M&A 中国

M&Aの相手先として、国内に限らず海外の企業を検討することは、選択肢を大きく広げるひとつの方法です。中でも経済規模が大きく、成長も目覚ましい中国企業とのM&Aは近年注目されていて、大企業だけでなく中小規模の企業とのM&Aの事例が増えてきています。市場としての魅力が大きい中国ですが、世界情勢や欧米諸国との関係など、気になる点もあるでしょう。

本記事では、日本企業間のM&Aと中国企業とのM&Aの比較や市場としての魅力、中国企業とのM&Aの際の注意点などについて解説します。

日本企業と中国企業のM&Aの比較

まずは、日本企業同士のM&Aと中国企業とのM&Aの違いについて見てみましょう。

日本企業間でのM&Aは近年増加傾向にあり、企業によってM&Aの目的はさまざまです。譲受企業は新規事業の開拓や異業種への参入、既存事業の競争力の強化や組織の再編といった目的でM&Aを実施します。譲渡企業は、主に後継者不在の解決や企業基盤の強化、資金調達などを目的としています。

一方、日本企業が中国企業を譲受ける場合は、事業拡大を目指して、中国進出を図ることを目的とすることが多いです。また逆に中国企業が日本企業を譲受ける目的は、日本の高い技術力や、信頼性の高いブランドの獲得などが挙げられます。

また中国企業は日本の大企業だけでなく、中小企業も多く譲受けており、2018年度に中国企業が日本の非上場の会社を譲受けた事例は25件と過去最多となっています。

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日本企業が中国企業を譲受けた事例

小林製薬株式会社による江蘇中丹製薬有限公司の子会社化

M&A 中国引用元:https://www.kobayashi.co.jp/

2017年4月、「熱さまシート」や「のどぬ~るスプレー」の商品で有名な小林製薬株式会社は、小林製薬(中国)有限公司を新たに設立して、中国の医薬品製造販売会社である江蘇中丹製薬有限公司の全持分を取得して子会社化しました。

小林製薬は海外事業に注力しており、米国、英国、中国やその他アジア地域で事業を展開しています。中国では熱さまシートや防寒用カイロなどを販売していましたが、中国の薬事法により、一般用医薬品の販売は行っていませんでした。今回のM&Aにより、中国国内での一般用医薬品の販売事業の展開、拡大を目指しています。

株式会社FHTホールディングスによる上海蓉勤健康管理有限公司の子会社化

M&A 中国引用元:https://www.fht-hd.com/

2019年5月、株式会社FHTホールディングスが、子会社である吉奥莱科特医疗健康科技(上海)有限公司を通して、上海蓉勤健康管理有限公司の株式を取得して子会社化しました。

上海蓉勤健康管理有限公司は、中国において養老介護に特化したヘルスケア事業を展開しています。FHTホールディングスの子会社である吉奥莱科特医疗健康科技は、将来的な中国の高齢化に向けて、高齢者向けのヘルスケア事業の推進を目指しており、M&Aを行うことで中国におけるヘルスケア事業拡大の機会を得ることができるとしています。

中国企業が日本企業を譲受けた事例

中国ハイセンスグループによる東芝のテレビ事業の譲受け

M&A 中国引用元:https://www.toshiba.co.jp/tvs/

2018年2月、中国のハイセンスグループ(海信電器株式会社)が東芝映像ソリューション株式会社の発行済株式のうち95%を約129億円で取得して子会社化しました。

東芝映像ソリューションは、東芝グループの中でもテレビなどの映像事業を手がける会社であり、「REGZA」などを販売しています。ハイセンスは中国におけるテレビ市場のシェアが13年連続首位であり、欧州及び米国でも急速に成長している会社です。

ハイセンスは、東芝が持つ世界的な技術のブランドや、東芝映像ソリューションが持つ優秀な研究開発チームやテレビの画質、チップ、音響などの分野において、豊富なノウハウの取得も目的としてM&Aを行いました。

Baidu,Incの日本法人であるバイドゥ株式会社によるpopIn株式会社の子会社化

M&A 中国引用元:https://www.popin.cc/home/index.html

2015年5月、中国インターネット検索最大手のBaidu,Incは、日本法人のバイドゥ株式会社を通して、東京大学発のベンチャー企業であるpopIn株式会社の発行済株式を全て取得して子会社化しました。

BaiduはGoogleに次いで世界第2位の検索エンジンを運営しており、日本ではキーボードアプリ「Simeji」を提供していることで知られています。一方のpopInは国内最大規模のネイティブアドプラットフォームを運営しており、大手新聞、出版、通信社を始めとしたwebメディアのユーザーに対して、最適な広告をコンテンツとして表示するサービスを提供しています。

将来的な拡大が予想されるネイティブ広告の市場を背景に、Baiduは、popInがもつ先進的なネイティブ広告の技術を世界へと展開させていく予定です。また、popInの技術広告プラットフォームに取り入れることで、ビックデータの強化や広告の精度の向上が可能になるとしています。

日本のリゾート地への中国資本の進出

また、近年では日本のリゾート地や温泉街の宿泊施設を中国企業が譲受ける事例も増加しています。東京オリンピックの開催や交通の利便性、生活・文化水準の高さ、中国からの距離の近さなど、観光地としての日本は中国企業にとって魅力的と言えます。

日本側としても、経営状態の悪化や後継者不在という問題を抱える宿泊施設が多く、中国企業とのM&Aによってこれらの問題を解決することができるのです。

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中国企業に限らず、海外展開をするうえで海外企業とのM&Aは有力な選択肢となります。世界全体で見たM&Aの動向と、中国企業に絞った場合とでは、どのような違いがあるのでしょうか。

世界全体におけるM&Aの動向と中国企業によるM&Aの特徴

M&Aの世界的な動向は、J.P Morganの「2019 Global M&A Outlook」によると2018年度のM&Aの総額は約4.1兆ドルであり、2017年度より約13%増加しています。

また、デロイトトーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の「世界の M&A 事情 ~中国~中国 M&A・インバウンド投資市場動向」によると、中国国内での2018年度のM&A件数は1,263件、金額は2,589億ドルとなっており、どちらも2017年度を下回りました。中国の対外M&Aも件数、金額ともに減少しており、2018年度の件数は122件、金額は約351億ドルとなっています。

減少の背景には、米中間の貿易摩擦や、欧米による中国が関連する投資案件への規制の強化、資本流出防止を目的とした中国政府による海外買収案件の審査の強化が挙げられます。

中国企業の海外M&Aの金額では、電力・公共事業や消費財、テクノロジー・メディア・通信事業の割合が高くなっています。中国企業による海外M&Aの背景には、主に国内の資源不足と技術力の獲得の2つがあります。

中国国内の急速な経済成長に伴い、国内ではエネルギーや天然資源が不足しており、これらを獲得するために国営企業が海外M&Aを行っています。一方、民間企業は市場拡大や技術、ブランド、販路といった経営資源を獲得するために海外M&Aを行っています。

M&A 中国

欧州では中国企業の買収を規制

日本企業とのM&Aと異なり、海外企業とのM&Aで重要なポイントの1つとして、各国政府による規制が挙げられます。特に中国企業は、対米間の貿易摩擦など、世界情勢に影響されやすいというリスクがあるのです。

中国企業によるM&A・買収件数の増加を背景に近年、欧州では最新技術や知的財産の国外への流出を避ける目的で、中国企業からの投資やM&Aを規制する動きがみられます。

一例として、ドイツでは対中国への規制強化として、買収規制が実施されています。以前より、ドイツでは軍事技術の国外流出を防止する目的で買収規制を行っていましたが、中国やロシアなどの国営企業による投資の増加を背景に、2009年に軍事分野以外の買収の審査も行われるようになりました。

さらに2017年からは、中国企業がインフラなどに関する企業を買収することで、安全保障が脅かされることを懸念し、インフラ企業の買収も審査対象としました。また、今後政府の審査対象をさらに広げていく動きも見られます。

中国はM&A市場として魅力的か

日本企業のM&Aと比較して、M&A市場としての中国にはどのような魅力があるのでしょうか。

中国企業へ譲渡する場合、中国企業にとっての「日本というブランド」としての価値が大きくなるメリットが挙げられます。日本の商品やサービスの品質の良さや、経営管理能力の高さから、日本の方が信頼できると考えている中国企業も多く、日本企業と行うM&Aよりも高値で譲渡できる可能性があるでしょう。

中国企業を譲受ける場合には、世界第2位の経済大国である中国は、国際的に経済、文化、政治面での影響力が大きく、また国土の大きさや豊富な労働力といった魅力を持つ国への進出となります。

さらに近年では、中国政府が外資に対する市場開放を加速させており、2018年度には金融業、2019年には資源、運輸分野などにおいて規制緩和が行われました。

また、中国国内ではECプラットフォームが普及しており、公共交通の予約販売、旅行、教育などの幅広い分野でITサービスが提供されています。将来的には医療、介護といったヘルスケア領域でも、ITとの結びつきにより、さまざまな新しいサービスが生まれると期待されています。

これらのサービスやプラットフォームを獲得して日本国内で展開したり、日本の技術やサービスと組み合わせて、新たなサービスを作ることができるのは大きな魅力といえるでしょう。

もちろん、中国のM&A市場には、魅力だけでなく注意するべきポイントもあります。以下で中国企業と取引する際の懸念点についても見てみましょう。

M&A 中国

中国企業とのM&A取引に関する懸念点

中国企業を相手としてM&Aを行う場合の注意点としては、以下のようなものがあります。ここでは譲渡企業と譲受企業双方の立場から見ていきます。

中国企業を譲渡企業として取引する場合

日本企業が譲受側となり、中国企業が譲渡企業になる場合、大きな懸念点となるのは中国政府の介入や規制です。日本や欧米諸国と違い、中国では、海外とのM&Aにおいて明確な法整備がなされていません。そのため、法律の解釈に幅があり、政府の意向次第ではM&Aが承認されない事態も考慮しなければなりません。

また施行されている法律や規制の内容が変更されることもあり、経営環境が突然変わってしまう可能性があるというリスクがあります。譲受けた中国企業が持つノウハウなどを活かして、グローバル展開をしようと考えていた矢先に政府の方針が変わる、といった可能性がないわけではありません。

中国企業が譲受企業として取引する場合

中国企業が譲渡企業となる場合と同様に、法律や規制を遵守したり、内容が変わりうることに留意しておく必要があります。また中国企業への譲渡を検討した場合には、自社の事業やネームバリューが相手先にとって、どの程度の価値があるかを見極める必要があります。

日本で一定の業績を上げていたとしても、中国と利用しているインフラやツールが違うなど、相手にとって魅力が薄い場合には、国内間でM&Aを進めた方が企業価値が高くなるケースもあるでしょう。

さらに、国内間のM&Aと比べて、中国企業とのM&Aは商習慣や法律、文化、言語の違いにより企業同士の統合が難しいです。中国企業が譲受企業となる場合には、自社の公用語が中国語となったり、中国の文化が入ってくることもあるため、従業員に対して言語や文化、法律や労務規則などへの理解を浸透させることが重要です。

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まとめ

中国企業のM&Aは国内、対外ともにここ数年は落ち着きをみせています。しかし日本企業とのM&Aは増加傾向にあり、中国の広大な国土と人口にくわえ、通信やインフラなど、独自の技術やノウハウを持つ市場として注目されています。

短期間でグローバル展開をおこなったり、日本ブランドのネームバリューを活かして、M&Aを有利に進められる可能性が期待できる一方で、政府の方針転換や、欧米諸国との摩擦といった懸念点も見過ごせません。中国企業とのM&Aを検討する際は、中国や海外事情に詳しい専門家のアドバイスを受けながら、信頼できる企業を選定するのが望ましいでしょう。