会社分割 労務

会社の事業を他社に、承継する場合の方法のひとつに会社分割があります。会社分割とは、会社の事業の全部または一部を他の会社に承継させるために、1つの会社を2つ以上の会社に分けることをいいます。

会社分割は、多角経営化した企業がその事業部門を独立させる、他の会社の同じ事業部門と、合弁企業を作るなどの手段として利用されています。

会社分割には、吸収分割と新設分割があります。吸収分割は、会社の事業部門を他の既存の会社に承継させるもので(会社法(以下「法」2条29号)、新設分割とは、会社の事業部門を新設する会社に承継させるものをいいます(法2条30号)。

会社分割については、分割会社(事業部門を分割する会社)と承継会社(事業部門を承継する会社)が締結した分割契約などの定めによって、当該分割会社の権利義務を包括的に承継します。

この点、労働契約についても包括的に承継されますが、単にそのまま承継させるとした場合、労働者に与える影響が大きいため、会社分割時における労働者保護のための制度が法定されています。本記事では、会社分割時に注意すべき労務関係について解説します。

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この記事を執筆した専門家

会社分割 労務
弁護士 髙田 光洋

東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。
明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取扱う中島成総合法律事務所にて、一般企業法務、事業譲渡・民事再生等の企業再生事件等を中心に担当している。

会社分割における労務の問題

会社分割においては、合併や事業譲渡と異なる特殊性があります。企業組織再編において、労働者は再編の形態によって、再編先の企業との雇用関係の承継が異なります。

例えば、合併は、包括承継として合併前の労働者は合併会社に、その雇用がそのまま承継されます。事業譲渡の場合には、譲渡元の労働者個人と譲受企業との同意により、その雇用が譲受企業に移籍されます。

これに対し会社分割の場合、分割契約などに承継の対象者として記載されていれば、分割先にその雇用および労働条件が、包括的に承継されることになります。

つまり、分割契約などにおいて、どのように定めるかによって、承継される事業(以下「分割対象事業」)について、主として従事する者であるのに承継されない場合や、分割対象事業に主として従事しない者であるのに、承継の対象であるとされる場合があり、労働者において承継の対象となる者とそうでない者が存在することになります。

分割対象事業に主として従事しているのに、承継の対象とならずに会社に残る場合、また分割対象事業に主として従事していないのに、承継の対象となった場合には、主として従事する業務が変わることになりますから、労働者に与える影響は非常に大きいといえます。

この影響は、労働者の生活においても非常に重要であると同時に、会社においては労働者の意欲や生産性にも影響を与えます。

会社分割の成功は、分割対象事業が分割後によりうまく運営されることにより達成できるため、労働者の意欲が低下して生産性が低下することは、結局、会社分割が失敗する方向に作用することになります。

そのため、会社分割において労働者の保護は非常に重要である、ということになります。この労働者保護のために、会社分割においては、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(いわゆる労働契約承継法)(以下「承継法」)に定める手続きを履践することが必要になります。

以下では具体的に会社分割において、労働契約がどのように扱われるのかなどについてみていきます。

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会社分割時の従業員との労働契約の扱い方(労働契約承継法)

会社分割においては、会社分割契約などにおいて、承継の対象となった労働契約は承継会社に包括的に承継されます。この場合、原則的には当該労働者の同意は必要ありません。

しかし、上記でみた通り、労働者に対する影響が大きいため、関係する労働者に対しては、会社が一定の手続きをとることを義務づけ、労働者を保護する必要があり、その手続きが承継法に法定されています。ここでは承継法に関し、大まかな内容と手続きをみていきます。

原則は承継会社の従業員になる

会社分割において、分割会社と労働者との間の労働契約は会社分割契約などの定めに従い、特段の合意のない限り、承継会社に同様の労働条件で承継されます(部分的包括承継)(法759条1項、764条1項)。

つまり、会社分割契約などによって労働契約が定められ、労働者の承認なしに承継させることが可能になるのです(法758条2号、763条1項5号)。従って、会社分割の労働契約の承継については、労働者に不利益を生ずる可能性があることから労働契約承継法により、承継労働者の保護がなされています。

労働契約承継法の概要

労働契約承継法の対象は、会社分割に限られ、特定の労働者において労働契約の当然、かつ包括的承継の効果が生ずるものとしました。

労働契約の承継は、「事業を単位として包括的に行われる」ものですから、承継される事業組織の内容や、労働契約上の権利義務の内容をそのまま維持するものでなければなりません。そのため、事業規模の縮小や労働条件の変更を伴う会社分割は労働契約承継法の対象から外れます。

労働契約法は、会社分割において承継される事業に主として従事する労働者(主従事労働者)の労働契約は、承継されることを基礎に定められていて(承継法3条、4条)、主従事労働者でない者の労働契約は、これを承継する旨の記載があったとしても、異議を申し出ることにより承継がされないものとしています(承継法5条)。

労働者の理解と協力を得る努力義務(7条措置)

労働契約承継法7条は、会社分割に際し、分割会社に勤務する労働者全体の理解と、協力を得るための努力義務を分割会社に課しています(承継法7条)。これを一般に「7条措置」といいます。

労働者との個別協議(5条協議)

分割会社は、会社分割契約または分割計画を本店に備え置く日までに、分割対象事業に従事する労働者と個別に協議しなければなりません(商法等改正法附則5条)。

個別協議に関する商法等改正法附則第5条1項の規定が設けられた趣旨が、分割会社が労働者の権利保護を図るため、会社分割により承継される事業に従事する労働者にかかる労働契約を、承継会社に承継させるか、分割会社との間で継続させるかに関して、労働者に必要な説明を十分に行い、労働者の希望を聴取したうえで決定することにあるためです。

この個別協議のことを「5条協議」といいます。

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労働者への通知

分割会社は、会社分割にあたって、労働者および労働組合に対し、当該会社分割に関する事項を通知することが必要です。

通知対象

分割会社が通知する必要がある労働者および労働組合は、以下となります。

  • 承継される事業に主として従事する労働者(主従事労働者)
  • 上記以外の労働者であって、承継会社などに承継される労働者(以下「承継非従事労働者」)
  • 分割会社との間で労働協約を締結している労働組合

主従事労働者とは、基本的には、分割契約などを締結などする日において、承継される事業に専ら従事している労働者をいいます。

主従事労働者に該当するか否かについては、「分割会社及び承継会社等が講ずべき、当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」(以下「指針」)では、承継会社などに承継される事業を単位として判断するものであること。

その際、当該事業の会社にあたっては、労働者の雇用および職務を確保するといった法の労働者保護の趣旨を踏まえつつ「一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産」であることを基本とすること、とされています。

また、労働者が承継される事業だけでなく、他の事業にも従事している場合には、それぞれの事業に従事する時間、果たしている役割などを総合的に判断することになります。

総務、人事、経理などのいわゆる間接部門に従事する労働者(以下「従従事労働者」)であっても、承継される事業のために専ら従事している労働者は、主従事労働者となります。なお、従従事労働者が承継されない事業の業務も行っている場合には、上記のように従事する時間や役割などを総合的に判断することになります。

通知事項

分割会社は、通知対象の別に応じ、次の通知事項を通知期限日までに書面で通知する必要があります。

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通知日・通知期限日等

通知日(指針上、通知を行う日として望ましいと規定している日)や通知期限日(法律上、通知を行うべき期限を規定している日)は、株式会社(株主総会の要・否)と合同会社の別により異なります。

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従業員からの異議

  1. 会社が主従事労働者を分割会社に残留させる場合(分割契約などに承継する旨の定めが無い場合)
  2. 会社が非主従事労働者を承継会社などに承継させる場合(分割契約などに承継させる旨の定めがある場合)

上記の場合には、これらの労働者は、異議の申出を行うことができます。異議の効果として、労働条件を維持したまま労働契約が承継され、または分割会社に残留することになります。

異議の申出は、労働者がこれまで主として従事してきた業務から切り離される、といった不利益から労働者を保護するという考えにもとづき規定されたものです。異議の申出は、分割会社が指定した異議申出先に、書面で通知します。

異議申出事項は、以下を書面に記載する必要があります。

  1. 主従事労働者の場合、氏名、労働契約が承継されないことについて反対である旨
  2. 承継非主従事労働者の場合、氏名、労働契約が承継されることについて反対である旨

分割会社が定める異議申出期限日は、通知期限日の翌日から承認株主総会の日の前日までの期間の範囲内で分割会社が定める日です。株主総会が不要な場合、または合同会社の場合は、分割の効力発生日の前日までの日で、分割会社が定める日となります。

この点、分割会社異議申出期限日を定めるときは、通知がされた日と異議申出期限日との間に、少なくとも13日間をおかなければなりません。これは労働者が異議の申出を行うか否かを判断する期間として、最低2週間は確保する必要があると考えられているためです。

株式会社で株主総会が必要な会社分割の場合における一般的な手続きの流れ

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会社分割を理由にした従業員の転籍・出向をする場合の注意点

会社分割の場合、主従事労働者は個別の同意なく労働契約が承継されるのが原則です。

転籍

この点、会社分割の際、労働者について会社分割の対象とせず、労働者から個別に同意を得ることによって、承継会社などに転籍させる、いわゆる「転籍合意」という手法がとられていることがあります。

しかし、転籍合意により承継会社などに主従事労働者を転籍させる場合であっても、法に基づく通知や、5条協議などの手続きを省略することはできません。

また、転籍合意に、労働条件が維持されない、承継について異議の申出ができない、異議の申出があった場合に労働条件が維持されないといった、合意がある場合でも、その効力は否定されるので注意が必要です。

出向

主従事労働者について、転籍合意の場合と同様に会社分割の対象とせずに、分割会社との労働契約を維持したまま、承継会社などとの間で新たに労働契約を締結し出向させる場合も、通知や5条協議などの手続きを省略することはできません。

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会社分割における従業員の退職金精算の取り扱い

会社分割によって、労働契約(労働条件)は包括的に承継されます。では、退職金の扱いはどうなるのでしょうか。以下でみていきます。

退職金制度・勤続年数の承継

会社法の規定にもとづき承継会社などに承継された労働契約は、分割会社から承継会社などに包括的に承継されるため、その内容である労働条件についても、そのまま維持されます。

労働条件の変更を行う際には、労働組合法や労働契約法における労使間の合意が必要であることから、会社分割の際には、分割会社は会社分割を理由とする一方的な労働条件の不利益変更を行ってはならないことになります。

退職金制度については、労働者と使用者との間で権利義務関係が認められるため、当該労働者の労働契約が承継会社などに承継される旨を分割契約などに記載されることにより、勤続年数などについて通算されることになります。

他にも、年次有給休暇の日数、退職金額など(法定外休業給付額、永年勤続表彰金を含む)の算定にかかる勤続年数なども同様の取り扱いとなります。

従業員の退職金制度が併存する場合の労務処理

会社分割のうち、既存の会社が分割対象事業を承継する吸収分割の場合、分割対象事業にかかる労働者は、分割会社との労働契約(労働条件)を承継し、もとから承継会社にいる労働者は、承継会社との労働契約(労働条件)となり、1つの会社で2つの制度が存在することになります。

この場合、労務処理にかかる負担が大きくなることから統一することが望ましいとも思われますが、上述のように、労働条件を不利益に変更する場合には、労働契約法第10条の要件を満たす就業規則の合理的変更による場合を除き、労使間の合意(労働組合法上の合意(労働協約)や労働契約法における労使間の合意)が必要となります。

変更に際しては、専門家にアドバイスを受けるべきでしょう。

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まとめ

会社分割による組織再編の場合、労働契約については労働契約承継法をはじめとする法の手続きを履践する必要があります。これら法の趣旨は労働者の保護ですが、労働者の労働意欲は会社の生産性にも影響し、会社分割の成功・失敗にも通じることになります。

そのため、会社分割を実行する場合には、十分な検討のうえ実行するべきですし、失敗しないためにも弁護士やM&Aアドバイザーなどの専門家の助けを必要に応じ、検討するべきでしょう。