吸収合併

合併とは、2つ以上の会社が、法定の手続きに基づき1つの会社になることです。
合併には、合併により存続する会社を新しく設立する新設合併と、既存の会社を存続させ消滅する会社の一切の権利義務を承継する吸収合併の2つがあります。

しかし、会社が合併を行う場合、圧倒的多数の場合で利用されるのは吸収合併です。
新設合併では、新設会社が新しく免許を取得する必要があったり、証券取引所への上場は新規上場の扱いとなったり、新株券との交換や財産移転登記、登録手続きなどで吸収合併よりも多くの費用が掛かるためです。
そのため、経済的なパワーが同等の会社が対等に合併する場合においても、ほとんどが吸収合併を行います。そして、吸収合併後に立場を考慮して対等な商号に変更するのです。

ここでは、その実務上重要な吸収合併契約書の記載事項や、承継する契約の再締結の必要性、財産や権利義務の承継方法までを、原則的な吸収合併を前提に、できるだけ網羅的に解説します。 

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この記事を執筆した専門家


弁護士 髙田 光洋

東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。
明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取扱う中島成総合法律事務所にて、一般企業法務、事業譲渡・民事再生等の企業再生事件等を中心に担当している。

吸収合併契約書とは

吸収合併を行う際には、合併契約を締結しなければなりません(会社法(以下指摘ない限り会社法)748条)。

吸収合併契約においては、必ず定めなければならない事項が法定されており(749条1項・以下「法定記載事項」)、吸収合併の手続きにおいて当該法定記載事項を記載した書面を株主や債権者の保護のために備置する必要があります(782条1項、794条1項)。
そのため、吸収合併には吸収合併契約書を必ず作成する必要があります。

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吸収合併契約の締結

合併契約の締結には、取締役会設置会社では取締役会の決議(362条4項)、取締役会非設置会社では原則として、取締役の頭数の過半数の決定(348条2項)を基に、当事会社の代表取締役または代表執行役が会社を代表して締結することが必要です。そして、その合併契約について、株主総会の特別決議を経る必要があります。

吸収合併契約締結のタイミング

吸収合併契約は株主総会の特別決議で承認を受ける必要がありますから、吸収合併契約締結のタイミングは、株主総会より前になります。

なお、吸収合併契約は、株主総会の承認を停止条件とする契約(条件の成就まで効力が停止している契約)の締結であると解されています。

吸収合併契約書は前述したとおり備置しておく必要がありますから、流れとしては、取締役会決議→吸収合併契約の締結→備置→株主総会の決議、の順になります。

吸収合併契約書の記載事項

吸収合併で存続する会社と消滅する会社の双方が株式会社であるときを前提として、法定記載事項について解説します。

合併契約書には、法定記載事項を記載しなければなりません(749条1項)。
法定記載事項の欠けた合併契約または記載が違法な合併契約は、原則的に無効であるとされています。

法定記載事項に瑕疵のある吸収合併契約は、株主から効力発生日前は合併の差止めの請求、効力発生日後は合併無効の訴えの提起をされる可能性があります(784条の2、828条1項7号)。
そのため、十分に注意することが必要です。

法定記載事項(749条1項)

吸収合併にかかる法定記載事項は次のとおりです。

吸収合併

法的記載事項の解説

吸収合併契約に規定すべき法定記載事項は、大まかに分けると、全当事会社の表示のほか、①合併条件、②存続会社の組織・体制、及び③吸収合併の効力発生日、の3つに分けることができます。

①合併条件

合併条件は、消滅会社の株主が消滅会社の株式と引き替えに何を交付されるかに関する定めです。合併から生ずるシナジーの分配も含め、各当事会社の各株主間に経済的利得・損失が生じないよう公平に定める必要があります。

ア)交付される対価の種類・総額など
消滅会社の株主に対し、その株式に代えて存続会社が交付する、a)株式、b)社債、c)新株予約権、d)新株予約権付社債、またはe)それ以外の財産の数・額もしくはその算定方法を定めます(749条1項2号)。

消滅会社が新株予約権を発行しているときは、その新株予約権者に対し、その新株予約権に代えて存続会社が交付する、a)新株予約権、b)新株予約権付社債、またはc)金銭の内容・数・額もしくはその算定方法を定めます(749条1項4号)。
上記のいずれについても、その価値の相当性に関する事項を開示しなければなりません(会社規則182条1項1号~3号、3項~5項、同規則191条1号2号、同規則204条1号2号、同規則213条)。

イ)割当てに関する事項
上記ア)により存続会社が交付する金銭などを、消滅会社の株主に対しどのように割り当てるかに関する事項を定めます(749条1項3号、同項5号)。

②存続会社の組織・体制

吸収合併においては、存続会社が株式を交付する場合には、資本金・準備金の額に関する事項を合併契約に定めることを要します(749条1項2号イ)。

合併の会計処理は複雑ですから、専門家に相談することをお勧めします。

合併契約の定め方次第では、合併の結果、存続会社の資本金・準備金の額が合併前の当事会社の資本金・準備金の合計額より小さくなることがあり得るため、各当事会社には債権者異議手続きが要求されます。

③合併契約の効力発生日

吸収合併の場合には、合併契約に効力発生日を記載しなければなりません。
吸収合併の効力発生日は、ア)存続会社が消滅会社の権利義務を承継し(750条1項)、イ)消滅会社の株主が存続会社の株主になる日(750条3項~5項)です。
ただし、消滅会社の解散は、吸収合併の登記の後でなければ第三者に対抗することができません。

任意的記載事項

吸収合併契約書に記載しなければならない法定記載事項は上記のとおりです。
しかし、吸収合併契約書には、以上の法定記載事項以外にも、合併の本質や強行法規に違反しない限り、当事者間で取り決めた事項を記載することができます(任意記載事項)。

たとえば次の事項などがあります。ただし、それぞれに必要な決議などの手続きがある場合には、別途それらを行う必要があります。

ア)吸収合併に際して変更する存続会社の定款変更に関する事項
イ)吸収合併に際して就任する存続会社の取締役その他の役員の選任に関する事項
ウ)合併の効力発生日までにおける剰余金の配当の制限に関する事項
エ)合併の効力発生日までにおける、増資・減資、新株発行、組織再編その他株主に利害関係のある重要事項に関する事項
オ)吸収合併に際し退任する取締役その他の役員に対する退職慰労金の支給に関する事項
カ)吸収合併の効力発生日の変更に関する事項

吸収合併

吸収合併契約締結の際の注意点

吸収合併契約の内容については上記で解説してきました。ここでは吸収合併契約を締結した場合における、その周辺事情に関する注意点を見てみましょう。

消滅会社の締結していた契約はどうなる?再締結の必要性

合併は、2つ以上の会社が1つの会社になる特殊な契約であり、会社財産の包括的な承継が行われます。
つまり、合併により、当事会社の一部(消滅会社)が解散し、消滅会社の権利義務の全部が精算手続きを経ることなく存続会社に一般承継(包括承継)される効果を持つのです(2条27号)。

存続会社は、合併により消滅会社の権利義務を一般承継するため、たとえ消滅会社の債務の全部または一部を承継しない旨の合併承認決議をしても、承継しない旨の条項が無効とされます(大判T6.9.2)。消滅会社と従業員間の雇用契約などの継続的法律関係も、合併に際し特段の合意のない限り、存続会社に承継されます。
そのため、再締結の必要があるのかという点については、原則としては不要であるということになります。

ただし、これにも例外があります。たとえば、いわゆる「チェンジオブコントロール条項」といわれる条項が付いている場合があります。
チェンジオブコントロール条項とは、対象会社の株主や代表者といった支配権が変更されたときに、その契約に解除事由が発生したり、事前または事後的に、契約の相手方に対して通知または届出を行わなければならないとする条項です。
チェンジオブコントロール条項が付随している契約などの場合には、存続会社において消滅会社と他社との契約を締結し直す必要がある場合もあります。不安がある場合には、弁護士などの専門家に確認しましょう。

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無対価合併

吸収合併などにおいて合併における消滅会社株主に対する対価を支払わない場合を無対価合併といいます。例えば、100%親子会社間で子会社を親会社が存続会社として吸収合併する場合などが想定されます。この場合、子会社の株主は親会社ですから、合併対価を支払うことに意味はないからです。

また債務超過の会社を消滅会社とする場合などにおいても無対価合併があることが考えられます。しかし、この場合には無対価で良いのかという評価について専門家に確認することが必要です。
また無対価合併については税法上についても取り扱いが特殊ですから、税理士などの専門家に相談した方が良いでしょう。

まとめ

吸収合併契約の一般的な注意点をできるだけ網羅的に解説してきました。
吸収合併契約においては、法定記載事項をもれなく記載することが最も重要です。これがないと原則として吸収合併契約が無効になってしまうからです。

また、事業譲渡契約と違い、合併はその効果として消滅会社のすべての権利義務を承継することになります。一部を承継しないとすることができないので注意が必要です。
法定記載事項については、対価関係など細かく評価などに関わる部分がありますので、失敗しないよう、必要に応じて専門家の助けを借りることが重要です。