事業承継 M&A

中小企業のオーナーなどで、自分の会社を長年営んでいた方のその多くが現在直面しているのが「事業承継」に関わる問題です。自分の子供が会社に後継ぎとしてすでに働いてくれている、といった場合には会社を任せることができます。しかし、子供が独立して仕事をしているような場合には、その会社を任せる後継ぎが居ないという問題が発生してしまいます。昨今、そのような後継者問題が多くの会社で深刻化しているのです。

帝国データバンクによる『全国「後継者不在企業」動向調査(2019年)』によると、調査対象の65.2%が「後継者不在」だと回答しました。また経済産業省による試算では、後継者問題が解決しない場合、2025 年頃までに最大約 650 万人の雇用と約22兆円分のGDP(国内総生産)が喪失されています。

このような後継者問題は日本全体の大きな課題ですが、実はこの数値自体は2年連続で低下しています。

その理由としてあげられるのが、「第三者による承継」いわゆるM&Aの増加があげられます。M&Aというと大きい会社同士の話だと思っている方が多いかもしれませんが、実は事業承継問題に対しては有効な解決策の1つです。

そこで本記事では、事業承継問題の背景と、その解決策としてのM&Aについてお伝えします。

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目次

事業承継が必要とされている背景

昨今、ニュースなどで事業承継というトピックがなぜ注目されているのか、まずはその背景を見てみましょう。いわゆる「団塊の世代」にあたる人たちが経営している会社において、多くの経営者が引退の時期を迎えています。

しかし、後継者問題を抱える会社は珍しいものではなく、帝国データバンクによる『2019年後継者問題に関する企業の実態調査』によると、「後継者不在」だと回答した会社は、約27万5000社の調査対象の内、3社中2社にあたる約17万社にものぼりました。

将来的な問題を認識しながらも計画的に対策を行ってこなかった会社では、後継者を見つけること自体が容易ではありません。また仮に見つかったとしても、育成が十分でないと経営者のノウハウや人脈、会社組織の掌握などが上手く引き継げない事態にもなりかねません。

後継者問題を解決できずに会社が廃業となれば、その会社で働いている人の雇用維持ができなくなります。また全ての取引が停止となるため、これまでお世話になってきた取引先にも大きな影響を及ぼします。

団塊の世代の引退は今後5年程度で急速に進むと考えられており、事業承継をすみやかに行うことは国家政策にもなっています。後述する補助金や税制優遇といった制度にもつながっているため、事業承継はどのような会社でも真剣に考えておくべきものとなります。

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3つの主な事業承継先

3つの主な事業承継先

次に、事業承継を行う場合には、どのような方法が検討できるのかを見てみましょう。事業の承継先として、主に考えられるのが次の3つになります。

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親族への承継

一つ目に、親族が事業を受け継ぐことが考えられます。子供への承継が代表例としてあり、日本では昔から、慣例として子供が親の事業を継ぐということが行われてきました。

しかし職業の選択肢の広がりなどを受け、親族への承継は減少傾向です。また、親族承継では相続税や贈与税など、会社の評価額によって多額の税金を納める場合があります。現在見直しがされている個人保証問題なども含めて、親族にはそのような負担をかけたくない、という経営者もいます。

実際に親族が事業承継で会社を受け継ぐような場合には、受け継ぐ予定の親族が会社に入ってオーナーや従業員と共に行動して、会社経営のノウハウも含めた事業承継をしていく必要があります。これには通常、念入りな準備と長い期間が必要になります。

また、取引先に対しても、交代後も取引関係を継続できるように信用を得ておく必要があります。もちろん、社内的にも代表者として指揮していけるような状態を作り出さなければ、事業承継はうまくいきません。

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従業員への承継

二つ目に、親族に会社を継いでくれるような人がいない場合には、従業員に事業承継するという方法が考えられます。長く事業をともにしてきた従業員への承継であれば、取引先や従業員の理解を得やすいという点では親族に事業承継するよりも準備もスムーズにいく可能性もあります。

一方で、従業員へ承継をするには経営者が保有している株式を譲渡することになるため、株式を買い取れるだけの大きな資金が必要となります。

しかし、従業員が十分な資金を持っていることは多くはありません。資金以外にも、会社や経営者の保証や担保も引き継ぐことが多いため、引き継ぐ従業員には大きな決断が必要になります。

第三者への承継(M&A)

三つ目に、M&Aにより第三者へ会社を承継するという方法が検討できます。M&Aとは会社や事業の一部または全部を譲渡・譲受けしたり、複数の会社が1つの会社になったりすることを指します。

上述したとおり、M&Aというと大きな会社の合併・分割などといったイメージが強く、中小企業の事業承継に利用するイメージを持っていない方も多いかもしれません。ところが、実際には多くの中小企業の事業承継において活用されており、後述するような補助金や税制優遇もあります。

自身の引退後の事業継続を考えた際に、他の承継先の選択が難しい場合には、第三者への承継は選択肢の一つとして検討しておくべき手段です。

近年、M&Aによる事業承継は増加しており、みずほ総合研究所が2015年に公表した「中小企業の資金調達に関する調査」によると、20〜25年前に事業承継を行った経営者の内、社外の第三者へ事業承継を行った経営者は全体のわずか5.5%でした。

しかし、直近の5年間に社外の第三者へ事業承継を行った経営者は全体の39.3%で、最も多い事業承継形態となっています。

レコフデータによると、日本企業が関連するM&Aは1999年に1,000件ほどでしたが、2016年には2倍以上の2,500件を超えました。日本におけるM&A件数も年々増加しており、M&Aは大企業のみならず中小企業においても重要な経営戦略の一つとして活用されています。

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事業承継がうまくいかない場合には廃業となることも

事業承継がうまくいかず、後継者が見つからない場合には、廃業という選択をすることになります。

廃業は金銭面で非常にデメリットが大きいのが実態です。2014年に中小企業庁が野村総合研究所に委託して行なった「中小企業における事業承継の調査」によると、実際に廃業する際に心配な点で最も多かった回答が「廃業後の生活費の確保」で、5割強を占めました。

2番目に多かった回答は「廃業するとした場合のコスト」で、約20%でした。このように廃業する際に起こり得る最も大きな課題は金銭に関することです。

会社清算の場合、在庫商品や土地、事業資産等は大幅に減額され、退職金は増額されます。また、決算確定後に先に法人税を納めた後に株主への配当の際に最高で55%もの配当課税が発生します。二重課税であり、税率も非常に高くなっています。会社精算の結果、手元に残る金額は想像以上に小さい額になるでしょう。

また、経営状況に余裕がない場合や負債を抱えている場合は会社清算により、自宅や車等の個人資産を売却しなければならないケースがあります。個人資産を売却した上でも負債が残るケースもあるため引退後の生活に不安を残すことになります。

さらに、廃業によって生じる問題は金銭に関することだけではありません。廃業により、経営者は従業員を解雇しなければなりません。また、取引先にも多大な迷惑をかけることになります。

「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」によると、中小企業経営者が廃業時に直面した課題として最も多かった回答が「取引先との関係の清算」で全体の約40.7%でした。多くの経営者が取引先との関係の清算を課題としているようです。

また、3番目に多い回答として16.4%の経営者が「従業員の雇用先確保」の課題に直面しています。

廃業は経営者や経営者家族のみならず取引先、従業員等多くの人に影響を与えます。そのため、廃業を決断することは容易ではありません。

 
3つの主な事業承継先

事業承継にM&Aを使うメリット

「事業承継」とは、経営者が会社の経営を後継者に引き継ぐことをいいます。

その中で、親族や従業員ではない第三者への承継=M&Aには、「会社の乗っ取り」「経営権をめぐる争い」といった大きな企業が行うような先入観があり、中小企業で活用される際の目的と異なるイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。

実はM&Aは、事業承継問題の解決手段の一つとして注目されています。ここでは、M&Aを事業承継に活用するメリットについて説明します。

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後継者問題の解決

日本企業の66.4%が後継者不在であるといわれており、深刻な社会問題となっています。この背景には、経営者のご子息が独立して自身で会社を経営していたり、一流の企業に勤めていたり、士業を行っていたり、社内に会社を継がせられる人材がいなかったりと、会社を承継できないケースが増えているということがあります。

このような状況の中で、会社の後継者を見つけるための手段の一つとしてM&Aを選択する経営者の方が増えています。

会社を廃業せず創業者利益を確保できる

もし会社の後継者が見つからなかった場合、会社は廃業せざるを得なくなります。

会社の資産を売却する場合、廃業では「清算価格」として評価され、売却額は低いものとなってしまいます。場合によっては資産を全て売却しても負債が残ってしまう可能性もあります。

M&Aにより会社や事業を譲渡する場合には、会社を存続させることができるばかりか、多くにおいて譲渡対価として創業者利潤を得ることができます。その際には資産についても評価され、譲渡価額に反映されることになります。

個人保証の問題を解決する

中小企業の経営者は、経営にあたって銀行からの融資をはじめとした債務について、個人として連帯保証人になる場合がほとんどです。経営者の中には、この個人保証に相当悩まされてきた方も少なくありません。

家族や従業員に同じような苦労をさせたくないと考えて、親族や従業員に会社を継がせたくないという経営者もおり、その場合にもM&Aによる解決が期待されます。

M&Aでは、ほとんどの場合で譲受企業が保証を引き継ぐことになり、経営者の個人保証を外すことができます。この点においても、廃業ではなくM&Aを行うメリットが大きいといえるでしょう。

雇用問題を解決する

会社が後継者問題を解決できずに廃業を選択するようなことがあれば、その会社で働いている従業員は職を失ってしまうことになります。

M&Aを行い、第三者へ会社を承継することにより会社を存続できれば、このような従業員の雇用問題も解決することができます。

実際、後継者不足による雇用問題は、日本の社会全体の問題となっており、後述するように、国が事業承継補助金や事業承継税制という形でM&Aを後押ししています。

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中小企業が事業承継を進めるためのポイント

中小企業が事業承継を進めるためのポイント

続いて、中小企業が事業承継を進める場合、どのような事を知っておくと良いのでしょうか。事業承継を進めるためのポイントをご紹介します。

事業承継を支援する公的な制度

前述したように、後継者問題は国全体で解決すべき課題となっており、そのために必要となる費用については、公的な補助金が複数存在します。

代表的なものとしては、中小企業庁が実施している事業承継補助金があり、要件を満たせば最大で数百万円もの補助金を受けられるものです。地域経済に貢献している会社であり、事業承継をきっかけに新たな取り組みをするような場合に補助金を受けることができます。

事業承継のための税金の特例

また、事業承継のために必要な行為について、税金で特例を設けているような場合があります。いわゆる「事業承継税制」と呼ばれるもので、国による認定をうけたものについては、贈与税や相続税といった、事業承継時に発生する税金の負担軽減を行うという内容です。

例えば、税金負担を軽減するために2028年までの10年間の時限措置で、納税猶予の割合が80%から100%に拡大されています。

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M&Aで事業承継をする場合はマッチングも重要

M&Aを検討する際には、自社にあった譲受企業を探す事は非常に重要で、難しいポイントの一つです。どのような経営方針を掲げているのか、従業員の雇用は継続されるのか、どのようなシナジーが見込めるかといった様々な点を考慮して、事業を譲り渡す相手を決めるようにしましょう。十分に検討するためには1~2社の候補では難しいので、M&Aアドバイザーに相談し、複数の候補を得ることも有効です。

また相手先探しのみでなく、実際にM&Aを進めるにあたっては法務・税務・会計などの高い専門知識が必要となるため、少しでも不安な点がある場合には、早期にM&Aアドバイザーに相談することは良計といえるでしょう。

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まとめ

本記事では、事業承継をとりまく問題と、事業承継の方法やポイントといったものについてお伝えしました。特にM&Aは後継者がいない会社において、事業承継の手段として期待できるものです。

また先述の通り、M&Aでは自社に適した譲受企業といかにマッチングするかが重要です。具体的に検討をされる際には、M&Aアドバイザーの助言を受けながら、数多くの登録企業への打診が行える「M&Aプラットフォーム」への登録も検討してみましょう。

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