合併

事業承継の方法の1つとして、合併といわれる方式があります。規模の大きい企業間における事業承継の手段としてもメジャーで、2つの会社が結合する方法といわれれば何となく合併をイメージすることもあると思います。しかし、イメージはあったとしても、実際に合併を検討するとなると、全く違う会社が1つになるわけですから、どのような手続きが必要なのか、どのような点に注意すれば良いのかという点について、具体的な理解を深めることが重要です。

そこで合併について、合併の基本的な事項から契約締結後に契約内容を修正する手続きまで、解説していきます。

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この記事を執筆した専門家


弁護士 髙田 光洋

東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。
明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取扱う中島成総合法律事務所にて、一般企業法務、事業譲渡・民事再生等の企業再生事件等を中心に担当している。

合併契約書の基本事項。疑問の多い5つのポイント

合併は法定の手続きにしたがって、2つ以上の会社が1つの会社になることをいいます。そして、合併の当事者となるこれらの会社(以下「当事会社」)は、それまでの社内の規則から、給与の規定、事業の内容や取引先まで異なる会社であったものです。この当事会社が1つの会社になる契約が「合併契約」であり、合併契約の内容を書面にしたものが「合併契約書」となります。

合併契約書に記載する事項は、当然合併契約に係る内容です。では、合併契約書にはありとあらゆる事項を記載する必要があるのでしょうか。以下、合併契約書の基本事項の解説をしながら見ていきましょう。

ポイント1.吸収合併と新設合併

合併には、法的に「吸収合併」と「新設合併」の2つのパターンがあります。

吸収合併とは

当事会社の1つが存続し、他の消滅する会社の権利義務を存続会社に承継させる形態のものをいいます(会社法(以下「法」)2条27号)。消滅した会社の権利義務の全てが、存続する会社に移転します。

新設合併とは

当事会社の全てが消滅し、それと同時に設立される新会社に、消滅する会社の権利義務を承継させる形態のものをいいます(法2条28号)。消滅した会社の権利義務の全てが、新設される会社に移転します。

合併といっても上記のとおり、全く異なる2つの合併が法定されているのです。そのため、合併契約においてはいずれの方法をとるのかを明らかにし、合併契約書には、この点に留意した内容で記載する必要があります。

実務では、経済規模の大きい会社が小規模の会社を吸収する場合のみならず、経済的なパワーが同等で対等な条件で2つ以上の会社が合併する場合においても、吸収合併が利用されることがほとんどです。この場合、合併後に、吸収されて消滅した会社の立場を考慮した商号に変更することがよくあります。

その理由は、新設合併においては、合併で消滅する会社が免許事業を行っていた場合に、新設された会社(以下「新設会社」)は改めて免許を取得する必要があることや、新設会社が上場する際には新規上場という扱いになること、当事会社の全部が消滅することになるので、当事会社が株式会社である場合に株券を回収する必要があることなど、費用が吸収合併よりもかかり、合併完了までの期間も吸収合併に比して長期化する傾向があるためです。

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ポイント2.合併契約書に権利義務を承継する旨を記載すべきか

上記のとおり、吸収合併においては、合併で消滅する会社(以下「消滅会社」)の権利義務は、すべて存続会社が承継します。また、新設合併においては、消滅する全ての当事会社の権利義務は、すべて新設会社が承継します。また、吸収合併についての判例で、消滅会社の全財産を存続会社が承継することが吸収合併の本質的要請であり、承継する権利義務の範囲について、留保することは認められないとされています(大判大正6.9.26)。

そのため、消滅会社の権利義務の一切を効力発生日に存続会社に引き継ぐ旨の条項は、必要的な記載事項ではありません。しかし、どの時点での計算書を基礎として、権利義務・財産を引き継ぐのかという点を明確にすることで、後に紛争となることを防止することも考えられます。そのため、合併契約書にも権利義務を承継する旨の条項を記載するのが通常です。

ポイント3.合併契約書の法定記載事項及び記載例

会社法では、株主保護のため、契約で定めなければならない事項(以下「必要的記載事項」)が法定されています(法748条1項、法749条1項、法751条1項)。この合併契約の必要的記載事項を定めていなかったり契約書に記載していなかったり記載が違法であったりしたときは、当該合併契約は原則的に無効となります。

また、株主から合併契約の効力発生日の前においては「合併の差止め請求」が、効力発生日以後は「合併無効の訴え」の提起がなされる可能性があります(法784条の2、法828条1項7号)。そのため、合併契約書の記載のうち、法定記載事項の確認は非常に重要です。下に法定記載事項を列挙します。

(1)吸収合併契約の必要的記載事項(法749条1項)

  1. 存続会社及び消滅会社の商号・住所(1号)
  2. 存続会社が吸収合併に際して消滅会社の株主に対してその株式に代わる金銭その他の財産(金銭等)を交付する場合、その金銭等が
     
    a 存続会社の株式であるときは、当該株式の数またはその数の算定方法並びに存続会社の資本金・準備金の額に関する事項(2号イ)
     
    b 存続会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法(2号ロ)
     
    c 存続会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く)であるときは、当該新株予約権の内容及び数またはその数の算定方法(2号ハ)

(2)新設合併契約の必要的記載事項(法753条1項1号から11号)

  1. 消滅会社の商号・住所
  2. 新設会社の目的、商号、本店所在地及び発行可能株式総数
  3. その他の新設会社の定款で定める事項
  4. 新設会社の設立時取締役の氏名
  5. 新設会社の期間設計に応じた設立時役員等の氏名・名称
  6. 新設会社が消滅会社の株主に対して交付する新設会社の株式の数またはその算定方法並びに新設会社の資本金・準備金の額に関する事項
  7. 6の株式の割当に関する事項
  8. 消滅会社の株主に対価として新設会社の社債等を交付する場合は社債等に関する事項
  9. 8の場合には社債等の割当に関する事項
  10. 消滅会社が新株予約権を発行しているときは所定の事項
  11. 10の場合にはその割当に関する事項

合併契約書の記載例(吸収合併の場合)

一般的に必要と考えられる条項を踏まえた合併契約書の記載例です。この合併契約書はあくまで一例であり、実際に合併を行う際には、当該合併の実質に合わせた内容にする必要があります。

合併契約書

ポイント4.合併契約書のタイトルは覚書や合意書でもいいのか

合併契約書の名称については、指定する法令などはありません。そのため、「契約書」「覚書」「合意書」などの名称でも法的な効果は変わりありません。

しかし、合併は、株主などに影響を及ぼしますから、上で解説した法定記載事項を含めた情報の開示が必要となります。情報の開示という面からも、やろうとしている内容が明らかとなる契約書のタイトルにした方が、混乱は生じないでしょう。

ポイント5.合併契約書に貼る印紙の額

合併契約書に貼付する印紙の額は、1通(冊)につき、4万円です(平成30年4月1日現在法令)。印紙税額の変更もあり得ますから、国税庁などに確認した方がよいでしょう。

※会社法又は保険業法に規定する合併契約を証する文書に限ります。

合併契約書の諸問題。変更時の契約書の作り直しや契約再締結は必要か

合併契約により当事会社のうち消滅会社が吸収などされた場合、消滅した会社で契約していた取引先との契約などは、改めて存続会社や新設会社などで締結し直さなければならないのでしょうか。

合併契約は、吸収合併でも新設合併でも、消滅会社の全ての権利義務を存続会社または新設会社が当然に承継します。消滅会社の権利義務を全て承継するのですから、取引先との契約関係も当然に引き継がれることになります。取引先の承諾なども必要ありません。事業譲渡契約とは大きく異なる点になります。

しかし、消滅会社は消滅会社の商号で取引先と契約をしていますから、この点が、存続会社や取引先にとって違和感があるかも知れませんが、合併の法律的な効果としては契約書を変更する必要はないのです。

取引先が社名変更した場合の再締結の要否など

取引先が合併によって社名変更されたときはどうでしょうか。当社から見れば取引先の会社が吸収されて社名が変わった場合、取引の相手方が変更されたようにもみえます。しかし、合併では吸収された消滅会社の権利義務は全て存続・新設会社に当然に承継されますから、消滅会社であった取引の相手方との契約は、そのままの形で存続・新設会社が承継しているのです。

そのため、例えば、消滅した取引先名義で請求書を出していたとしても、存続・新設会社がそれを支払う義務を負うのです。つまり、契約などを再締結する必要はありません。

まとめ

合併における契約書で注意すべき点、合併後に気になる取引先との契約関係について見てきました。合併契約については、実際の合併に必要な情報を必要十分に記載する必要があります。法定記載事項を漏らしてはなりませんし、法定ではない任意的な記載事項でも、合併後に疑問なく進めていくために記載した方がよい事項もあります。スムーズな合併のために、具体的な合併に即した内容の契約書の作成が必要です。合併により目指すシナジーを効率的に得るためにも専門家の協力も検討した方がよいでしょう。

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