合併 吸収合併 新設合併

日本の中小企業には、代々受け継がれてきた優れた技術や人材が揃っています。しかし同時に後継者問題は深刻化し、事業を続けることが難しくなっている会社は年々増加の傾向があり、この深刻な後継者不足は、早急に解決することが必要です。実際に事業承継をうまく進められず廃業する中小企業も少なくないことは、日本社会にとって大きな損失です。こうした問題を解決する選択肢の一つである新設合併という方法について解説します。
 
※本記事では、新設合併のための新たに設立される会社を「合併会社」、新設合併を行った後に消滅する会社を「被合併会社」とします。

 

新設合併の定義やメリット・デメリット

吸収合併と比較されることが多い新設合併ですが、何が違うのでしょうか。 ここでは新設合併の定義、メリットとデメリットを解説していきます。

新設合併とは?

合併する複数の会社の事業・権利義務の一切を新設した会社に包括的に承継し、合併するすべての会社を消滅させる方法を新設合併といいます。すなわち、複数の会社の事業などを1つに集約し、新しい会社としてスタートを切ることになります。

吸収合併との違い

吸収合併は、合併する複数の会社のどれか1つが合併会社として存続し、他の会社は合併会社に吸収される形となりすべて消滅します。この場合、合併会社が被合併会社の事業・権利義務をすべて承継することになります。

会社法における新設合併の定義

会社法第2条28号では、新設合併は以下のように定義されています。「二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう。」つまり、新設合併とは2つ以上の会社が合併することであり、被合併会社の権利や義務をすべて新しく設立する会社に承継させることで、今後も事業を続けていくことができます。

新設合併することで生じるメリット

会社の規模を拡大し、成長に導ける

会社の規模が拡大するため、事業の効率化や取引先などからの信用の向上が見込めます。また、人員が増えることで新たな事業を始めることも可能となり、会社のさらなる成長を期待できます。

多くのシナジーを見込める

譲渡企業と譲受企業がそれぞれの会社として存続する株式譲渡に比べて、2つ以上の会社が1つになる合併では、より綿密な関係性が構築できます。そのため、より多くのシナジーを見込めます。

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負の感情を消滅できる

吸収合併の場合、被合併会社の経営者や従業員は合併会社との方向性の違いなどから、合併に対してネガティブな感情をもってしまう可能性があります。しかし新設合併は別会社の支配下となるわけではなく、これまでと同等の待遇が得られることが多くなります。そのため、合併に対してネガティブな感情を持ちにくい点は新設合併ならではのメリットです。

新設合併することで生じるデメリット

さまざまな手続きが必要になる

新設合併では、新たに会社を設立するため、被合併会社が保有していた免許や資格、許認可は新設合併した際に消滅してしまいます。
そのため、事業に必要な免許などを再度取得する必要があります。上場企業が新設合併した会社で再度上場を目指す場合、改めて上場申請を行う必要があるためより時間と手間がかかってしまいます。

PMIの負担が大きい

株式譲渡などと比べて、PMIの負担が大きくなります。複数の会社が1つの会社になるため、それぞれの会社が持っている人事制度や経理処理などの社内制度を一本化する必要があるためです。

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現金を対価とすることができない

新設合併は、合併する会社がすべて消滅します。そのため、被合併会社の株主に合併対価として現金で清算してしまうと、新設会社の株主がいなくなってしまう可能性がでてきます。そのような状況を避けるために、被合併会社の株主への対価は原則として株式を交付することになっています。
 
※新設合併において全く合併会社の株式が発行されないことはあり得ません。しかし、一方の被合併会社の株主に対しては社債・新株予約権のみを交付し、株式を交付しない取扱いは認められています(会社計算規則2条3項48号)。また、新設会社の株式に加えて新設会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債を交付することも可能です(会社法753条1項8号・9号、755条1項6号・7号)。

新設合併に必要な手続きの流れ

実際に新設合併を行うにはどのような手続きが必要なのでしょうか。新設合併における手続きの進め方を確認していきましょう。

新設合併締結時の手続きの流れ

新設合併も吸収合併も、手続きの流れ自体は大きく変わりません。
 
※吸収合併の場合、略式吸収合併や簡易吸収合併などで株主総会を省略できますが、新設合併において省略はできません。

新設合併における各種手続きの詳細

手続き1「新設合併契約の締結」

新設合併を行うには、被合併会社の間で合併契約を締結しなければなりません。契約書では下記の事項などを記載します。

  • 合併会社と被合併会社の商号と住所
  • 合併会社の目的、発行可能株式総数等
  • 定款で定める事項
  • 新設会社の役員氏名
  • 合併対価と割当に関する事項

手続き2「合併契約等の備置」

被合併会社は登記上の本拠である本店に合併手続きを行う日から、効力が発生する日までの期間、合併会社においては効力発生日の後6ヶ月を経過する日までの間、次のような事項を記載した書面などを備えておく義務があります。

  • 合併契約の内容
  • 合併条件の相当性等に関する事項(合併対価についての参考事項)
  • 効力の発生日以降に新設した会社の債務履行見込みに関する事項

手続き3「官報への公告」

債権者保護のために、合併承認決議の日から2週間以内に、合併する旨や新設会社の商号・住所、債権者異議申述期間などを官報公告によって掲載する義務があります。官報申し込みから掲載までの期間は、貸借対照表の要旨を掲載するか否かで変わります。また、新聞や電子公告を公告方法として定めている場合にも同様です。

手続き4「債権者に個別の催告」

各債権者にも、各別に催告が必要です。官報を公告方法としている場合は、各債権者へ催告をしなければなりません。ただし、公告方法を日刊新聞や電子公告と定めている場合、官報に加えて定款に定める公告を行ったときは、債権者に対する各別の催告を省略することができます。

手続き5「消滅会社の株券などの提出公告」

被合併会社が株券などを発行している場合には、効力発生の1ヶ月以上前に株券などの提出公告と株主などへの通知が必要です。株券発行会社の株主が少数であれば、株券不所持の申し出を株主全員にしてもらうことで公告・通知をする必要がなくなります。

手続き6「株主総会の招集通知と反対株主などへ通知」

原則として株主総会開催の1週間前、株式公開会社は2週間前までに招集通知を発送します。1週間前に招集通知を発送する場合、発送日を除いて株主総会開催日まで7日間が必要なので注意しましょう。
 
書面投票や電子投票の場合は、非公開会社においても2週間前までに通知を発送します。合併公告と併せて公告したり、招集通知と併せて通知することも可能です。

手続き7「株主総会決議」

原則として株主総会での新設合併の特別決議*1が必須です。
 
*1特別決議:議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の2/3以上の賛成を得ること

手続き8「新設合併効力発生」

新設合併は、合併会社の成立の日より効力が発生するため、合併会社の成立の日である設立の登記申請日が効力発生日となります。そのため、法務局が開いていない日を発生日にすることはできません。

手続き9「新設合併の登記申請」

効力の発生から2週間以内に新設した合併会社の変更登記、被合併会社の解散登記を同時にする必要があります。下記はその手続きに必要な書類の一例です。

  • 新設合併契約書
  • 合併契約承認時の株主総会議事録
  • 債権者保護手続関係書類
  • 株券提供公告の証明書類
  • 被合併会社の登記事項証明書

手続き10「書面の事後備置」

法令省令で定められた新設合併の効力発生日、新設合併により承継した権利義務などを記載した書面か電磁的記録を作成し、効力発生日から6ヶ月間は本店に備え置く必要があります。

まとめ

さまざまな手続きが必要になる新設合併ですが、経営陣や従業員の待遇が変わらないことが多い点は注目される点でもあります。合併する会社の一部ではなく、被合併会社の従業員などが新設会社に集まるため、規模の拡大や新規事業開拓も可能でしょう。新設合併を考えているのであれば、専門家に一度相談してみることをお勧めします。