事例紹介

地方IT企業が異業種M&Aで描く成長戦略

2020年9月4日、譲渡成立
  • 譲渡企業
    株式会社トラステック
    設立

    1998年

    事業内容

    SES(システム・エンジニアリングサービス)、システム受託開発、自社パッケージ開発サービス

    URL

    https://www.trustec.ne.jp/
  • 譲受企業
    マルソー株式会社
    設立

    1954年(創業1913年)

    事業内容

    貨物輸送をはじめとする物流センターの管理・運営、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)によるコンサルティング事業等

    URL

    https://www.maruso.co.jp/

株式会社トラステック代表取締役の島淳一氏は、1998年に地元の新潟県で同社を設立以来、生産管理システムの開発や企業からのシステム受託開発事業などを展開し、お客様からの「こんなものが欲しい」を叶えてきました。

還暦を迎えた頃から事業承継について考え始めたものの、当初M&Aという手法は有力候補ではなかったと言います。しかし、会社の将来性を高める「戦略的なM&A」に活路を見出し、県内屈指の物流・運送企業であるマルソー株式会社とめぐり逢いました。

両社は2020年9月にM&Aの成約に至り、上場という目標に向けてともに一歩を踏み出しました。成約までの経緯や、ITと物流の異業種間によるM&Aで広がる可能性について、トラステックの島氏と役員の皆様、そして、マルソーの代表取締役社長である渡邉雅之氏に伺いました。

マルソー株式会社

技術屋集団が営業やマーケティングを強化するために

トラステック様の創業の経緯をお聞かせください。

島氏:私は新潟県内の大学を卒業後、県内の企業に就職しました。コンピューター部門を発足させるメンバーとして熱心に仕事に打ち込み、そこで積んだ経験が乞われて、後に東京や神戸の企業でも勤めてきました。しかし、神戸で勤務しているときに阪神淡路大震災が発生して会社が壊滅的な被害を受けてしまい、私が新潟県出身ということで新潟営業所を立ち上げることになったのです。3年ほど経った頃に東京営業所への合流を命ぜられましたが、一念発起して地元で独立する道を選びました。そして立ち上げたのがトラステックです。

創業当初はとにかく自分が生き残ることに必死でしたが、何年かして事業が軌道に乗り始めると、地元の方々からの支えを日に日に実感するようになり、「地元への貢献」という思いも強く持つようになりました。見附市に本社を置くことは一つのこだわりとなっています。

株式会社トラステック 代表取締役 島 淳一氏

M&Aを検討されたきっかけは何でしたか?

島氏:現在64歳(2020年10月時)ですが、60歳のときから70歳で後継者に引き継ぐ構想を描いていました。事業承継を考える上でM&Aという選択肢も頭には浮かんでいましたが、正直なところ、当初は積極的に検討していませんでした。しかし、ちょうどその時期に、後継者として考えていた取締役が退職することになり、同時に業績も下火になってしまったのです。当社は「技術屋集団」としてお客様に喜ばれる質の高いシステムを開発している自負がある一方、営業やマーケティングの強化は課題でもありました。そんなときにFUNDBOOKから会社の将来性を高める「戦略的なM&A」の提案を受け、M&Aによる事業承継に一気に関心が深まったのです。

当社は特に生産管理システムの開発を得意としているので、M&Aで製造企業のパートナーとなってグループ内の生産管理システムを構築・改善し、その先にはグループの持つお客様にも拡販していけるようなM&Aが実現できればと想像するようになりました。

マルソー様は、どういった理由でM&Aを検討されたのでしょうか?

渡邉氏:当社は1913年に私の曽祖父が運送業を創業以来、長きにわたって物流を支える事業を展開してきました。「物流という仕事は未来永劫なくならない」「どんな時代でも物を運ぶという仕事はきっと残る」とずっと思っていましたが、AIや自動運転技術が発達してきた今、物流センターではロボットが出荷し、トラックは無人で走る時代が案外近い将来まで来ているな、と考えるようになりました。

以前からも経営の多角化を図ってきてはいましたが、あるときに会長である父と、私の息子を交えた3代で「太い事業柱をもう1本立てるために、何か新しいことを考えよう」という議論をし、3年ほど前から積極的に新潟県内でのM&Aに取り組んでいます。譲受する立場としても社運を賭けるわけですから、責任感や重圧は非常に大きいものです。ですが、これまでも優秀な企業と手を組むことによって事業の幅が着実に広がっており、グループ全体の体質強化にもつながっています。新潟県はとても広いため地域ごとに文化の特徴もありますが、これまで譲受してきた企業を見てもやはり同じ地元同士という感覚で仕事もスムーズに運んでいるため、今回も新潟県内の企業の譲受を検討していました。

また、先ほどお話しした通り、物流業界のIT化は避けられませんので、マルソーグループにもシステム会社が必要だと予てより考えていたのですが、そんなときにFUNDBOOKからトラステックの紹介を受け、「これほどまでにポテンシャルの高い企業が近くにあったのか」と驚き、面談の機会をいただくことになりました。

マルソー株式会社 代表取締役社長 渡邉 雅之氏
マルソー株式会社 代表取締役社長 渡邉 雅之氏

お会いした瞬間に「この方となら、絶対に大丈夫」と感じた

M&Aの面談では珍しく、トラステック様の役員の方々やマルソー様の会長も面談に出席されたそうですが、お互いの印象はいかがでしたか?

島氏:私たちからするとマルソーさんはよく知っている企業ですが、マルソーさんからすると当社は全く知らない企業だったと思います。また、当初は同業のIT企業か製造業と組むイメージを持っていたので、物流・運送業と組むことや、まして県内企業同士ということを全く予想していなかったので、面談までの間は戸惑いもありました。それにも関わらず、初めて渡邉社長にお会いした瞬間「この方となら、絶対に大丈夫」と感じました。お話をさせていただくうちにお互いの価値観が同じ方向を見ていることがよく分かりました。

室井氏:マルソーの渡邉会長からは、違う業界から見た当社について、厳しくも思いやりのある言葉をいただきました。私たちは島と思いや考えをともにしているので、そのときに「これは島社長の心にも響き、成約に向けて進んでいくに違いない」と直感しました。

株式会社トラステック イノベーション事業部 取締役事業部長 室井大志氏
株式会社トラステック イノベーション事業部 取締役事業部長 室井大志氏

島氏:どうでもいい相手に対しては、わざわざ厳しい意見を言う必要はありませんよね。そこに真剣さや誠実さを感じたのです。IT業界では珍しいかもしれませんが、私は仕事に対してもデジタル思考より精神面を大事にしています。そういう考えになったのも、私が新卒で入社した企業の社長や直属の上司が、部下や相手を想った厳しさで接してくれる、まさに渡邉会長のようなお人柄だったからだと思います。渡邉会長からこの歳でこの立場になった私を叱咤激励していただけたことに懐かしさを覚えたような、久しぶりに親に会ったような、すごく心に響くものがありました。渡邉社長とお会いした瞬間から波長が合うと感じられたのも、仕事の中での育てられ方に似ている部分が多かったのではないかという気がしています。

株式会社トラステック 代表取締役 島 淳一氏

渡邉氏:私は島社長や役員の皆様の顔を見るなり、「この方々と一緒に事業を推し進めたい」と思うほど、一目惚れをしたと言っても過言ではありません。私は過去に10社以上とM&Aの面談をしてきた経験から、面談の会場に入ったときの空気感をとても重要視しています。やはり大事なのは「人」。濁った空気や合わない空気が流れると消極的になってしまうものです。それが、トラステックさんは話をする前から良い空気が流れていたので、ぜひとも成約したいという気持ちが最初の面談から高まっていました。

FUNDBOOKの担当アドバイザーの対応はいかがでしたか?

島氏:ちょうど将来を考える時期にあったので、連絡をいただいたときはご縁というか、運命のようなものはすごくあるんだと思いました。最初は「会うだけ会ってみようかな」という程度で話を聞いたのですが、こういったM&A案件でも、やはり人と人の付き合いなんですね。当社を担当してくれたアドバイザーが古橋さんで本当によかったと思っています。

渡邉氏:私も担当の阿部さんのつながりが決め手でした。実は以前から付き合いがあり、人となりも知った仲だったんです。連絡をいただいて「君が担当だったらお願いしよう」と。結局は人が大事なんですね。

マルソー株式会社 代表取締役社長 渡邉 雅之氏

2020年は「コロナ禍」で多くの企業が苦戦を余儀なくされましたが、その中でも前進を続けられた両社のお考えや原動力がありましたらお聞かせください。

島氏:もちろん万全な対策と注意は必要ですが、現状に恐れおののくだけで時間を過ごすのではなく、将来について考え、備えることも怠ってはいけないと思っていました。確かに2020年は多くの企業が苦戦を強いられましたが、ITの需要は今後もますます高まり、業界として伸長していくものと見込んでいます。「コロナ禍」になる前からもIT業界は慢性的な人材不足に悩まされているので、社会が回復したときへの備えが大切だと考え、将来を見据えて前進してきました。

渡邉氏:当社も長い歴史の中で「不況のときにこそ果敢に挑戦する」という文化を育んできました。不況のときには多くの企業が体力を温存しようとしますが、そういうときこそ挑戦することで独自性や差別化が図りやすいからです。今回もコロナ禍の今だからこそM&Aでさらに前進していこうと考えました。当社が多角化戦略を講じているのは、あらゆるお客様に様々な切り口でアプローチしていくためです。従来からの物流業に加えて、生産工場で使用される機械の輸送や据え付けも手掛けたり、業務用LED照明の取り扱いも始めたりしてメニューを取り揃えてきたのも、例えば、機械の据え付けから始まったお客様が商品の物流も依頼できたり、物流から始まったお客様からLED照明による節電コンサルを依頼できたりと、それぞれの部門の相乗効果が期待できるからです。ここに今度はトラステックのシステムも加わることで、お客様への提案の幅とグループ間のシナジーがよりいっそう高められる。島社長と同じく、社会が回復した後を考えて手を打っておくことが大事だと思っています。

トラステック×マルソー M&A

創業期に描いた「上場」という夢を、M&Aで明確な目標へ

成約までの過程や成約後に、印象に残っている出来事はありましたか?

島氏:成約の1週間ほど前に、渡邉社長から手書きのお手紙をいただきました。そこには熱い言葉が書き連ねられていて、なかでも「一緒に上場を目指しましょう」という一文には胸を打たれました。私も含め、創業社長の中には「いつかは上場」と思っている人も少なくないと思います。それを夢物語や空想に終わらせるのではなく「一緒に担わないか?」と言っていただけたことで現実味を帯びてきて、社員一丸となって燃えています。まだまだ課題は山積みですが、5年後には上場できる状態にまで成長しているよう、中長期経営計画を打ち出したところです。

役員の皆様から見ても、社内の雰囲気は変わりましたか?

石黒氏:今までは「こうしよう」という着地点だったのが、「ここに行くためにはどうすればいいか」という議論が展開されるようになったので、目指すところや行動、そして雰囲気も大きく変わりました。従来の枠の中で考えるのではなく、徐々に枠の壁が薄くなってチャレンジしようとする意気が揚がっていると感じています。たまたま同じ企業が両社のお客様だったことが分かったときも、渡邉社長が「マルソーに後押しできることがあったら言ってよ!」と声を掛けてくださったんです。相談できる相手がいる、後押しされている、もっと広がっていける、そういう思いを社員も感じ取ってくれて、壁を打ち破ろうとしているのだと思います。

株式会社トラステック イノベーション事業部 コンダクト部 取締役部長 石黒茂夫氏
株式会社トラステック イノベーション事業部 コンダクト部 取締役部長 石黒茂夫氏
株式会社トラステック

片桐氏:M&Aの話が具体化する前は業績が下火に転じていた時期で、実のところ社内の雰囲気は良い状況とは言えませんでした。その中でマルソーさんとのM&Aが決定し、上場という目標もできたことで目に見えて雰囲気が良くなったと実感しています。

株式会社トラステック ウェルフェア事業部 取締役事業部長 片桐清毅氏
株式会社トラステック ウェルフェア事業部 取締役事業部長 片桐清毅氏

秋山氏:渡邉社長にもお越しいただいた社内へのM&A発表のときに最初は皆キョトンとしていましたが、渡邉社長の熱い思いも共有でき、社員から賛同の声が上がりました。期が変わって10月4日の期初ミーティングで島社長から改めてM&Aの経緯と、上場に向けた中長期経営計画が発表されたのですが、そのときに島社長が「私にとって君たち社員が一番大事なんだ。君たちにとって一番良い選択ができた」と話したんですね。すると社員からも「社長、私たちにこういうチャンスを与えてくれてありがとう」という感謝の言葉が返ってきたんです。その光景が言葉では言い尽くせないほど感動的で、すごくうれしく思ったことが深く心に刻まれています。まだまだ改善すべきところはたくさんありますが、皆が「上場を目指そう」と口に出すことで、前向きにチャレンジしていく精神が社内に満ちあふれています。

株式会社トラステック イノベーション事業部 コンダクト部 部長 秋山竹志氏
株式会社トラステック イノベーション事業部 コンダクト部 部長 秋山竹志氏

2020年9月に譲渡が成立しましたが、島様と渡邉様の今のお気持ちをお聞かせください。

島氏:まず、気持ちがすごく楽になりました。そして、マルソーさんと手を組むことによって目指す方向が明確になり、新たな可能性が見えてきたことが何よりうれしいです。可能性が感じられる状態と、あまり感じられない状態とでは、社員の士気も全然違うんでしょうね。私一人の力では限界があったかもしれないですが、マルソーさんとなら上場の実現に向けて歩いて行けると、心強く思っています。

渡邉氏:今までは色々とやりたいことを頭の中で考えたり紙に書いたりして「そのうちやりたいな」と思うにとどまっていましたが、システムという強みのある会社を仲間に迎え入れられたことでこれから実際に着手できる段階になり、楽しみはひとしおです。次世代を担う息子も、私以上に目を輝かせているように見えて仕方ありません。

トラステック×マルソー M&A

トラステック様の今後の展望をお聞かせください。

島氏:マルソーグループは多様な企業で構成されていますので、まずはグループ内の基幹システム等の開発・運用をしっかり手掛けて信用をいただき、その先にはグループ各社のお取引先にも、高品質なシステムを提供していきたいと考えています。様々な業種のシステムを手掛けることで新しいアイデアやビジネスモデルが創出される可能性は大いにありますし、ゆくゆくは物流業界向けの新しいサービスの展開も視野に入れて邁進していきたいと思っています。

トラステック×マルソー M&A トラステック×マルソー M&A

異業種M&AがIT企業をさらなる発展に導く

株式会社トラステック
代表取締役 島 淳一氏

異業種とのM&Aは、正直なところほかには教えたくないほど、将来性が広がる手段だと実感しています。譲受したい業種としてIT企業はとても人気が高いと聞きますが、M&AによってIT企業同士が組む以外にも、私たちのようにIT企業が異業種と組んでグループのIT化を促進したり、新しい商品を作り上げていこうとすれば、これから先に様々な良い結果を生み出していけるものと確信しています。

また、グループ企業というと圧倒的な大企業が中心となってその下に中小企業が並んでいる形を想像しますが、今回、M&Aのプロセスの中で色々な企業体を見させていただき、マルソーグループのように中小企業同士が横並びで連携したり、中小企業が中心になって事業を推し進めたりできる企業体も結構あることが分かりました。

株式会社トラステック 代表取締役 島 淳一氏

M&Aが物流業界の未来をつなぐ

マルソー株式会社
代表取締役社長 渡邉 雅之氏

物流業界では今後、M&Aは主流の取り組みになってくると見込んでいます。現在、国内の貨物自動車輸送事業者数は約6万社ありますが、そのうちの8割以上が従業員数30人以下の中小企業によって成り立っています。社員やお客様はこれからも大事にしたい、しかし自分の子どもに継がせると色々な苦労をかけるのではないだろうか――そう悩んでいる経営者も少なくありません。このような状況下で、事業と人を未来につなぐためのM&Aがますます活況を帯びてくるのではないでしょうか。

また、どの業界もそれぞれに悩みがあると思いますが、物流業界も例外ではなく、人材不足や輸送の効率化などの様々な課題を抱えています。物流・運送業者同士のM&Aに限らず、IT企業などの別業種と手を取り合うことで、課題解決や企業体質の強化に向けたプラスの要素を広げていけると期待しています。

マルソー株式会社 代表取締役社長 渡邉 雅之氏

<担当アドバイザー 古橋 賢人 コメント>

今回は、次世代への承継と会社の成長戦略の実現を模索する中堅IT企業様と、同県内の大手運送会社様との戦略的資本提携をお手伝いさせていただきました。

トラステック様は将来的な承継問題の解決だけではなく、次の世代が飛躍していくための資本力や営業ネットワークを獲得し、一方で、マルソー様は念願だったIT企業のグループ化により、自社基幹システムの刷新のみならず運送業界のIT化を先駆けて取り組める体制が整った、まさに理想的なM&Aとなったと感じております。

最近では、このように業種の垣根を超えたM&Aによってシナジー効果を追求し事業拡大を目指す事例や、首都圏だけでなく地方のIT企業様でも成長戦略としてM&Aはごく一般的な経営戦略となってきております。

今回のトラステック様は役員陣の皆様が揃って検討に参加されており、島社長との厚い信頼関係が垣間見えただけでなく、会社や従業員の皆様の将来を第一に考え深く議論されていたのがとても印象的でした。

FUNDBOOKの役割は、経営陣の想いを実現するためのベストなパートナーをおつなぎし、会社が一段上のステージへ進むお手伝いをすることです。その意味で、私にとってもこのM&Aは地方IT企業様の新たな成長戦略の形が見えた気がしました。トラステック様がマルソー様というパートナーとともに、さらに成長される未来をとても楽しみにしております。

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