業界毎の事例

2023/10/03

高齢化する医療経営者の健康と事業承継問題

高齢化する医療経営者の健康と事業承継問題

「医者の不養生」という言葉があります。人には養生(健康への注意)を薦める医者が、自分ではそれを実践していないことを例として、正しいとわかっていながら自分では実行しないことを喩えることわざです。
もちろん、ここで「医者」が用いられているのは、単なる“もののたとえ”のはずですが、皮肉なことに現実にも、過重労働から医師の心身の健康が損なわれがちな状況は確かに存在します。

\資料を無料公開中/
幸せのM&A入門ガイド
資料
【主なコンテンツ】
・M&Aの成約までの流れと注意点
・提案資料の作成方法
・譲受企業の選定と交渉
・成約までの最終準備

M&Aによる事業承継をご検討の方に M&Aの基本をわかりやすく解説した資料です。
1分で入力完了!

単なるたとえ話ではない「医者の不養生」

たとえば、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会報告書」において、下記のように記されていることからも明らかです。「まず、我が国の医療は、医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられており、危機的な状況にあるという現状認識を共有することが必要である。」(「医師の働き方改革に関する検討会報告書」平成31年)。同報告書では、「特に若い医師を中心に」過重労働にさらされている点が記載されていますが、となっていますが、実際には病院経営者こそ、ハードワークが常態化しています。それはいうまでもなく、医師としての業務以外に、経営者としての仕事も並行してこなさなければならないためです。さらに、医療経営者の平均年齢は約65歳と比較的高齢です。その年齢で、ハードワークをこなさなければならないとなれば、自ずと健康面での不安が生じます。

ハードワークを苦労と感じない経営者が多い

そのようなハードワークをこなしながらも、医療経営者の場合は、それを大変な苦痛だと感じていない方も多いと思われます。これは一般企業の経営者にも共通しますが、経営者はハードワークを苦痛に感じず、むしろ楽しみながらこなしている人が多いようです。それは、仕事に強い使命感を持っていること、業務上の意志決定を自分で行える立場であることなどが関係しているでしょう。しかし、主観的にはやりがいを感じながら働いているとしても、長年のハードワークが心身へ大きな負担をかけていることは間違いありません。適切なケアがなされていない場合は、まさに「医者の不養生」という事態になりかねないのです。そこで問題になるのが、もし仮に、ご自分が急な病などで倒れてしまったとき、その後の医療施設の経営について、十分な想定や準備をしているか、という点です。

「いざというとき」の備えはできているか?

よく、組織経営上の理想的な姿として「自走する組織」がよいといわれます。これは、経営トップがすべての指示を出さなくても、組織構成員がそのビジョンや価値観を理解し、自発的にそれに沿った業務を遂行できる組織ということです。成功している医療施設の経営者は、医師として高い能力と責任感を持ち、多くの医療業務をこなしています。さらに経営トップとしても強いリーダーシップを発揮していることが多いでしょう。よく「スーパースター理事長」と呼ばれるような経営者です。
ところが、まさにその医師としての優秀さや、リーダーシップの強さゆえに、組織の「自走力」が育っていないということが往々にしてあります。言い換えると、経営者の属人性が非常に強い運営形態になってしまっているということです。そういった、属人性が強く、自走力が弱い組織は、万一、トップが動けなくなってしまったような場合、そのスムーズな承継や継続がとても難しくなることは容易に想像がつくでしょう。医師が経営者だけの診療所であれば、その経営が突然ストップしてしまった場合、通院していていた患者さんは困りますが、比較的影響は限定的です。ところが、他の医師やスタッフ、入院患者さんなどを多く抱えている一定規模の病院の場合は、その影響は診療所とは比較にならないほど大きくなります。

医療施設が回る仕組みがないままに、医療経営者が倒れたらどうなる?

経営者には定年がありません。ある意味で、いつまでも働き続けることが「できてしまう」立場だともいえます。上記のような属人性が強い運営形態になっていればなおさら、周囲からも求められ、また、本人もやりがいを感じるために、経営者としての平均年齢を超えて、70歳、75歳、あるいは80歳になっても、経営者の座を守っているということがあります。しかし、そのような高齢になればなるほど、健康上のリスクが高まることはいうまでもありません。

万一のことを考えて、十分な想定と準備をしながら経営を続けているのであればよいですが、そうではない場合、経営者ご本人あるいは遺されたご家族などがご苦労をすることが往々にしてあります。典型的な例を見てみましょう。

売り急いだために不利な合意となってしまったA病院

200床ほどの病床を持つA病院をはじめ、介護施設、幼稚園などを抱えるA医療法人のX理事長は、父親から病院を引き継いだ2代目です。X医師は55歳で既婚でしたが子どもはできず、また親族には他に医師がいないため、いずれは院内の医師の誰かに病院を承継してもらいたいと考えていました。しかし、まだ元気で気力も十分だったため、具体的な承継計画はまったくありませんでした。ところが、あるとき体調不良を感じたX理事長が検査を受けたところ、進行性のがんで、余命1~2年と診断されてしまいました。
あわてたX理事長は、勤務医に承継の打診をしてみましたが、突然の話であることや資金的な問題もあり、医師たちから色よい返事はまったく得られませんでした。そこでX理事長は、懇意にしているメインバンクの地銀の支店長に相談して、M&Aの買い手を探してもらうことにしました。幸い、近隣県の医療法人で名乗りを上げてくるところは見つかったのですが、欲しいのは病院だけで、介護施設や幼稚園などは不要だということでした。それらの施設については、それぞれ別の買い手を探すとなると、時間も手間もかかります。残された時間が少ないため、急いで話をまとめなければならないX理事長は、当初の想定よりもかなり引き下げた価格を提示して、なんとか一括譲渡の合意ができました。時間をかけてゆっくり相手を探して交渉すれば、その譲渡価格よりもかなり高い価額で売れたはずです。しかしX理事長は、自分が存命中にどうしても話をまとめなければと考えたため、不利な条件で合意せざるを得なかったのです。

自院で働く子の雇用を守りたいB病院

40床ほどの小規模なB病院を経営するY理事長は80歳でした。B病院は、慢性期病床を中心としていますが、建物の老朽化などもあり徐々に収益性が落ちてきており近年はよくて収益ゼロ程度で、赤字になる年もありました。Y理事長には娘のK子氏がいました。K子氏は40歳で、6歳の子どもを持つシングルマザーです。短大を卒業してから、ずっとB病院で事務の仕事をしています。K子氏は、数年前の離婚時に、そのトラブルをめぐって精神的に不安定になってしまい、現在は別の精神科に通院治療しながら、B病院で事務の補助的な仕事をしています。病気のため、以前のようなフルタイム勤務は難しく、休みも多かったのですが、Y理事長の子であることから、いわば特別待遇で、世間相場から見てかなりの好条件で就業をしていました。Y理事長が高齢になるまで退任せず理事長を続けてきたのには、娘を雇用し続けるためという理由もあったのです。最近まで健康状態にまったく問題がなかったY理事長でしたが、この半年ほど、急速に体調に衰えを感じるようになり、M&Aでの事業承継を検討しはじめました。ところが、B病院の収益性が低いことや、老朽化した建物の建て替えが必要なことから、なかなか条件の折り合う買い手が表れません。さらに、Y理事長が、娘の継続雇用をM&Aの条件にしていたことも、ハードルを上げていました。通常の経営体制であれば、K子氏を現在の特別待遇で雇用し続けることは、かなり難しいと思われます。Y理事長は、これなら、いまよりは病院の業績が良かった10年くらい前までにM&Aをして、そのお金で収益不動産でも買って娘に残してやればよかったと思いましたが、その時は今のような状況は想像もしていなかったので、仕方ありません。現在は、なんとかして今後の娘と孫の生活を守るために良い方法がないか、コンサルタントに相談をしています。

対応が遅れたために廃院を選ばざるを得なくなったCクリニック

Cクリニックは、Z医師が15年ほど前に、Z医師の地元商店街の一角で開業した内科の有床診療所です。Z医師の丁寧な治療から、徐々に口コミで患者も広がり、2名の非常勤医師にも手伝ってもらいながら、安定した経営状態が続いていました。ところが、ある時、夜間の急患への対応を続けていた直後、Z医師は脳内出血で倒れてしまいます。そしてそのまま、帰らぬ人になってしまいました。このとき、Z医師はまだ60歳でした。それまで医療事務の手伝いをしていた妻のL子氏が理事長代行となり、2名の非常勤医師の助けを得ながら、Cクリニックは経営を続けていました。L子氏は、なんとか自分が理事長となり、新たに他に医師を雇用してクリニックの経営が続けられないか、模索しました。しかし、医療事務の仕事をしていたとはいえ、経営という点では素人のL子氏に、新しい医師を採用したり、クリニック経営をまわしたりしていくことは困難でした。もともと、Z医師の腕と人柄とで集患をしていた部分が大きかったため、だんだん患者さんも離れていってしまいます。やがて、非常勤医師も退職の意向を示すようになり、L子氏はあきらめてM&Aを検討しはじめました。Z医師が亡くなってから1年近く経ったころです。しかし、その時点では、すでに多くの患者が離れしてしまい、スタッフの医師も退職の意向を示しています。そうなると、M&Aをしようにも、クリニック自体の価値はかなり低くなってしまっています。結局、L子氏は廃院することを選びました。もし、Z医師が亡くなった直後、まだ患者さんも多数ついており、スタッフの非常勤医師もいる時点でM&Aを検討していれば、それらの点について相応に高い価値が認められ、せっかく地元に根付いていたクリニックを廃業するという残念な結果は避けられたでしょう。

第三者承継の検討や万が一への備えを始めるタイミングは?

上記の事例は架空のものですが、似たようなケースは実際によくあります。いずれの場合でも、ポイントは、もっと早い段階で第三者に事業承継をしておく、あるいは、自分に万一のことがあった場合を想定して、その後の準備を整えておくことでした。ところが、現実には、「自分はまだまだ仕事をしたいし、やれる」あるいは「まだ他の者には任せられない」といいながら、結局のところ、単に対策を先延ばしにしてしまう医療経営者が大半なのです。
では、いつになったら、医療経営者が第三者承継をリアルに想定すればいいのでしょうか。

60歳になったとき

1つの目安は「60歳になったとき」でしょう。第三者承継をするにも、相応の時間がかかります。60歳になってから検討をはじめて、数年かけて準備を進め、65歳でそれが実現し、65歳でのリタイア、あるいはセミリタイアとなって「第2の人生」を迎えることは、一般的な会社員の延長定年や国民年金支給開始年齢が65歳であることなどから考えても妥当なところでしょう。65歳を過ぎると健康上のリスクが高まるということもあります。

子どもが継がないとはっきりわかったとき

もう1つの目安となるのが、「子どもが自院を継がない」ことが確実になったときです。たとえば、子が後期研修を終え専門医資格を取得した、勤務医として他院に就職をした、医学部で准教授職に就いた、あるいは、結婚した、孫が地元から離れた東京で私立小学校に入学した、などのキャリアステージ、ライフステージ上の節目で、子に確認してみるといいでしょう。その際に「自分は病院を継ぐ気がない」とはっきりいわれたら、そのときが第三者承継の考えどき。具体的に動くのは少し先になるとしても、将来を見越した情報収集や準備には着手したほうがいいでしょう。

これらのタイミングになったときでも、「何から考えてどう手をつければいいかわからない」ということもあるでしょう。そういう際は、多くの医業承継をサポートしてきた専門会社への相談を検討されるといいでしょう。自分1人で考えていても答が見つからないことでも、他の医療施設や医療経営者がどうしてきたのか、その具体事例をたくさん聞くと解決へのヒントが見つかることがあります。

    【無料ダウンロード】自社の企業価値を知りたい方へ

    企業価値100億円の条件

    企業価値100億円の条件 30の事例とロジック解説

    本資料では実際の事例や企業価値評価の手法をもとに「企業価値評価額100億円」の条件を紹介します。
    このような方におすすめです。

    自社の企業価値がいくらなのか知りたい
    ・企業価値の算出ロジックを正しく理解したい
    ・これからIPOやM&Aを検討するための参考にしたい

    は必須項目です。

    貴社名

    売上規模

    貴社サイトURLもしくは本社所在地をご入力ください

    お名前

    フリガナ

    役職

    自社の株式保有

    電話番号(ハイフンなし)

    メールアドレス

    自社を譲渡したい方まずはM&Aアドバイザーに無料相談

    相談料、着手金、企業価値算定無料、
    お気軽にお問い合わせください

    他社を譲受したい方まずはM&A案件情報を確認

    fundbookが厳選した
    優良譲渡M&A案件が検索できます

    M&A・事業承継のご相談は
    お電話でも受け付けております

    TEL 0120-880-880 受付時間 9:00~18:00(土日祝日を除く)
    M&A案件一覧を見る 譲渡に関するご相談