株式取得

「株式取得」は、代表的なM&A手法の1つです。実施を検討するにあたり、株式取得の種類や意味を理解することで、他の手法との比較検討も容易となるでしょう。

この記事では、会社にとって最適なメリットを得るために、株式取得の意味から事業譲渡との違い、メリットとデメリットなどについて、基本的なことから網羅的にわかりやすく説明しています。

株式取得とは?意味や種類

M&Aの手法を下記の図のように分類したとき、狭義のM&Aとしては「買収」、「合併」、「分割」の3つが挙げられます。株式取得は、この3つのうち「買収」にカテゴライズされる手法となります。M&Aにおける買収では、譲渡企業が株式を譲渡することで経営権を移転する「株式取得」と、譲渡企業の事業のうち一部または全部を譲渡する「事業譲渡」の2つに分けることができます。

M&A 手法

株式取得は、取得方法によってさらに「株式譲渡」、「第三者割当増資」、「株式交換」、「株式移転」の4つに分けられます。それぞれの株式取得方法の違いは以下の通りです。

株式譲渡

株式取得のうち、すでに発行済の株式を譲渡して経営権を移動する手法を「株式譲渡」と呼びます。中小企業のM&Aではもっとも選択されている手法であり、比較的簡易な手続きによって株式の譲渡や対価取得の実現が可能です。対価として現金が取得できる点と、後継者問題に煩わされることなく第三者への事業承継を叶える点から、経営者のリタイアメント時に多く利用される手法でもあります。

株式譲渡
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第三者割当増資

第三者割当増資は、株式取得において新規に発行した株式を特定の第三者に譲渡する手法です。発行済み株式でなく、新株の割当を行う点が株式譲渡と異なります。

第三者割当増資は単に増資として行われることもありますが、M&Aの手法としても活用されます。その場合、割当てた新株により譲受企業の株式保有割合を50%超とすることで、経営権を移転させる形となります。

第三者割当増資
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株式交換

株式交換は、子会社になる予定の会社の株式を親会社となる既存の会社が取得し、親子会社関係を築く手法です。また、子会社になる予定の会社への対価として、親会社になる会社の株式を交付することが原則です。

対価を株式とした場合、現金の受け渡しが発生することなく、容易にM&Aが実現できる点から、組織再編や新規事業への参入時などに取られる手法となっています。

株式交換
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株式移転

株式移転は子会社になる予定の会社の株式を、新たに設立した会社に取得させる手法です。株式交換とスキームが似ていますが、株式交換は既存の会社が親会社となり、株式移転では新たに設立した会社が親会社になる点が異なっています。

また、株式移転は複数の会社を子会社化し経営統合する際や持株会社化する際に行われることが多いです。

株式移転
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株式取得と事業譲渡の違いや範囲

次に、株式取得と事業譲渡における範囲や契約の違いについて見てみましょう。

株式取得と事業譲渡の対象範囲における違い

株式取得で譲渡するのは、原則として文字通り「株式」となります。一方、事業譲渡で譲渡できる範囲については、株式ではなく「事業」が対象です。つまり、会社の経営権自体を譲り渡すのではなく、特定の事業に絞って譲渡を行います。手元に残したい事業がある場合は事業譲渡を、株式の譲渡や交換によって会社の資産や負債を含むすべてを譲渡範囲としたい場合は株式取得を選択するなど、自社の状況に併せて最適なM&Aのスキームを考える必要があります。

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契約の流れにも違いがある

株式取得と事業譲渡では、譲渡できる範囲以外に手続きや契約の流れにも違いがあります。事業譲渡は「事業譲渡契約」、株式取得では「株式譲渡契約」や「株式交換契約」となるため、それぞれの契約に応じた流れで譲渡を進めることになります。

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株式取得のメリットとデメリット

株式取得におけるメリットとデメリットには、以下のような点が挙げられるでしょう。

メリット1.手続きがシンプルである

株式取得、特に株式譲渡の手続きは、M&Aの中では手続きが比較的シンプルです。基本的には株式を保有する株主との間で手続きが行われ、基本的に譲渡後も法人格はそのまま残ることになります。経営権だけが移るため、対外的にはほとんど変わらず、経営活動が可能となります。

譲受企業は、譲渡企業の株式を取得するため、譲渡企業のすべての事業や資産、負債はそのままの形で譲渡企業に残ることから承継、個別の契約を結び直すことなく、そのまま譲渡会社の経営権が得られ、事業を継続できます。契約にかかる期間も比較的短く、スピーディに手続きを終えることが可能です。

メリット2.許認可などの届出面の制約を受けない

株式取得で起こる変化は「株主が交代する」という点であり、原則として許認可についても承継されます。そのため、許認可の再取得や法的制約、届出といった工数が少ないこともメリットとして挙げられます。

「手続きがシンプルである」というメリットに重なる部分でもありますが、時代に即した経営計画を実現するうえで、許認可の制約を受けないで済むという利点は大きいといえます。

メリット3.多様な計画に活用できる

目的に応じて株式取得の種類を選択することで、多様な目的に応じたメリットが受けられる点も株式取得の魅力の1つです。譲渡企業の経営者が、株式譲渡による現金対価を得ることでハッピーリタイアを計画したり、新規事業への参入や規模の拡大をねらった第三者割当増資も検討できます。

譲受企業は優秀な人材確保を目的に、新規に求人をかけることなく人手不足を解消することが可能で、譲渡企業は後継者問題の解決や、資本に余裕のある会社の傘下に入ることで安定経営をはかる、といった手段としても活用できるでしょう。

株式取得のデメリットはあるの?

前述の通りメリットの多い株式取得ではありますが、いくつかのデメリットも存在します。例えば、取得しようとする会社の経営状態によってはマイナススタートとなる可能性もあるでしょう。また、株式取得後に新たなオーナーと従業員との間に良好な関係が構築できず、会社を離れる社員が出るといったPMIの難しさが挙げられます。PMIを適切に進めることは、M&A実施前に想定していたシナジー効果を充分に発揮するために欠かせません。M&Aの準備段階からPMIの計画を立て、適当な人員を配置し、M&A後はオーナーと社員でPMIを共同で進めることをお勧めします。

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まとめ

株式取得は、手続きが比較的シンプルであることなどから、多く利用される代表的なM&Aです。株式取得が持つメリットに魅力を感じるのであれば、選択してみる価値は十分にあります。

ただし、PMIの課題をクリアして株式取得を成功させるためには、綿密なプランと計画立案が欠かせません。株式取得に詳しい専門家やプロの力を借りることで、株式取得で得られるメリットをさらに高められるでしょう。