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2023/09/15

デューディリジェンス(DD)とは?種類や手順・費用や注意点【動画付】

デューディリジェンス(DD)とは?種類や手順・費用や注意点【動画付】

デューディリジェンスとは

デューディリジェンスとは、譲渡企業に対して企業の価値、将来の収益性、リスクの調査および分析を行う事前調査のことを指します。英語では「Due Diligence」と表記され、日本語では「適当かつ相当な調査」と訳されます。

譲受企業が譲渡候補企業の経営環境や事業内容などの実態を財務・税務・法務などのさまざまな観点から調査し、その企業の資産価値を測ることで、譲受企業はその内容を基にM&Aのスキームを検討したり、調査の中で問題が見つかった際には譲渡価額の見直しや対処方法の取り決めを行うなど、M&Aの最終段階において問題がないかを洗い出し、解決を図ります。

デューディリジェンスを実際に行うのは譲受企業ですが、調査結果が最終的な譲渡価額に影響を及ぼすため、譲渡企業は自社の事業構造や内部統制について詳細を再度把握するなど、入念な準備を行う必要があります。デューディリジェンスの際に、譲渡企業の収益性やM&Aの後に想定されるリスクなどが細かく調査されるためです。

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輿石逸貴
この記事を執筆した専門家
ひのもと法律事務所 輿石 逸貴
ひのもと法律事務所代表。静岡県富士市出身。早稲田大学法学部、同大学大学院法務研究科卒業。平成29年12月、弁護士登録(静岡県弁護士会)。静岡県富士市の山本法律事務所に3年間勤務し、令和2年1月から同市内で開業。あらゆる分野の紛争を取り扱う。
https://hinomoto-law.com/
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デューディリジェンス(DD)の目的

デューディリジェンスを行う目的は、大きく分けると以下の5つとなります。

1.企業価値の確認調査

企業価値評価を行う際には帳簿だけ見るのではなく簿外債務が存在する可能性も含めて総合的に算定する必要があります。そのため、デューディリジェンスでは帳簿の内外問わず全ての情報を調査、分析します。

2.ステークホルダーに対する説明責任

徹底的な調査を行い客観的なデータ分析を行うことで、ステークホルダーに対してM&Aを行う定量的なメリットを説明できるようになります。

3.M&Aの手法の決定

デューディリジェンスを行った結果によってはM&Aの手法を変更することがあります。例えば、譲渡企業側の希望が株式譲渡によるM&Aだとしても調査内容によってはリスクがあると判断され、結果として事業譲渡に変更する可能性もゼロではありません。そのため、譲渡企業について総合的に調査した後、両者にとって最も適切な手法を確定します。

4.表面化した問題の契約書への反映

デューディリジェンスを行うことで今まで見えてこなかった問題が表面化します。それらの問題の対応方法を契約書の修正により取り決めます。

5.統合後を見据えた情報収集

M&Aが成功するかどうかはM&A後に行われる二者間の統合作業(PMI)にかかっています。
PMIが上手くいくことによりシナジーが最大限発揮されるのです。客観的な情報を収集することでPMIの方向性を定めていくことが可能です。

▷関連記事:M&A成功の鍵となる、M&A後の融合プロセス「PMI」とは

上記5つのためにデューディリジェンスを実施しますが、最も重要なのは、統合前の企業間に存在する情報の非対称性の解消と、譲渡企業の価値やリスクの把握です。デューディリジェンスによって正確に譲渡企業の経営実態を把握することで、何が問題なのかを定量的に把握できます。

例えば不動産を保有している場合、時価や収益性を調査することにより保有すべきか手放すべきかを判断し、契約書への反映を検討します。実態に基づいて、事業の優先順位をつけることも多くあります。

このようにM&Aの成約後の具体的な事業計画や将来性を測るだけでなく、調査により発覚した問題の解決が困難な場合には、M&Aの意思決定が最終局面で覆されてしまうこともあります。M&Aにおいて、デューディリジェンスはそれほど重要な役割を担っているのです。

デューディリジェンス(DD)の種類

企業の実態を細かく調査するデューディリジェンスにおいて、その調査項目は多岐にわたります。その中で主要な項目は「事業」「財務」「税務」「法務」「人事」「IT」の6種類で、それぞれに専門的な知識が必要になる場面も多く、専門家(弁護士や税理士、会計士など)に依頼する場合が一般的です。まずは多くのM&Aの案件にて行われるデューディリジェンスの項目について紹介いたします。

事業デューディリジェンス

事業デューディリジェンスとは、企業を包括する市場全体を鑑みた上での評価調査です。市場における対象企業、つまり競合内での立ち位置などを確認したうえで、事業の将来性を見極め、経営計画の実現やM&Aの目的と適合しているかを調査します。

財務デューディリジェンス

財務デューディリジェンスとは、財務的観点からの調査です。貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書など主な財務諸表を基にして、対象企業の財政状態について調査し、将来的に期待できる収益性や、不正な取引や経理処理がないかなどのリスクを洗い出して確認します。

税務デューディリジェンス

税務デューディリジェンスとは、M&A前の税務申告に関わるものと、M&A後にかかる税についての調査です。株式譲渡の場合、税務リスクを引き継ぐことになる譲受企業にとっては、特に重要なものとなります。過去の申告漏れや納税処理の誤りがM&A後に発覚した場合には、譲受企業にペナルティが課され損失を被ることもあるため、適正な申告、納税がなされているかという調査は非常に細かく行われることになります。

法務デューディリジェンス

法務デューディリジェンスでは、譲渡企業が締結している事業に関する権利、債券債務について、法務上の問題やリスクが無いかを調査します。法的リスクを抱えていると、訴訟が起きた際に莫大な時間とコストが使われることになり、また企業への風評被害にも繋がる可能性もあり、経営に悪影響を及ぼします。

人事デューディリジェンス

人事デューディリジェンスとは、人事制度やマネジメントの実態調査です。
従業員数や人件費だけではなく、人事システムや労使関係などの労務に関する調査もこの中に含まれ、両社の人事制度や労働条件の融合の際に活用されます。また、人事デューディリジェンスの調査は、M&A後の組織再編において大変重要で、経営融合前後の制度やマネジメントの相違における社員のモチベーション低下など、人事面のリスクを想定した上で準備を整えることが必要となります。

ITデューディリジェンス

ITデューディリジェンスでは、譲渡企業が採用している情報管理システムの取り扱い方法を調査、分析します。既存システムとの融合における活用法や、それにかかる作業量やコストを考慮し、基幹業務に関するシステムをどのように結合すれば良いかを検討していきます。

M&Aの成約までの限られた期間の中で詳細かつ専門的な調査を行う必要があるため、実際にはすべての項目を調査するケースはあまり多くありません。
特に中小企業のM&Aにおいては、事業、財務、税務、法務の4項目のデューディリジェンスを行うことが一般的です。

上記で説明したデューディリジェンス項目と比べると主要な項目ではありませんが、下記のようなデューディリジェンスも実施される場合がありますので例としてご紹介します。

環境デューディリジェンス

環境汚染のリスクや、それが発覚した際の企業の評判に及ぼす影響などを調査します。環境汚染への対応の懸念がある場合、多額のコストが見込まれるため、それに関連する事業を切り離す、もしくは企業価値を下げます。なお、環境デューディリジェンスに関しては下記サイトが網羅的に解説してくれています。

知的財産デューディリジェンス

譲渡企業が特別なノウハウにより著作権や特許権を取得している場合、それらの価値調査、分析が行われます。しかし、これらの知的財産には形がないため、価値を測る評価基準はとても難しく、調査を専門家に依頼することが少なくありません。

顧客(カスタマー)デューディリジェンス

新規顧客と既存顧客の調査のことです。M&Aのデューディリジェンスにて用いられることはそれほど多くありませんが、顧客の本人確認などを行い、マネーロンダリング等をしていないか調査するために実施するケースが一般的です。

不動産デューディリジェンス

譲渡企業が所有する不動産の分析と調査を指し、不動産鑑定業務とも言います。不動産はデューディリジェンス時の周囲の環境、地価によって大きく変動するため専門の不動産鑑定士による分析、評価が必須です。

デューディリジェンス(DD)の手順

では、具体的にデューディリジェンスはどのように行われるのでしょうか。
一般的なデューディリジェンスの手順をご紹介します。

①事前準備(資料開示・事前分析)

デューディリジェンスの実施においては、譲受企業が譲渡企業に、M&Aに関わる資料開示請求を行い、譲渡企業は要請に応じた資料開示を行います。譲受企業は予め調査すべき事業領域を絞り込み、計画を策定し、事業構造や内部統制の状況を把握します。また、譲渡企業の財政状況、市場面や顧客面など、さまざまな面から問題点を把握、抽出します。
この段階では、譲渡企業と譲受企業間で秘密保持契約をすでに締結しているため、情報漏洩リスクは抑えられています。

▷関連記事:秘密保持契約書(NDA)の解説とひな形使用時の注意点 M&Aの情報漏洩対策のために

②資料分析

開示された資料を基に、融合において「シナジーはあるのか」「リスクはあるのか」などの視点で資料分析・把握作業が行われます。この分析は、譲渡価格の決定や契約書の作成に大きく影響します。

③マネジメントインタビュー

マネジメントインタビューとは、譲渡企業のマネジメント層にヒアリングを行う作業です。インタビューでは、経営者の考え方や企業理念など書面では判断しにくい項目を直接質問することができ、より具体的に融合後のシナジーやリスクを可視化します。

これらの結果を踏まえて、契約書を作成していきます。

デューディリジェンス(DD)が行われるフェーズと期間

M&Aにおける成約までの流れの中で、デューディリジェンスは一般的に最終契約フェーズの「基本合意契約の締結後」に行われ、コストや作業量を鑑みて調査項目を決定していきます。

デューディリジェンスにおける調査の作業自体は、中小規模のM&Aであれば数日(1~2日)の間に、専門家による調査とマネジメントインタビューが集中的に行われます。調査の場所は、一般的には書類を揃えている譲渡企業側の会議室などで行われます。

M&A成約の可否を分ける重要な調査ということで、長い期間をかけて行う印象もありますが、譲受企業、譲渡企業双方にとって、M&Aにかかる時間は出来る限り短縮したいもの。必要な資料を事前に揃えた上で、実際の調査自体は短期間で完了します。

デューディリジェンスの準備には長い時間を要しますが、企業概要書の作成段階などで、資料を揃えるための調査・準備は並行で進めています。そのため、一般的にはこの段階で一から資料準備を行い、長い期間を要するということはありません。

デューディリジェンス(DD)の費用

では、デューディリジェンスを行うにあたってはどれだけの費用がかかるものなのでしょうか?様々な内容の調査がある中でどれを選択して行うかを決める際の参考にもなりますので、費用の相場について事前に確認しておきましょう。

デューディリジェンスにかかる費用は譲受企業が支払うことになりますが、対象とする企業やその内容によって全く違ってきますので、明確な費用相場はありません。依頼する専門家の経験やレベルによっても大きく変わってきます。弁護士や公認会計士・税理士などの専門家に依頼する場合は費用が高額になると言われています。また、より信頼出来るレベルの高い人に依頼をすればそれだけ費用も高額になります。

中小企業のデューディリジェンスを行う場合、法務と財務、税務デューディリジェンスを行うことが一般的です。依頼内容や依頼する専門家によって差はありますが、これらだけでも100万円から200万円以上の費用が必要となることになります。これに必要に応じてその他のデューディリジェンスをプラスすると、さらに高額な費用がかかってくることになります。

また、主な調査(事業・財務・法務・税務・人事・IT)の費用の目安は以下のとおりです。

調査の種類1時間あたりの費用総額
事業2~10万円30~300万円ほど
財務2~5万円100~500万円ほど
法務2~5万円70~200万円ほど
税務2~5万円35~200万円ほど
人事2~5万円44万円~

デューディリジェンス(DD)に関する注意点

最後に、デューディリジェンスを行ううえで譲渡企業が注意すべき点を解説します。

チェックリストの事前活用

それぞれのデューディリジェンスにおいては、ある程度標準化されたチェック項目があり、それを基に調査を行い分析していきます。この項目を用いて、自社の価値やリスクを把握する事前チェックを行うために活用できます。

実施するタイミング

最も注意するべきことは、デューディリジェンスを実施するタイミングです。基本合意契約が締結された後の、最終条件交渉に移る前に行われるのが一般的ですが、適切な実施タイミングを測ることが大切です。

事前の計画立案

成約までの限られた時間の中で、譲受企業が検討する上で有効な情報を提出しなくてはなりません。計画的に重要なポイントを絞り、情報を把握しておくことが必要です。

マネジメントインタビュー対象者となった場合

インタビューを受けるにあたり、譲渡企業が事前に準備をしておくことでより円滑に交渉が進みます。両者の関係性向上にも繋がります。念入りすぎるほどの準備が大切です。

上記の内容に留意しますが、前提としてデューディリジェンス前に譲渡企業はM&A後に想定されるリスクなどを譲受企業に伝えておくことが重要です。デューディリジェンスの際に事前に知らされていない問題が発覚すると、M&Aの交渉に影響を与えます。

特に、譲渡企業が把握しているリスクを譲受企業に伝えていなかった場合、譲受企業は発覚した問題以外にも何か伝えられていないことがあるのではないかと譲渡企業に不信感を持つ可能性もあります。

譲渡企業は監査を上手に受け入れることが成功の秘訣

監査を実際に行うのは譲受企業ではありますが、調査結果が最終的な譲渡価額にも影響を及ぼすため、譲渡企業は自社の事業や契約、決算書などについて詳細に把握しておく必要があります。譲受企業による調査を受けるうえで重要なポイントを説明します。

事前に個人と会社の関係を整理し、分離しておく

譲渡企業は、監査のために多くの情報を譲受企業に伝える必要があります。例えば、会社の契約書は閲覧を要求されて提示することが多い文書の一つです。

そのため、経営者が個人で第三者と結んでいる契約書と、会社で監査に必要な契約書を予め整理を行っておくと、調査が円滑に進むでしょう。また、監査には現金出納帳や支払手形記入帳をはじめとする重要な決算書類が必要なため、その保管場所と記載内容は再度確認しておくことが大切です。譲渡企業はどの情報を譲受企業に提出するのか確認し、事前に整理などの準備を行いましょう。

譲渡企業の経理部門責任者や顧問税理士の協力を得る

中小規模の譲渡企業では、経営状況や財務を正確に把握できているのは経理部門責任者ということが多々あります。そのため譲渡企業は、こうした経理部門責任者や顧問税理士に事前に相談することで、予想される質問などに対して、スムーズに対応できるでしょう。

基本合意書に盛り込む内容はM&Aアドバイザーと相談

基本合意書とは、M&Aの相手先企業との最終契約締結の前段階で交わされる、M&Aの条件に関わるいくつかの基本事項について定めた合意書です。その時点での合意事項について、両者の認識を合わせる目的で作成されます。その後の取引をスムーズに進められるように、事前に専門家を交えて決定した取引条件について内容を盛り込みますが、一部の項目を除いて法的拘束力を持たせません。その理由としては、その後に行う監査の結果やその後の状況で取引条件が変化する可能性があるためです。しかし、独占交渉権や秘密保持義務などは、個別に法的な拘束力を定めている場合が一般的です。
どのような基本合意を締結しておけばその後の手続きが円滑になるのか、両者ともにM&Aの経験が豊富なアドバイザーに相談しましょう。

▷関連記事:M&A契約における「基本合意書」とは?

譲受企業(買い手)によって企業価値評価は異なるため、譲受企業の考え方を知る良い機会ともいえる

M&Aでは、株式や事業の価値にのれん代を足して、譲渡価額を算出します。こののれん代は、譲渡企業の持つブランドや技術力、社員の能力など、形に表せない、非金銭的な資産を指します。そのため、のれん代によって譲受企業が、譲渡企業のどのような点を魅力と考えているのか知ることができます。例えば、譲渡企業の持つブランド力に魅力を感じているのか、それとも取引先や許認可などを評価しているかを、のれん代を通して把握できるのです。

▷関連記事:M&Aの「のれん」とは?償却期間や会計処理、注意点を分かりやすく解説

まとめ

デューディリジェンスは、M&Aの成約まであと一歩の段階ですが、ここで判明した問題によりM&Aが破談することもあり、M&Aの交渉において最後にして最大の難関といえます。ここまでかけてきた時間や努力を実らせてM&Aを成功させるためにも、譲渡企業は事前に想定される調査項目や内容について把握しておき、改善していくことが大事です。念入りな準備を行い、デューディリジェンスに備えましょう。

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