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2023/10/03

事業承継を円滑に進めるための「事業承継計画書」の書き方

事業承継を円滑に進めるための「事業承継計画書」の書き方

「事業承継計画書」とは、会社の今の状況や自社の承継課題、いつどのように誰に承継し、その準備をどのようにするのかといった事業承継の内容をまとめた書類のことを指します。中小企業庁でも作成が推進されており、事業承継計画書は事業承継を考える際に効果的に活用することができます。

本記事では、事業承継計画書の作り方やポイント、そして活用の方法についてわかりやすく解説いたします。

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なぜ事業承継に計画書が必要なのか

事業承継は一般的には数年かけて行うものであり、最低の期間でも半年から1年間は期間が必要です。つまり、それだけ行う必要がある事務的な手続きや、解決しておかなければならない課題が多く、また、そのいずれかが遅延すると、大幅な計画遅延の可能性や、不本意な結果を招く可能性があります。

例えば、承継の検討や作業が遅れることにより、現経営者から後継者へ経営の経験やノウハウを十分に引き継ぐことができず、将来的に業績の悪化につながるケースがあります。他にも親族内承継において、相続の手法を明確にしなかった為に親族同士でトラブルになるといったケースが考えられます。

そうした抜け漏れや遅延を防ぐために、事業承継計画書が活用されています。

事業承継計画書は事業承継の実施までに実行される予定(会社や経営者、後継者の成り行き)を年次でまとめた工程表です。事業承継計画書を作成することによって、会社の経営方針や事業計画から、現経営者の個人資産・株式などの相続に関わる事項についても、後継者と認識を擦り合わせることができます。

この方針の擦り合わせが着実な事業承継の第一歩となります。計画書を作る法的な義務はありませんが、作成することで終了までの流れを理解し、トラブルの少ない事業承継を行うことが可能です。

▷関連記事:事業承継を成功させる方法とは?事業承継としてのM&A
▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと流れ【図解付き】

事業承継計画書とは

事業承継計画書とは、経営者が事業承継を行うための中長期的な計画を記載した書類です。

一般的に10年間の表が用いられることが多く、計画書作成において、事業を承継する相手を誰にするかなども決定します。相手先として想定されるのは、大きく分けて「親族への承継」「従業員もしくは経営陣への承継」「第三者への承継」の3つがあり、このいずれも実行できない場合には廃業という選択肢を取ることになります。

また、事業承継計画書は法定の書類ではないので、決まったフォーマットはありませんが、一般的にはすでに用意されているひな形を用います。ひな形の中で、重要ではないと思われる項目は省略し、不足すると思われるところは、項目を付け足して作成することが望ましいです。

ひな形は、中小機構や各地の商工会議所などの公的団体がWebサイト等で公表しています。また、銀行・信用金庫や事業承継センターなどの民間支援会社でも、独自に事業承継計画書のひな形を用意しています。自分で使いやすいと思えるものを使うといいでしょう。

▷参考資料:中小機構Webサイト内「中小企業経営者のための事業承継対策」

事業承継計画書作成のメリット

事業承継計画書を作成するメリットとして下記の4つがあります。

①経営状況を把握できる

事業承継計画書には、現状の経営状況や承継後の経営計画を記載します。これにより、事業承継を行う上で不足している情報や手続きについてが浮き彫りになることで、問題点が把握できます。まずは現状を把握し、問題点を洗い出すことが事業承継の成功には欠かせません。

②後継者の教育に役立つ

後継者が決まっていたとしても、後継者が現経営者と同じ水準で、経営者として知識や経験、意識を持ち、従業員との信頼関係を早い段階で築くことができるとは限りません。後継者の教育には、おおよそ5年〜10年かかるとも言われています。まずは両者の経営における目標・目線を統一することが必要です。その上で、事業承継計画書を活用しながら時間をかけて事業に対する理解を深め、従業員との信頼関係を共に築いていく必要があります。

③関係者(親族/従業員/金融機関/後継者/士業/株主)の協力を得やすくなる

どれだけ理想的な計画を描いても、親族や従業員、株主等の関係者の協力を得なければ事業承継は成功しません。中でも現経営者と後継者の協力は重要です。事業承継計画書を作成する中で、現経営者と後継者間の経営方針に関する認識の擦り合わせだけでなく、承継後の従業員の処遇や取引先との付き合い方等を明確にすることができます。一方で、後継者が第三者となる場合でも、譲受企業の経営者と譲渡企業の経営者間でのビジョンや企業文化の擦り合わせは非常に重要です。従業員への説明は承継後となりますが、理解を得られるような説明の準備が必要です。

④事業承継税制の特例を利用できる

事業承継を行う際には、多額の税金がかかります。そのため、税負担がネックとなって事業承継が妨げられることがないよう、平成30年に事業承継に関する税制が改正され、事業承継税制の特例と呼ばれる制度を活用できるようになりました。事業承継計画書を策定していることが事業承継税制の特例の条件の一つです。(その他にも諸条件があります)。一般措置に比べて特例措置は大幅に税負担が軽減され活用するメリットが大きいため、利用を検討してみるもの良いでしょう。

事業承継計画書は誰に見せるのか

基本的には親族・従業員・経営陣・第三者の内、誰に承継するかを問わず、計画書を見せる相手は「後継者と経営陣のみ」となります。特にM&Aで第三者へ譲渡を行う場合、M&Aの実施について社内外へ開示するタイミングには十分に注意しなければいけません。現経営者以外には、M&Aが実施された後に開示することになります。実施前にM&Aを検討していることが従業員に知られてしまうと、従業員の不安を徒に煽ることになってしまいます。また、取引先からの問い合わせ対応が発生し、業務に支障をきたす可能性もあります。なお、専門的な部分で実務に関わる税理士や会計士、弁護士等に対しては計画書に記載する情報を聞く必要があるため、NDA(秘密保持契約)を結んだ上で事業承継計画書の内容について相談しましょう。

事業承継計画書の記載内容

ここでは、事業承継計画書に記載する内容について説明します。

①前提状況

前提状況には下記の内容を記載する必要があります。

●親族関係
●承継予定時期
●会社概要

●親族関係
事業承継において、複数の親族(相続人)がいる場合、後継者に株式を、いつ、どれだけ承継させるのかは重要なポイントですので、明記することが望ましいです。株式は後継社長1人に集中させるほうが経営支配基盤を安定させることはできますが、相続財産の中心が株式である場合は、他の相続人に対する配慮も必要です。また、後継者に株式を移転する際には、適切な評価額での売却、生前贈与、相続といった方法があり、それぞれ課税条件や必要資金が異なるため注意が必要です。

記載すべき項目:法定相続人および相互の人間関係、相続財産の特定、相続総額の把握など

●承継予定時期
経営者が何歳のときに承継を実施するのかから逆算し、事業承継書を書いていくことが一般的であるため、その年齢を記載しておく必要があります。一方で、議決権の過半数を後継者に譲渡してしまえば、後継者に経営支配権が移ることになるため、株式移転のタイミングも重要です。

●会社概要
資本金などはもちろん、会社の財務諸表や従業員の人数・年齢、業界内での競争力、創業の経緯、沿革などを記載します。ソフト面も含めて後継者に会社の情報を確りと伝える目的があります。

記載すべき項目:貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書の具体的な内容・現経営者の保有自社株・個人資産の価値・負債など

②経営者と後継者それぞれの想い

事業承継において大事なことは、会社のソフトな面もしっかりと承継することです。いくらハード面を適切に承継したとしても、ソフトな面を正しく伝えなければ、その会社が長期的には衰退してしまう可能性もあります。こう言った状況を回避するために、想いの部分も事業承継書に記載するようにしましょう。

経営者の想いについては経営理念などがまとまっているのなら、経営理念が生まれた理由、なぜそれを大切だと考えているのかなど、背景や理由もあわせて記載しましょう。また、後継者に心がけてほしい点や、気をつけてほしい点を、より具体的に落とし込んだ内容を記載してもよいでしょう。

③事業の現状と中期経営計画

事業の現状分析には、さまざまなフレームワークの中から、自社に適したフレームワークを活用し分析を行い、その結果を記載します。それらの要素をまとめてから、機会と強みを活かして、会社が成長していくための課題を抽出、設定します。会社の現状と課題を「見える化」して、後継者に理解してもらうことが目的です。

一方、中長期的な事業計画においては会社の現状を客観的に整理した後に、中長期の目標を設定します。具体的には、今後の会社や業界の変化予測、経営の方向性、売上や利益等の数値目標が挙げられます。特にM&Aを利用し第三者へ事業を譲渡するときは、中長期的な事業計画の記載が必要不可欠になってきます。なぜなら譲受企業にとっては今現在の純資産だけでなく、長期的に得られる利益についても、企業価値評価において重要な指標になるためです。

事業承継計画書作成時の注意点

ここでは、事業承継計画書作成時の注意点について説明します。

①誰にとってもわかりやすい資料作り

特に、後継者が社外の第三者である場合、会社に関する情報は開示した内容のみで判断されることとなります。詳細はなるべく具体的な数値で表すなど、第三者がきちんと自社の環境や承継のプロセスを理解できるような計画書の作成を心がけましょう。

②現経営者が一人で作成しない

事業承継計画書は現経営者のためだけでなく、後継者や従業員のためにも作成されるものです。特に、現経営者だけが把握している情報については、正確に抜け漏れのないように記載しなければ後継者や従業員等が全て理解できず、承継後に困ることになります。そのため、事業承継計画は必ず承継を行うことを知っている人と話し合いながら策定することで情報に客観性を持たせ、また現経営者のみが把握していることを明確にし、後継者が理解できるように作成してください。それにより、承継後の会社の姿が明確に想像できるでしょう。相談相手は誰に承継するかにより異なりますが、親族/従業員への承継の場合は信頼できる経営陣や承継を予定している後継者と、M&Aの場合はM&Aアドバイザーに相談することをオススメします。

事業承継計画書を作成する流れ

計画書を作成する上では大きく5つのステップを踏む必要があります。

①自社の現状を知る

上記で述べたように、会社の現状把握が事業承継の計画を立てる上でのスタート地点です。財務諸表やその他資料を基に、会社のことを詳しく調べ、把握します。

②今後の予測を立てる

自社だけでなく、業界や競合他社等の外部環境がどのように変化するかを予測し、考えられる問題への対応策を検討します。

③承継の時期と方向性を決める

事業承継の時期や方法、承継後の方針を明確にします。

④経営指標の設定

承継後を見据えた、利益や売上等の具体的な数値目標を立てます。

⑤目標達成のための課題を整理する

①〜④で立てた目標を実現する為に、具体的にどんな課題があり、どのように解決していくのかを明確にします。

まとめ

事業承継計画書を作成することで、現状の自社の環境から事業承継後の未来像までを明確にすることができます。事業承継は、後継者や従業員を始めとした様々な人の理解、協力がなければ成功しません。従業員等の関係者にしっかりと説明責任を果たしましょう。事業承継を円滑に進めるために、正確で丁寧な事業承継計画書を作成するよう心がけてください。

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