数おいても、日本は突出して多いことがわかります。(「病床数の国際比較」日本医師会、2021年1月20日)

<図表4>病床数の国際比較(OECD)

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:「病床数の国際比較」日本医師会、2021年1月20日

ところが、「人口1000人あたりの医師数」のデータにおいては、日本は最下位に近い位置にランクされています。直近の数値では2.49人となっており、1位のオーストリアの5.36人、2位のノルウェイの5.10人と比べて半分以下と、非常に医師が少ないのです。

<図表5>人口あたり医師数の国際比較(OECD加盟国)

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:Health resources – Doctors – OECD Dataより著者作成。人口1000人あたりの医師数。データは2020年または最新のもの。推計値を含む。

このデータからわかることは、国際的な比較において、病院数や病床数が相対的に多いにもかかわらず、医師の数が相対的に少ないということです。もちろん、各国で医療制度が異なるため、単純には比較できない面もあります。

しかし、少ない数の医師を、数多くの医療施設が奪い合うという構図になるため、各医療施設においては医師の不足感が強くなる傾向が生じており、それが先に見た恒常的な人手不足感にもつながっていることは推測できます。

なお、この医師不足の状況は、現在の医学部定員数が維持された場合、2027年頃にようやくOECDの平均レベル程度まで改善されると予想されています。

<図表6>人口10万人あたりの医師数の推移と将来予測

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:厚生労働省 医療従事者の需給に関する検討会 第35回 医師需給分科会 資料1「令和2年医師需給推計の結果」

地域、診療科ごとの医師の偏在

一方、日本国内での医師不足の状況は、地域によって大きなバラツキがあります。いわゆる「医師の偏在」の問題です。医師の偏在は、2004年に新医師臨床研修制度がスタートし、それ以前に大きな影響力を持っていた大学医局による研修医の人事差配の影響が弱くなったことに端を発するといわれており、すでに10年以上前から問題視されています。

<図表7>都道府県(三次医療圏)別の医師偏在状況

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会第4次中間取りまとめ」(2019年4月24日)

この状況に対して、国(厚労省)も、2015年以降、医療従事者の需給に関する検討会、医師需給分科会を設けて対策を検討してきています。そして、都道府県における専門医の「地域枠」制定など対策を講じていますが、十分に解消されているとはいいがたい状況です。

さらに、診療科による偏在もあります。比較的時間外勤務や夜間の急患対応などが少ない、麻酔科や放射線科での医師増加率が高く、外科、産科・産婦人科などでは増加率が低い傾向があり、その差がだんだん大きくなってきています。

<図表8>診療科別の医師偏在状況

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会第4次中間取りまとめ」(2019年4月24日)

医師数の過小な医療圏の医療施設や、増加率の低い診療科においては、今後も医師の確保に頭を悩ませる状況が続くと思われます。

これから一層進む看護師の人材不足

医療業界において、人手不足感が強いことの理由としては、医療法において人員配置基準が定められていることもあるでしょう。入院患者数や入所定員数に対して、医師、看護師、介護スタッフなどの必要配置人数が定められているため、もしその人数が揃わなければ業務を縮小せざるを得なくなるからです。

他業界であれば、「人が辞めてスタッフが減ったけれど、がんばって乗り切ろう」ということも可能ではありますが、人間の命をあずかる医療業界では、それが法律で認められていないということです。

そして、看護師については、医師と比べてはるかに多い人員配置数が定められているため、その確保も大変になっています。これは看護師以外のコメディカルについても同様です。

まず、足元の看護師の需給状況を、厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」(2021年3月、季節調整値、パート含む常用労働者のデータ)で確認します。全国平均の有効求人倍率が1.10倍であるのに対し、看護師のそれは2.06倍で、平均の2倍近い「求人難」となっています。

また、同時期の「医療技術者」の有効求人倍率は、2.81倍、「その他保健医療の職業」は、1.53倍と、いずれも平均よりもかなり高い求人倍率となっています。

<図表9>コメディカルの有効求人倍率

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」より。パート含む常用労働者のデータ

なお、厚労省の一般職業紹介状況は、ハローワークにおける求人数・求職数のデータを基に算出されていますが、看護師の場合は、各都道府県のナースセンターからの採用も少なくない割合を占めています。

そこで、日本看護協会が公表しているナースセンターの求人倍率データを確認すると、最新の2019年分で2.34倍と一般職業紹介状況よりもさらに高い倍率になっており、ここでも求人難状況が明らかです。

さらに、これを施設種別ごとに分析したデータでは、訪問看護ステーションにおいて、3.1倍と極めて強い求人需要があることがわかります。看護師資格を持つ人材を求めているのは、病院だけではなく、訪問看護ステーション、介護老人保健施設、ケアハウス・グループホームなど、高齢化を背景として多様化しており、それぞれの施設で看護師人材の奪い合いの状況が続いています。

<図表10>施設種類別の看護師の求人倍率、求人数、求職者数

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:「2019年度『ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析』結果」、公益社団法人日本看護協会広報部ニュースリリース、2021年2月17日

なお、今後の看護師の需給推移については、厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会」の中間とりまとめ(2019年11月15日)によると、2025年時点で、約6万人~約27万人看護師供給不足が生じると予想されています。

団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年から数年間、高齢者の医療・介護需要がピークを迎えるいわゆる「2025年問題」に向けて、看護師の需給状況は一層逼迫すると見込まれているのです。

人件費や採用難は医療経営上の最大課題

医業は基本的に労働集約型の産業であり、その費用の多くは人件費です。全日本病院協会がまとめている「病院経営調査報告」によれば、1病院あたりの医業経営における支出のうち、人件費は約54%と半分以上を占めています。(「平成30年度病院経営定期調査集計結果」一般社団法人日本病院会など、平成30年12月7日)

<図表11>医業費用に占める人件費

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:「平成30年度 病院経営定期調査 -集計結果(概要)- 」(一般社団法人 日本病院会など、平成30 年12月7日)所収、「表4:一病院あたりの損益」を基に著者作成。平成30年6月分。金額単位:千円

医療施設において人材不足が生じると、給与の引き上げ、残業代の増加、採用広告費・人材紹介費の増加などを通じて人件費にも影響を与えるため、人件費が過半を占める医業経営においては、収益を圧迫する要因となります。

実際、直近の「病院経営動向調査」(独立行政法人福祉医療機構 経営サポートセンター 2021年4月9日)によると、一般、療養型、精神科のいずれの類型においても、病院経営上の課題として挙げられている項目の1位は「人件費の増加」です。課題全体の過半数を占めており(複数回答)、しかも直近比較でも顕著に増加しています。また、課題として挙げられている内容の2位は「職員確保難」で、こちらも増加傾向です。「人材紹介会社への手数料増加」も高い割合を占めていることとあわせて、多くの病院が採用問題で困っている状況が見て取れます。

<図表12>人件費増加、採用コストが医療経営上の大きな課題

医療・ヘルスケア業界における人手不足の状況

データ出所:「病院経営動向調査」(2021年4月9日、独立行政法人福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループ)所収のデータをもとに、著者が作成。一般病棟の2021年3月の数値の降順で表示。経営課題は複数回答、最大3つ。

人材不足が医療施設の格差を加速させる

医療業界における人材不足への対応として、IT化やデジタル化、いわゆるDXによる効率化が考えられます。しかし、すでに述べたようにそもそも人員基準があり、それを下回る人員での医療施設運営はできません。また、人員基準と関係ないシステム部分のIT化についても、規制や慣習、あるいは資金的な問題から、なかなか進展していません。

たとえば、もっとも基礎的なデータである「カルテ」でさえ、電子カルテの普及率は、平成29年度で一般病院の46.7%と、半数にも満たない状況です。(「平成29年医療施設(静態・動態)調査」、厚生労働省)

コロナ禍初期の2020年4月には、オンラインによる初診診療が解禁されましたが、限定的なものであり、オンライン診療システムの導入も広く進んでいるとはいいがたい状況です。

今後、医療施設における人手不足を解消するための基盤として、DX化による効率化は必須となりますが、ITシステムなどの導入には多額の設備投資が必要なことから、経営体力のある医療施設とそうではない医療施設との、格差が広まっていくことが懸念されます。

IT化投資を積極的におこなえる医療施設においては、業務の効率化が進展することから、スタッフの過重な業務負担が軽減します。それにより、働きやすい職場として、相対的に人材が集まりやすく、また定着率も良くなるでしょう。

一方、IT化投資をおこなう体力のない医療施設では、その分ぶんスタッフに過重な労働負担がかかり、そのことがスタッフの定着率を悪化させ、さらに労働が過重となることから、採用・定着が難しくなるという悪循環のスパイラルに入りかねません。

人材不足問題は、病院間の収益格差を加速させる要因であり、場合によっては病院の存続にも影響を与えかねない大問題となりうるのです。

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